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追放

 裁判が終わり、ローザは元の部屋に戻された。


 有罪判決だったのに、同じ所に入れられるなんて、つまりは裁判が始まる前から有罪は決まっていたって事よね。


 そう思ったけれど、別にローザの感情は籠もらない。ただ事実を確認しただけだ。

 それよりは、ダメルが会いに来ない事の方が、ローザの心を占めていた。


 そう言えば、裁判で言われていた協力者って、ダメルの事よね。誰だか分からないって、見付からないってどう言う事だろう?

 サポートチームのメンバーではなかったと言うのは分かる。そもそもダメルはこの国の・・・この国の人間ではないわよね?


 ローザはかなり驚いた。


 確かにあの街でもダメルは浮いていて、あの街で生まれたとは思えない。ダメルの両親なんて見た事がないし。

 いえ、それどころか、両親に付いても生まれに付いても話を聞いた事がない。街の人からもだけれど、ダメル本人からもだ。

 それにもしダメルがあの街で育ったなら、幼馴染みの一人もいる筈じゃない?・・・あの街で育ったけれど、私にも幼馴染みはいなかったわ。

 もしかしたらダメルは、私と同じ様な境遇で育ったのかも?

 それならダメルが両親の話をした事がないのも分かる。私だってダメルの事なら話せるけれど、私の母親だと言った女性の事も、父親と思う様に言った男性の事も、親だとして話す気にはなれないし。まあ、どちらの人の事も知らないから、話せる事もないけれど。

 でもそれはダメルに付いてもだ。ダメルがどんな人だったかとか、ダメルが何をしてくれたとかは話せる。そこはあの二人とは違うけれど、ダメルがどこの誰なのかとか、私は全然知らない。

 ダメルは父親だと思っていたけれど、それも違っていたのだし。


 ローザは手枷の嵌められた両手で胸を押さえる。


 そうよね。

 どうしてダメルが会いに来てくれないのかと思ったけれど、どうしてダメルが私に会いに来るの?

 だって私はダメルの娘ではなかったのだし。

 ダメルから見たら、育ててくれた恩も返さずにいなくなった他人だし、会いに来てくれるなんてあり得ない。


 目の奥が熱くなり、景色が滲む。頬をすっと涙が流れた時、ローザはふと我に返った。


 あれ?

 でもそうしたら、ダンジョンでダメルが助けてくれたのは何故?

 と言うか、そもそもダメルがダンジョンにいたのは何故?

 あ~、でもあれがダメルじゃない可能性もあった。ダメルじゃないとは言っていたけれど、ダメルだと認めていた訳ではなかったし。


 ローザは一つ大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。


 整理しよう。

 もしダメルが私を娘だと今でも思っているなら、ダメルなら私を捜してくれている筈。

 母親だと言う女性が連絡したかも知れないけれど、私を押し付けていなくなった女が、私がダメルの子じゃないって言っても、これまでずっと娘として育ててくれたダメルが直ぐに信じるとも思えない。

 だからダメルはまだ私を娘だと思ってくれている筈。そして娘だと思ってくれているなら、心配してくれている筈。

 そうしたらダメルはどうする?ダメルならどうするだろう?

 私がどこに行ったのか捜すよね?もし女が行き先を残していたら、この国に真っ直ぐ来てくれる筈。

 よしよし。辻褄が合って来た。

 それで私に会おうとするけれど、貴族の娘扱いになった私に、簡単に会える筈がない筈。多分。う~ん?これまで貴族に会おうとした事ないから、良く分からないけれど。

 いや、でも、簡単に会えるなら、この国にやって来たダメルが私を訪ねない筈はない。それはつまり、簡単には会えなかったと言う事よね。

 そうするとダメルはなんとかして私に会おうとする筈。そしてダンジョンがある事を知ったら、私が入りたがると思う筈。

 それだからダンジョンで私が来るのを待っていたって言うのは、さすがに無理があるかな?

 でも私がダンジョンに入るって言う情報を知ったら、ダンジョンの中で待つのはあり得るかも。どうやったらその情報が手に入るのかが分からない。ダンジョンに一緒に入った人達にも、私が誰なのかは秘密だったし。

 いいや。方法は分からないけれど、とにかく私がダンジョンに入るって知ったら、ダメルならダンジョンの中で私を待つ筈。だってダメルはダンジョンが私には危険だって知っていたから。うん。そうよね。

 普段のダメルなら危険だからって、私がダンジョンに入る前に止めるだろうけれど、ほら?今回は私に近付けなかったから止めようがなくて、それで仕方がなくダンジョンの中で待っていたのよね?うん。

 それで、近くに来れば私の魔力を感じて、ダメルは私がいる所が分かる筈。ダンジョンの中は魔力が反射して、探知しにくかったけれど、でも、距離は分からなくても、私の魔力は受け取った筈。そうでなければ、あの場にダメルが来てくれた筈がない。私が防御魔法で魔力を遮っても、ダメルは私の魔力だけは間違えない筈。

 そうよね。ここまでは良いけれど、そうしたらダメルはあの時、私を連れて逃げてくれても良かったのではない?


 ローザは喉に熱を感じて、唾を飲み込んだ。


 あの時、ダメルは私と逃げようとしてくれていた?

 でも私が王子を助けてって頼んだから?

 私がダメルと逃げるより、王子を選んだとダメルに思われた?

 あの時ダメルになんと言って頼んだろう?ダメルが逃げようって言った時なんて言って断ったろう?

 と言うか逃げようって魔獣からよね?この国からではないわよね?


 ローザは強く目を瞑る。


 あー、思い出せない。なんて言った?なんて言われた?

 あっ?もしかして・・・王子が私をリゼって呼んだのを聞いて、ダメルが勘違いした?

 リゼって人は亡くなったけれど、ダメルが集めた情報に、その辺りもちゃんと含まれている?王子がリゼって言う人と婚約した話までは知っていて、リゼって人が亡くなった事は知らなかったら困るのだけれど?


 ローザは首を左右に強く振る。


 せっかくここまで組み立てたのに、最後のところでダメルが私に会いに来てくれる事に届かない。


 ローザは顔を伏せて肩を落とした。


 まあ、その手前でいくらでも、ダメルが会いに来てくれなくなるのだけれどね。


 ローザは薄らと笑う。



 裁判まで心ここにあらずと言った状態だったローザの様子が、裁判が終わってからすっかりと変わり、ローザを監視している兵達には気味悪がられると共に、同情もされていた。



 そして刑の執行の当日。


 ローザは荷馬車の上に積まれた檻に入れられる。

 その荷台は馬に牽かれ、ローザが収監されていた建物の門から出て行った。

 そしてローザはその姿を人の目にさらされる。

 同行した文官が馬上からローザの罪状を読み上げて、見物人達に向けて聞かせながら街中を進んだ。

 罪人が運ばれると聞いた人達が続々と集まって、進むに連れて見物人は増えていく。しかしその多くは文官の話を聞いて首を傾げた。

 文官の言っている事が、今までの罪人に比べて難しい。そもそも話が長い。

 今までなら、子供ばかり殺したとか、死体をバラバラにしたとか、貴族に怪我をさせたとか、分かり易い罪を犯した者が曝されながら死刑台に運ばれていた。

 だがどうやら目的地が死刑台ではないらしい。国外追放?それだけ?どう言う事?

 ローザを載せた荷馬車が通り過ぎてからも人々は解散せずに、つまり何をした罪人なのか、ローザの罪に付いて議論を交わしていた。

 そしてしばらく前に、ダンジョンで王子が怪我をして、それを貴族の令嬢が助けたと言う話と、運ばれていた罪人を結び付ける。


 どうやらウルフズベン王子がバウドネス王国のスパイに騙されて怪我をして、王族ではいられなくなって公爵になったそうだ。

 いやいや怪我をした王子をバウドネス王国のスパイが助けて、王子が秘密をバウドネス王国に漏らしたから公爵になったらしいぞ?

 怪我をした王子をバウドネス王国のスパイが助けたけれど、スパイが王子を好きになってしまって自首をしたのよ。それでスパイを死刑にさせない為、王子が公爵になって、スパイの命を救ったのよ。でも王子とスパイは身分が違うわ。それだからスパイはバウドネス王国に帰って行った。でも王子もスパイが忘れられないから、バウドネス王国に接する領地を貰って、お城から毎日バウドネス王国の方を眺めているのですって。悲しいわよね?お互いを助けただけなのに。


 国内ではいつの間にか、王子とスパイの悲恋物語が流行っていった。

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