第3話 踊るマイケルは人を踊らせる
『俺は人を愛してるから』なんて普通なら言って恥ずかしくなるような言葉を書いたのにマイケル様……マイケルはニヤニヤしているような気がした。……表情は変わらないけど。
こうやって人の感情を揺さぶるのが好きなのかもしれない。
『話がそれたな。戻そう。』俺の反応をみてるふうだった彼はパソコンに向き直る。
俺はその指……石がパソコンのキーボードをガタガタ打つのを、ぼーっと眺めていながら思った。
マイケルは、人を愛すために生きて、ステージに立った。
なら、俺は?
俺は何のために生きてたんだっけ。
俺の心境など知らずに、彼はパソコンを打ち続ける。
『調べたんだが、「YouTube」という動画サイトを利用するのが良いと思ったんだが。あれは、実質オンライン上のステージだと言えるしね。』
なるほど。YouTubeか。
そもそも、石像がオーディションとか、ステージとか、出れないだろう。マイケルはどう思ってるんだ?それを踏まえて、YouTubeなのか?
というか、彼が喋れないのも問題だ。コミュニケーションは取れるけど、彼は歌えない。
『動画を取るなら、場所は……そうだな。ここは東京だろう?なら、スカイツリーだ。』
え。なんで?
♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎
そういえば、マイケルはこれまで裸だった。
いやまぁ、石像だから、裸も何も無いけど。彼は白シャツを着ている。
シャツには『it's me』とプリントされている。そして、下は履いてない。
もう彼との毎日はシュール過ぎたのでつっこみ疲れたので、脳内でつっこむのはやめておく。
俺は東京都心の一軒家に住んでたから、遠いけど、歩けば東京スカイツリーには着く。
彼はスカイツリーの下で踊るらしい。
マジでなんで?
いや、家の中でいいじゃん。動画撮影でしょ?
俺はカメラと撮影マイクなど、割と本格的な機材をバッグに入れて持ってきていた。
マイケルのためとはいえ、今は夕食食べたあとの夜中。めんどくさい。
────なんてことはなかった。
(マイケルのダンスが見れるッ…)
まぁ、1回見たけど、あれは純粋に楽しめなかった。というか、あの時はまだ怖かったし。
「なんでスカイツリー?」
俺が聞くと、マイケルはスマホを叩く。俺のスマホだ。
「最近はシュールなのが流行ってるようだからな」
無機質な電子音声がかえってきた。
いや、マイケルだけで既にシュール極まりないが。
後ろで俺が本格的な機器を持ってるから、道行く人にはテレビかなんかの撮影だと思われているだろう。
夜中だからほとんど人がいなかったし、人通りの少ない所を通ったから、騒がられることこそなかったが、とりあえず写真は取られた。
でも。白Tを着た石像だぞ?約2mの。
何より下を履いてない。下を。
少なくとも警察は警戒しないといけない。真面目に。
ちなみに石像は股間は丸いタイプ……マネキンスタイルだから、そこは、安心していいぞ。俺。
非日常感がとんでもなくて、スカイツリーには体感10分で着いたが、時間は23時48分。
移動には45分かかっている。
職質されなかったのが不思議な位だ。
マイケルはすでにボルテージがMAXだった。移動中彼はストレッチをずっとしていたのだ。
んで、俺はマイケルの写真をコッソリ撮った。
これは家宝にしよう。水面家の。
「警察が来る前に早く撮影しよう」
電子音声。
あ。マイケルさんも危機感持ってたんだ。意外。
「……じゃ、撮影しまーす。……アングルはこれでどうでしょう?」
警察が来たら俺が時間を稼ぐぞ。
「うむ」
俺はスカイツリーが目立つ引き目のアングルにしていたが、マイケルは少し寄せた。自分を見せるためだ。
マイケルは耳にイヤホンをした。前聞いたが、彼は耳じゃなく体全体の振動で音を感じているらしい。
耳にイヤホンをつけるのは、気分だという。
でも、彼がイヤホンをつけるのは片耳だけで、両耳には絶対につけない。
熱気と、歓声をその耳で受け取るためだ。
今はないが。
編集で音を足すとはいえ、俺に音は聞こえない。
無音で石像が踊るのは何ともシュールな様子だろう。
「OKですか?」
彼はぐっと力強く親指を立てた。
「じゃ、3…2……」
俺はスマホで音楽をかけた。
音楽はyuUの『ゾンビート』。
ハイテンポとローテンポの差が激しく、緩急の表現が重要な曲だ。リクエストはマイケル。
俺は彼がこの曲をリクエストした理由がすぐわかった。
ハイテンポはマイケルが生前踊っていたゾンビダンスでキメた。それは予想通りだったが、ハイテンポからローテンポへの移りかわり、どんどん力が抜ける感覚。
それを石の姿でやられたら、とにかく脳がバグる。キレキレの動きからビタっと止まるシーンはまんま石像だった。
マイケルはキレキレの動きも重力を無視したようなぐにゃぐにゃな動きもできる。
それを活かしたリクエストだったんだ。
「か、かっこEEEEE!!!」
久しぶりに少年に戻った気分だ。
マイケルは俺にウインクしたみたいだったけど、首が傾いただけで、表情は変わらなかった。
ダンスは終わった。テイク1でこのクオリティとは。練習してたのかもしれない。
「すごいっ、すごい……これはマイケルさんにしかできないっ…」
俺が鼻息荒く言う。
(そうだろう?)
マイケルはニヤリとしている風だ。
気づけば周りにはそこそこの人だかりが出来ていた。
皆大興奮だ。
「あれ、特殊メイクかなんかかな?中の人、めっちゃデカくない?」「おーい!もっかい踊ってくれよ!カッコよかったぞ!」
確かに、もっかい見たい。
俺はマイケルをチラリと見た。
正直、我を忘れていた。……だから、すぐ近くに来てる警察に気づかなかった。
「えーと……君たち、ちょっといいかな?」
ハッ。…ま、まずい。俺はマイケルと警察の間に立って、マイケルの方を見た。
「逃げろッ!マイケルッ!俺の事は気にするなッ!」
「でも、君が…」
マイケルが喋れたら恐らくこう言ってるだろう。
「俺の事は気にするなッ!走れぇぇえッ!」
俺の圧に押された警察が若干引く。
「まっ、まて!」
マイケルはキレキレなフォームで走り出した。
「待てと言ってるだろうっ!」
追おうとする警察の腕を掴む。
「お前の相手は俺だッ!!」
やばい。ちょっと楽しい。
走り出したマイケル石像がこちら側に走ってきて、野次馬達は、一斉に「ギャァア!」といって間を空ける。
マイケルはファンサをしながらその間を駆け抜ける。
俺は警察を引き止めながら思う。
────これで…これで……良かったんだッ……!!




