王子みたび
ローザのお見合が中止になったと連絡が届く。そして直ぐに、またウルフズベン王子が訪ねて来ると連絡があった。
今度はローザに父親と思えと言った男性も同席する。
王子が初めて訪れた時の様に使用人は部屋から下げ、ローザがお茶を淹れて着席すると、王子は眉を顰めた顔を男性に向けた。
「既にロザリーゼ殿とは面識がある。忙しい侯爵に同席して頂かなくても大丈夫だが?」
「殿下はロザリーゼの縁談に御興味がある御様子。ロザリーゼには上手く答えられなかった様ですので、私が代わりにお答え致しましょう」
「縁談は中止になったのだろう?」
「いいえ。見合いが延期になっただけです」
ローザは中止と聞いていたので、延期だと言う事はやはり見合いをするのかと思って、心が少し重くなる。ローザは小さく息を漏らした。
「うん?そうか?私が聞いた話とは違うな」
「・・・殿下。殿下はお忙しいと思いますので、腹の探り合いは止めませんか?」
「忙しいのは侯爵の方だろう?それに私には探られる腹はない」
「殿下はロザリーゼの見合いの相手に圧力を掛けたのではありませんか?」
「ほう。あの家の者は、私が圧力を掛けたなどと言っているのか」
「そうではありませんが・・・平民の富裕層の間に、ロザリーゼの容姿の話が広がっているのは殿下の仕業なのではありませんか?」
「侯爵。言葉に気を付けろ。誰に対してその様な事を言っているのか分かっているのか?」
「殿下こそ、わたくしに何かあればロザリーゼがどうなるのか、分かっていらっしゃいますよね?」
「・・・私を脅すのか?」
「先にわたくしを脅したのは殿下ですし、わたくしのは脅しではなくて確認ですよ。殿下が分かっていらっしゃるのかどうか」
「・・・腹の探り合いは止めようと言いながら、これが探り合いではないか」
「・・・そうですね。失礼しました」
男性が退いたので、王子はふうっと息を吐きながら体から力を抜く。
「ロザリーゼ殿の容姿に付いては、どちらにしても見合いをすればいずれは広まった事だろう?」
「ロザリーゼがどの様な容姿であるかと言う事より、王子の寵愛を受けていたロザリーゼ・ノバラー殿とロザリーゼの容姿が極めて似ていて、王子がロザリーゼに会う為に我が家に訪ねて来ていると、ロザリーゼ・ノバラー殿の件に関係がありそうな噂が広まっている事が問題なのです」
「いや、私がロザリーゼ殿を訪ねた話は広めていないぞ?それは私ではない」
「・・・わたくしの失敗ではあります。殿下にお目に掛けるより先に、ロザリーゼの見合いを行うべきでした」
「いや、まあ、ロザリーゼ殿がリゼにそっくりだとか、私がロザリーゼ殿をリゼと見間違えたとか、その話に付いて広まっているのであれば申し訳なかった。ただ私は見合い相手の家にだけ、伝わる様にした積もりなのだ」
「・・・既に広まってしまっていますので、それはもう仕方がありません。ですので殿下。もうロザリーゼを訪ねてなど来ないで下さい」
「いや、何故だ?」
「何故だではありませんよ。ロザリーゼの結婚相手を探し始めたのは遅いのです。それは、殿下の結婚を待つと判断したわたくしの失敗が原因ではありますが、それでも今回の相手が見付かってほっとしていたのです。それなのにその相手から縁談が断られただけではなく、ロザリーゼを嫁に欲しがっていた他の家々までも、すっかり尻込みをしてしまっています。わたくしがいくら殿下とロザリーゼは何の関係もないと訴えても、こうして殿下がロザリーゼを訪ねて来ていては、誰も信じないではありませんか?」
男性にそう言い切られて、王子は目を細めた。直ぐに男性は頭を下げる。
「失礼致しました。殿下御自身に何かを思っている訳ではない事は御理解下さい」
「ああ」
「ですがこのままではロザリーゼはいきおくれ。ただでさえ魔力がなく生まれてしまったのに、普通の女性の幸せも手に出来ない事になってしまいます」
男性がまたローザの幸せを考えている様な発言をするけれど、相変わらずローザは将来に付いて男性に望みを聞かれたりした事はない。
そもそも女性の幸せと言うのが何か、男性は知っているのだろうか?少なくともローザには、女性の幸せとは何なのか分からなかった。ローザの幸せを考えるのであれば、まずそれが何かを教えて欲しいとローザは思う。
「それは、だが、ロザリーゼ殿は貴族に生まれたのだ。平民との結婚では、ロザリーゼ殿は幸せになどなれないだろう?」
どうやら王子も何がローザの幸せなのか知っている様だ。
「いいえ。こうなっては貴族との結婚でも、ローザが幸せになる事などあり得ないではないですか」
「何故だ?侯爵は魔力量に拘っている様だが、それは違うのではないか?確かに跡取りには魔力が求められるが、それは男の場合だ」
「その跡取りを産む母親にこそ、魔力が必要ではありませんか」
「魔力量は親から引き継ぐだけではない。現に侯爵と夫人の魔力量には問題がないのだろう?夫人は公爵家の出であるし、ロザリーゼ殿の双子の兄のロズワルドの魔力量も侯爵家の跡取りとして全く問題がないではないか」
「確かに両親より強い魔力を持った子供もいます。平民の中にも稀に、貴族並みの魔力を持つ者がいるのも確かです。しかしロザリーゼが貴族としての魔力を手にする為に、どれだけ苦しい思いをしたのか、殿下は分かっていらっしゃらない。そしてもしロザリーゼが貴族に嫁いだとして、ロザリーゼの産んだ子にも魔力が無ければロザリーゼがどれ程責められるか、その子がどれ程辛い思いをする事になるか、殿下は知っている筈ではないのですか?」
ローザの眉根が僅かに寄る。
男が王子に苦労を知らないと責めるのは分かるが、辛い思いを知っていると言うのは分からない。言い間違えたのかとローザは思った。
男性の言葉に王子は顔を蹙めていた。
「確かに、その辛さを私は傍で見ていたし、見ているだけの私自身も辛かった。しかし」
「殿下。王家には魔力量を増やす秘術があるとの噂ですが、私はロザリーゼ・ノバラー殿が亡くなったのは魔力の暴走の所為だとの話を聞いていますし、それが無理に魔力量を増やそうとしたからだとの話も知っています」
「それは、だが・・・違うのだ」
「ええ。単なる事故だったとの調査結果でしたし、殿下とロザリーゼを会わすに当たり報告書を詳しく読みましたが、疑わしい部分は見付かりませんでした。ですが殿下?殿下の妃になるには、ロザリーゼ・ノバラー殿の魔力では足りないと、殿下も思っていたのではありませんか?」
王子は更に顔を蹙める。
「それは・・・違うのだ」
そして絞り出す様にそう言った。
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