告白
騎士達がダメルとローザと荷馬車を馬で取り囲み、馬上から二人に槍を向ける。
「もう逃げられないぞ」
ダメルに長剣を向けながらローザに顔を向けて元王子がそう言う。
「え?わたくしですか?」
「あ、いや、リゼじゃない」
元王子はダメルに視線を移す。
「この男だ」
「え?何をやったの?ダ」
ダメルと言おうとしてローザは言葉を切り口を閉じた。先程ダメルにダメルとは呼ぶなと言われている。
「何をやったって、リゼ。君を攫おうとしているじゃないか」
「攫おうって殿下。あ、いえ、え~と、閣下?わたくしはこの方に助けられて、一緒に行くところですけれど?」
「助けられた?」
「はい」
「こいつは盗賊ではないのか?」
元王子にそう尋ねられ、ローザは小声でダメルに確認する。
「何も盗んでいないわよね?」
「・・・さあ、どうだろうね?」
ローザはダメルに向けて目を細めると、表情を戻して元王子に顔を向けた。
「盗賊と言ったらこの荷馬車の男達です」
「男達?」
「盗賊は自称で本当は殺し屋だそうですけれど、わたくしを殺しに来たのですが、こちらの方が助けてくれました」
「この人数を?」
「はい」
「一人で倒したのか?」
「はい」
「顔を見せろ」
元王子はそう言うと剣先をダメルに近付ける。
ダメルはローザを振り向いた。
「二人はどう言う関係なのかな?」
「え?関係って?何が?」
「この馬上の男は御令嬢の婚約者じゃなかったのかな?」
「なんで?違うわよ?」
「まだ婚約はしていない」
「まだ?」
元王子の言葉にダメルは元王子に向き直る。ローザは首を左右に振った。
「まだって言うか、こちらの方の亡くなった婚約者に私が似ていると言うだけ。さっきリゼって呼んでいたでしょう?」
「あっ!いや、違うんだ!」
ローザの言葉に元王子が慌てる。ローザとダメルは元王子をちらりと見た後、お互いの顔に視線を移した。
「私とは婚約とかしていないわ」
「そうだが」
元王子の声に構わずローザは言葉を続ける。
「単なる知り合いだから」
「え?」
元王子が驚いた顔で驚いた声を上げたが、ダメルは構わずローザに尋ねた。
「恋人とかでもなくて?」
「もちろん」
「いや、まだ、違うが」
「なんで?」
「御令嬢の下に足繁く通って来る懇意な男性って、別の人の事かい?」
「なに?」
「え?誰の事?」
「それは誰の事だ?」
「私の事?」
「そうだけれど」
「え?ロザリーゼ殿の?何の事だ?」
「私の下に通って来る男性もいないし、懇意な男性もいないわよ?」
「いや、ロザリーゼ殿?この者が言っているのは私の事ではないのか?」
元王子の問いにローザは元王子に顔を向ける。
「殿下、ではなく、閣下は通うと言うか、お茶を飲みに立ち寄っていたのですよね?お茶が目的ではなく、一息吐くのが目的で」
「いや、何を言っているのだ、ロザリーゼ殿?そうではない」
「お茶が目的だったのですか?」
「ロザリーゼ殿。ロザリーゼ殿が目的だったのに決まっているではないか。私はロザリーゼ殿の顔を見る為に通っていたのだ」
「ああ、そちらでしたか」
「ああ、そうだが、いや、そちらって?」
ローザは王子の困惑に構わずに肯くと、ダメルを向いた。
「私の顔が目的だったそうよ。リゼと言う方にそっくりだそうだから」
「いや違うのだ!ロザリーゼ殿!」
「え?」
慌てる元王子にローザが眉根を寄せた顔を向けたのを見て、ダメルは自分の思い違いを理解する。
「馬上から剣を突き付けている男性は元王子、モンクスフード公爵で合っているかな?」
「そうよ。元ウルフズベン殿下で、今は確かモンクスフード公爵」
「亡くなったロザリーゼ・ノバラー男爵令嬢の婚約者ではあったけれど、御令嬢とは何の関係もないただの知人だと」
「そうね」
「何の関係もなくはないだろう?」
「あっ、そうですね。ダンジョンに連れて行って下さったわ」
「いや、確かにそうだが」
「御令嬢は公爵閣下の事を何とも思っていないのかい?」
「何ともって?」
「結婚したいとか?」
「え?何故?」
「何故って、王子様でなくなったら駄目なのかい?」
「なに?」
「何を言っているの?そんなの子供の頃の話でしょう?」
「子供の頃?何の事だ?」
「公爵閣下が王子の時も、何でもなかったのかい?」
「何があるって言うの?閣下は王子の時から私の顔が目当てで会いに来ていただけよ?何もも何も、何も知らない相手と結婚したいなんて思うわけがないでしょう?お互いの事に興味もなかったし。そうですよね?閣下?」
元王子が驚いている原因は、自分のローザへの教育の所為かも知れないと思って、ダメルは元王子に少し申し訳なく思うし、気の毒にも思った。しかしここではっきりとさせておきたい。
「では御令嬢が殺し屋に殺されそうになった時に、信じていると言って待っていた人は公爵閣下ではないのだね?」
「なんで?聞こえていたの?でも閣下が私を助けてくれる訳、ないでしょう?」
「え?今は?」
元王子はとても驚いた。
「今、私はロザリーゼ殿を助けに来たではないか?」
「え?そうなのですか?」
「どう見てもそうであろう?」
「たまたま通り掛かった訳ではなく?」
「この様なところを通り掛かるものか。ロザリーゼ殿を助けに来たのだ」
「・・・この顔をですか?」
「顔だけではない。ロザリーゼ殿を丸ごと助けるに決まっているではないか」
「どうしてですか?」
「それは・・・」
元王子は剣を収めると馬を降りる。
そしてローザに近寄るとその手を掬おうとするが、ローザは手を引っ込めた。元王子は空中で行き場のない自分の片手を一度握ると、開いて自分の胸に当てる。
「私はロザリーゼ殿の事を愛しているからだ」
元王子の言葉にローザは眉根を寄せた。
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