ダンジョンへ
ローザがウルフズベン王子に同行してダンジョンに入る事には幾つかの条件が付けられたが、その内の一つが顔を隠す事だった。
既存のフルフェイスの兜が用意されたがローザの頭には大き過ぎ、結局は特注する事になる。
王子達の行っているダンジョンに入る為の訓練には、その特注ヘルメットの出来上がりを待ってからの合流となった為、ローザが練習に参加出来た時間は短かった。
ローザはこの国に連れて来られた時に着ていた服でダンジョンに入る積もりだった。しかし防御力の高い服を用意されてそれを着る事になる。唯一靴だけはローザの足に合わせて作るのでは間に合わない為、この国に来る時に履いて来た特注品を使える事になった。
ヘルメットは魔導具で防御力を高めていたが、ローザは他にも幾つもの魔導具を持たされた。殆どが身を守る為の物で、一つ一つがそこそこ重い。すべてを装備するとかなりの重量になる。
しばらく動かしていなかった体が鈍ってしまっていたのもあり、ローザは装備を付けるとろくに動けなかった。しかしフル装備状態でチームの移動に追い付けなければ、ダンジョンには連れて行って貰えない。
ローザはいつもは使っていなかった強化魔法を使って筋力の補完を行い、何とかチームメンバーに付いて行って合格を貰った。
だが強化魔法を使うと探知魔法の精度が落ちる。
周囲の人の漏らす魔力で魔力酔いをしない様に防御魔法も使っていて、この事でも探知魔法の精度は落ちていた。
それなのでローザは強化魔法が少しでも弱くて済む様に、落ちた筋肉を取り戻す為のトレーニングも行った。しかしそのトレーニングは邸に帰ってからだ。
ローザがチームメンバーと一緒に行うのは移動練習だけで、メンバー達が攻撃練習を始めるとローザは帰宅していた。
ローザは顔を隠していたが、用意された服や防具で性別も隠された。フルフェイスヘルメットを通したローザの声も、少し低くなって聞こえる。
身許も隠して「ロー」と言う偽名で呼ばれる事になったけれど、チームメンバーにはいつの間にか、訳あり貴族子息だと認識される様になっていた。
こうして短い訓練期間が終わり、ローザは王子達とダンジョンに向かう事になる。
訓練不足は感じていたけれど、ローザは不安は感じていなかった。
それは同行するメンバー皆の漏らす魔力が強い事が、防御魔法に当たる感触でローザには分かっていたからだ。王子が一番強いけれど、他のメンバーもそれ程負けてはいない。
それなのでローザは、ダンジョンに入る事を純粋に楽しみにする事が出来ていた。
今回入るダンジョンの入口は、王都の城壁の直ぐ傍にある。
邸を朝出てダンジョンの入口で集合し、夕方にはダンジョンを出て帰宅する予定だ。
紋章も装飾もない馬車を使ってダンジョン入口に着くと、チームメンバー達は既に揃っていた。
別のチームも近くに何組か集まっている。ダンジョンの中で王子達をサポートする予定のチームだった。
ウルフズベン王子がローザを出迎える。
「おはよう、ロー」
「おはようございます。本日はよろしくお願い致します」
「体調は?」
「良好です」
「それは良かった」
王子はローザに微笑みを向けるが、フルフェイスを被っているローザの表情は見えなかった。
他のメンバー達と集まって、王子が皆に声を掛ける。
「今日が本番だが、皆、準備は出来ているな。予定通りにダンジョンに入るが、安全優先である事を忘れずに意識する様に。予定より早く切り上げる事も出来るので、無理もしない様に。初回なので事故や怪我のない様に済ませるぞ。良いな?」
「「「はい」」」
メンバーと共にローザも王子の言葉に答えた。
係員が入口の鍵を開ける。
王子とローザは隣同士に並び、その前後にメンバーが付いて、王子のチームが入口に入って行った。
その後を少し間を開けて、他のチームもダンジョンに入って行く。
入口を入ると直ぐに階段があった。階段の先は暗く、闇に沈んで行っている。魔導具の灯りで足下や周囲を照らしながら、そこを並んだまま下りて行く。階段は人が作った部分で、それを下り切るとそこからがダンジョンだった。
ローザは上を見上げた。そのローザを王子は振り向く。
「怖くはないか?」
問われてローザは王子に視線を向ける。
「大丈夫です」
「無理をしなくて良いからな」
「はい」
肯くとローザはまた上を見上げた。
「話に聞いて想像していたより天井が高いです」
「そうだな」
王子もローザと同じ様に天井を見た。灯りの光が辛うじて天井に届いている。
「この辺りの通路は大型の魔獣が掘ったと言われている。中には人には通り抜けられない様な小さな穴もあるそうだ」
「ここから下って行くのですよね?」
「そうだな。上がったり下がったり。地図を見ながら進んで、目標点を通って行きながら、目的地を目指す」
ローザは探知魔法で進行方向を探ってみるけれど、チームメンバーの漏らす魔力が壁や天井に跳ね返っていて、探知魔法が邪魔をされる。その為、その先に何かいるのかあるいはいないのか、全く分からなかった。
「魔獣が掘った穴は王都の下に続いているのですよね?」
「そうだ。入口は王都の城壁の外だが、穴自体は大部分が王都の下だと考えられている。これ以上穴が掘られると王都が穴に沈んでしまいかねないから、穴を掘るタイプの魔獣は見付け次第駆除をする。ただし魔獣は深い所からいくらでも湧いて来るから、駆除してもし切れないけれどな」
草原でも前日狩りをした同じ場所に魔獣がいる事がある。ローザは近くからやって来るのかと思ったけれど、ダメルは分からないと言っていた。
「魔獣はどうやって殖えるのか、分かっていないんだよ。草原の魔獣でも観察は難しいし、子供や卵も見付かっていない。宗教に拠って色々な説がある。しかし飼っても直ぐに死んでしまうそうだし、何が正しいのかは確かめられていないんだ」
そんなダメルの言葉を思い出していたら、先頭のメンバーが声を上げた。
「魔獣!」
探知魔法を使っていたけれど、ローザにはまだ魔獣が見付けられていなかった。
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