第14章 バルサローム隊出撃
第14章 バルサローム隊出撃
戦艦リズリーのブリッジでは少々ギルバートはイライラしていた。
戦況はこちらが優勢、しかし、基地の制圧が完了し、バルサローム率いる特殊部隊が降りるルートの確保が出来たことを知らせる報告がまだ来なかったからである。
思った以上にこの基地の対応が迅速で、手こずったことは認めるが、それにしても遅すぎる。
予定より1時間も遅れているがまだ報告が来ないのだ。
「何をしているんだ。デニムからの報告はまだか」
「はい、確認してみます」
CICはマイクでデニムと連絡を取ってみる。
「こちらリズリー、デニム副長、応答願います。デニム副長、応答願います」
しかしデニムからは応答がなかった。
デニムはその頃エルザと戦闘中で、他からの通信は切っていたからである。
「どうした、応答がないのか」
「はい」
「撃墜されたのか?」
「いえ、シグナルが確認できるので撃墜されたわけではないと思うのですが……応答がありません」
「何をやっているんだあのバカは、なら誰でもいい、他の奴を呼び出せ」
「はい、こちらリズリー降下したスターナイト部隊、誰でもいいから応答せよ」
しばらくすると隊員の1人から応答があった。
「はい、こちらスターナイト部隊」
「現状を報告してください」
「今現在敵基地と交戦中、思ったより抵抗が激しく、未だ基地の無力化には至っておりません」
業を煮やしたギルバートはCICから強引にマイクを取り、その隊員と話す。
「こちら艦長のギルバートだ」
「か、艦長……」
艦長から通信が来るとは思っていなかったようで、そのパイロットの声から動揺した感じが聞き取れる。
「デニムは何をやっている。そこにいないのか」
「副長はB地区の方で敵機と交戦中です」
「ならさっさと片付けてこちらに連絡をよこすよう伝えろ」
「……それが」
「どうした?」
「いえ、敵の中にちょっとやっかいな奴がいまして、副長はもうすでにその敵機と1時間近く交戦中です。じゃまをするなとも命令を受けていまして、それに連絡を取ろうにも戦闘中であぶなくて近づけません」
「なんだと、敵は何機だ」
「……1機です」
「1機だけだと!何をやっているんだ。いいからデニスにここに連絡するように伝えに行け」
「それが、敵がかなり優秀なパイロットでして、味方も3機ほどそいつ1人にやられているんです」
「……!」
「一応副長とその敵と通信で話しているのを私も聞いたのですが、その副長と交戦中の敵はどうも閃光のエルザだということらしく……」
「閃光のエルザだと!」
「……はい」
「まちがいはないのか」
「まちがいありません」
閃光のエルザの名はギルバートも聞いたことがあった。直接会ったことはないが、相当腕のいいパイロットだと聞いている。
ケルマルディ戦線でのシェルリナ連邦との戦いにおいて、本当かどうかは定かではないが、1機で50機の敵を落としたという武勇伝も聞いている。
しかしなんでそんな奴がこんな辺境の星にいるんだ。
「セシル!」
ギルバートはエルザのことを調べてもらおうとセシルを呼んだ。しかしセシルはもうすでに端末でエルザのことを調べ始めていた。
セシルは戦場の経験自体はまだ少なく、また理想主義者でもあるため、兵士として精神的に未熟な面もあるが、この素早い対応がセシルが副官として優秀な理由だ。
「確認が取れました。エルザ・スカーレット、28歳、地球人、帝国軍第122地球艦隊所属、階級は中尉。確かに今から3週間ほど前にこの基地に配属になっています」
「転属の理由は?」
「わかりません。ただ状況から推測するとおそらく何らかの理由で飛ばされたのではないかと……」
「こんなタイミングでか、何と間の悪い。それでデニムの奴は現場の指揮を放棄してエルザとの戦闘にかまけていると言う訳か」
「そのようです」
しかしこれで妙にこの基地の対応が素早いのが納得できた。
おそらくこのエルザという人物が、司令部が叩かれ、指揮系統が乱れたこの基地を立て直したのだ。
全く、よりによって何でこんな時に、こんなやっかいな奴がこの星に配属になっているのか。
かといって、これ以上の作戦の遅延は命取りになりかねん。
とりあえずそのエルザはデニムが相手をしているらしいからそのまま足止めをしてもらおう。それより早くバルサロームの特殊部隊を降ろさなければ……
「基地の無力化はどれほど進んでいる」
ギルバートは通信している兵士に基地の状況を聞いてみた。
「はっ、抵抗はまだありますが、無力化は大体7割といったところです」
「7割か……まあしかたない。これよりバルサロームの特殊部隊を乗せた輸送機を降ろす。いいか、必ず死守しろ、もし落とされでもしたら、お前達はみんな死刑だ」
「は、はい!」
ギルバートは通信を切る。
「では格納庫の輸送機に通信をつないでくれ」
「了解」
CICは端末を操作する。
「繋がりました」
「こちらブリッジだ。バルサローム聞こえるか、発進許可を出す。出撃していいぞ」
バルサロームは輸送機の中でずっと目を瞑っていたが、出撃の命令を聞くと静かに目を開けた。
「ようやく出撃ですか、けっこう無力化に手間取ったようですな。大方予定外の強敵がいて基地の鎮静化に時間がかかったというところでしょうか」
「否定はしない。だが実はまだ完全には無力化していない。しかしこれ以上の作戦の遅延はまずい。行ってくれるか?」
「ご命令とあらば」
「頼む」
「了解」
そしてバルサロームは輸送機のパイロットに手で合図を出す。パイロットは無言で頷くと輸送機のエンジンをかける。
バルサロームは発進するにあたり、この輸送機に乗り込んでいる特殊部隊のメンバーに最終確認をした。
「いいか、我々の任務はテロリストのせん滅、そしてそのテロリスト達が所持しているあるモノを回収することだ。重ねて言うがそのあるモノはランク7の秘匿義務が課せられている。詳細を説明することは出来ないが、おそらくテロリスト達はそれを必死に守るはずだ。だからそれを特定することは意外に容易いかもしれん」
特殊部隊のメンバーは全員頷く。
「それとテロリストの潜伏している場所だが病院という報告を受けている。かわいそうだが病院にいる人間は、医者、患者を問わず抹殺しなければならない。病院がテロリストの潜伏場所である以上、病院そのものがテロリストに手を貸している可能性や、医者や患者達の中にテロリストが紛れ込んでいる可能性も大いにあるからな。いやな任務だが病院にいる人達は全員抹殺しろ。いいな」
その命令を受けても誰1人異論を挟む者はいない。
ここにいる特殊部隊のメンバーはそれなりに戦場をくぐりぬけてきた兵達で、私情を戦争に持ち込んではならないことをよく理解しているからだ。
「それでは出撃する」
そう言うとバルサロームはまた手でパイロットに合図を送った。すると特殊部隊を乗せた輸送機は離陸し、格納庫から出撃して行く。
その様子をブリッジでギルバートが見ている。ギルバートは何も言わず、その出撃して行く輸送艇を見送っていた。
「本当に今出撃させてよろしいのですか、艦長」
セシルはそっとギルバートに聞いてみた。
「……」
「まだ敵の抵抗は続いています。もう少し基地の鎮静化が進んでからでも遅くは……」
「遅いな」
ギルバートは間髪いれずに答えた。
「作戦の遅れはテロリストに逃げる時間を与える事になる。そうなればこの戦いは何の意味も持たなくなる。この戦争で亡くなった者達の犠牲が全て無駄になってしまう。そうなれば我らはただこの星に虐殺をしにきただけになるのだぞ」
「……」
確かに艦長の言うとおりだ。これ以上の作戦の遅れは非常にまずい。この星に潜伏しているテロリストに逃げられては元も子もないのだから。
しかし、それはバルサローム率いる特殊部隊が墜とされても同じことだ。
セシルは無事に輸送艇が地上に降りることを祈った。
バルサローム率いる特殊部隊を乗せた輸送艇は徐々に地上に降りていく。その周りを帝国軍のスターナイト数機が取り囲み護衛する。
輸送艇が落とされれば死刑だと言われたためだ。
ただそれでも、流れ弾などが時々輸送艇をかすめる。しかし、バルサロームを含め、その特殊部隊の人達は微塵も恐怖を感じていないように微動だにしなかった。
彼らは戦争のスペシャリスト。これくらいで慌てるような連中ではない。彼らの頭の中には任務の事しか頭になかった。
そして輸送艇はビームなどが飛び交う嵐の中を少しずつ地上に降りていく。
基地のB地区ではエルザとデニムの戦闘はまだ続いていた。もうすでに戦闘状態に突入してから1時間以上が経過するが決着が付かない。
双方ともかなり疲弊していた。しかし戦いを止める訳にはいかない。
(くそ、近づけない!)
(なんてすばしっこい野郎だ!せめてA型装備なら……)
2人ともそんなことを考えながらも戦いを続ける。その時、ふとエルザは上空に何か不愉快な感覚を覚えた。
「何だ、この不愉快さは……」
エルザは上空を見る。
もう完全に日が沈んでいるために見にくかったが、何か不愉快な気分にさせられる何かががこの上空にいる。そんな感覚だった。
よく見ると何かの物体がこの惑星ペペに降りようとしている。そしてその周りを何機かのスターナイトが取り囲み護衛しているようだ。
「輸送機……?」
ぼんやりとだが、エルザの眼にはそう映った。
「まさか……あれが本隊!」
すぐさまエルザは携えているビームマシンガンをその輸送機に向けたが、それはデニムとの戦闘にとってスキとなった。
デニムはそれを逃さなかった。
「バカが、戦闘中に他のことに気をとられるとは!」
すぎさまエルザに向かって肩に設置してあるミサイルを数発発射するデニム。
「しまった!」
しかしもう遅かった。避けようとしたが避けきれず、1発がエルザのスターナイトの左足に命中し大破する。
「く!……」
スターナイトはバランスを崩しその場で倒れた。足が大破してしまったためにもう動けない。
それでもエルザはビームマシンガンを構えようとするが、デニムはそのビームマシンガンを目がけて今度はビームを狙い撃つ。
ビームは命中し、エルザのスターナイトの右腕は、ビームマシンガンごと吹き飛んでしまった。
もはや動くこともままならないエルザに、ゆっくりとデニムは近づいてくる。
「さすがだったぞ。閃光のエルザの名に偽りなしだ。だがここまでだ」
デニムは自身のビームマシンガンの照準をエルザに合わせる。
「閃光のエルザを討ったことを本来ならみんなに自慢したいが、残念ながら今回の任務は極秘でな、記録上はシェルリナ連邦との戦いで戦死したことになる。まあ記録上の話だが味方に討たれると記録されるよりもその方がいいかもしれんな。何か言い残すことはないか」
「貴様ら……何が目的でこの星に攻めてきた」
「……」
「あの輸送機は何だ。いったいこの星で何が起きている」
「そんなに知りたいか」
「当然だ」
「なら答えられる範囲で答えてやろう。本来なら死にゆく者にも話さないことだが、貴様は特別だ。教えてやる。結論から言えば貴様も含めてこの星に住んでいる連中は作戦においてただ巻き込まれただけなのだよ。」
「……」
「ある情報で、この星にテロリストが潜伏している事が帝国の情報部に寄せられたんだ。そして我ら特殊部隊はそのテロリストせん滅のためにこの星に派遣された」
「そんなことくらい予想はついていた」
「ほう……」
「しかしそれだけではお前らはここまでしないはずだ。貴様らは民間人まで虐殺している。この星に潜伏しているテロリストは少数で、せいぜい小規模な隠れ家の一つに過ぎない程度だろう。テロリストの本隊が潜伏しているような場所なら私の耳にもその情報が入っているはずだからな。しかし、そんな小規模な隠れ家の1つを叩く目的のためにいくらなんでもお前らはここまでしないはずだ。テロリストのせん滅が目的の1つではあっても、それは副次的なもので本当の狙いは別にある。違うか」
「……」
「お前らがこの星を襲った真の理由は何だ?」
「さっきも思ったが、貴様は頭もキレるな」
「言え!この星を襲った理由は何だ」
「詳しいことは俺も知らん」
「……」
「ただわかっているのは、この星に潜んでいるテロリストは、ランク7、国家危機レベルの何かを所有しているということだけだ」
「ランク7だと……」
「そうだ。俺たちの本当の任務はそれを回収すること。だがな、俺も含めて隊長、そしてこの作戦の責任者である艦長も本音ではこの作戦に異を唱えたいんだ。民間人を殺すことが作戦の一部と言われて心の中で納得できる者はいないだろう。しかし、俺たちは軍人だ。例え自分の意に反する命令でもそれを遂行せねばならん」
「……」
「任務に私情を挟まないのはお前も同じだろう」
「……確かに、だが私は理不尽な作戦は突っぱねるタイプでな」
「かもしれんな、だから貴様はここに飛ばされたわけだ」
「そうだ」
「さて、話はもう終わりだ。一応俺の知っていることは全て話した。お前は殺すには惜しいがこれも任務でな。悪いが死んでもらう」
そう言ってデニムはエルザに銃を向ける。
「なにお前は良く戦ったよ。20年以上も前の機体でここまで戦ったのだからな。大したものだ」
「お前は何もわかっちゃいない」
「なに?」
「お前達の最大のミスはそうやって相手を見下し、その力を軽視することだ。そして今もな」
エルザは素早くある操作をした。
「機動性ではこちらが上なのに、油断して、のこのこと私の近くまで来る。接近戦ではこちらに分があるとわからなかったのか。お前の敗因はその油断だ!」
エルザはなんとスターナイトの腰から下、つまり破壊された足の部分を切り離した。
そしてバーニヤを使い、上半身だけで一気にデニムの乗るスターナイトに突進する。
「しまった!」
デニムはビームマシンガンをエルザに向けて撃つ。
エルザの乗るスターナイトはもはや横に動くことは出来なかったため、そのビームマシンガンを体の各部位に受ける。
コックピットの中も被弾し、破片が飛び散り、エルザも体を負傷したが構わず突進する。
「うおおおおおおおおおおっ!」
そしてエルザはスターナイトの残った左手でライトソードを構えると、デニムのスターナイトのコックピットを貫いた。
「ぐわあああ!」
デニムは絶命。
そして機体は大爆発を起こし、エルザのスターナイトもその爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる。
「や、やった」
エルザはまだ生きていたが、かなりの重傷を負っていた。そしてスターナイトももはや大破して動くことはできなかった。
エルザはまだ生きているモニターで地上に降りて来る輸送機の映像を出す。
「あれを……なんとかしなければ……」
しかしエルザにはもうそんな力は残されてはいなかった。次第に目の前がぼやけてくると、そのままコックピットの中で気を失ってしまった。




