反発
元王子の挙動と言葉が不一致に感じて、ローザは気味が悪く思えた。
「・・・それは知っていますが」
「うん?私の気持ちに気付いていたと言う事か?」
「愛していらっしゃったからこそ婚約者を捨てて、ロザリーゼ殿と婚約をしたのですよね?」
「いや、待て!そのロザリーゼではない!」
慌てる元王子の言葉にローザは戸惑う。
「え?ロザリーゼだけれどノバラー男爵令嬢の事ではないのですか?」
「違うに決まっているだろう?」
「他にもロザリーゼ殿が?」
「君だ!私は君を愛しているのだ!」
ローザは更に戸惑った。
「・・・わたくしの事を何も知らないのにですか?」
「何も知らない訳ではないだろう?確かにまだまだ知らない事は多いだろう。しかしそれはお互いにそうではないか。これからもっとお互いの事を知っていけば良いのだ」
「わたくしの事を知らないのに愛しているなんて、わたくしはロザリーゼ・ノバラー男爵令嬢とは違いますよ?」
「君がリゼの事を気にするのも分かる。死人には勝てないとも言うしな。しかし私が愛したのは君なのだ。あの日、君を初めて見掛けたあの日、私は君に恋をした。あの日に私が一目惚れしたのはリゼではなく、君だったのだ、ロザリーゼ殿」
そう言って元王子は片膝を突き、片手をローザに差し出す。
「ロザリーゼ殿。どうかこの手を取って貰えないだろうか?そしてお互いの事を知る時間を私に与えてくれ」
ローザは小さく息を吐いた。
「公爵閣下」
「ああ、ロザリーゼ殿」
「あの日と言うのは、ロズワルド・ロッソ・バラローズ様の成人祝賀パーティーの日の事ですね?」
「もちろんだ。私達が出会った記念の日だ」
「その日にわたくしは公爵閣下に出会ってはおりません」
「ロザリーゼ殿が覚えていないのは構わない」
「いえ。わたくしはパーティーの時にいなかったのです」
「参加していないのは聞いたが?」
「わたくしはその日、この国にいませんでした」
「・・・その様な訳はない」
「わたくしがピオニー王国に来たのは今年になってからです」
「・・・え?」
「公爵閣下が一目惚れをなさったと言う時に、公爵閣下が見たのはわたくしではあり得ません」
「では?・・・私が見たのはやはりリゼだったと言うのか?」
「それはわたくしには分かりません。あるいは他の誰かなのかも知れませんし」
元王子は差し出した手を握り締める。
「いや、そんな筈はない。あれはロザリーゼ殿だった。そうだろう?そうだと言ってくれ!」
「いいえ、違います」
「嘘だ!違う筈がない!ロザリーゼ殿!君はあれが自分ではないと証明出来るのか?!」
「・・・バラローズ邸にわたくしを連れて来た人がいます」
そう言うとローザはしゃがんで石を拾った。そして地面に図を書く。
「これがバラローズ邸の敷地で、ここが門です。閣下といつもお目に掛かっていましたお邸はこの辺りです。そしてここのここら辺りに脇道があって、それを入って道なりに行くとここら辺りにも邸があって、ここにわたくしをこの国に連れて来た女性がいます。髪色は違いますが、わたくしにそっくりですので、見れば分かると思います」
そう言ってローザが顔を上げると元王子も顔を上げ、間近で目があった。
「ロザリーゼ殿にそっくり?」
「はい」
「つまり・・・私が一目惚れをした相手はその人だと?」
「え?・・・いやあ、それは、その時にわたくしはこの国にいませんでしたから、分かりませんけれど」
ローザの目が泳ぐ。
「そうか・・・その人の名は?」
「・・・分かりません。本人に確認して下さい」
「そうか。分かった」
そう言うと元王子はローザの書いた地図に、もう一度視線を落とした。
「ここが門で、ここで、ここか。ここにその人がいるのだな」
そう言って肯くと元王子は立ち上がる。
「ありがとう、ロザリーゼ殿。また色々と教えてくれ」
眉根を寄せながらローザも立ち上がった。
「え?いや、それは・・・」
「うん?どうしたのだ?」
「わたくしは国外追放になりましたので、もう閣下にお目に掛かる事もありません」
「それは大丈夫だ。ロザリーゼ殿は盗賊に殺されたと報告する。その後は私が匿うから安心しろ」
「いや、その様な訳には」
そう言ってローザはダメルを振り向いた。それなので元王子の行動に気付かずに、元王子はローザの手を掬う事に成功する。手を掴まれてローザは半歩下がるが、元王子はローザの手を離さない。
「たとえ一目惚れした相手が誰であっても、私の今の気持ちはロザリーゼ殿、あなたに向いているのだ」
「え?」
「リゼと私の事が気になるのも分かる。しかし私にはリゼよりロザリーゼ殿の方が大切なのだと、ロザリーゼ殿に分かって貰える様に、一生を掛けても伝えて行く事を誓おう」
「え?一生?」
「ああ。国外追放も大丈夫だ。いつか取り消しをさせるし、それまでは私がロザリーゼ殿の事を安全に匿う。ロザリーゼ殿は王妃にもならなくて良い。何もしなくて良い。魔力も要らない。ただ私の傍にいてくれるだけで良いのだ」
「え?」
「ロザリーゼ殿」
そう言うと元王子はもう一方の手でローザの二の腕を掴んだ。
「いや!」
バチンと雷が流れ、元王子が吹っ飛ぶ。
「閣下!」
何人かの騎士が馬から飛び降り元王子の下に駆け付け、残りの騎士は槍先をローザに向ける。
するとローザに槍先を向けた騎士達は、体勢を崩して馬から滑り落ちた。
ダメルがローザの前に立つ。後ろのローザを振り向いて、ダメルは確認をした。
「御令嬢。公爵閣下と結婚したくはないのだね?」
「何言ってるの?」
「したくはないのだろう?」
「当たり前じゃない」
「匿われるなくても良いと?」
「当たり前でしょう」
「他の王子達に乗り換えるのも不要なのだね?」
「何言ってるの?そんな事必要ないわ」
「この国に未練は?」
「少しもない」
「それでは私と行くかい?」
「何言っているの?私、一緒に暮らせるのかって訊いたじゃない。暮らせるんでしょう?」
「ああ、もちろんだよ」
「何がもちろんだ!」
元王子は騎士達に手伝われながら上半身を起こした。
「ロザリーゼ殿?私と帰るのだろう?」
「わたくしの帰る場所には、閣下をお連れ出来ません」
「いや、私と王都に帰るだろう?国外追放は気にしなくて良い。ロザリーゼ殿の身の安全は保証する」
「無理です」
「何故だ?」
「・・・私が閣下と一緒にいる事が何故無理なのか、閣下が理解して納得して下さらない限り無理です」
「・・・その男が協力者なのか?」
「協力者?」
「ダンジョンで魔獣を倒した人間がいたかも知れないと言う」
「・・・さあ、どうでしょう?」
「惚けると言う事は、やはり君はバウドネス王国のスパイだったのか?」
「・・・そうだとしたら、わたくしと帰る事を諦めて下さいますか?」
「いいや、連れ帰って閉じ込めて、毎日訊問してやる。毎日だ!」
元王子は膝を震わせながら、騎士達の手を借りて立ち上がる。
「男は手脚を落とせ。ロザリーゼ殿には治らない怪我はさせるな」
元王子はダメルに長剣を向け、ローザには手をローザは差し伸べて微笑みを向けた。
「連れ帰って、目を覚まさせて上げるからね?リゼ」
そう言うと王子は視線をダメルに移す。そして長剣の先を一旦天に向けて止め、続いて勢い良く剣先を下ろして真っ直ぐにダメルに向けた。
「やれ!」
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