魔獣を倒す
先頭に立つメンバーの声に、チーム全体に緊張が走った。
「確認」
「数1」
「攻撃用意」
「攻撃」
メンバー同士の声の掛け合いで攻撃が始まる。
「攻撃」
「攻撃」
「攻撃」
次々に火魔法が前方に放たれて、ダンジョンの中には魔力が渦巻いた。
「転倒」
「確認」
火魔法が止む。
「魔獣死亡」
「確認しました」
「確認しました」
「後続なし」
「後続なしです」
「よし」
最後の王子の言葉で、チームの緊張が解けた。
王子は隣に立つローザを見る。
「大丈夫か?」
「あっ、はい」
呆気に取られていたローザは、声を掛けられて王子を見上げた。
「いつでも引き返す事は出来る。今でもだ。どうする?」
「大丈夫です。行きます」
「そうか」
王子はローザに肯くと、前を向く。
「前進」
王子の命令でチームは移動を再開した。
ローザも僅かに遅れたけれど、一歩を踏み出す。
「あの、殿下?」
「どうした?」
「魔獣から魔石などは回収しないのですか?」
「今回はダンジョンが正しく管理されているかの査察が目的だ。我々は目的地に進む事を優先とする。素材が採れそうなら後続チームが回収するだろう」
「そうなのですね」
そう肯いたローザの目に、魔獣の死骸が映った。
「え?」
「どうした?あまり見ない方が良いぞ?大丈夫か?」
「あっ、はい。大丈夫です」
魔獣は黒焦げで種類は分からなかったが、ローザが草原で狩っていたのと同じくらいの大きさに見える。
焼け削れて小さくなったのかとも思えたが、手脚らしき部分も頭部らしき部分も見分けられるので、大きさ的には変わらない様に感じられた。
どう言う事だろう?
ローザは魔獣の傍を通り過ぎながら小首を傾げた。
ダメルはダンジョンは危険だと言っていた。
つまり草原の魔獣と同じくらいの大きさに見えるけれど、強さが全然違うって事?
あれほどの火魔法を使っていたのだから、防御力が優れた魔獣だったのかな?
ローザの経験では、魔獣の防御力は魔獣の大きさに比例していた。それは魔獣の魔石が体の大きさに比例するからだとローザは思っていた。
蓄えられる魔力の量も出せる魔力の強さも、魔石が大きければ増える。
確かに魔石の濃さと言うのもある。魔獣に魔法を使わせると含有魔力が薄くなり品質が下がる。それなので魔石を高く買い取って貰う為には、いかに魔獣に魔法を使わせずに倒すかが大切だ。
つまり草原の魔獣よりダンジョンの魔獣の方が魔石が濃いのなら、体の大きさが同程度で魔石のサイズが同じくらいでも、ダンジョンの魔獣の方が強い事になる。
でもそんな事、ダメルは言っていなかった。
もしかしたらダメルも知らなかったのかな?
その後も何頭かの魔獣を倒したけれど、どの魔獣も同じくらいの大きさだったし、魔獣を倒す為に使われた魔法も同程度だった。
しばらく進むと開けた場所に出て、そこで休憩となった。
交替で見張りに立って、休憩する人は水分を補給したり軽食を口にしたりする。
ローザは運んで貰っていた茶器を受け取り、王子にお茶を淹れていた。
その時、メンバーの作業の様子が気になった。
「殿下?」
「どうした?」
「あの方は何をやっているのですか?わたくしには杖を壊している様に見えるのですが?」
「杖を?ああ、なんだ。魔石の交換じゃないか」
「魔石の?」
「うん?あっ、そうか。ローは杖を使わないのだったな。杖も魔導具だ。他の魔導具と同じで魔石が消耗したら交換する必要がある」
「え?そうすると、魔力がなくても杖を使えば、魔法が使えると言う事ですか?」
「いや。普通の魔導具はそうだが、杖は魔法を増幅する魔導具だから、魔法が使えなければ魔法を撃てない」
「なるほど」
ダメルが杖を使わないから、ローザも使った事がない。それなので杖は格好を付ける為か、精々狙いを付け易くする為かと思っていた。
それなので杖の機能を知って、ローザは魔石を取り替える作業を興味深く見ていた。
しかしその表情はフルフェイスヘルメットに隠されている。
王子は、ローザが自分では使えない杖のメンテナンスの様子をどの様な気持ちで見ているのだろうかと想像し、少し哀れに感じていた。
「魔獣!」
見張りから声が上がり、チームに緊張が走る。
休憩中だった今は列にはなっていないので、ローザにも魔獣の姿が見えた。やはり草原の魔獣と同じくらいの大きさだ。
「確認」
「数1」
「攻撃用意」
「攻撃」
火魔法が撃たれるのを見て、ローザはあれ?と思った。
魔獣は火魔法を躱し、反撃しようとする。
「攻撃」
「攻撃」
「攻撃」
連続で火魔法が撃たれるが場所が広い為、魔獣はことごとく攻撃を避けた。
「ロー。私の傍へ」
王子がそう言いながら、自分からローザの隣に来る。
ローザは王子をちらりと見ると、視線を魔獣に戻した。
メンバーの攻撃の間隔が僅かに開いた隙に、魔獣が攻撃を仕掛けて来た。
「防御!」
「防御!」
魔獣の魔法は防がれる。
「攻撃」
「攻撃」
「攻撃」
メンバーの攻撃はまた避けられた。そして魔獣がまた魔法を撃つ。
「攻撃」
「攻撃」
「攻撃」
その魔獣に横から火魔法が当たる。それを受けて魔獣は倒れた。
「転倒」
「確認」
「魔獣死亡」
「確認しました」
「確認しました」
「後続なし」
「後続なしです」
「よし」
最後の王子の言葉で緊張が緩み、メンバー達が大きく息を吐く。
王子はローザを振り向いた。
「大丈夫か?怖くなかったか?」
ローザは王子を見上げた。
「大丈夫です」
そう答えたローザに王子は柔らかい笑みを向ける。
しかしローザはフェイスヘルメットな中で、眉を顰めていた。
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