第13章 激化
第13章 激化
カイトとユリコが地下から地表に出た時、辺りはもう完全に夜になっていた。
しかし戦闘の光が辺りを照らしているために妙に明るい。
そして予想した通り、もう校舎は見る影も無く破壊されていた。もう少し避難するのが遅ければ多くの生徒が巻き込まれて犠牲になっていただろう。
「思った以上に酷い有様ね……」
ユリコはそう呟いた。
その時、帝国軍のスターナイトの放ったミサイルの流れ弾がちょうどカイトとユリコのいる近くの校舎に当たる。
「あぶない!」
カイトはユリコを庇って伏せる。いくつもの瓦礫が落ちてくるが、カイトとユリコには運よく当たらなかった。
「やっぱり会長は帰った方がいいです。今ならまだ引き返せます」
「今さら何を言っているのよ」
「しかし……」
「いいから行くわよ。ミルちゃんを助けに行くんでしょ」
そう言うとユリコは走り出した。カイトも何も言わずユリコの後を追う。彼らは駐輪場へと向かった。
駐輪場には多くのバイクがあったが、ほとんど倒れてゴチャゴチャになっていた。
そんな中カイトは自分のバイクを探す。意外にも早くカイトのバイクは見つかったが、ユリコのバイクは見つからない。
おそらく倒れているバイクの山に埋もれているのだ。それをいちいちどかして探しているような時間は無い。ここにもいつビームやミサイルといった弾の流れ弾が命中するか分からないのだ。
「いいわ、2人乗りしましょう」
「いいんですか、校則違反ですよ、それにヘルメットは2人分ありません」
「あのねえ、そんなこと今さら気にしてどうするのよ」
そう言うと、ユリコはカイトのバイクの裏に乗る。カイトはユリコに最後の確認を取る。
「本当にいいんですね。もしかしたら生きて帰ることはできないかもしれませんよ」
「いい加減くどいわ、しつこい男は嫌われるわよ」
「そうですか……なら」
カイトは自分のヘルメットをユリコに渡す。
「せめてヘルメットだけはしてください。こんな状況じゃあヘルメットなんて大して意味があるとは思えませんが無いよりはましです」
「あなたは?」
「自分はいいです。それより会長がヘルメットをしてくれないと自分は気にかかって運転に集中できません」
「そう、わかったわ」
ユリコはヘルメットを被る。
「じゃあいいわよ」
「それじゃあ行きます。飛ばしますからしっかり摑まっていてください」
カイトはバイクのエンジンをかける。
そしてカイトはバイクを走らせて校門から猛スピードで出て行く。カイトはスターナイトが暴れている街に向かってバイクを走らせた……
エルザとデニムの戦いは中々決着が付かなかった。機体性能はデニムの乗るパンサーの方が上で圧しているのだが、それでもエルザは巧みに攻撃を交わし直撃を避けていた。
「こいつ思った以上に出来る。なるほど、只者ではないな」
しかしエルザの方も勝機が掴めない。避けるだけで精一杯である。
機体性能で劣り、火力で差のある彼女にとって、接近戦だけが勝機を得る唯一の方法だが、敵の火力が大きすぎて近づけない。
「くそ!近づくことができない」
そうこうしているうちに30分ほどが経過していた。
デニムは不思議だった。
何故これほどまでのパイロットがこんな辺境の星にいるのか。
どう見てもこのエルザ・スカーレットというパイロットはエースパイロット並の腕をしている。
それがなぜこんな辺境の星に配属されているのだ。我が帝国の宿敵であるシェルリナ連邦との戦いの最前線にいるべきパイロットだ。
それがどうしてこんな星にいるのか。
(まてよ……確かこいつ、名をエルザ・スカーレットと名乗っていたか)
デニムはそのエルザという名前に聞き覚えがあるような気がした。
名前を聞いた時、女性である事に驚き名前にまで注意が向かなかったが、確かにどこかで聞いた事がある名だ。
(エルザ……エルザ……)
「!」
(思い出した!)
デニムは確か帝国軍地球人第122艦隊において、閃光のエルザと言われ、シェルリナ連邦に恐れられた女性エースパイロットがいた事を思い出した。
確かそいつの名前もエルザ・スカーレット。
目の前にいるこいつがそのエルザだとすれば、これほどまでにスターナイトの操縦に卓越しているのにも合点がいく。
デニムはエルザに問いただしてみた。
「貴様、閃光のエルザか!」
「そうだ」
エルザは間髪入れずに答えた。
「それがなぜこんな星にいる。貴様は第122艦隊のエースだろう」
「色々とわけがあってな、まあ大した理由じゃない。ただ上官と揉めて飛ばされただけだ。無駄に部下を死なせる作戦には同意できなかったんでな。それで出撃を拒否したら、ここに飛ばされたんだ」
「だとしたらその上官とやらは無能だな」
「それには同意せざるを得ないな」
2機が戦闘を繰り広げてからかなり時間が経つが、なかなか勝負はつかない。
しかし、エルザはこの戦いにおいて、どうしても敵の思惑が測れないでいた。
そもそもこの戦いは、この惑星ペペに住む人々のせん滅が目的ではない。それは陽電子砲が、司令部のみを破壊したことからも明らかだ。
陽電子砲の破壊力なら、高出力で撃てばこの都市ごと破壊することは可能だからだ。そうしなかったのはただ単にせん滅が目的ではなく、別の理由があるからだと推測できるが、それが何なのかがわからない。
しかもこいつらは街に下り、住民まで虐殺している。
おそらく敵は何らかの極秘任務を受けた部隊で、これが非公式の戦いである事は察しが付いていた。
この戦いにおいて、銀河に真実が公表されることはないであろう。おそらく帝国はシャルリナ連邦の仕業として世間に公表するはずだ。
そのためにわざわざこの星の住民を殺しているのだ。その察しは付いていた。
ならばこの惑星ペペの惨劇をシェルリナ連邦の仕業にすることで、帝国側に住む人達の怒りを煽り、士気を高める事が目的なのだろうか?
でも、士気を高めるという理由だけで、こんな手の込んだ絡め手を用意するだろうか。
そもそも、何故その対象がこの星なのかがわからない。こんな辺境の星を攻め入る理由としてはそれだけでは足りない。
仮にその士気を高める目的があるにせよ、それは副次的な理由ではないか。
奴らの真の狙いは別にある。そう、攻め入るのがこの星でなければならないもっと重大な理由が……
(……まてよ、たしかこいつ自分のことをさっき部隊の副長と言っていたな……)
その時、エルザはピンと来た。
こいつらの狙いが分かったわけではないが、少なくともこの戦いの敵の思惑の1つがわかった。
「貴様ら、別働隊がいるな」
「……」
「貴様はさっき自分のことを部隊の副長だと名乗った。つまり隊長が指揮する別働隊がいるということ。そっちが本隊か」
「ほう……キレるのはスターナイトの操縦だけかと思ったが、頭の方もそれなりにキレるようだな」
「貴様ら、一体この星に何をしにきた。本隊はどこだ」
「言われて教えると思うか、それに知った所で貴様にはどうにもなるまい。閃光のエルザ、貴様はここで死ぬのだから」
デニムはエルザに対してさらに攻撃を加える。
「悪いが貴様はここで確実に殺しておく。かなりの危険人物のようだからな」
(くそ!せめて機体性能が同じなら……)
エルザはデニムの攻撃を交わすだけで精一杯であった。もはや反撃の糸口さえ掴めない。そしてこの星での戦争はさらに激化の一途を辿っていく。
カイトは病院に行くため街を通過するにあたり、すでに破壊されている街の場所を選んでバイクを走らせていた。
こちらの方がスターナイトに襲われる心配が少ないと思ったからだ。
まだ破壊されていない所はこれからスターナイトが現れ、破壊する可能性があるが、すでに破壊された部分はもうすでにスターナイトが破壊して通った跡だからだ。
しかし、こちらは至る所に瓦礫が散乱しており、死体も転がっている。そのせいでバイクのスピードをなかなか出すことができない。
ちなみに死体の中には手足がちぎれた死体。首から上が無い死体。まだ年端もいかない子供や、赤ん坊を抱えたまま死んでいる母子の死体まである。
見るに堪えない惨状だ。
「く!……」
あまりの光景にユリコは目を逸らす。とても凝視していられない。気分が悪くなってくる。軽い吐き気を彼女は催した。
「なぜ、帝国はこの星に攻めてきたんでしょう……」
「……」
「先ほど学校の校庭に降りてきたスターナイト。あれは帝国の機体でした。つまりこの星に攻めてきたのは帝国です。でも地球人は帝国の傘下に下っていて味方のはずです。この星に攻めて来る理由などないはずです。それなのになぜ……」
カイトの問いにユリコは答えなかった。
しかし、彼女にはある心当たりがあった。帝国がこの星を攻めて来る心当たりが……
と、ユリコがそんなことを考えていたその時。
「!」
目の前に帝国のスターナイトが現れた。スターナイトがちょうど建物の影にいて気が付かなかったのだ。
すでに破壊された街の部分ならスターナイトはいないと踏んでいたが当てが外れた。
カイトは急ブレーキをかけバイクを止める。しかしその音でスターナイトに気づかれてしまった。
「気づかれた!会長、振り落とされないようにしっかり摑まっていてください!」
カイトは猛スピードでバイクを走らせて逃げる。その後をスターナイトは追いかけてマシンガンを放ってきた。
ガガーーン!
けたたましい音をたてながら発射されるマシンガンの弾をよけて、巧みにカイトはバイクを運転する。
しかし逃げても逃げてもスターナイトは執拗に後を追いかけて来る。
「全く、しつこい男は女性に嫌われるわよ。あのパイロット、絶対に女性にモテないタイプね」
「同感です!」
カイトは必死に逃げるが、街には瓦礫が散乱しており思うようにバイクはスピードを出すことが出来ない。
そうして逃げるうちに、カイトは建物が破壊されて横倒しになり、道が途切れてしまっている場所に出てしまった。
「しまった!」
カイトはバイクを止めるしかなかった。その後をスターナイトは追ってくる。
そしてカイトたちの前に立ちはだかり、逃げ道をふさぐと、立ち往生しているカイトたちに向かってスターナイトはマシンガンの銃口を向ける。
「!……」
(ここまでなのか……)
カイトとユリコは死を覚悟し目を瞑る。
が、その時、カイトの脳裏にある声が聞こえてきた。
(大丈夫、あなたたちはここでは死なない……)
突然頭に響いた声で目を開けるカイト。
辺りを見回すが誰もいない。
しかし、スターナイトのマシンガンの銃口は自分達に向けられたままだ。
そして……
ガガガガッ
すさまじい音が鳴り響く。
カイトはやられたと思った……が、気が付くと何ともなかった。
見るとそのスターナイトの後方上空から、戦闘機がそのスターナイトに向けて機関銃を撃っていたのだ。
今の音はその機関銃の音だったのである。するとスターナイトはカイトたちのことは無視して、その戦闘機との戦闘を開始しはじめた。
「チャンスだ!」
カイトは再びバイクを走らせるとそのスターナイトの股の下を通り過ぎた。
そしてスピードを上げ急いでスターナイトから離れる。
なんとか切り抜けられた。もう駄目だと死を覚悟したが、なんとか九死に一生を得ることができた。
「助かったわね……」
「なんとか……」
「あの戦闘機のパイロットに感謝しなきゃね、おかげで命拾いしたわ」
「まったくです……」
「それより病院は目と鼻の先よ」
「わかっています。なんとか辿り着けそうです」
病院が見えて来る。
無事に街を通り抜けられたことに喜ぶべきではあるが、カイトの頭の中は晴れなかった。原因はわかっている。さっき頭の中に響いた声だ。
今日は朝から不思議なことが多すぎる。
この星が襲われたことじゃない。それ以外のことでだ。
朝、病院にミルの見舞いに行った時、病院の駐車場で佇む1人の少女を見た。その少女は生徒会のミーティングが終わった際にも窓の外にいるのを見た。生徒会の会議室は3階にあるにもかかわらずにだ。
そしてその際に、逃げろという謎の女の声も聞こえてきた。そしてたった今もその謎の声を聞いた。
それ以外にも校舎の屋上で寝ていた際に、夢に出てきた謎の黒いフードを被ったゼフと名乗る人物の件もある。
これらは全て偶然か。
この星が襲われていることも含めて、カイトは何か得体の知れない力に吸い寄せられているような、そんな気がしていた。
しかし、いくら考えても答えが出ようはずはない。カイトはとにかく妹を救うため、病院へと急いだ。




