確認
教師達が直ぐに派遣されて来て、ローザへの授業が始まった。
ローザに取って授業は、お姫様ごっこでダメルに習った時の事を思い出す、懐かしくて、胸が少し痛い時間となる。授業内容もダメルに教えて貰った事をなぞりながら進む、思い出を呼び起こす材料になっていた。
楽しくて嬉しいけれど切なく寂しい、そんな感傷的な、ヒマを潰すにはぴったりな授業なのだけれど、受け続けるにつれてローザは、段々と不安になって来る。
それは、いつまで経ってもダメルの教えとそれ程変わらない授業が続いたからであった。教え方の丁寧さで言えばダメルの方が上だったりするし。
確かにこの国、ピオニー王国の最新情報は、ダメルから教わった内容よりアップデートされている。
しかしそれ以外は、ローザが心配になるほど、知っている事ばかりが教えられ続けていた。
教師達も、ローザの発言や解答を訂正しない。たまに言い回しを直されたり、足の角度を直されたりする程度だ。
ローザの母親を自称する女性が言っていた話が頻りに思い出され、もしかしたら教師達は正妻の回し者で、ロッソを名乗る事を許されたローザに教育をしない積もりかも知れないと、ローザは疑いを持ち始めてしまっていた。
そして、御主人様からの二度目の喚び出しが行われた。
それも場所は邸から馬車で移動をすると言う。
朝早くから用意をさせられて、馬車に乗せられて、着いた先はしかし、同じ敷地の中だった。どこに連れて行かれるのか不安だったローザが、確りと窓の外を確認していたから間違いは無い。
ローザは、ローザが寝起きしている邸の玄関の、縦も横も三倍程の大きさの玄関の前で馬車を降ろされた。
使用人に案内されて、長い廊下を進む。
立派な扉を潜り抜けるとそこは、高そうな調度品ばかりが揃えられた部屋だった。
「来たな」
調度品に目を奪われて、ローザは声を掛けられてから男性がいる事に気付いた。早速失敗だ、と思うとローザは思わず目を瞑る。そして一呼吸置いて声のした方に体を向けて、男性の姿を認めて礼を取った。
「ロザリーゼ・ロッソ。お喚びにより参りました」
「ほう。報告通りだな」
報告と言うのが教師達からだと思い、ローザは小さく息を吐く。
「先ずは茶を淹れろ」
男性はそう言うと室内のテーブルまで歩く。
使用人がワゴンに茶器を載せて、ローザの下に運んで来た。
「お前の分もだ」
そう言って男性は席に着く。
ローザはダメルと一緒に料理もしていたし、お茶も淹れていた。
教師にもお茶の淹れ方を習ったけれど、ダメルとの違いは良く分からなかった。茶葉に拠り蒸す時間とか違う筈なのに、教師には特に何も言われていない。
ワゴンに用意されている物に付いても、ローザが飲んだ事がある茶葉かどうか分からなかった。
お茶が不味いからって、殺されたりはしない筈。
ローザはそう開き直って、男性にお茶を淹れる事にした。
ローザがお茶を淹れる姿を男性がじっと見詰める。
殺されない殺されない、と心の中で唱えながら、ローザはお茶を淹れ始める。
どうやら用意されているお湯の温度が少しぬるく感じる。一瞬、正妻が手を回した事を考えたけれど、こんなのは魔法で温度を上げれば良いだけだし、たまたまだろうと思う事にした。
お湯の温度を調整し易くする為に、ローザは防御魔法を少し緩めたけれど、それでも男性の魔力が入って来る事はなく、お茶はローザの思った通りに淹れられた。
男性の前にカップを置くと、男性が目の前の席を手で示すので、自分の分のカップをそちらに置いて、ローザも席に着く。
男性はカップを持ち上げて香りを確かめ、お茶に一口付けた。それを見てローザも一口飲む。
お茶はなかなか美味しく淹れられている。これで文句を付けられたら、きっともう、何をやっても文句を言われる事に決まっていたのだと、ローザは覚悟をした。
「報告通りだな」
そう言う男性に、自分の言葉で評価をしないのかと思って、仲良くなれそうにないとローザは感じる。
「所作も報告通りだ」
さいですか。
「ロザリーゼ」
「はい」
「一人の男性をここでお前に引き合わせる」
それはお見合と言う事だとローザは思った。
ローザは文句を言われる覚悟はしていたけれど、縁談に付いては心の準備が出来ていない。
「はい」
それなので返事の声は少し小さくなり、僅かに震えていた。
「それまではこの邸で暮らせ」
今暮らしている邸には、ローザの母親を名乗る女性も一緒に住んでいる。ここにも誰かが住んでいる可能性はあり、それが正妻ならば命が危険かも知れない。
「こちらにはどなたが暮らしていらっしゃるのですか?」
今日一番の緊張を感じながら、ローザは思い切って訊いてみた。
「ここは祖母が、先々代侯爵夫人が晩年に使っていた邸だ。手入れは続けているが、今は誰も住んでいない」
誰も住んでないのに手入れをするなんてもったいない。咄嗟にそう思って、自分の中に庶民感覚が残っている事に、ローザは笑みを零してしまう。そしてそれを誤魔化す為に、ローザは男性に頭を下げた。
「光栄にございます」
良くは分からないが、お祖母さんの邸を貸してくれるのなら、今日の確認は合格だったのだろう。
そう考えて、顔を上げたローザは、今度は笑みを隠さなかった。
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