再認識
「どういう事なのだ?リゼを死んだ事にしたと言う事だな?」
ローザに父親と思う様に言った男性に殿下と呼ばれた人物は、厳しい口調で男性に質しながらもローザを見詰めていた。
「いいえ、違います」
男性はローザを振り向く。
「ロザリーゼ。こちらはウルフズベン・アコナイト・モンクスフード・ピオニー殿下。国王陛下の御長男だ」
「よろしくお願いいたします、殿下」
「あっ、ああ」
「取り敢えず、茶をいかがですか?殿下?そしてロザリーゼを同席させてもよろしいでしょうか?」
「あっ、ああ。もちろん」
「ロザリーゼ。お前の分も茶を淹れなさい」
「はい、お父様」
先程のお湯が少し零れたので、使用人が別のワゴンで改めて茶器を運んで来る。その上にはローザの分のカップも載っていた。
ローザは三人分のお茶を淹れて、殿下と男性の前に置く。男性に場所を示されて、自分の分は男性の隣に置いて、ローザも席に着いた。
「殿下がロザリーゼ・ノバラー殿に出会ったのはここ。そしてロズワルドの成人祝いのパーティに御臨席頂いた際だと伺いました」
「あっ、ああ。その通りだ、侯爵」
「出会いの場所はこの部屋に続く、そちらの庭だったとの話ですが、確かでしょうか?」
男性がそう言うとウルフズベン王子は窓の外に目をやった。
「ああ。その通りだ、侯爵。確かにここの庭だった」
「その際に殿下が声を掛けたら、ロザリーゼ・ノバラー殿は困った様子を見せて、名乗りもせずに逃げる様に立ち去ったとか?」
「ああ、そうだ」
ウルフズベン王子はローザに視線を戻して、微笑みながら頷いた。
「その日、このロザリーゼもこちらにおりました」
「うん?そうか」
ウルフズベン王子が嬉しそうに笑みを零す。
「この庭はパーティには使っておらず、パーティに参加をしていないロザリーゼは、この庭で過ごしていたのです」
ウルフズベン王子の眉根が寄った。
「参加していない?」
「はい。ロザリーゼは、お分かりの通り、魔力が御座いません」
「・・・その様だな」
ウルフズベン王子の眉尻が下がる。
「それですので貴族の娘としては扱えず、人前に出す事はないのです」
「いや、それは極端ではないか?」
ウルフズベン王子の眉根は更に寄り、額に浅い溝が出来た。
「いいえ。わたくし共もロザリーゼの魔力を増やせないかと、色々と手は打っておりまして、幼少時よりずっと領地で魔力を増やす為の訓練を続けさせておりました。その為に社交の場などには一切参加させた事がなく、あの日もこちらで一人、控えさせていたのです」
「いや、しかし、侯爵の娘と言うのならロズワルドの姉妹ではないか」
「はい。ロズワルドの妹になります」
「それなのに兄の祝いに参加をさせなかったと言うのか?」
「社交としての祝いには参加をさせませんが、家族としての内々の祝いには、もちろん参加させております」
「そうなのか」
「はい。なにせこのロザリーゼもあの日、成人となりましたので」
「え?」
「このロザリーゼはロズワルドと、双子として生まれたのです」
「・・・それは、どう言う事だ?」
「このロザリーゼには貴族としての社交を禁じております。それは魔力がない為、このままでは貴族の妻とはなれないからで御座います。このままでは嫁ぐ先は、魔力なしでも良いと言ってくれる平民しかありません。それですので、貴族同士の関係は結ばせない様にしておりました。それは、友誼を結んだ相手が出来ても、いずれ身分に差が出来るからで御座います」
「その様な・・・」
「はい。それですのであの日も、見知らぬ男性に声を掛けられた時に、このロザリーゼは思わず逃げてしまったのだそうです」
「・・・え?」
ウルフズベン王が顔を蹙める。
「それを我が家の使用人が見咎めて、呼び止める為にロザリーゼの名を呼んだとの事でした」
「・・・それを私が聞いたのか?」
「それはわたくしには分かりませんが」
「いや、だが、しかし、私がバラローズ家に問い合わせをさせたら、リゼを教えてくれたと言うのだぞ?」
「パーティに参加したロザリーゼと言う名の女性との事でしたので、参加していないこのロザリーゼの事は報告していなかったそうです」
「その報告の中に、たまたまこのロザリーゼ殿と瓜二つのリゼがいたと言うのか?」
「わたくしはロザリーゼ・ノバラー殿の容姿を話にしか聞いておりませんので、似ていたかどうかの判断は出来ませんが」
「いや、似ていたと言うか、瓜二つどころか本人としか思えない」
「いえ、それはあり得ません」
「いや、だが、リゼを死んだ事にして、侯爵が養女にしたのではないのか?」
「こう言っては殿下には酷だと思いますが・・・殿下?殿下はロザリーゼ・ノバラー殿の葬儀に参列なさったのではありませんか?」
「いや、だが・・・損傷が激しいとの事で、最後の姿は見る事が出来なかったのだ」
「・・・そうだったのですか」
「ああ・・・なあ?侯爵?本当にロザリーゼ殿は、リゼではないのか?」
「はい」
「これ程似ているのに?」
「似ているとおっしゃいますが、ロザリーゼ・ノバラー殿とこのロザリーゼとでは、髪と瞳の色が違っている筈です」
「色が?・・・いや。一緒に思えるが?」
「いいえ。この子の名はロザリーゼ・ロッソ・バラローズ」
そう言って男性はローザの頭に手を載せた。ローザは男性の手を弾かない様に防御魔法を調整する。以前にもあってこれが二度目だったし、ローザは体に触れられる事を警戒していたのだった。
「わたくしやロズワルドと同じくロッソを名乗る事が許された、バラローズ家の特徴である髪と瞳の色をしております」
「ロッソ・・・そうか」
「はい。この子は平民に嫁ぎますので、バラローズの名は名乗れなくなります。しかしこの髪と瞳の色でロッソは名乗れる。この子の子孫にもこの色が現れたなら、その時の当主はその子にロッソを名乗る事を許します。その様にしてバラローズ家は家名と血筋を守ってきました。もしロザリーゼ・ノバラー殿がこの子と同じ色だったのでしたら、殿下の婚約者はロザリーゼ・ロッソ・ノバラーと名乗った筈なのです」
「・・・そうか」
ウルフズベン王子はローザを見詰める。その瞳が潤んだと思ったら、ウルフズベン王子は俯いて、両手で顔を隠した。
「私のリゼは・・・やはり」
ウルフズベン王子の声が上擦る。
「いないのか」
その小さな呟きは高く、擦れていた。
27




