疑念
休憩を終えてチームは移動を開始する。
しばらく進むとまた魔獣に遭遇した。
チームが足を止めたので、ローザは強化魔法を解除した。
身に付けている装備の重さが体に掛かる。しかし何とか立ってはいられる。
その状態でローザは探知魔法の精度を上げた。
メンバーの前方の魔獣の姿を探知魔法が捉える。
やはりローザの想定より近い。大きさはこれまでと変わらなかった。
メンバーの攻撃魔法もローザの想定より威力はない。
想定より違う事は、ローザの推測を裏付ける事になる。
魔獣を倒してしばらく進むとまた魔獣に出会う。
ローザは今度は防御魔法も弱めて、探知魔法の精度を更に上げた。
探知魔法で魔獣の魔石の位置を把握する。
その大きさはローザの推測通り。そして魔石の濃度もローザの推測通りだった。
メンバーの攻撃が始まったので、その火魔法に探知魔法を向ける。
かなりの魔力が使われているし、倒された魔獣はまた全身が焦げていた。
次の魔獣を見付けた時には、ローザは思い切って防御魔法を更に下げた。
草原で狩りをしていた時と同じレベルまで防御魔法を下げて、メンバーの魔法の情報を集める。
それはやはり、ローザの想定とは大きく異なったが、ローザの推測と一致していた。
すっかり無口になったローザを王子は心配する。
「ロー?大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
王子を見上げてそう返すと、ローザは直ぐに視線を前方に戻し、そのまま歩き続ける。
「疲れたなら休憩を取るぞ?」
「いえ。大丈夫です」
「まだ往きだ。帰りもある。無理をしなくて良いぞ?」
「はい」
「もちろん引き返しても良い」
「大丈夫です」
ローザは大丈夫と繰り返すが、表情も分からないし声の調子も分かり難い。
王子はローザが大丈夫と言うほど、ローザの事が心配になって行った。
ローザの事は心配でも、王子はローザを優先は出来ない。王子が優先すべきはチームメンバーへの指示だ。
基本は練習通りに進んでいるので問題はないが、問題が起きた時の為にはローザにばかり注意を向けてはいられない。
進むに連れて魔獣も大きい種類が出始めて来たし、魔獣との遭遇頻度も上がって来ていた。
二度目の休憩になった。
「ロー。こちらへ」
お茶を淹れようとしていたローザを王子が呼び寄せる。
チームメンバーから離れた場所に移動し、王子は小声でローザに話し掛けた。
「ロザリーゼ殿。顔を見せてくれ」
「え?・・・何故ですか?」
「本当に体調に問題ないか、確認したい」
「分かりました」
王子はチームの責任者だ。チームの中で一番体力がない自分を心配したのだろうと思って、ローザはヘルメットの前を開けた。
王子が顔を近付ける。
「顔色は・・・特に悪くはないか?」
「はい」
「いや、少し青いか?」
そう言うと王子は手を伸ばし、ローザの頬に触れた。
ローザは強く息を吸って目を見開く。硬くした全身には鳥肌が立っていた。
「あ、いや、大丈夫か。大丈夫だな。うん。大丈夫だ」
思わずローザの肌に触れてしまった事に気付いて、王子は慌てる。
「いや、済まん。その、リゼと、いや、あの、済まなかった」
王子がしどろもどろになって、言い訳の様な謝罪を口にした。
「はい。大丈夫です」
治癒魔法で鳥肌を収めたローザは、平坦な声でそう返した。
休憩が終わり移動を再開する。
気不味さを解消したくて王子はローザに話し掛けたい。しかしローザは無言で進み、会話の糸口が見当たらなかった。
王子が悩んでいるとローザが突然横を向く。その先には横穴が続いているが、今回の調査対象外ではあった。
ローザは歩きながら自分用の地図を取り出して、現在位置を確認すると王子を見上げる。先ほどからローザの様子を見ていた王子と目が合った。
「殿下」
「どうした?」
「地図にない道がありました」
「なに?あの横穴か?」
「横穴の先にこの道と並行している様な道です」
「止まれ!」
王子はチームに命じて立ち止まる。ローザも止まった。
「警戒しながらここで待機だ。よし、ロー。戻るぞ」
「はい」
王子はローザだけを連れて、道を少し戻る。
「あれか?」
「はい」
「地図を」
「はい。今はここです」
「・・・なるほど。地図にはないな。おい!皆!来てくれ」
王子は振り向いてチームの皆を呼び集めた。
「ローが地図にない道を見付けた。私も新しく掘られた穴だと思う。皆の意見を聞かせてくれ」
王子に尋ねられ、数人が穴に近寄って確認をして、やはり最近掘られたものであると結論付けた。
「今回は調査をしないが、調査の為に改めて人を派遣しよう」
王子の決断にメンバー達が賛成を示す。
「良く気付いたな、ロー」
王子はローザに手を伸ばし掛けて止めた。そして手を戻しながら言葉をつづける。
「地図を見ながら歩いていた訳ではなかったな?どうやって気付いたのだ?」
「あの、地図を頂いてから今回通る道に付いて、何度も確認をしていましたので、どこがどこに繋がっているかなども、自然と覚えてしまっていました」
ローザの答えに目を見開いた王子は、ふっと息を漏らすとそれが笑いに繋がった。
「そうか。ローはダンジョンに来る事が余程楽しみだったのだな」
そう言うと王子は笑いを漏らし、ダンジョンメンバー達も笑い出した。
ダンジョンメンバー達はローザを少年だと思っていたので、わくわくしながら地図を見るローの姿を想像し、ほんわかとしていた。
王子はダンジョンに連れて行く様にと迫って来た時のローザの表情を思い出して、やはりほんわかとする。
そしてローザはフルフェイスヘルメットの中で、皆の笑い声が結構大きくて、魔獣を引き寄せそうだと感じて眉を顰めながら、強化魔法を止めて防御魔法も弱めて、周囲の気配を探っていた。
ローザが地図にない穴を発見してから、他にも地図にないものがないかをメンバー達も注意して進む。すると地図にない穴があったり、逆に穴が埋まり掛けていたりする場所が見付かる。
「どれもこれも、比較的最近出来た様だな」
「そうですね」
脇道の先の穴があった筈の場所で、土を調べながらローザは王子に同意した。
「何らかの異変がある様だが、魔獣に付いては特に変化はないか?」
王子に尋ねられて、ダンジョンに詳しい一人が首を左右に振る。
「出て来る種類はこれまでと変わりません。少し数が少ない気がしますが、先日の調査時には逆に多めだったとの報告がありました。その時倒した影響で、今回は少ないのかと思います」
ローザは小首を傾げる。
草原では原因がなければ魔獣は増減しなかった。増えた時は調べると必ず草原の奥に強めの魔獣がいる。減った時は草原の奥に魔獣の餌になる物が大量に発生して、そちらに集まっていたりする。
「そうか。しかしこの先に想定外の事態が待っているかも知れない。充分に注意して進もう」
その王子の言葉に皆が肯いて、先に進む事になった。
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