許可待ち
ローザは父親と思う様にと言った男性に、どの様に話をすればダンジョンへ行く許可が貰えるかを考えた。
冒険者だったダメルはローザがダンジョンに行く事を許さなかった。それは危険だからだった。
しかしウルフズベン王子は余程の事がない限り、命には危険がないと言っていた。
つまり王子が入るダンジョンは、ローザが育った街のダンジョンよりは安全だと言う事だ。
もしかしたら父親と言う男性は、簡単に許してくれるかも知れない。
そう思ってローザは男性に、先ずは単刀直入に頼んでみる事にする。
「お願いが御座います」
「何だ?どうしたのだ?」
いつもと違う雰囲気のローザが、これまでになかった事を言い出したので、男性は驚いた。
「ウルフズベン殿下が今度、ダンジョンに入るそうです」
「ああ。実績を上げる事で、失敗を取り返そうとしているな」
失敗が何の事かは分からなかったけれど、ローザはそれを流す。
「わたくしも同行したいと思いますので、その許可を下さい」
「え?・・・何だと?」
「わたくしも殿下に同行してダンジョンに入りますので、その許可を下さい」
「ダンジョン?ダンジョンにロザリーゼが入るのか?」
「はい」
「・・・そうか。冒険者に育てられていたのだったな」
「はい」
「ダンジョンにも慣れているのか?」
「王都にもダンジョンがあるそうですが、魔獣には慣れています」
「いや、だが、魔力がないのにどうやって?」
「わたくしには冒険者に習った技術があります。実際に自分の力だけで毎日魔獣を狩っていました」
「・・・技術か」
「はい」
「しかし何故ダンジョンに入りたいのだ?」
ローザは一応、それらしい理由を用意していた。
「殿下とより親しくなる為です」
「うん?ダンジョンに入る事が親しくなる事に繋がるのか?」
「はい。魔獣を狩る為に共に行動する事で、信頼関係が築かれます。今のように一日置きに僅かな時間、共にお茶を飲むだけよりは、親しい関係になれる筈です」
「それはそうかも知れないが・・・ダンジョンか」
「ダンジョンだと不都合が御座いますか?」
「共に行動をするのであれば、他の場所に出掛けるなどでも良いだろう?」
「ですが公の場所は駄目なのですよね?」
「そうだな。今はまだ駄目だが、いずれは許せる予定だ」
「王都の近郊に出掛けたりも無理ですよね?」
「湖ならそれほど人目もないし、日帰り出来るから許可しても良いぞ?」
「お忙しい殿下にわたくしと出掛ける為だけに、時間を作って頂く事は出来ませんが、殿下がその湖に視察なさりに行ったりする可能性はありますか?」
「いや。殿下が改めて見るべき物はないだろうな」
「そもそも視察なら公の行動ですので、わたくしが付いて行く事は出来ませんね」
「それもそうだな。だがダンジョンに入るのも殿下に取っては公の行動だ。人目に付くだろう?」
「わたくしの立場を隠せば問題はありません。一人の冒険者として殿下に同行するなら・・・もしかして、貴族の令嬢はダンジョンに入ったりしないと思っていましたが、そうでもありませんか?わたくしが直ぐに貴族家の者だと分かってしまいますか?」
「いや、聞いた事はないから、ダンジョンの中でロザリーゼを見掛けても、貴族令嬢とは気付かれないだろうな」
「それなら大丈夫ですね」
「だがそもそも、ダンジョンに入る女などいるのか?」
「わたくしの育った街にはいましたが、ここにはいないのですか?」
「いや。いるのかいないのか分からない」
「それなら男として冒険者登録をすれば良いのではないでしょうか?」
「冒険者登録?」
「はい。名前や性別を偽るとしても、今のわたくしとして冒険者登録をする必要がありませんか?」
「いや。殿下が責任者となるのは国の管理下のダンジョンだ。冒険者ギルドが管理しているダンジョンではないから、冒険者登録は不要な筈だ」
「そうなのですね」
「ああ。しかし性別を偽ってまで、殿下と一緒にダンジョンへ行く必要があるのか?」
「あります」
強く肯いてローザは言い切る。
「殿下と親しくなる方法は他にもあるかも知れませんが、ダンジョンに一緒に入って信頼関係を築く事で、より親しくなれると思います」
「言う事は分かるが、もし殿下に何かあれば我が家も責を問われる」
「わたくしには毎日の様に魔獣を狩って来た経験があります。殿下に万が一の事があった時に、お役に立てる筈です」
「殿下を助けられると言う事か」
「はい」
再び強く肯いたローザを男性は見詰めた。
「分かった」
「ありがとう御座います!」
「いや待て。お前の話が分かっただけで、ダンジョンに入る許可をした訳ではない」
「そう、ですか」
「殿下と話してみよう」
「え?」
「その上で、お前の同行を許すかどうか考える」
「分かりました」
ローザは姿勢を正し、頭を下げる。
「よろしくお願い致します」
「そう言えば、殿下はなんと言っていたのだ?お前の同行を許可すると言ったのか?」
「いえ。侯爵からの許可が下りる筈がないと仰っていましたので、わたくしが先に許可を取ると言う事にしました」
「そうか。それも含めて殿下とは話そう」
「ありがとう御座います。よろしくお願い致します」
ローザは男性にもう一度頭を下げた。
結果として、ローザはダンジョンに入れる事が決まった。
色味がローザと良く似た一人の男子が、父親と言う男性の執務室を訪れる。
「父上」
「うん?どうした?」
「ロザリーゼをダンジョンに行かせる事にしたと聞きました。どう言うお積もりですか?」
「ロザリーゼ本人が望んだのだ」
「死なせる気ですか?」
「・・・その様な積もりはないが、何故だ?」
「そうですか。もう用事が済んだので要らないのかと」
「まだ他に使い途はあるかも知れない」
「しかしダンジョンですよ?何かあれば護衛達は殿下を守るでしょうが、その為にロザリーゼを切り捨てるかも知れません」
「そうなればその事実が使えるではないか」
「・・・つまり父上は、どちらでも良いと言う事ですか?」
「なんだ?不満か?」
「いえ。そうではありませんが、父上がどうなさるのか、ロザリーゼを死なせる為にダンジョンに行かせるのか、それともロザリーゼを使ってダンジョンで何かを仕掛ける積もりなのか、お考えが分からなかったものですから」
「確かにもう当初の目的は達したからな」
「殿下が陛下に臣籍降下を申し出ましたからね」
「ああ。後ろ盾の者達が騒いでいるから、まだ決定ではないが、陛下は既に結論を出しているだろう」
「婚約破棄で公爵を怒らせましたし、寵愛した新しい婚約者は死なせましたし、その後は腑抜けていましたしね」
「ああ。だがウルフズベン殿下が長男だ。陛下は御自分がまだ若いから、殿下が立ち直るまで待つ気でいた」
「バウドネス王国と戦争しようとするのも、殿下に手柄を立てさせる為ですよね」
「いや、あれはどうやら、陛下は戦争をしたくない様なのだ」
「本当ですか?私は陛下が戦争に乗り気だと聞きましたが」
「乗り気とのもっぱらの噂だが、その噂を陛下が流させているらしい」
「だから逆だと?」
「ああ。私はそう考えている。主戦派に金を使わせるのが狙いの様だ」
「・・・主戦派はウルフズベン殿下に手柄を立てさせる為にもバウドネス王国と戦争がしたい。しかし陛下は主戦派に金を使わせるだけ使わせて、タイミングを見て殿下の臣籍降下を認め、戦争への機運も挫く?」
「準備させた戦争を止める為には、もう幾つかの手を打ってありそうだとは思うが」
「それは分からないのですね?」
「ああ。ウルフズベン殿下の後、陛下がどの殿下を跡継ぎにしようとなさるかに依ると思ってな」
「でも当初は陛下はウルフズベン殿下が立ち直るのを持とうとしたのですよね?」
「ああ。殿下を推す派閥はまだ強かったからな」
「でもその派閥内が主戦派と反戦派に分かれてしまい、勢いを落とした」
「それがなくても陛下は当然、ウルフズベン殿下が使い物にならないままにだった時の事も考えていらっしゃったろうしな」
「でも王妃になれそうにないロザリーゼとの将来の為に王位継承権を捨てるなら、ノバラー家の娘と婚約する時に捨てておけば良かったですよね?」
「ノバラー家の娘が王妃になる事を望んでいたのではなかったか?」
「そうですが、その器ではない事はウルフズベン殿下にも分かっていたでしょう?」
「結婚するまでは王位継承権を持っていなければ、ノバラー家の娘に逃げられると思っていたのかもな」
「ああ。それはありますね。けれど今度のロザリーゼは王妃に興味がないしなるのも嫌そうだし、王位継承権を持っていると逃げられそうだから先に捨てようと。それ、ロザリーゼは本当に王妃になりたくないのですか?」
「いや、あれはなりたがってないだろう?ロズワルドにはそうは見えないか?」
「会っていないから分かりません」
「まだ会ってないのか?」
「私は会う気なんてありませんよ」
「生き別れの双子の妹なのに?」
「父上だって必要な時にしか会ってないのでしょう?」
「まあそうだが」
「あの女にそっくりな顔なんて、わざわざ見たくありません」
「あの女とはどっちだ?」
「まだ生きている方です」
「自分を産んだ母ではないか」
「私の母上は母上だけです。あの女はロザリーゼの母親かも知れませんが、私の母ではありません」
「・・・だがロザリーゼとは顔を合わせておけ。ウルフズベン殿下が臣籍降下したら本当にロザリーゼと結婚するかも知れない。そうはならなくてもウルフズベン殿下とは交流が続くのだ。双子の妹と一度も会わなかったなどと言ったら、殿下に警戒される」
「・・・そうですね。機会を作ってロザリーゼには会っておきます」
「ああ。バラローズの為にも頼むな」
「そうですね。分かりました、父上」
そう言うと二人は苦笑を交わした。
19




