呼ぶ声
「リゼ!」
ウルフズベン王子の声にローザは躓きそうになる。
しかし自分はロザリーゼ・ノバラーではないと、説明している場合ではない。
前後の穴からは火魔法を使う魔獣が数頭ずつ。
そして新たな穴を掘って出て来た円柱状の太い魔獣が最低三頭。
ローザは王子達とは離れてしまい、その間には太い魔獣がうねっている。
事前に確認したダンジョンの資料によると、太い魔獣にはその太い体の下敷きにされたり、壁に押し付けられて磨り潰されたりしない様にしなければならない。魔法攻撃をするとか噛み付いて来るとかは書かれていなかったけれど、知られていないだけかも知れない。それを知った時にはもう死んでいるとかありそうだし。
前後の魔獣は火魔法を使って来るタイプ。しかし資料では群れなかった筈だけれど、数頭が一緒にこちらを狙っている。群れないだけで仲が悪い訳ではないのかも知れない。火魔法のタイミングを合わせそうな所を見ると、仲が良いまであるかも。
取り敢えずローザは直ぐ傍の、太い魔獣から何とかしようと思った。
強化魔法を解いて、一番手前の太い魔獣の魔石を探る。しかし表に現れている部分には見当たらない。まだ穴の中に隠れているのかも知れない。どれくらい長いのだろう?
どうしようかと思った瞬間に太い魔獣が体を捻り、ローザに打つかった。ローザは強化魔法を解いていたので、装備が重くて避けられなかった。
太い魔獣の体に弾かれて飛ばされ、ローザは壁に打ち付けられる。
装備と防御魔法のお陰でローザ自身は何ともないが、壁と防御魔法に挟まれて装備が変形して壊れてしまった。
変形した所為でローザの動きの邪魔になる。ローザは急いで装備を外そうとするが、変形の所為で上手く外せない。
もたもたしている間にローザは、太い魔獣からもう一撃を受ける。防御魔法で体は守っているが、衝撃を感じない訳ではない。水の入った器を揺らすと水が零れる様に、このままではローザの中身も零れてしまうかも知れない。
フルフェイスヘルメットの中で戻したりしたら地獄だ。そのヘルメットも変形をして直ぐには脱げなそうなので、それは何としても避けなければならない。
取り敢えずローザは倒れ込んだ。太い魔獣の体の断面は丸いので、壁際の低い位置なら隙間が出来て衝撃は小さい。
その小さい衝撃を利用して装備を外せないかとローザは試す。
離れた所ではチームメンバー達が戦っている声がする。しかし苦鳴の比率が増えて行く。
王子はまだ無事な様だけれど、まだ無事なだけの様だ。
二頭の太い魔獣に挟まれて、メンバーが固まって空間を作って王子を守っているが、別の魔獣の火魔法での攻撃も受けている様だ。
助けに行きたいが、どうすれば良いのかローザにはアイデアがなかった。
そもそも自分もいつまで保つか分からない。魔力が尽きれば防御魔法は解けてしまい、そうなればその瞬間に潰されてしまうだろう。
取り敢えず魔力を温存する為に、衝撃が来る瞬間と部分にだけ耐えられる強さの防御魔法を掛ける様に変えたけれど、たとえ魔力が保っても飲んだり食べたり出来なければ、いずれ力は尽きる。
それまでに魔獣が去ってくれれば良いけれど、突然現れて通り過ぎる事なく暴れている事には魔獣の意志を感じるから、こちらの力が尽きるまではいなくなったりはしないだろう。
望みがあるとすれば魔獣同士が争って仲間割れをする事だけど、それはこの場の人間が全滅してから餌を奪い合っての事かも知れない。
とにかく、何かをしなければ。
太い魔獣の魔石の位置を探す?
でも見付けてももう、ローザはそこを攻撃出来そうにはない。王子達に伝えられれば攻撃して貰えるかも知れない。この離れた距離でこの騒ぎの中で、声が届くか分からないけれど。
いや、土魔法だ。土魔法で穴を掘って逃げれば。
あれ?魔法が阻害される。
どうやら太い魔獣が壁や床に魔力を流して支配しているみたいだ。
太い魔獣は水魔法で押し流せる重さじゃない。
他の魔獣の火魔法を弾いているみたいだから、太い魔獣は火魔法に耐性があるのかも知れない。
雷魔法も通じない。雷は太い魔獣の表面に沿って流れて行ってしまっているみたいだ。
風魔法で真空にしたら?土の中を移動する様だから、空気を必要とするか分からないけれど。そもそも口はどこ?全身を真空に包むのはさすがに無理だし。
後は何がある?後は何が出来る?
ダメルからは他に何を教わった?
ダメルは、ダンジョンは危ないから入ってはダメだって、ずっと言っていた。
確かにダメルの言う通りだ。
私にはダンジョンは危なかったんだ。
ダメルの言う通りにしておけば良かったのに。
ゴメンね、ダメル。
育てて貰ったけれど、私、ダメルの本当の娘じゃなかったみたい。
あっ?でも、本当の娘じゃないと分かれば、ダメルはそんなに悲しまないかも?
少しは悲しむよね?悲しまない?
私はダメルに会えないの、悲しいよ。寂しいし。
貴族からダメルを守ろうとして我慢していたけれど、寂しかったよ。
私、もし助かったら、この国から逃げて、ダメルに会いに行くね。
貴族に追い掛けられるかも知れないけれど、一緒に逃げてくれる?くれるよね?
その時は頼りにしているから。
だって、ダメルは、私に取っては、ダメおやじなんかじゃないもの。
ダメル。
会いに行くから。
会いたいから。
会いたいよ、ダメル。
あっ・・・ダメルの声だ。
ダメルの声が聞こえる。
こんなにうるさいのに、何も聞こえないのに、ダメルの声だけははっきりと聞こえるよ。
「ローザ!」
14




