第15章 病院での惨劇
第15章 病院での惨劇
この惑星ペペ、そのエリーター及び準エリーターが住んでいるこの街を一望できる高台に1つの大きな建物がある。
街から離れた位置にあるため、戦火を免れているその建物はこの星の星庁である。
星庁とはこの星の政治を担う者達、つまりこの惑星ペペのトップが働いている場所である。
その最上階にて、窓から帝国のスターナイトにより破壊されていく街並みの様子を見ていた人物がいた。
その名はキャメロン・アロー。
この星の星知事であり、キャシーやユリコの父でもある人物だ。
キャメロンは苦虫を噛み潰したような表情で、破壊されていく街を見ていた。
「なぜ、こんなことになってしまったんだ……」
キャメロンは呟いた。
そのキャメロンの後ろから1人の女性が近づく。キャメロンの秘書をしている妻のメイア・アローである。
「あなた、ここは危険です。シェルターに避難した方が」
「いや、ここでいいよ」
「……」
そう言うキャメロンにメイアは何も言わない。夫の意思を尊重しているのだ。
「まさか帝国が攻めてくるとは……」
「情報が漏れていた……ということでしょうね」
「私のせいか」
「いいえ、あなたのせいじゃないわ。運が悪かったんですよ」
キャメロンは実は娘であるキャシーが所属している組織の影の出資者でもあった。
キャメロンは娘にそのことは秘密にしていたため、キャシーはそのことを知らなかったが、実はこの星で極秘の機動実験が行われる事も彼は全部知っていたのである。
むしろ実験を自分の星で行うよう組織に働きかけたのは彼自身だった。その結果としてこの星が戦火に巻き込まれたため、彼は自責の念にかられていたのだ。
「いや、私が悪いんだよ。ここで実験を行うという時点でこうなることは予想できていた」
「ですからそのための予防策も、とっておられたではないですか」
「しかし今となってはそれもどれほど意味があったのと思うよ。しかしまさか一般人まで攻撃対象にしてくるとは」
「……」
「おそらく、この件に関しては公にはシェルリナの仕業ということになり、真実は報道されないだろうな」
「でしょうね……」
「こんなときになんだが……娘達は大丈夫だろうか」
「あの子たちは私達の子供です。無事ですよ。キャシーも、そしてユリコも……」
「そうだな……」
キャメロンはここから願うことしかできなかった。
そして彼は破壊されてゆく街並みを見ながら、せめてこの星に住む人たちが1人でも多く生き残ってくれるよう願った。
カイトとユリコは病院の直ぐ近くまできていた。
なんとか彼らは市街地を抜けてきたが。その市街地で見たおびただしい数の死体と破壊された街並を彼らは一生忘れる事はないであろう。
それほどの悲惨な光景だった。
「何とか切り抜けられたわね……」
後ろにいるユリコがカイトに話しかける。
「スターナイトに襲われた時はもうだめかとも思いましたが……」
「私も思ったわ」
「でも奴ら、一体何のためにこの星を襲って来たんでしょう」
「……」
「この星を襲ってきた奴らは帝国の連中ですよね。この星に住んでいる人達の大半は地球人でいわば味方のはずなのになぜ?」
「……」
「会長?」
「……」
「会長!」
「あ、なに?」
「なに、じゃありませんよ。なにボーっとしているんです」
「ごめんなさい、少し考えごとをしていたものだから。ああ、帝国の攻めてきた理由だったわね。アダマンタイトが目的じゃないかしら」
「でもそれだったら鉱山区の方を襲うと思いませんか。それにそもそもこの星で採れるアダマンタイトは全て帝国に納品しているはずです。だからアダマンタイトが目的とは思えないんです」
確かにカイトの言う通りだ。この星を襲ってきた連中の狙いはアダマンタイトではないだろう。
しかし、ユリコは帝国がこの星を攻めてきた事に心当たりがあった。
彼女が病院に来た理由。それはミルのためだけではなく、それを確かめるためでもあったのだ。
ユリコがそんなことを考えていると、カイトはバイクを止めた。
突然止まったので、後ろに乗っていたユリコは前につんのめる様な格好になり、カイトの背中に頭をぶつける
「痛っ、何しているのよカイト」
ユリコがカイトの表情を見ると、カイトは何かに怯えたような顔をしており、冷や汗をかいていた。
「どうしたのよカイト」
「……何かが来ます」
「何か?何かって何よ」
「わかりません、上手く口では言えないんですが、何かこうプレッシャーを感じるんです。それも何か……不愉快な気分にさせられるプレッシャーというか」
「不愉快なプレッシャー?」
「ええ、そんな表現しかできないんですが……!」
と、その時、カイトは何かの気配を感じ、空を見上げた。
そして、夜のためにはっきりとは見えなかったが何かが降りてこようとしているのに気付く。ユリコもそれに気が付いた。
「あれは……」
何かが地上に降りてこようとしている。そしてその周りをスターナイトが数機取り囲み、がっちりとガードしている。
カイトが何か不愉快なプレッシャーを感じる先はどうやらそのスターナイトが取り囲んでいるものからだ。
そしてそれがゆっくりと地上に降りて来るにしたがい、それが何なのか次第にわかって来た。
「あれは……輸送機?」
だいぶそれが地上に近づき、はっきりとカイトの眼にはそれが輸送機だと確認できるようになった。
しかし、一つだけわからないことがある。
どうやらあの輸送機は病院に着陸しようとしているようだ。でも基地ならわかるが、あの輸送機は何で病院なんかに着陸しようとしているのだろう……
しかし、ユリコはそれに心当たりがあった。
ユリコは自分の恐れていた勘が当たっているのではないかと感じていた。
輸送機はゆっくりと降りて来る。結局、輸送機は流れ弾などに当たることはなく、病院の前の駐車場に無事着陸した。
すると中からバルサロームを先頭に、ボディアーマーを着込んだ特殊部隊がバラバラと出て来る。
「何だお前達は?」
病院の前で、患者達をシェルターに誘導していた医師が、現れた特殊部隊に叫ぶ。
病院にはまだかなりの医師や看護士、そして患者達が残っていた。彼らは病院の地下にあるシェルターに向かおうとしていたのだ。
もちろんキャシー達のいる地下施設とは別の所にある地下室である。
医師達はこの星で戦闘が始まった際に、患者達をシェルターに移動しようとしたが、患者達の中にはまんぞくに歩けない寝たきりの者も数多くいて、患者達を運ぶのに予想以上に時間がかかり、まだ誘導が終わっていないのだ。
医師がさらに特殊部隊に向けて叫ぶ。
「ここは病院だ。戦争なら他でやってもらいたい。ここには動けない患者達も……」
まだ医師が叫んでいる最中だったが、特殊部隊の先頭にいたバルサロームは有無を言わさず手に持った銃でその医師を撃った。
「!」
医師はまさかいきなり撃ってくるとは夢にも思っていなかったに違いない。医師は頭を撃ち抜かれ即死した。
そしてそれが皮切りとなった。
その医師の後ろでシェルターに避難しようと何人かの医師や看護士、患者達がいたが、彼らに向かって他の特殊部隊が銃で攻撃したのである。
「うわぁ!」
「きゃあああ!」
悲鳴が辺りにこだまする。そしてあっという間に彼らは全員死亡した。まんぞくに動けないお年寄りも含めた患者も含めてである。
その後バルサロームは何も言わず、手で合図をすると、部隊は二手に分かれて、一般病棟と特別病棟の中に入って行った。
そして病院内から銃撃と音と悲鳴が聞こえて来る。特殊部隊が病院内の人間を誰かれ構わず殺しまくっているのだ。それを少し離れた所でカイトとユリコは見ていた。
「酷い……」
「なんてことを……」
2人とも目の前で行われている惨劇が信じられなかった。悪い夢でも見ているようだ。でもこれはまぎれもない現実である。
「ミル……」
今の光景を見て、カイトはミルの事を思い真っ青になった。
今この病院を襲ってきた奴らは例え相手が子供だろうと容赦しないだろう。ためらわず銃の引き金を引くはずだ。
カイトは病院に向けてバイクを走らせようとする。それをユリコは制止した。
「駄目よ!今出たら間違いなく見つかる」
ユリコの言う通りである。病院の前では特殊部隊の兵士何人かが見張りのために残っており、しかもスターナイトも数機いる。
病院の正面から乗り込めば死にに行くようなものだ。間違いなく殺されるだろう。
「しかし、ミルが……」
「気持ちはわかるけど正面からは無理よ、他に手はないか考えましょう」
「く!……」
その時だった。カイトの乗っていたバイクのサイドミラーがスターナイトの発する光を反射してしまい、それを病院の前で待機していたスターナイトに乗るパイロットに気づかれてしまったのだ。
「何だ……」
「おい、どうした」
「いや、今何かが光ったんだ……一応確認してくる」
そのスターナイトはカイトたちの方に歩いてくる。
「まずい……」
先ほど街中でスターナイトと遭遇した時は何とか切り抜けられた。しかし今度もそう上手く行くとは限らない。
「先輩こっちへ」
カイトはバイクを降りると、ユリコを連れて物陰に隠れた。そして様子を見る。
今はまだカイト達は完全には見つかってはいない。下手に逃げるより隠れた方がこの場をやり過ごせると思ったからだ。
スターナイトはこちらへ歩いてくる。そしてバイクの眼前にて止まった。
「こんな所にバイク……?」
そのスターナイトのパイロットはバイクを確認すると、そのまま辺りを見回す。カイトとユリコはそのまま身動きせず何とか見つからないように祈った。
「このバイクに光が反射しただけか……」
そしてそのパイロットはカイトたちが降りたバイクにマシンガンの照準を合わせると、バイクに向けてマシンガンを放った。
バイクは一瞬にして吹き飛ぶ。
「きゃああ」
「く!……」
カイトとユリコは近くにマシンガンの弾が着弾したため、吹き飛ばされそうになったが、その場で伏せてなんとかやり過ごした。
そしてスターナイトはバイクを破壊した後、また病院の方へと戻って行った。なんとかやり過ごせたようだ。
「何とか見つからずに済みました」
「でもバイクはもう……」
「この際です、仕方ありません。しかし……」
病院の警備は異常に厳重だ。これでは先ほどユリコが言った通り、正面から病院内へと忍び込むのはまず不可能である。
「少し時間がかかるけどやむを得ないわ、裏から病院の中に入りましょう。カイト」
「でもそれでは……」
「冷静になりなさいカイト、正面から入る事は自殺行為だわ。さっき奴等が有無を言わさず医師達を殺したのを見たでしょう」
「……」
カイトは仕方がないといった感じで頷いた。そして彼らは病院を大きく迂回して裏手の方に回る。
でもそのおかげで多少の時間はかかったが、なんとか見つからずに病院のすぐ裏まで来ることが出来た。
そして裏口のドアをゆっくりと開け、静かに病院の中に入る。
病院の中ではまだどこかで銃撃の音と悲鳴が聞こえてきていた。でも運よくこの近くには敵はいないようだ。
それでもカイト達は細心の注意を払いながら3階のミルの病室へと向かった。もし見つかったら武器を何も持たないカイトたちは、何の抵抗も出来ずに殺されるだろう。それは先ほどの光景を見ても明らかだ。
3階まで階段を上るまでの間、至る所に倒れている医師や看護士、そして患者の変わり果てた無残な姿があった。
それでもカイトたちは何とか見つからずに3階まで辿りつくことが出来た。ここまでくればミルの病室までもう少しである。
と、その時、カイトは少し油断したのか何かにつまずいて転びかけた。
少し大きな音がする。
「しー!」
「ごめん、会長……」
音はしたが、どうやら敵に気づかれる事はなかったようだ。カイトとユリコは胸を撫で下ろした。
しかし、カイトはつまずいたそのものを見て絶句した。それは体に何発もの銃撃をくらい、すでに絶命し変わり果てたミルの担当看護士、エリカの死体だったからである。
「エリカさん……」
ユリコもその死体がエリカだと気づいたようだ。ユリコは口に手をやり、目に涙を浮かべながら信じられないといった目でエリカの死体を見る。
この銃撃の跡では、ほぼ即死だったろう。それがせめてもの救いか。
1月後に開かれる予定の学園祭にはミルの付き添いとして彼女も来る予定だった。しかし、それはもう二度と叶う事はない。
カイトはエリカの手を胸の前で握らせると、見開いたままの眼をゆっくりと閉じさせた。
彼女はノンエリーターとして不遇な人生を送って来た。この星の上の連中に働きぶりを評価され、準エリーターとして、この病院で働く事を許可されたが、それまでおそらく想像以上に酷い生活を送ってきたにちがいない。口では言わなかったが、生活のために体を売ったこともあったはずだ……
カイトはゆっくりと立ち上がった。見知った人の死を見るのはダル先生に続き2回目だ。胸中穏やかではない。それでも早くミルの元に向かわなければならない。ミルもこうなってしまう可能性は十分にあるのだ。
カイトとユリコはその後、ミルの病室の前まで無事に何とか辿り着いた。カイトはミルが無事でいてくれることを願う。
そして、辺りに誰もいないことを確かめ、ゆっくりとカイトはドアを開けた。そして素早く病室の中へと入る。
続けてユリコも中に入ろうとしたが、カイトがそのドアの直ぐ前で立ち止まっていたため、彼の背中に顔をぶつけてしまった。
「痛!カイト何を立ち止まっているのよ、早く中に……」
しかしカイトにユリコの声は届いていなかった。顔面蒼白になり、ただそこで立ちつくしていた。
そんなカイトの様子にユリコも異常を感じ取った。
「ま、まさか……」
ユリコも病室の中を見る。病室の中は明かりもついておらずただ薄暗かった。ただ窓の
外から街が焼かれている炎を明るさが、部屋をわずかに照らしていただけである。
そしてミルが寝ていたベッドの上には……
「!」
ユリコも言葉を失った。
ベッドには布団がかけられ、この場からでは布団の中にいるであろう人物は見えないが、その蒲団には明らかに銃撃を受けた痕跡があった。
おそらく特殊部隊が先に部屋に入ってきて撃って行ったのだろう。これではまちがいなく布団の中にいる人は死亡しているはずだ。
カイトは死人のようにふらふらとベッドに近づいていく。そしておそるおそるその布団を取ろうとする。
「だめ!カイト」
ついユリコはそう叫んでいた。ミルの死体を見ればカイトの精神はどうにかなってしまうと思ったからだ。
しかし……
「!……これは」
結論から言えばそこにミルの死体は無かった。
あったのは大きなぬいぐるみが一個。その背中には布団に銃撃された跡と同じ銃の跡が出来ていた。
しかし、その場にミルの姿はない。
「これはどういうこと、ミルちゃんは?」
「わかりません、もしかしてもう誰かに連れられて逃げ出したあとかも」
「そうかもしれない、もしかしたらシェルターかしら」
「シェルター?」
「病院にも学校のと同じシェルターが地下にあるはずよ。そこに逃げたのかも」
「そこへはどう行くんです」
「ごめん、知らないわ」
「……」
2人して茫然と立ち尽くしていたその時だった。
ガタンと部屋の中で音がした。ビクッと驚くカイトとユリコ。するとベッドの下から何かが出てこようとしている。
薄暗くて良く見えない……が、ようやくそのベッドの下から這い出ようとしている人物が誰だかわかった。
「ミル!」
「ミルちゃん!」
カイトとユリコはミルの元に駆け寄った。ベッドの下から這い出てこようとしていたのはミルだったのである。
カイトとユリコはベッドの下からミルを引き抜いた。ミルは埃で汚れてはいたがケガはしていないようだった。
「よく無事だったな」
カイトはミルを抱きしめる。
「お兄様、それにユリコさんも」
「とりあえず良かったわ、ミルちゃんが無事で」
「それよりお兄様、何がどうなっているんです?」
「俺たちにもよくわかっていないんだ」
「それよりミルちゃん。どうしてあんなところに隠れていたの?」
「エリカさんがここに隠れているようにって言ったんです」
「エリカさんが?」
「はい。だいぶ前ですが、いきなりものすごい音と地響きがしたんです。そのすぐ後に病院の中が慌ただしくなって……そしたら少し前にエリカさんが来てベッドの下に隠れているように言われたんです。それで誰が入ってきてもベッドの下から出ないようにって」
さすがはエリカさんだ。そしてその後、運悪くエリカさんは敵に見つかり殺されてしまったのだろう。
「さっきも何人かがこの部屋に入ってきて何かしていきました。ベッドの上の方で何か音がしたんですけど、そして今度はお兄様たちが……初めは誰だかわからずエリカさんに言われたとおり隠れていようと思ったんですけど、お兄様とユリコさんの声がしたんで……」
そしてミルは震えた声で聞いてきた。
「そうだお兄様、エリカさんは?」
「とりあえずここを出てからだミル。ここにいては危険だ」
「どこに逃げるのカイト」
「とりあえず地下のシェルターを探しましょう」
「そうね、わかったわ」
そしてカイトはミルをおぶると部屋を出て、来た道を引き返す。
来た時と同じく、細心の注意を払いつつだ。こうなるとミルの目が見えないことはかえってラッキーだ。所々に倒れている死体を見ずに済む。
なんとかカイトとユリコはミルを連れて1階まで来ることに成功した。そこで一瞬気を抜いたことが油断につながった。
先頭を歩いていたユリコが何かにぶつかる。
「痛!」
それは特殊部隊の背中だった。
運も悪かった。ちょうど階段を降りた曲がり角にその兵士はいた。それも2人。ついに彼らは特殊部隊に見つかってしまったのだ。
「しまった!」
逃げようとしたがもう遅い。特殊部隊はゆっくりと振り返った。
「……んん、なんだまだ子供じゃないか」
「おい、どうする」
「どうするもこうするも、この病院の連中は全員殺せと命令を受けている」
「それはそうだが……」
「かわいそうだがこれも任務だ。悪く思うな」
そう言うと特殊部隊の1人が銃口をカイトたちにむける。こんな至近距離では逃げても無駄だ。よくてほんの数秒生き永らえるだけだ。
カイトはミルだけでも何とか逃がそうとも思ったが、ミルは足が不自由だ。ミルだけではどこにも行けない。
もうどうしようもない。カイトは死を覚悟した。ミルも何かを感じ取ったのだろう。カイトの背中をギュッと掴む。その時だった。
ドヒュンッドヒュンッ
普通の弾の音とは違う独特の銃撃音。それは携帯式のビームガンの銃声だった。そしてそのビームガンを撃ったのは特殊部隊ではない。
そのビームはロビーの方から飛んできて、特殊部隊のアーマースーツをいとも簡単に貫き、カイト達の目の前にいた2人の特殊部隊を絶命させた。
特殊部隊はゆっくりと崩れ落ち、カイト達はまた九死に一生を得ることとなった。
「あなたたち、無事?」
「ええ、なんとか」
ロビーの方からビームガンを放った2人の人影が走って近づいてきた。助けてくれたのでとりあえず敵ではないようだ。
しかし彼らを見てカイト、特にユリコは驚きを隠せなかった。それはカイトたちを助けてくれた相手も同じである。
「あなた達は……」
「姉さん!」
カイトたちを助けたのは、今朝この病院で会ったユリコのお姉さん、キャシーとミサワだったのである。
「あなたたち、なぜここにいるの?」
「姉さんこそ」
「先に聞いているのは私よ」
「私がこの病院に入院している妹を助けに来たんです。会長は私に付き合ってここに来ました」
その問いにはカイトが答えた。
「今度は姉さんが答えて、姉さんはここで何しているの」
だが、キャシーはその件に関して答えてくれなかった。でもユリコは執拗にこの件に関してキャシーに質問を浴びせた。
ユリコはこの星が帝国に攻められている現状に関して、姉のキャシーが関わっているかもしれないと思っていたのだ。
ユリコがこの病院に来た理由はミルの為だけではない。それを確かめたい気持ちもあったからである。
「姉さん!」
「今はそんなことをここで話している場合ではありません。早く逃げないと」
ミサワがそう告げる。
「そうね、あなたたちはこれからどうするの」
「この病院のどこかにあるシェルターを探してそこに行きます。キャシーさんはそれがどこにあるのか知っていますか」
「シェルターなら一般病棟の地下にあるはずだわ」
「そうですか、では私達はそこに行きます」
「よした方がいい」
ミサワがそう答えた。
「どうしてです」
「今私達は一般病棟の方の様子を見てきたんだ。地下への入り口は敵兵で一杯だった。シェルターには近づく事もできないぞ、それにおそらくシェルターの中はもう……」
「そんな……」
カイトとユリコは立ち尽くした。そこでキャシーが1つの提案をする。
「いいわ、あなたたち、私達と一緒に来なさい」
「主任、それは……」
ミサワは何か言おうとしたが、キャシーはそれを手で制して止める。
「外へ出ても助かる保証はないわ、それなら私達と一緒に行動した方が助かる可能性がある。幼い子もいるんでしょう」
キャシーはカイトがおぶっているミルを見る。
カイトには選んでいる余裕はもうなかった。少しでも助かる道があるのならそれを選ぶほかはないからだ。妹のためにも……
「わかりました。ご一緒します」
「……」
ユリコは何も言わなかった。
「じゃあ私達についてきて、物音を立てないようにね」
そしてキャシーはゆっくりと辺りを見回し、警戒しながら歩き出す。カイトとユリコはキャシーとミサワに挟まれるような形になりながら歩き出した。
そしてキャシーは1つの空き部屋へと入って行く。
その部屋でキャシーは奥の壁を叩く。すると壁の一部から端末が現れ、その端末を素早く操作する。
すると今度は床の一部が開き、地下への階段が現れた。
キャシーとミサワはその階段を降りて行く。その後をカイトとユリコは追った。彼らが全員地下に降りると入口は静かに閉じた。
階段を暫く降りると今度は長い通路に出る。その通路を彼らは奥へと歩いて行く。
廊下を歩きながらカイトはこの地下への階段や廊下に対してある違和感を覚えていた。
この地下への階段が現れた空き室の時も思ったが、明らかにここは一般とは違う、いわば隠されている秘密の通路だ。
何か病院とは違う雰囲気にミルも気が付いたようだ。
「お兄様、ここはどこですか?」
「わからない、でもお前は何も心配するな、何があっても兄が守ってやるからな」
「……」
カイトはユリコの方を見ると、ユリコは黙ってただキャシー達の後を歩いていた。その表情は無表情で彼女が何を考えているのかカイトには分からない。
それに、この会長のお姉さんであるキャシーという人物。そしてミサワとう人物も、ただの技術部のスタッフではないような気がする。
一体彼らは何者なのだろうか。
そんなことを考えているうちに、通路の奥に扉が見えてきた。キャシーがIDカードをかざすと扉が開く。そして彼らはその部屋に入った。
その部屋に入るや、カイトとユリコは目を疑った。
そこは上の病院とは違う、全く別ものの施設の部屋だったからだ。部屋の中央にはおそらく物凄い高性能のメインコンピューターに、他何台もあるコンピューターの端末に訳の分からない装置。そして明らかに医師や看護士たちとは毛色が違うスタッフ。
特にカイトの目を引いたのは部屋の奥にある、たくさんのコードが繋がれている箱の様な……いや、形からいって棺と言った方がいいかもしれない。それに目を奪われた。
この部屋はメインコンピューターも含めて、それを中心に様々な装置が配置されているように見える。故に、それが何か大切なものである事は一目瞭然だった。
カイト達がこの部屋に入ってくるのを見て、この部屋にいるスタッフ全員がキャシー達に向かって敬礼をする。キャシー達も敬礼を返した。
するとスタッフ達はキャシー達と一緒に部屋に入って来たカイトとユリコ、そしてミルに気がつき怪訝な顔をする。
「主任、この人達は誰ですか?」
「ああ、この子達は……」
ユリコがスタッフにカイトとユリコ、そしてミルを説明しようとしたが、その前にユリコはある言葉を呟いた。
「幼精の羽根……?」




