襲撃
ローザの移送には護衛が付いた。職種は護衛だが今回の任務は逃亡阻止だ。護衛達はローザが逃げない様に見張っている。
その護衛達はローザを恐れていた。
ぶつぶつと何かを呟きながら様々な表情を見せる。貴族令嬢なら内容が伝わらない呟きなどしないものだし、無表情か微笑み以外は顔に表さないものだ。
ローザは檻に入れられ後ろ向きに座っている。
その檻を載せた荷馬車の後部を警備する護衛が二人並んで、荷馬車から少し離れる様にして歩いていた。
「おい。あれは大丈夫なのか?」
「いや、私に訊かれましても。大丈夫だと言う話ではなかったんですか?」
「魔法に付いては大丈夫だと言う話だ。手枷が魔力を乱すと言う。あいつは杖を使わないそうだが、効果はあるらしい」
「なんか、あまり大丈夫には聞こえませんが」
「いや、それは、俺も思ってるから訊いたんだ。あいつ、魔獣を喚び出したらしいじゃないか?」
「え?本当ですか?」
「聞いてないのか?」
「聞いてたら辞退しましたよ。何人も死んだんですよね?あの魔獣でしょう?」
「聞いていても辞退なんか出来るかよ。仕事を失うだけじゃないか」
「命を失うよりは」
「名誉も失うぞ?未来も」
「うっ・・・」
「その魔獣を喚び出したのって、どうやったんだと思う?」
「どうやったんですか?」
「俺が知る訳ないだろう?分からないから訊いてんだから」
「私だって分かりませんよ」
「なあ?魔法を使うのって色々な方法があるだろう?」
「杖を使うとか使わないとかですか?」
「そうだよ。おまえ、呪文って知ってるか?」
「え?まさかあれ?ぶつぶつ言ってんの、魔獣を喚び出す呪文なんですか?」
「いや、分からないから訊いてるんだって」
「私だって分かりませんよ。訊かないで下さいよ。考えただけでも恐ろしいじゃないですか」
「俺だって考えたら怖くて、誰かに訊かずにはいられなかったんだ」
「止めて下さい!非道いですよ!」
「それにな」
「止めて下さいってば!」
「・・・そうか」
「・・・え?・・・なんですか?」
「いや。聞きたくないなら」
「いやいやいや、却って怖いじゃないですか。なんですか?何を言い掛けたんですか?」
「あいつ、魔力を感じなくないか?」
「え?」
「普通は魔法を使わない時も、魔力って漏れるだろう?」
「・・・え?」
「な?」
「いやいや、何が”な”なんですか?それが?魔力が漏れないって、だからなんなんですか?魔力を封じる魔導具を付けてるからでしょう?」
「お前・・・知らないのか?」
「だから何がですか?止めて下さいよ。教えて下さい。何が”な”なんですか?」
「魔法を封じる魔導具って、魔力を乱して魔法を崩すんだよ。だから魔導具を付けていても魔力は普段通り漏れる。でもあいつ、魔力が漏れていないだろう?」
「それがなんなんですか?」
「あいつ、魔力がないらしいんだよ」
「え?」
「魔力がないのに魔法を使うし、魔力がないのに魔獣を喚び出すんだとしたら、魔法封じの魔導具、効くと思うか?」
「分かりませんよ!なんでそんな怖い事を言うんですか!」
「いや、だって、お前が言えって言ったから」
「そうやって私を怖がらせて何が面白いんですか!」
「いや、怖がらせてないし面白がってないよ。俺だってあいつがぶつぶつと言っているの、怖いんだから」
「だからって巻き込まないで下さい」
「いや、だから、お前に頼もうと思って」
「え?頼む?」
「ああ。あいつに猿ぐつわして来てくれよ」
「はあ?!イヤですよ!何言ってんですか!」
「お願い。この通り」
「イヤですってば!自分でやって下さい!」
「なんだ?自分がイヤな事を人にやらせる気か?」
「それはあなたじゃないですか!」
「じゃあ命令。あいつに猿ぐつわして来い」
「ぐっ・・・卑怯な」
「お願いの内にやってくれていたら、お互いに気持ち良く済ませられたのに、残念だよ」
「ぐぐっ・・・あれ?ぶつぶつ聞こえなくありません?」
護衛二人が前を向くと、口角を上げたローザと目が合った。
「辞めます!もう私!この仕事辞めます!」
「待て!俺が先だ!後は任せた!」
「イヤです!私が先に辞めましたから!上官のあなたが最後まで責任を全うして下さい!」
そこにローザのくすくす笑う声が聞こえて、護衛二人は来た方に向かって、ローザから逃げる様に走り出す。
ローザは後ろに付く護衛が変わる度に、護衛を怖がらせていた。
国外追放になった事に付いて、ローザは深刻に考えてはいなかった。
母親だと言う女性も国外追放をされたと言っていた。もしかしたら良くある事なのかも知れない。
ローザにはダメルが教えてくれた生きる為の術がある。ダンジョンに入るのは懲りたけれど、草原で魔獣を狩れば食べては行けるだろう。
それに母親だと言う女性がダメルに出会えた様に、自分も良い人達に出会えるかも知れない。
ダメルが迎えに来てくれる事なんて待っていたらダメだ。
会いたいなら私から会いに行こう。
ローザは死刑にはならなかった事に、そして国外追放になった事に感謝をしていた。
少なくとも貴族として、あの人達に囲まれて暮らすよりはずっと良い。
追放されたからもう、ダメルが殺される事を心配しなくても大丈夫だし。
そう考えると思わず笑みが漏れて、ローザはまた護衛達を恐がらせるのだった。
しかし国外追放は、国外に追放されるまで終わりではない。
ローザを載せた荷馬車の行く手を武装した男達が塞いだ。
「なんだお前達は!」
「見て分からないか?盗賊だよ!」
中心に立つ男がそう言うと、盗賊を名乗る男達は護衛に剣を向けて迫る。
護衛達は剣も抜かずに、ローザと荷馬車を置いて逃げ出した。
盗賊達は護衛を追う事なく、その後ろ姿を見送っている。
「ああん?話より腰抜けだな?」
「国外追放の護衛なんてこんなもんだろう」
護衛達は元々腰抜けだったかも知れないけれど、ローザが恐がらせた所為で、すっかり臆病になっていたし、仕事から逃げたいと思っていた。
盗賊達は剣を収め、その中の一人がローザに近付いて来る。
「さて、お嬢さん。あなたに生きていられると後々面倒なんだ。な~に恐がる事はない。甚振ったりせずに一思いに終わらせるから」
「・・・あなた達は誰なの?」
「御覧の通り盗賊だよ。ほら。祈るなら時間をやるから祈りな」
「・・・一思いじゃなかったの?」
「祈り終わったら一思いだよ。人生の終わりにも気付かないさ」
「・・・その間に誰かが来たらどうするの?」
「そんなついてないやつの心配は要らない。ここら一帯、人払いは出来ているからな」
「・・・そう」
「もしかして、神様とか信じていないのかい?」
「神様は習ってないけれど、信じている人はいるわ」
「・・・そうか。じゃあもう良いかな?」
盗賊の男は剣を抜く。
「ほら、後を向きな。前からだと怖いから」
「いいえ、大丈夫」
「・・・じゃあせめて目を瞑るんだ。一瞬で終わらせるから」
「いいえ、大丈夫よ」
「・・・いや、そんなに見られてるとやり辛いんだが」
「大丈夫。直ぐに終わるから」
「・・・え?何が?」
ローザの傍に立っていた盗賊の男が、片膝を突く。
「くっ?毒か?」
「え?ウソ?」
「違うのか?」
「神経を切っただけだよ」
盗賊の男の後からそう言ったのは、覆面をしたダメルだった。
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