揺れ
次の休憩から出発すると、魔獣は殆ど現れなくなった。
そしてチームは目的地に着く。目的地からは往きとは別のルートを辿って地上に戻る予定だったが、しかしその穴は塞がっていた。
「仕方がない。来た道を戻るか」
「殿下」
地図から顔を上げてローザは王子を見上げる。
「どうした?ロー?」
「この手前の道から回り込めば、塞がっている先に回り込めるかも知れません」
王子はローザの持つ地図を覗き込んで肯いた。
「なるほどな」
「ただしこちらも塞がっている可能性はありますが」
「しかし大した距離ではない。塞がっていたら戻って来れば良いだろう」
「そうですね」
「よし!皆!こちらから回り込んで先に進むぞ!」
皆が王子の言葉に肯いて、ローザの伝えた道を通って地上に戻る事に決まる。
その先は塞がってはいなかったけれど、少しずつ壁や天井が崩れて道幅が狭くなっていた。やがて隊列を変えて一列になって進まなければならなくなる。道も地図と比較すると、左右にも上下にもうねって思えた。
そして地図にはない曲がり角が現れた。
ダンジョンに詳しい一人が王子に問い掛ける。
「殿下。迷ったのではないかと考えられます。どうしますか?」
「戻った方が良いか?」
「そうですね。現在位置が分かりませんし」
「そうだな。ロー?今がどこだか分かるか?」
「地図には十字路があります。もしかしたら二つの道が塞がれて、この十字路が曲がり角に見えているのかも知れません」
「なるほど」
王子はローザに肯くと地図を指差しながら、ダンジョンに詳しいメンバーを振り向いた。
「この地図の場所は知っているか?」
「ええ。分かります」
「これがここなら道は合っている事になるな?」
「そうですね。予定の道が塞がれている事にはなりますが、こちらから回り込んだ方が道を引き返すよりは早いですね」
「よし。ではもう少し進んでみて、地図と合うか確認しよう」
王子の決定に従って、チームは先に進んだ。
「魔獣!」
久し振りに魔獣が現れたが、それは後方からだった。そして魔獣は直ぐに角に姿を隠す。
「どうしますか?」
メンバーに尋ねられて王子は眉根を寄せた。
「付いて来られても面倒だな。戻って倒すぞ!」
王子の命令で警戒をしながらチーム全員がゆっくりと道を戻る。そして魔獣が姿を隠した角をメンバーの一人が覗いた瞬間に魔法で攻撃をされた。
「魔獣!待ち伏せされていました!」
チームに緊張が走る。
「何頭だ?」
「分かりません。暗くて見えませんでした」
魔導具の光が壁に反射して、その明るさを頼りに角の先を見るしか出来ない。
「出て来るのを待ってみよう」
王子の判断に従い、その場に止まって魔獣が姿を現すのを待ったが、そのまま何も起こらない。
「先程の魔獣の魔法、結構強かったな」
「はい。大型の魔獣だと思われます」
「それにこうやって心理戦に持ち込んで来ている。かなり賢いのかも知れない」
王子の言葉には誰も返事を返さなかった。
「よし。後方を警戒しながら先に進もう」
王子の命令に従ってチームは先に進む。
途中の脇道などを警戒しながら進むと、また曲がり角に当たった。
「ここは、地図で言うとここか?」
「はい。その筈です」
ダンジョンに詳しいメンバーが、王子の問いに肯いた。
「そうしたらこの先のここで休めるな」
「そうですね」
「良し!皆!もう少しだ!」
「魔獣!」
今度も後方からの報告だった。
「また角に隠れました!」
「先程の魔獣か?」
「いえ、分かりません」
今回魔獣を発見したメンバーは先程の魔獣を見ていなかった。
「ここまでは大分後ろまで見えていましたので、先程のとは別の魔獣の可能性もあります」
「脇道から出て来たと?」
「その可能性もあるかと」
「増えていたら厄介だな」
「倒しに向かいますか?」
「・・・いや。先へ急ごう。開けた場所で休憩しながら待ち構えよう。先に進むぞ!」
チームは前に進む。後方にも脇道にも注意を払いながら、違和感があれば確認しながら進んだ為、開けた場所に辿り着く迄には少し時間が掛かった。
そして後方に警戒しながら交替で休憩を取る。
今回は王子はローザの淹れるお茶を断った。
座って休憩していたローザが何かの気配を感じて振り向くと、これから進む方の穴から攻撃魔法が飛んで来る。それは王子へと向かっていた。
ローザは咄嗟に王子に防御魔法を掛ける。防御魔法に弾かれた火魔法の光で、進む先の穴が照らされた。
「魔獣!」
そう叫んでローザは立ち上がり、王子の傍に走る。火魔法の光が消えると穴はまたただの暗闇に戻った。
「どこだ!」
「あちらからの攻撃です!魔獣の影が見えました!」
「今度は前か!」
王子とローザを中心にして、チームメンバーは前後を警戒する。
しかし前も後ろも穴は暗いままで、魔獣の姿は見えない。
ローザは精度を上げて探知魔法を使うが、周囲のメンバーが漏らす魔力が増えていて、両方に魔獣がいるのは分かるが、一頭ずつなのか何頭もいるのか分からない。
「取り敢えず、攻撃はして来ない様だな」
王子の言う通り、前も後ろも影の中に身を潜め、魔獣が動く気配がない。
「良し!今の内に休憩だ!交互に休め!」
メンバーにそう命じると、王子はローザを振り向いた。
「ロー。やはりお茶を淹れてくれ」
王子にそう言われ、それがメンバーを冷静にさせる為かとローザは考える。
「はい」
ローザは肯いて、お茶の準備を始めた。
そしてお茶を淹れていると、ローザは靴底に小さな振動を感じる。その振動は徐々に大きくなり、茶器を鳴らし始めた。
「何が起こっている!この振動は何だ!報告しろ!」
揺れているのは分かるが、何が起こっているのかは誰も分からなかった。
ただしローザはこれに似た振動を知っている。
「殿下!穴を掘る魔獣です!」
「何!どこだ!」
ローザはしゃがみ込んで、手のひらを足下に付けた。
「多分・・・いえ、下です」
ローザの傍に突如穴が開く。
「リゼ!」
ローザは穴から身を避けたが、茶器を載せたテーブルは倒れた。ローザが手に持っていたポット以外は砕けてしまう。
そして砕けた茶器を弾き飛ばすかの様にして、大きいと言うよりは太い魔獣が姿を現した。
「こいつが原因か!」
「まだです!」
靴から別の振動を感じているローザが叫ぶ。すると同じ様なもう少し太い魔獣が下から姿を現した。
「まだです!」
今度は横からも別の個体が現れる。
「あっ!魔獣も!」
チームが通って来た穴とこれから通ろうとしていた穴からも、魔獣が何頭も姿を現す。
チームメンバーは王子を中心に集まっていたが、最初の太い魔獣を避けたローザは、一人で離れた所に立っていた。
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