13話 仮病
女神様方とアンコウ鍋を堪能したのだが、僕が計画したサプライズが大好評でありながら翌日の僕を地獄に突き落とした。地獄の二日酔いは光の神様の慈悲に癒されたのだが、体を労わるために光の神様に休日を申しつけられてしまった。
「体調不良も悪くない」
ハッピーウイーク四日目の最後、眠りにつく前に心底そう思った。
光の神様と別れた後、体調不良(重度の二日酔い)は回復したが、確かに万全の体調とは言い難かった。
夕飯を三女神様方と楽しむためにも完璧に体調を整えようとベッドに横になった。
横になって目を瞑るが、体調が回復した影響か中々眠りに付けない。そもそも二日酔いが回復すれば高レベルの有り余る体力でなんとでもなるんだよね。
それに、二度寝は至福の時間のはずなのだが、部屋の外に出れば三女神様方に会えるという最高の環境が整っていると理解しているので、本能が眠ることを拒絶している気がする。
学校に行く前の二度寝は至福だけど、目的地が女神様となると僕の本能は二度寝よりも女神様を選択する。
でも仕方がないよね。女神様方との一週間の休暇とか、レア中のレアなんだからそれを惜しむ気持ちは当然だ。
だから恨むなら昨日の呑み過ぎた自分を恨むべき……いや、あん肝の旨さを恨むべきだろう。
なんだよアレ、無限ループじゃん。
そこに漬物が加わったのもヤバかった。ふむ、恨むべきはあん肝ではなくサポラビ、やはりサポラビは僕を殺しに来ている。
自分の思考がドンドン物騒になっていくことが分かる。
サポラビの意識は完全封印するべきか? などと考えていると、部屋のドアがノックされる。
「あ、森の女神様。どうかされましたか?」
誰だろうとドアを開けると森の女神様の登場。それだけですべてが癒される。これが森林浴か。自然は偉大だ。
「ふふ、思ったよりも元気そうですね」
心配して様子を見に来てくれたということですか?
「あ、はい。光の神様に癒して頂いて、体調は万全です」
「無理は駄目ですよ」
「別に無理はしていないのですが」
たしかに二日酔い中は地獄だったが、そこさえ回復してしまえばなんの問題もない。いまからフルマラソンも可能なくらいだ。
フルマラソンに挑戦したことないけど。
「あら? では、これは無駄になってしまうのかしら?」
森の女神様の顔と母性ばかりに気をとられて気が付かなかったが、森の女神様はオボンをもっていた。
「これはサポラビちゃんが用意してくれたすりおろしリンゴです。体調不良の時には良いと聞いて持ってきたのですが、必要なかったようですね」
「うう、見栄を張っていましたが、実は死にそうなんです」
え? それって風邪の時のヤツでは? とか、サポラビってそこまで意思疎通できるの? とか思ったが、とりあえず仮病を発動する。
考えるまでもなく、サポラビは書類で事業提案してくる奴なんだからすりおろしりんごを提案するなんて訳がないよね。
やっぱりサポラビっていい奴かもしれない。
「ふふ、ではベッドに横にならないといけませんね」
仮病丸分かりだろうに付き合ってくれる意外と乗りが良い森の女神様。好きです。
「はい」
元気に飛び跳ねるようにベッドに横になってしまった気がするが、この際問題ない。
「えーっと、ああ、航さん、アーンです」
森の女神様が紙を見ながら凄まじく嬉しいことを言ってくれる。もしかしてサポラビは神かもしれない。
これ、絶対分かっていてやっているだろ。二日酔いと風邪の看病の絶妙のすり替え。感謝しかない。
「あーん」
僕が口を開けると、森の女神様がすりおろしリンゴをスプーンで口に入れてくれる。
ここは天国か?
なにげないすりおろしリンゴだが、これまでのどの料理よりも美味しい気がする。あん肝よりも美味しい。
「はい、アーン」
「あーん」
「では、ゆっくり休んでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
素直に返事をしたが、全力で引き止めたかった。
森の女神様の〝あーん〟だよ、たとえ食べ過ぎてお腹がはちきれたとしても後悔しないシチュエーションだと思う。
でも、休暇中の森の女神様の時間を仮病で奪い過ぎるのも悪いので泣く泣く我慢する。
ん? この後も仮病を続ければ、また〝あーん〟してもらえるのでは?
……魅力的な考えだが、やはり色々と活動して健康に絡みたいので我慢しよう。
とりあえず、テンションが上がり過ぎて眠れる気がしないので、明日以降の計画を練ることにしよう。
「はっ!」
ドアのノックの音で正気に戻る。
いかん、女神様方に喜んでもらう計画を立てていたはずなのに、気が付いたら三女神様方とめちゃくちゃイチャイチャしていた。
ヤバいな。大学生になり異世界に来て随分と大人になった気がしていたが、頭の中は思春期のままだったらしい。薄々察してはいたが、自分のエロ方面の成長のなさに呆れる。
おっと、反省している場合じゃない。お出迎えしないと。
再びノックの音がしたので急いでドアに向かう。
「あら、航、思ったよりも元気そうね」
ドアを開けたらそこに居たのは美食神様。美食神様は料理に夢中で来てくれないと予想していたので少しビックリした。
「あはは、だいぶ体調は良くなっています」
すでに元気いっぱいでよからぬ妄想をしていましたとは言えないので、ちょっと体調が悪い演技は継続する。
なぜなら美食神様もオボンを持っているからだ。
「そうなの、じゃあベッドに横になると良いわ」
美食神様も分かっていて付き合ってくれるようだ。好きです。
いそいそとベッドに横になる僕。背後の美食神様は苦笑いしているかもしれない。
ベッドに横になるとサイドテーブルにオボンを置く。
お盆の上に乗っているのは土鍋。
この時点で僕はとある都市伝説を思いだしていた。風邪をひくと可愛い幼馴染や思い人が、優しくおかゆを〝あーん〟してくれるという都市伝説。
その都市伝説が単なる伝説ではなく、事実だったとしたら?
「サポラビに言われておかゆを用意したの。私はどうせなら〝おじや〟の方が良いとおもったのだけど、体調が悪い時はこれなのよね?」
全然体調が悪いわけではないから〝おじや〟でも全然OKだが、ベッドで横になっておかゆというシチュエーションは最高でしかない。
サポラビ最高。でも、その知識がどこから来ているのかは少し気になる。
「はい、体調が悪い時はあっさりした味の方が受け付けやすいですから」
「なるほど、神はなかなか体調が悪くなることがないけど、光の神には良さそうね」
それは過労でボロボロになった光の神様を想像しているのでは?
光の神様がおかゆを食べる機会が来ないことを切に願いたい。あと、二日酔い神々にはピッタリかもしれないが、二日酔いの男性神に美食神様のおかゆは贅沢すぎる。
女性神にはピッタリだけどね。
「えーっと、こうするのよね。航、はいあーん」
「あーん。あつっ!」
急いで口を開けると美食神様がおかゆを口に運んでくれる。だが、灼熱だった。土鍋の保温力を舐めていた。
「あら、ごめんなさい。熱かったわね。ふー、ふー」
……気のせいでなければ今、美食神様にふーふーされている?
「もういいかしら? 航、あーん」
「あーん」
今度は適温のおかゆが口に入ってくる。薄味のおかゆに偶に混ざる梅の風味。梅がゆか……最高なんだけど、その前のふーふーでどんな料理でも最高級に変身させてしまうから興奮で味がよく分からん。
僕、本当に熱が出てきてない? 体中が暑い、いや、熱いんだけど?
「はい、あーん」
「あーん」
「それにしても、白いご飯におじやにおかゆ、チャーハンにリゾット、お米は色々な料理になって面白いわね。でも、パンも驚くくらい種類が豊富なのよね。航の船は気になる食べ物が多すぎて困ってしまうわ」
困ってしまうと言いながらも楽しそうな美食神様。この世界だとパンも種類がすくないから仕方がないか。
「これからも沢山機会があるので、好きなだけ楽しんでください」
「ええ、全力で楽しませてもらうわ。それで航、明日は料理できそう?」
心配そうに尋ねてくる美食神様。この世界の虎ふぐに挑戦するのが凄く楽しみなのだろう。
「無論です」
女神様方のアーンも捨てがたいが、仮病で美食神様の楽しみを奪うのは心が痛むので我慢する。
僕の言葉に安心した笑顔の美食神様に優しく〝あーん〟介護してもらう。
「じゃあ、航、また明日。ゆっくり休むのよ」
「はい、また明日」
幸せな〝あーん〟タイムが終わり、美食神様が去っていく姿が寂しく「あ、航、航の調理器具をまた貸してくれる?」
去る前に美食神様が戻ってきた。どうやら僕の調理器具をもう少し体験したいようだ。
自慢の逸品に興味を持ってくれるのは嬉しいから、むしろ大歓迎だと美食神様に調理器具を渡すと、改めて美食神様を見送る。
先程は去っていく姿が寂しく見えたのが、なんか薄れた。
でも、おかゆは熱が出そうなくらい美味しかった問題なし。
ふいー、本気で仮病を継続したいが、我慢しないとな。
「ん?」
またノック。美食神様に貸し忘れた調理器具でもあったかな?
「あ、光の神様。こんばんは」
「こんばんは航さん。体調はどうですか?」
光の神様が最後に確認に来てくれたらしい。
凄く嬉しいのだが、残念なことに光の神様はオボンを持っていなかった。
三女神様の〝あーん〟コンプリートは無理なようだ。
「はい、光の神様、森の女神様、美食神様のお陰ですっかり回復しました」
そして言葉に出さないがサポラビにも感謝している。
「それなら良かったです。でも、念のためにもう一度回復しておきましょうか。美食神がソワソワしていましたから、航には元気でいてもらわなければ困ります」
ああ、やっぱり美食神様、ソワソワしていたのか。間違いなく他の料理を勉強して楽しんでいたはずだが、虎ふぐが気になっていたか。
いや、美食神様が料理を無駄にするとは考えられないし、僕が料理を受け取りに行けないから色々と我慢させてしまったかもしれない。
それでも優しくおかゆを食べさせていただけたのは、やはり、僕の分かりやすい仮病に付き合ってくれていたのだろう。
なんか九割くらい創造神様を大人しくさせる切っ掛けを作ったことに対するご褒美な気がしないでもないが、まあ、その辺りに突っ込むのは野暮だろう。
「あはは、ありがとうございます」
お礼を言うとスッと光の神様の手が僕の額に触れる。それだけでテンションが急上昇してしまうのだから僕も単純だな。
「あら、朝よりも熱が高いような」
すみません、それは美食神様のふーふーのせいだと思います。
「美食神様が温かい食べ物を持ってきてくださったので、その影響だと思います」
「そうでしたか。それなら大丈夫ですね」
安心した様子の光の神様。その後、僕の体を温かい光が包む。光の神様の〝あーん〟はゲットできなかったが、これだけでも十分幸せだよね。
「ありがとうございます、光の神様」
「いえ、では、ゆっくり休んでくださいね」
「はい」
光の神様には元気に返事をしたが、今日はテンションが上がることが多すぎたうえに体力が有り余っているから、眠れるか心配だな。
お酒を……いや、さすがに明日アルコールの匂いを漂わせるのは気まずすぎる。
頑張って眠りにつくことにしよう。
読んでいただきありがとうございます。




