21話 BIG
人魚の女王陛下のお困りごとは、話を聞いた限りでは意外と簡単に解決できそうで安心した。あとは、海神の神器をどうするかだな。強奪された大切な神器だから取り戻したいだろうとは思うけど、チートがハンパないので、できれば安心できるまで手元に置いておきたいな。
「女王陛下。海神の神器のことなのですが、使いたいことがありますので、僕に管理させていただいても構いませんか?」
あれ? 女王陛下がキョトンとした顔をしている。
「海神の神器は海神様がワタル様に使用許可を出された神器です。授かった神器を守り切れなかった私共に、許可を求める必要はありません」
なるほど、元々は人魚の神器なんだから、僕は人魚に所有権があると思っていたけど、人魚の方は神器を守り切れず、海神様が僕に許可を出したことで所有権を失ったと思っているみたいだ。結構認識に差があるな。
では、僕が管理させていただきますって言えれば簡単なんだけど、海神様に人魚とよく話し合うって約束しちゃったんだよね。
「えーっとですね、海神様とも人魚の方達と話し合ってお互いに納得できるようにすると約束しましたので、許可を頂けた方が助かります。それに僕の後の海神の神器の所有者についても相談したいんです」
あれ? 女王陛下がまたキョトンとした顔をしている。
「海神の神器はワタル様のお子様が引き継がれるのではないのですか? そのことを海神様が許可されたと私共は認識しております」
「? 僕に子供はいませんよ?」
子供かー、欲しくはないと言えばウソになるけど、ハーレムの野望を持っている人間が子供とか考えたらいけない気がする。何より、子供に見られながら父親がハーレムを目指すとか……確実にグレるよね。
「ワタルさん。女王陛下が言いたいのは、今現在子供が居るのかじゃなくて、海神の神器を家宝にして、代々ワタルさんの家で引き継いでいくんじゃないのかってことよ」
なるほど、アレシアさんの説明でようやく理解した。一般庶民な僕の家では家宝なんて存在しないから、スッポリ頭から抜けていたよ。ようするに遺産相続ってことだな。
……僕の子供が海神の神器を使えるかどうかも分からないけど、子は親に似るって言うから、まともに海神の神器を使いこなせるとは到底思えない。
教育で人は変わるって言うし、母親の影響も多大に受けるんだろうけど、僕の子供って時点でヘタレで欲望に弱そうなイメージしか湧かない。
僕は船召喚ってチートがあるから十分満足していて、海神の神器は怖いとしか思わないけど、子供が普通の力しか持ってなかったら、海神の神器の力に酔いそうな気がする。
あと、男の子だったら、美女に転がされてバカなことをやりそうだ。僕の家系の男共は、総じてそこらへんの警戒心が足りない。あっ、カッコいいわーとか言われて、有頂天で神器を操っている子や孫が見えた。
商売の神様の契約を利用すれば、家宝にしても問題ないかもしれないけど、そこまでして大きな力を所持するのもバカらしい。
幸い僕にはチートがある。子や孫には十分な資産を残してあげられるだろうし、変に強力な力を持つよりも、信用できる相手に渡した方が得策だろう。
「どうかされましたか?」
女王陛下が心配そうに僕を見ている。予想外の流れで考え込んでしまったようだ。まだ存在もしていない子や孫のことを考えても仕方がないだろう。今は女王陛下との会談に集中しよう。
「すみません。ちょっと考えこんでいました。えーっと、僕としましては、海神の神器を使わせてもらって、そのあとにしばらく管理させていただければ、いずれは人魚の方達に返却したいと考えています。その場合、商売の神様の契約で、海神の神器を戦争や悪いことに利用しない契約していただきたいのですが、可能でしょうか?」
続けて、失礼なことを言ってすみませんと頭を下げておく。信用していないと言っているようなものだけど、人魚のことを全部知っている訳じゃないし、人魚が人間をどのように思っているのかも分からないのだから、そこは勘弁してほしい。
「……海神の神器を私共に返して頂けるのですか?」
良かった。女王陛下は僕の失礼な言葉よりも、海神の神器が戻ってくることに気を取られているようだ。
「はい。元々は海神様が人魚に授けたものですから、いずれはお返ししたいと思っています。契約については、かなり強力な神器ですから保険として考えていただけたら助かります」
契約して悪いことに使えないようにして、海神の神器を次代に継承する時も商売の神様との契約が必要にしておけば、ある程度は安心できる。
思い付きのようなものだから、契約をする際にはちゃんと考えないと穴ができるだろうな。前回みたいに神器が奪われたらどうしようもないし、盗難や強奪に対するセキュリティも強化してほしいな。あと、ダークエルフの島についても、契約に盛り込んでおいた方がいいよね。
おうふ。女王陛下が涙を流しながら僕の両手を握ってきた。何か言葉を発しようしているけど、言葉にならないようだ。
僕にはそれほど執着する物を持ったことがないから気持ちは分からないけど、海神様を信仰しているんだから、よっぽど嬉しいんだろう。
人魚に恩が売れたと考えれば、持て余す海神の神器を安全を担保したうえで返せれば、僕にとってかなりのプラスだよね。
「失礼しました」
涙を流したことで落ち着いたのか、少し恥ずかしそうに頬を染めて頭を下げる女王陛下。ハートを撃ち抜かれそうな破壊力だ。
「いえ、気にしないでください。えーっと、そういう訳ですので、色々と話を詰めましょう」
「はい。契約に関しましても、私共は海神様から授けていただいた神器を悪用したりしませんので、厳しい契約内容でも大丈夫です。よろしくお願いします」
よっぽどの契約内容じゃなければ受け入れられそうな勢いだ。厳しい内容も何も、ほぼ思い付きなんだから任せられても困る。海神の神器を返すまでに時間はあるんだから、みんなで話し合って、契約内容を決めていくことにしよう。
「あっ、海神の神器は間違いなく返却するつもりですが、先の話になります。間違いなく返却するという証明の為に、商売の神様との契約を交わしておきましょうか」
口約束だけだと不安になるよね。それに、僕も契約しておいた方が、魔が差して神器を返したくなくなった時の抑止にもなる。神器を返したくないとか言い出したら、確実に僕の性格が変わっている時だ。ろくなことにならない。
「いえ、創造神様と関係が深いワタル様を疑うような証明は必要ありません」
「先ほども言いましたが、創造神様との関係は深くありませんし、僕自身はそこまで信頼される人間ではありません」
「そんなことはありません。普通の人間であれば、神器の返却など考えもしないでしょう。創造神様も海神様も、そんなワタル様の善良な心を見抜いておられるのです」
「……ありがとうございます?」
女王陛下の言葉に物凄い違和感を覚えて、お礼が疑問形になってしまった。まあ、善良な心ではなく、ヘタレな心なら見抜かれている自信はある。ふぅ。危険物を安全に手放せるならその方がいいかなって思っただけだから、褒められると申し訳ない気持ちになるな。
知らなかったけど、無意味に信頼されるのってプレッシャーになるんだね。仮にも1国の女王陛下がそれでは駄目だと思うんだけど、それだけ創造神様や海神様の存在が大きいようで、神様の使者を疑うなどとんでもないって様子だ。僕と創造神様の会話を知っていたら、契約を求められた気がする。
そういえば、呼び方もワタル様で定着しちゃったな。創造神様の話を出した後で、様を止めてくださいって言うのもどうかと思ったから流したけど、時間をおいて落ち着いたら修正しよう。
「そういえばワタル様。海神の神器を何に使うのか、お聞きしても大丈夫ですか?」
使う予定があるって聞かされれば、興味を持つのは当然だよね。女王陛下が秘密を漏らすとは思わないけど、デリケートな問題でもあるから簡単な説明だけで勘弁してもらおう。
「詳しい話は秘密ですが、ある島の海流を操作して船で侵入することが不可能な島を作ろうと思っています」
「……船での侵入が不可能な島ですか。人族至上主義に脅かされている我々のような種族にとっては、夢のような島になりますね」
僕がやろうとしていることの本質が、ズバリと的中されてしまった。人魚の女王陛下は心が読めるのか?
「ワタル様。深くはお聞きしませんが、もし、我々人魚がお力になれることがあれば、いつでもお声をお掛けください。海に関してならお力になれることもあるはずです」
内心を見透かされたようで戸惑っていると、女王陛下が言葉を続けた。
うーん……もしかしなくても、とてもありがたい提案をしてもらっている? 海神の神器で島の海流をいじくると、完璧に孤島になってしまうダークエルフの島。
海の中に人魚だけが通れるような隙間を開けておけば、ダークエルフ達が完全に孤立することを避けられる。それに人魚と繋がりができれば、僕が居なくなったとしても海神の神器を使う伝手が残る。
人魚達が裏切る心配もゼロではないけど、かなり恩を感じているようだし、海神様と創造神様の顔見知りだっていう威光もある。敷金礼金無しで家賃格安で人気物件に入居できるくらいの好条件だ。フェリシアを見ると、僕と同じ気持ちなのか顔を輝かせている。
「ご主人様。信頼できる相手はとても大切ですから、父も間違いなく喜ぶと思います」
控えめでこういう場面で意見を言うことが少ないフェリシアが、言葉に出してまで伝えてきた。
本来ならダークエルフの島で村長さんに相談してから話すべきなんだろうけど、ここまで好条件なら勝手に話を進めさせてもらおう。
「なるほど。そういうことでしたらお力になれると思います。まずは確実に信頼できる人魚を派遣いたしましょうか?」
ダークエルフの島の事情を説明すると、なんの躊躇いもなく協力を約束してくれた。
「ありがたいですけど、ご迷惑では?」
「ワタル様との縁を深めることができるのですから、我が国にとってもそれだけで十分な利益になります」
そっか。人魚にとってもプラスなことなら、こっちも気が楽だね。……ふふ、人魚の国の女王陛下に、国の利益になる人物って認められたよ。地球に居るお父さん、お母さん、僕はBIGな男になりました。喜んでくれますか?
読んでくださってありがとうございます。




