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望まないトラブル

 薬師に薬草を納品し、ローザとダメルは冒険者ギルドに向かう。

 ギルドに入ってダメルは真っ直ぐに、受付カウンターを目指した。

 するとダメルとローザの姿に気付いた受付嬢達は、直ぐに席を外して裏手に姿を消す。呼び鈴を鳴らせば出て来る事になってはいるけれど、それでも中々戻って来ない事は、ローザ達への細かい嫌がらせの一つだった。

 代わりにローザに気付いた男性職員が受付カウンターに入って来る。


「ようローザ。ますます母ちゃんに似てきたな」


 そう言ってローザに向ける男性職員の好色な視線をダメルは体で遮った。


「金を預けに来た」


 ダメルは口元に微笑みを浮かべながら、カウンターに金と冒険者証と預かり証を置く。

 男性職員は顔を蹙めた。


「また金を預けるだけかよ」

「今月分のノルマは期限がまだ先じゃないか」

「ノルマが済めば良いってもんじゃねえだろう?」

「ギルドの規約にはそれで良いと」

「そう言う事を言ってんじゃねえよ!」


 男性職員がカウンターを拳で叩く。しかしダメルは口元の笑みを崩さない。


「ちっ。いつもニヤニヤしやがって。おい!ローザ!ダメルなんか捨てておれのところへ来いよ!母ちゃんみたいに可愛がってやるからよ」


 そう言って男性職員がカウンターに体重を掛け、ダメルが後に隠すローザを覗き込もうとしたら、ミシミシと音を立ててカウンターにひびが割れた。男性職員は慌てて立ち上がる。


「・・・え?」

「続きはこちらのカウンターでお願いしよう」


 カウンターにひびが入ると同時に金と冒険者証と預かり証を手に持っていたダメルは、隣のカウンターの上にそれらを置いて、男性職員を促した。


「いや・・・俺・・・なんで?」

「さすがに現役時代、力自慢だっただけある」

「いや・・・俺・・・そんなに力、入れたりは」

「事務仕事で力が余っているのだろう。カウンターの修理の手配より先に、こちらの手続きを行って貰えるか?」

「あっ・・・ああ」


 男性職員は現実から逃れる様に一心に事務をして、預かり金の総額を更新した新たな預かり証を発行し、ダメルは預かり証を受け取った事をギルドの帳面にサインする。


「ありがとう」

「あっ・・・ああ」

「では行こう」


 そう言ってダメルはローザを促し、ひび割れたカウンターの傍で頭を抱える男性職員に背を向けた。


「魔石は良かったの?」


 ローザに小声で訊かれて、ダメルは前を向いたまま小さく肯く。


「彼は鑑定が上手くないから、時間ばかり掛かるからね。今ではなくても良いよ」

「そう」


 ローザの声にダメルはまた小さく肯いて返した。



 悪い態度を示されたり嫌味を言われたりしながらも店を数件回り、ローザの買い物を済ませて通りに出た所で声が掛けられる。


「おい待てよ!」


 振り向くとダメルの知らない冒険者だった。その回りにはやはりダメルの見覚えのない冒険者達が、険しい表情でローザを睨んでいた。


「お前のお陰で昨日は散々な目に遭ったんだぞ!」


 散々な目に遭ったのに懲りずに今日もまた声を掛けて来るのかとローザは思う。そして無表情な顔を冒険者達に向けた。


「なんだその顔は!」


 そう言って、ローザに向けて腕を伸ばして来た冒険者の手首をダメルが掴んだ。


「何の用かな?」

「お前こそ何だ!邪魔するな!」

「そちらこそ、往来の邪魔をしない様に」

「うるさい!放せ!」


 そう言って冒険者が腕を引き戻そうとするので、ダメルは手を放す。するとその冒険者はダメルに掴まれていた手で、その傍に立つ別の冒険者の顔を裏拳で殴った。殴られた冒険者の兜を被った後頭部が、その後に立っていた冒険者の顔に当たる。


「がっ!」

「痛え!」


 兜の頭突きを受けた冒険者は、両手で顔を押さえたまま思い切り尻餅を搗く。その上に裏拳を受けた冒険者が顔を押さえながら半身を捻って倒れ込み、頭突きを受けた冒険者の膝を鳩尾で受けた。そこで裏拳を受けた冒険者は体をくの字に曲げて、頭突きを受けた冒険者に今度は兜の前側を使って頭突きをする。


「ぐえっ!」

「ぐはっ!」

「おい!大丈夫か?!」


 倒れた二人を冒険者達が囲む。裏拳をした冒険者が差し出した手を裏拳をされた側が弾いた。


「うるさい!」


 弾かれた手は他の冒険者の顔への裏拳となる。


「がっ!何する!」


 新たに裏拳をされた冒険者がした側を反射で殴った。


「おい!」

()せ!」


 止めに入った冒険者達が腕を伸ばし、裏拳をした側とされた側の体を抑えようとする。その腕を避けようと反射で体を捻り、二人の冒険者は倒れている冒険者をそれぞれ踏み付けた。


「ぐっ!」

「げっ!」


 抑えようとしていた冒険者はそれぞれ足許の倒れた冒険者を踏まない様に避けたけれど、その避けた足をもう一方のそれぞれの冒険者の上に下ろしてしまった。


「ぐはっ!」

「げほっ!」


 転がる冒険者を踏んで足下が不安定になった冒険者達は、結局皆で一塊の様になって倒れ込む。当たり所が良かったのか悪かったのか、下敷きになった冒険者二人は、今度は声を上げなかった。


「こんな所で寝転がっては邪魔だからね?」


 そう言ってダメルは冒険者達に手を差し出す。


「ほら、立って」

「うるさい!」


 ダメルの手を弾こうとした冒険者は、今度は裏拳ではなく平手打ちを隣の冒険者の顔に決めた。


「てえな!」


 平手打ちされた冒険者に弾かれた手が、反対隣の冒険者への裏拳になる。


()めろ!」

「ふざけるな!」


 二人の冒険者の上で揉み合う冒険者達の傍に立ち、ダメルは肩を竦めた。


「どうやら私の手助けは要らない様だね」

「何が手助けだ!」

「ふざけるな!」

「早く立ち上がらないと、馬に轢かれるよ」

「うるさい!」


 ダメルは小さく息を吐いてから、口元に浮かべた微笑みをローザに向けた。


「仕方ない。行こうか」


 ダメルがローザを促すと、冒険者が裏拳をした手に杖を持ってダメルに向ける。


「ふざけんな!待て!」


 ダメルが冒険者を振り返ると同時に杖から火魔法が放たれて、それは少し離れた所にいた警備兵の一人の兜に当たった。そして跳ね返ると、傍の店舗の商品棚に燃え移る。

 警備兵達は冒険者達に駆け寄り槍を向けた。

 火が着いた建物の中からは人々が慌てて出て来て、商品の火を水魔法で消そうとする。慌てたのと何人もが一斉に魔法を放ったので、店の中は水浸しになった。

 警備兵の隊長が、ダメルを睨む。


「・・・ダメル」

「何か?」

「何かではない。何をしたのだ?」

「見ていただろう?この人が伸ばして来た手を掴んで放しただけだ。後は差し出した手を()たれそうになって避けたけれどね」

「魔法はどうしたんだ?」

「それも見ていただろう?この人が君達に向けて撃ったよね」

「違う!警備兵を狙ったんじゃない!」


 そう言う冒険者をダメルは見下ろした。


「それなら店を狙ったのかな?」

「お前を狙ったんだ!」

「あんなに外して?警備兵に当てて跳ね返して、後から私に当てようとしたのかな?」


 確かにダメルを狙った筈なのだけれど、火魔法は一直線に警備兵達の所に向かっていた。


「どう思う?」


 顔を向け直したダメルに訊かれ、警備隊長は苦い顔をする。


「分かった。行って良い」

「そう」


 ダメルは小さく肯くと、口元に浮かべた微笑みを再度ローザに向けた。


「では帰ろうか」

「何故だ!」


 ローザを向くダメルの背後で冒険者が叫ぶ。


「何故そいつを行かせるんだ!悪いのはそいつなのに何で捕まえないんだ!」


 警備隊長は部下に命じて、騒ぐ冒険者達を縄で縛って行く。

 本当ならダメルとローザからも調書を取るところだけれど、ダメル達が搦まれている様子を自分達が笑って見ていた事も調書に記さないと、ダメルが調書にサインをしない事は分かっている。その様な物を報告したら、上司にまた嫌味を言われるし、その様な物を公式な書類としてこれ以上残したくもない。


「お前達は昨日に続いて街中で騒動を起こし、街中での使用が禁止されている種類の魔法を使った」

「それはあいつが!」

「その上、その魔法で我々警備兵を狙い、建物にも火を着けた」

「あんたを狙ってない!火が着いたのも狙ってない!」

「その辺りはこの後の取り調べで訊く」

「そうじゃなくて!何であいつらは逃がすんだ!」

「お前達が娘に手を出そうとしたからそれを遮っただけだ。父親なら当然じゃないか。それを罪に問える訳などないだろう?」


 そう言うと警備隊長は冒険者達を立たせ、警備兵達が槍を向けながら、冒険者達を詰め所に連れて行く。


 この様子を見ていた子供達は、この余所者冒険者達はダメルよりも馬鹿にして良い存在なのだと認識した。

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