糾弾
ダメルとはまた直ぐに会える。ローザはそう思っていた。
しかし次の日もその次の日も、ダメルはローザを訪ねて来なかったし、ローザの全力の探知魔法でもダメルの魔力を感じる事はなかった。
ローザは、ローザの母親を名乗る女性が暮らす邸に戻された。
もしかしたらダメルは、私がどこにいるのか分からないのかも?
でもその様な事があるだろうか?だってダメルは私の事を助けにダンジョンに来てくれたのだから。
今も私の居場所が分からないのではなくて、どこかから私を見ているかも?
でもそうだとしたら何故?何故姿をみせてくれないのだろう?
ローザは場所を移された。今度はローザの知らない所だ。
服装も普段着と言うか、この国に連れて来られてから一番質素な服を着せられた。靴だけは特注品を履いて来たけれど。
そもそもダメルはどうやってダンジョンに入ったのだろう?
あそこは国が管理していると言われていた。冒険者ギルドの管理ではないのだ。冒険者だと言うだけでは、ダメルはあのダンジョンに入れない。
もしかして、今もまだダメルはダンジョンの中にいるの?ダンジョンに入る時、入口の鍵を開けていたから、鍵を閉められてしまってダンジョンから出られないのかも?
ローザは貧相な調度品の部屋に入れられ、部屋から出る事を禁じられた。粗末な食事を与えられ、着替えは与えられなかった。体を清める事も出来ないけれど、それは清浄魔法で凌ぐ。
でもそれならやはり、ダメルはどうやってダンジョンに入ったのだろう?もしかしてサポートチームのメンバーとしてだろうか?
それなら分かる。そうなのかも。だってダメルって、あんなに強かったし。
でも冒険者としての実績はなかった筈。お金を預ける為だけにギルドに所属していたみたいだし。私もダメルがあんなに強いって知らなかったし。
でもそうしたら、ダメルが実力を隠していたのはなぜだろう?
ローザは後ろ手に手枷を嵌められて、目隠しと猿轡もされて、そのまま別の場所に運ばれる。
手枷は魔法を封じる魔導具の様で、魔法を使おうとすると魔力が散ってしまった。
ダメルではなかった?
確かにダメルではないって言っていたけれど、でも魔力はダメルのものだった筈。私がダメルの魔力を間違える筈がない。ダメルの匂いもしたし。
ローザは跪かされ、目隠しが取られた。
回りを大勢の人間が囲んでいた。
「これよりロザリーゼ・ロッソ・バラローズの裁判を行う」
「被告人は、当時は王子であったモンクスフード公爵の命を危険に曝した。これは王族への反逆罪に当たる」
「また被告人は、当時は王子であったモンクスフード公爵の側近を何人も見捨て、死に至らしめた」
「更に被告人は、故ロザリーゼ・ノバラー男爵令嬢に成り済まし、当時は第一王子であったモンクスフード公爵と婚姻する事を狙い、やがて王妃となる事を企んだ。故ロザリーゼ・ノバラー男爵令嬢の死に関わっていた疑いがある」
「また被告人は、魔力がないと偽り、魔法が使える事を秘匿していた。これは虚偽申告罪に当たる」
ローザは顔を少し伏せて表情も変えずに、それらの言葉を他人事の様に聞いていた。名前からして、自分の事ではない様に感じる。
「バラローズ侯爵。何か弁明はあるか?」
「はい、国王陛下。ロザリーゼはロザリーゼ・ノバラー殿に成り済ました訳ではありません。確かにロザリーゼ・ノバラー殿の方がロザリーゼより先に生まれておりますが、ロザリーゼの名を付けた時には、我が家の者は誰一人として、ロザリーゼ・ノバラー殿の事を知りませんでした」
「バラローズ侯爵の言葉を証明する資料はこちらです。故ロザリーゼ・ノバラー殿の名が初めて公式な文書に記されるより前に、被告にはロザリーゼの名が与えられております」
「そして当時は王子であったモンクスフード公爵がロズワルドの成人祝賀パーティーに参加して下さった時に、モンクスフード公爵とロザリーゼは出会っております。その後にロザリーゼの名を持つパーティー参加者の問い合わせがあり、ロザリーゼ・ノバラー殿の事を我が家から回答しました。そしてモンクスフード公爵とロザリーゼ・ノバラー殿は出会った。つまりロザリーゼがロザリーゼ・ノバラー殿に成り済ましたのではなく、同じ名前を持ち、容姿が似ていた二人が、たまたま取り違えられただけなのです」
「そうするとバラローズ侯爵は、間違えたモンクスフード公爵に問題があると言うのだな?」
「いいえ、国王陛下。モンクスフード公爵に最初に出会ったのはロザリーゼですが、モンクスフード公爵と愛を育んだのはロザリーゼ・ノバラー殿です。わたくしはただ、ロザリーゼはロザリーゼ・ノバラー殿に成り済ました訳ではないと申し上げたいだけで御座います」
「そうか。ノバラー男爵。バラローズ侯爵はこう申しておるが、そなたの意見はどうだ?」
「わ、わたくしは、ただ、ロザリーゼから、パーティーでウルフズベン殿下と出会ったとしか聞いておりません」
「国王陛下。被告人の罪は、当時第一王子であったモンクスフード公爵と出会っていたかどうかでは御座いません。ロザリーゼ・ノバラー殿を失い傷付いていた当時第一王子であったモンクスフード公爵の心に付け込んで、王妃の座を狙った事で御座います」
「いいえ、国王陛下。ロザリーゼは王妃の座を狙ったりはしておりません。ロザリーゼは王妃になれる器ではなく、また本人にもその様な積もりは御座いませんでした。それですのでモンクスフード公爵は、ロザリーゼとの結婚を前提に交際するのにあたり、わたくしに臣籍降下を約束して下さったのです」
「その経緯は私もモンクスフード公爵から聞いていたが、モンクスフード公爵。間違いはないか?」
「はい、国王陛下。間違いは御座いません。ロザリーゼ・ロッソ・バラローズ殿は王妃の座に興味を持ってはおりませんでした」
「しかし国王陛下。被告はモンクスフード公爵からリゼと呼ばれておりました。ノバラー男爵。リゼと言うのは当時第一王子であったモンクスフード公爵がロザリーゼ・ノバラー殿を呼ぶ時の愛称であったな?」
「あの、はい」
「ロザリーゼ・ノバラー殿への愛称で呼ばれておいて、王妃の座が約束されていたロザリーゼ・ノバラー殿の立場を奪う積もりはなかったなど、信じられる筈がありません」
「いや、私はロザリーゼ殿をリゼなどとは呼んでいない」
「いいや、モンクスフード公爵。モンクスフード公爵が被告をリゼと呼んでいた事には何人もの証人がいる」
「その証拠はこちらになります。当時第一王子であったモンクスフード公爵の側近達と護衛達が、モンクスフード公爵が被告をリゼと呼んでいる事を聞いたと証言しております」
「どうなのだ?モンクスフード公爵」
「それは、咄嗟に口を吐いただけです、国王陛下。普段はロザリーゼ殿の事はロザリーゼ殿と呼んでおりました」
「普段はだな?モンクスフード公爵。二人きりの時の呼び方がつい、出たのだろう?」
「いいや、違う」
「だが今、咄嗟にと言っていた。普段から使っていなければ咄嗟になど出ない」
「いや、違うのだ。違うのです、国王陛下。私は二人きりの時も、ロザリーゼ殿の事はロザリーゼ殿と呼んでいたのです」
「二人きりの時の話では誰も証言出来ない。そしてモンクスフード公爵がロザリーゼ・ロッソ・バラローズを何と呼んでいたかは判決にさして影響しない。その話はそこまでとしろ」
「はい」
「畏まりました、国王陛下。ですが国王陛下。被告は顔も身許も隠し、当時第一王子であったモンクスフード公爵の傍におりました。これは顔と名前が知られたら、王妃の座を狙っていると周囲にバレてしまうからです」
「いいや、違う。違います、国王陛下」
「違うと言うが、モンクスフード公爵。違うと言うのなら、被告が王妃の座を狙っていない事を国王陛下の前で証明したらどうだ?」
「それを言うならロザリーゼ殿が、王妃の座を狙っていた事も証明していないではないか!」
「この国の貴族令嬢で、王妃の座を夢見ぬ者などおらんだろうよ。男爵令嬢にだって手が届いたのだ。自分がなっても当然だと思っている侯爵令嬢なら、わざわざ口には出さんだろう」
「それは・・・」
「モンクスフード公爵にも覚えがありそうだな。婚約者がいながら他の令嬢の事も良く知っていたそうだから」
「その話はこの裁判とは関係ない。不要な発言は控えよ」
「畏まりました、国王陛下。では多くの優秀で高貴な命を見捨てた件に付いて論じましょう」
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