第2話 ネットに浸るマイケル
第2話ッ
「ただいま〜っ」
靴を脱いでスリッパに履き替え、服を脱ぎながらリビングへ。
ソファには石像が座って、熱心にパソコンで音楽を聞いている。
やはり、家にマイケルジャクソンの姿があることを事実として中々飲み込めない。
特に石像の姿でパソコンをソファの上で見る姿とか。ステージの上の輝かしい姿ばかり見ていたが、普段作曲やダンスの振り付けを考えている時の彼はこんな感じだったのかもしれない。
ステージで輝くには裏の努力があるのだろうから。
最近の彼はパソコンで1日中音楽を貪るように聞き、流行りのダンスとやらをずっと食い入るように見ている。
彼は食事も睡眠も必要ないようだから、本当に、ずっと。
彼が動き初めてからもう5日だが、ずっとそんな毎日。
俺も真面目に色々考えた。
人間の魂を持った石像をどうすればいい?
いくら推しだとはいえ、このまま人生の視界の端に居座り続けられても困る。
というか、そもそも俺にマイケル様は荷が重すぎる。
何より、彼は『またステージに立てる』と言った。
転生して姿が変わっても尚エンターテイナーの気持ちは一切ブレてない。
(いいなぁ……)
俺の今の仕事は転生した先の世界でもやりたいことじゃない。
やはり"マイケルジャクソン"はすごい人だ。
彼がソファで熱心にKーPOPを聞いてる間、俺は適当にカップ麺で済ませようとして、辞めた。
久しぶりに自炊してみようと思ったのだ。
俺は米を研ぎながら彼との会話を思い出していた。
『4日…約100時間研究させてくれ。それから、もう一度話し合おう』
彼は5日前そう言った。
たったの100時間で、彼が亡くなった、約2010年から現在までの16年間の音楽界の変化を見極めるの?
俺はそう思ったが、マイケル様なら可能なのかもしれない。
その5日間の彼の集中力は異常だった。マスコミの俺が話しかけるのを躊躇って出来ないくらい。
米を研ぎすぎてることに気づき、水をきって、炊飯器にセットする。
スイッチを押して……よし、話しかけるぞ。
「あの、マイケル…さん」
彼はパソコンを見ながら、紙に英文をササっと書いた。
『あと1時間20分』
あ……はい。
早炊していた米をよそって、一人で食べる。
おかずは納豆と豆腐と……マイケル様だ。
計算すると、約束してから、今は101時間。
彼が1時間20分と行った時は、大体98時間40分だったので、大体約束を守るつもりはあったらしい。
でも、1度集中したら中々辞められないらしい。
彼は今も何かをメモしている。
ご飯を食べ終わって、ソファにゆっくり体を預ける。
初めは石像の印象が先行してて、緊張はしなかったが、今はなんだか目の前の石像が、"マイケルジャクソン"の人間の姿をしているように見える。
「マイケル……さん。」
彼はパソコンの音楽サイトを閉じ、
『"マイケル"と呼んでくれ』と打ち込む。
実は、マイケル様はファンや周囲の人から親しみを込めて、マイケルと呼ばれることを好んでいたらしい。
恐れ多いが、本人も喜ぶ、1番一般的な呼び方だそうだ。
『俺はまたステージに立ちたい』
彼はそうタイプする。
『だから、君に────』
「なんで」
彼は少し驚いたようにこちらを見た。
石像で、表情は読み取れない。
でも、もしも彼に表情筋があったら────。
「なんで、もう一度ステージに立つんですか?」
……きっと彼は笑ってると思う。
『俺がマイケルジャクソンだからだよ』
たしかに、それはこれ以上ないほど説得力がある理由かもしれない。……でも。
「あなたは今、この世に存在しないはずだ。あなたは転生したんだから。マイケルジャクソンは死んだんです」
やべぇ。今、俺マイケル様と対等に喋れてる……。
マスコミで培った話術がここに来て活きてる。
まぁ、話術なんて大層なものじゃなく、俺にあるのは図太い精神だけだ。
俺自身、自分が何を言ってるのかよく分かってない。
でも、知りたかったんだ。彼がステージに立つ原動力はどこから来てるのか。
知りたい。
『逆に聞くけど、君はどうしてステージに立たないんだい?』
────え。
『俺がステージに立つのは、俺が踊れるからとか、人を感動させる声をもってるからとかじゃない』
『俺は人を愛してるからだ。』
……。
『俺はステージに立つ以外に愛の存在をダイレクトに、オーディエンスに証明する方法を知らないんだよ』
やっぱり、この人と俺の見てる世界は違う。




