第7話 思い出の晩餐
しばらくして、ドアが開いた。
雪まみれの奥さんだった。
奥さん「参ったわホント、凄い雪」
作業台の椅子に座って眠り掛かっていたシャルンは奥さんに気付いた。
シャルン「あ、奥さん」
シャルンは全身の雪を払い落とす奥さんの傍に寄り、一緒に奥さんの雪を払った。
奥さん「ありがとう」
そう言いながら奥さんはストーブの傍に行って手をかざした。
寒そうにしている奥さんに、シャルンはコップを持ってきて、それにお湯を注いで渡した。
シャルン「どうぞ」
奥さん「ありがとう」
奥さんは少しずつお湯を飲んだら体がだいぶ温まってきた。
シャルンは作業台の椅子を、ストーブの傍に居る奥さんの後ろに置いて座らせた。
奥さん「ほんと、ありがとう」
そのまましばらく座っていた奥さんは、ほっとしたのか放心して微睡んできた。
奥さんは夢を見ていた。
40代半ばくらいの男性が台所で料理をしている。
生前の頃のご主人の面影だった。
ご主人は楽しそうに笑顔で話しながら料理を作っている。
後ろのテーブルの席に座っている奥さんが喜ぶのが幸せだった。
旦那さんと話している奥さんも、それが分かっていた。
今夜はクリスマスイブ。
二人が永遠を誓った特別な日だった。
しかし、暫くするとその幸せな夢は直ぐに終わってしまった。
奥さんが眠ったまま、手に持っていたコップが床に転がって、その音で目が覚めた。
奥さんは椅子に座ったまま辺りを見渡した。
此処はシャルンの店だった。
シャルンは入り口近くに置いてあるベンチに座って本を読んでいた。
壁にある時計を見たら午後六時を過ぎていた。
奥さん「やだ私、寝ちゃった」
奥さんに気づいたシャルンは読んでいた本を閉じて、笑顔で奥さんの傍に近づいた。
シャルン「この大雪の中来られたんですから眠くもなりますよ」
シャルンは床のコップを拾い上げ、台所へ持って行く。
奥さん「ごめんなさい、椅子借りちゃって」
そう言って奥さんは椅子から立ち上がった。
シャルン「気にしないで下さい」
台所から戻って来てシャルンは言った。
シャルン「ドレス出来てますよ」
それを聞いた奥さんは目を輝かせた。
奥さん「見せてほしいわ!」
シャルン「お待ち下さい」
シャルンはハンガーラックに掛かっているドレスを取って奥さんへと手渡した。
シャルン「いかがでしょうか?」
出来上がったドレスを見て奥さんは喜んだ。
奥さん「素敵、これなら着れるわ!」
シャルン「試着されますか?」
奥さん「勿論よ!」
奥さんは胸いっぱいに期待して、試着コーナーへと入った。
カーテンを閉めて着替えた奥さんはカーテンを開けて興奮気味に言った。
奥さん「ピッタリよ!」
シャルン「とても似合ってます」
奥さん「貴女のおかげよ」
奥さんが楽しみなのは、この後だった。
奥さんは試着コーナーから少し離れた斜め上の方を見上げた。
そこには白いテーブルクロスが敷かれたテーブルの両サイドに燭台が置かれていた。
向かい合わせの席のそれぞれの両側にはナイフやフォーク等が並べられている。
そこにご主人が出来上がった料理を次々に運んで来る。
料理を並べ終わるとご主人は、手を二回叩き、奥さんを手招きして呼んだ。
二人は席に着いて、ご主人が慌てて燭台に蝋燭を立てて火を灯した。
二人は祈り、グラスにワインを注いだ。
そしてクリスマスと二人の永遠に、乾杯した。
二人きりの宴が始まって、幸せな時を過ごした。
ご主人の作ったご馳走を二人で食べて、幸せな会話で時間が過ぎた頃。
ご主人は席を立ち奥さんの横に来て小さな紙袋を奥さんのドレスの隠しポケットに入れた。
驚いた奥さんにご主人が何かを説明し、奥さんは落ち着き、食事を続けた。
程良くしてパーティーの時間は過ぎ、その幸せな光景も終わった。
見終わった後奥さんは、とても穏やかで幸せそうな顔になっていた。
奥さんは少し宙を見つめていた。
そしてシャルンに言った。
奥さん「貴女のおかげで、とても素敵なクリスマスだったわ。ありがとう」
シャルン「素敵な思い出だったんですね」
奥さんは少し遠い眼差しになって言った。
奥さん「主人が生きていた頃は、毎年ああやって二人でお祝いしてたの。私の幸せな思い出」
シャルン「クリスマスに見れて良かったですね」
奥さん「ほんとにありがとう、貴女の…」
そう言いながら腰の辺りを何気なく触った奥さんは、ポケットに手を入れて何かを掴んだ。
ポケットから出して、それを見てみると、小さな紙袋だった。
奥さん「これ、最初から入ってたの?」
シャルン「いいえ、何も無かった筈ですが…」
奥さんは紙袋を開けてみた。
奥さん「え!?」
中身はネックレスだった。
シャルン「ネックレスですか?」
奥さん「これはロケットよ」
手を震わせながら奥さんはロケットを開いた。
奥さん「あの人がずっと着けてたのよ」
その中の写真は若い頃の奥さんが写っているものだった。
奥さんはそのロケットを手にしたまま、大粒の涙を溢した。




