第12章 避難
第12章 避難
もう日が沈みかけている。どれくらい気を失っていただろうか、1時間、2時間?カイトは辺りを包む爆音の音で目を覚ました。ゆっくりと体を起こす。
「痛!」
頭に痛みが走る。さわると少し出血していた。だが、とりあえず重傷というほどのケガではないようだ。もう血は止まりかけている。
カイトは上半身だけ体を起こすと辺りを見回す。この生徒会の会議室では物は散乱し、壁は至る所が崩れ、床も見えない酷い有様であった。
他の生徒会のメンバー達も瓦礫の下敷きになっているのか、ぱっと見ただけでは確認できない。
カイトは目を覚ましたが、その前に何が起こったのか理解できなかった。とりあえず気絶する前のことを思い出してみる。
確か何かに引き寄せられるように自分は窓の外を見ていたはずである。
すると空のある部分が歪んで見えた。それを見た時、何か得体のしれない恐ろしい気分になり、次の瞬間その空の一部分が光った。
自分は本能的に会長を庇いながら伏せて、それとほぼ同時に辺りは閃光と爆発音に包まれた。そして気を失った。
(そうだ、会長!)
そう、自分は会長を庇って床に伏せた。
では会長は?
辺りを見回すと、自分のすぐ横に会長は倒れていた。混乱していて気が付かなかっただけだ。
「会長、会長!」
カイトはユリコを揺り起こす
「う……」
ユリコは目を覚ました。どうやら無事なようだ。
「あれ、カイト?」
「よかった、無事だったんですね会長」
「一体何が起こったの?」
「わかりません。自分にも何が何だか……」
「他のみんなは?」
「この部屋の何処かにいるはずです。探しましょう」
そう言うとカイトとユリコは会議室にちらばった瓦礫やガラスなどをどかして、他の生徒会のメンバーを探した。
メンバーは直ぐに全員見つかった。全員先ほどの衝撃で気絶していたようだが、とりあえず全員無事なようだ。
ただエルだけが足を折っていた。ユリコはそんなエルの様子を心配して話しかける。
「どう、立てるエルちゃん」
エルは立とうとするがバランスを崩しユリコにもたれかかる。
「ちょっと無理っぽいです。すいません」
「とりあえず保健室にいきましょう」
「……いや、保健室はやめといた方がいい……」
つぶやくように副会長のルイスがそう言った。
「どうして?」
「……」
ルイスは答えない。ルイスはただ壊れた窓の近くで外の様子を眺めているだけだった。
「副会長、どうしたんです」
カイトも窓の外を見る。するとルイスが絶句している意味が分かった。
外は地獄だった。
街はどこからきた部隊なのかスターナイトに所々すでに破壊されており、今もなおスターナイトは逃げ惑う人々を街撃ち殺している。
遠くに見える基地ではもう戦闘が始まっているようだ。スターナイト同士が撃ち合っているのが見える。
「戦争だ……」
いつのまにかカイトの隣に来たルルが呟いた。
「戦争をしているんだよ……この星で……」
辺りには逃げ惑う人びとの悲鳴と子供たちの泣き声、そしてそれを包み込むように爆発音が辺りを支配していた。
これでは確かに保健室に行くべきではない。シェルターに向かわなければ。
「会長!確かこの学園の地下にはシェルターがありましたよね」
カイトが叫ぶ。
「そうね。そういえば入学する際にそう言った説明を受けたような……」
「ならエルはそこに避難させてください。もうこの学園内で安全な場所などどこにもありはしません」
その時だった。突然辺りが何かの影となり暗くなったかと思うと、この学園のグラウンドに巨大な何かが降りてきた。
それは帝国軍のスターナイトだった。
スターナイトがグラウンドに着地したために、僅かな振動が辺りを支配する。
グラウンドにいる学生達は、最初の陽電子砲でこの基地の司令部が破壊された時の衝撃波で、多くの者がケガを負っていた。
さらに、スターナイトが現れたことで、パニックとなった。
スターナイトはマシンガンを校舎の方に向け、射撃体勢に入る。その銃口はちょうど生徒会の会議室に向けられた。
(殺られる……)
カイトはそう思い、一瞬死を覚悟した。いや彼だけではない、その場にいたユリコを含む生徒会の全員が死を覚悟した。
しかし、カイトたちにとってラッキーだったのは、そのスターナイトのパイロットが、リズリーの格納庫で、バルサロームが今回の作戦に関して説明した際に、民間人を撃つ事に対し、反対した若い兵士だったからである。
その兵士は、今撃とうとしている建物の中に人がいるのに気が付き、モニターの画面を拡大させ、建物の中にいる人を詳しく見た。
カイトとユリコ、そして他の生徒会のメンバーの顔が映し出される。
「こども?……」
その兵士はそこで今自分が撃とうとしている建物が、学校の校舎であるということに気が付いた。
その兵士はグラウンドの自分の機体の周りにいる者達も良く見てみる。みんな子供ばかりであった。
「学校か……」
その兵士は自分が降りた場所が学校である事を認識した。しかし作戦に子供だから撃たなくていいなどということはない。彼は再び校舎を撃とうと構えた。
今回の任務は民間人を撃つ事も作戦に含まれる。それが例え子供であろうと例外ではない。
そう自分に言い聞かせマシンガンの引き金を引こうとした
……しかし
「く!……」
彼には出来なかった。作戦とはいえ子供を撃つ事はできなかったのである。
「……ふう、俺も甘いな」
彼はため息をつくとマシンガンをしまう。
しかしグラウンドにいた生徒たちの何人かは逆上して、彼の乗るスターナイトに石を投げつける者がいた。
「なにをやっているんだ!」
慌ててカイトは窓からその石を投げつけている生徒達に大声で止めるように言った。
「何をやっているんだお前達!いいから逃げろ!」
しかし、その生徒達は逆上して全くカイトの声など耳に入っていない。
「ふう……」
その若い兵士はため息をつくと、頭部のバルカン砲をその生徒達に向ける。
「やばい!」
カイトはそう思ったがもう遅かった。
次の瞬間、バルカン砲は生徒達に向けて発射された。カイトは目を覆う。しかしバルカン砲は生徒達の足元に命中し、生徒には誰ひとり当たらなかった。
その若い兵士はただの威嚇射撃を行ったのだ。しかし効果はあったようで、みんな腰を抜かし失禁する者までいた。そしてその若い兵士はマイクを外部放送に切り替え、その学校にいる生徒達に向けて話す。
「死にたくない者は早くシェルターに行け、この星での戦いはさらに激化する。そうなったら今度こそ死ぬかも知れんぞ。重ねて言う。死にたくない者は早くシェルターに避難しろ」
彼はそれだけいうとバーニアに点火し、街の方に飛んで行った。
どうやら敵の中にも子供を撃つ事に対し、躊躇いを持つものがいたようだ。しかし、今度ここに来る敵がそうとは限らない。
くやしいが先ほど言った敵の言う通りだ。今はとにかくシェルターに避難することが先決だ。
「会長、私たちが先導して生徒たちをシェルターに避難させましょう」
「そうね」
「シェルターの場所は何処だか分りますか」
「確かB棟の地下よ」
「わかりました。みんなで手分けして生徒たちを誘導しましょう」
カイトがそう言うとみんな頷いた。するとある事にルルが気がつく。
「あれ、そういえばダル先生は?」
言われてみて、みんな初めてダル先生がいないことに気がついた。
辺りを見回す。
すると奥の方に瓦礫に埋まっているダル先生が着ていたと思しき服が見えた。カイトはそこに駆け寄り瓦礫をどかした。倒れているダル先生が瓦礫の中から現れる。
「ダル先生!」
しかし、先生は何も答えなかった。目は見開き、もう既に亡くなっていた。
最初の攻撃の時、飛び散った窓ガラスの破片が体中に刺さっている。ダル先生は窓際の席に座っていた。だから衝撃をまともに受けたのだ。ほぼ即死の状態だっただろう。しかしカイトはダル先生を揺すり続ける。
「ダル先生、冗談はやめてください。先生は元地球軍の兵士だったんでしょう。元エースパイロットだったと自慢していたじゃないですか。そんな先生がこんなことで死ぬわけないですよね。ねえ先生、何か言ってください」
しかしダル先生は何も答えない。そして答える事は二度とないであろう。
そのダル先生を揺するカイトの後ろでユリコは口元を押さえながら涙を流している。もう二度とダル先生が起きることなどありえないことがわかっているから……
「ダル先生!ダル先生!」
それでもカイトはダル先生を揺すり続ける。そんなカイトをルイスが制止する。
「もうやめなよ。楽にさせてやろう」
そう言うとルイスはダル先生の見開いたままの両目を静かに閉じた。カイトはゆっくりとダル先生をその場に横たえる。
「……」
暫く誰も何も言えなかった。外とは対照的に生徒会室は静寂に包まれた。その静寂を破りルイスが声を上げる。
「じゃあ生徒達の先導をしよう。エルは骨折しているから先導は無理だ。とにかくシェルターへ」
エルは頷く。
「A棟はルルとナギが誘導を、B棟は会長とカイトが誘導してくれ、俺は校庭の方を見て来る」
「わかったわ」
「了解」
みんなルイスの提案に賛成した。
「それじゃあ行こう」
そう言うとみんな生徒会室を出て駈け出した。しかし、カイトだけはまだダル先生の前にうずくまったままだ。そんなカイトにユリコは声をかける。
「私たちも行くわよ、カイト……」
「……」
カイトは何も答えない。
「カイト!」
「わかってますよ!」
ユリコの問いかけにカイトは答えて立ち上がる。
「一体何なんだよこれは、訳のわからん連中が来てドンパチやって……くそ!」
そう言うとカイトも部屋を出て走り出す。その後にユリコも続く。
(理由もわからず殺されてたまるか!)
カイトとユリコはB棟の方に走って行った。
エルザは基地で帝国軍のスターナイトと奮闘していた。
あれからさらに2機のスターナイトを落としたが、結局基地側で戦っている者で敵機を落としたのはエルザだけであった。
最初に墜とした1機を含め、エルザは3機のスターナイトを撃墜したことになるが、基地側はもうすでに10機近く撃墜されていた。
戦車や戦闘機も含めると被害はもっと多いだろう。
エルザはよく奮闘していたが、それでも次第に押されていた。
いかに機動性でこちらに部があるとはいえ、火力に差がありすぎてなかなか接近することができない。
エルザは火力を少しでも補うため、敵のスターナイトから奪った武器を使っていたが、それでも他2機を落とすだけで精一杯であった。
いやそれでもエルザの力を称賛すべきであろう。他は誰1人敵のスターナイトを撃墜した者などいないのだから
「くそ!このままでは」
敵の攻撃によってエルザは次第に押し込まれてゆく。
いかんせん火力が違いすぎる。しかもこちらはほとんど実践を経験したことなどない兵士達ばかりだ。
ここまで持ちこたえているだけでも奇跡と呼べるほどだが、それでもこの基地が制圧されるのはもはや時間の問題だ。しかしだからといって戦いを止める訳にはいかない。
「私の命運もどうやらここまでのようだな……」
エルザは覚悟を決める。
「だが1人では死なんぞ、1機でも多くの敵を道連れにしてやる!」
エルザはそう言うと敵に突進して行った。
その頃、この基地のA地区に降りていたスターナイト隊の隊長デニムは、大体この地区の制圧を完了していた。
破壊したスターナイトを踏みつけ吐き捨てるように言う。
「他愛ない、所詮この程度か」
そこへ、他の隊員から通信が入る。
「副長」
「どうした」
「B地区の方へ至急来てください」
「B地区だと、まだ制圧が終わってないのか」
「すいません。1機だけですがやっかいな敵がいまして」
「1機だけだと、周りを取り囲んでさっさと破壊しろ」
「そうしているんですが、なにぶんすばしっこい奴で……もう3機もそいつにやられています」
「なに!」
この基地に配備してあるスターナイトはシリウスだけのはずだ。
かつては高速機動が売りの機体だったが、それももう20年以上も前の話だ。それでこちらの最新鋭の機体、パンサーを3機も破るとは……
(おもしろい!)
「わかった。今から救援に向かう。そいつは俺が直々に破壊する。お前達は手を出すな」
そう言うとデニムはB地区へとスターナイトを走らせた。
B地区では未だエルザが奮闘していたが、突然敵はエルザとの戦いを止めて後ろに引いて行った。
「……?」
エルザは意味が分からなかった。だが彼女は一瞬殺気を感じる……
「やばい!」
エルザは本能的に身の危険を感じた。直ぐにスターナイトを後ろに下がらせる。そこへ直上からビームが襲い、エルザがいた所に落ちた。
「ほう、今のを避けるか、思った以上にやれるようだ」
エルザの前にデニムの乗るスターナイトが降り立った。
「こいつ……」
エルザは直感的にこいつが敵の隊長機だと認識した。今までの敵とは違う、只者ではない雰囲気をモニター越しに感じたからだ。
デニムはエルザの乗る機体に通信の波長を合わせると話し始める。
「私はガーベラ帝国軍、第22特殊部隊副長のデニム・マッコロイ大尉だ。貴殿の名は」
エルザは少し迷ったが、答えるのが礼儀だと思い答えた。
「私の名はエルザ・スカーレットだ」
「その声……女か」
「そうだが」
「それは意外だった。いや馬鹿にしているわけじゃない。しかしそんな旧式の機体でこちらのスターナイトを3機も撃墜するとはおみそれした」
「そんなことより何故この星を攻撃する。この星には何もないぞ」
「……」
「アダマンタイトが目的か、しかしこの星で取れるアダマンタイトは全て帝国に上納しているはずだ。それなのに何故味方であるはずの帝国がこの星を襲う。襲う理由は何だ」
「悪いが答えられん」
「……」
「敵に対して理由をいちいち説明する義務はない。例えそれが死にゆく者だろうともな。私がお前と話したのは個人的に興味があったからだ。しかし貴様が死ぬことには変わりはない」
「そうかな、残念だが私はそう簡単にはやられないぞ」
「だろうな、だから私が来たんだよ」
次の瞬間、対峙していた2機はほぼ同時に離れて間合いを取る。
そして撃ち合いが始まった。
外はもう完全に日が沈んでいた。カイトたち生徒会のメンバーは、生徒達のシェルターへの誘導を行い、結果として運悪く最初の攻撃でダル先生と同じく、瓦礫が頭を直撃するなどして命を落とした者もいたが、それでも9割以上の生徒は無事シェルターに誘導する事が出来た。
最後の生徒を誘導してルイスがシェルターの所に来る。
「もうグラウンドの方には誰もいない。校舎の方は?」
「A棟の方はもう避難は終わっています」
「B棟の方も終了しているわ」
「じゃあこの生徒が最後だな、我々もシェルターに入ろう」
最後の生徒に続き、生徒会のメンバーも全員シェルターの中に入り扉の鍵を占める。こうすれば外部からはもう入れない。
ひとまずこれで安全ではあるが、多くの生徒はまだ怯えて震えていた。ケガをしている者も少なくない。そして再び大きな振動が起きる。
「!」
今の振動は校舎が破壊された音かもしれない。
その後も爆発音などはひっきりなしに聞こえて来た。みんな体を寄せ合い不安に怯えている。
ユリコは他の先生達と話をして、ダル先生が亡くなった事などを話しているようだ。
そんな中カイトは迷っていた。
このままここにいればとりあえず星そのものが破壊されでもしない限り安全だろう。しかし、彼は迷っていた。妹のことでだ
妹は病院にいる。はたして無事に逃げられただろうか。もしかしたら病室で1人泣いているんじゃないだろうか。
そう考えたら心配でもうどうしようもなくなった。カイトは思い立ち、シェルターの扉を開けようとする。
「カイト、何をやっているんだ」
慌ててルイスがカイトの腕を掴む。
「止めないでください副会長、私は行かなければならない所があるんです」
「何を言っているんだこんな時に。行かなければならない所とはどこだ」
「……」
カイトは何も答えない。しかし会長であるユリコにはそれが分かっていた。
「妹さんの所ね……」
「……そうです」
カイトは静かに頷いた。
「言っておくけど、今この扉を開けて出て行けば外からではもうこのシェルターの中には入れないわ。いえそれより生きて帰ってこられるかどうかも分からない。それでも行くの」
「行きます」
カイトの眼には固く決意した意思が込められていた。こうなったらもう誰が何を言おうと聞かないだろう。
ノンエリーターでありながら、妹の治療のために合格率0,01パーセント以下のエリーター昇格試験をパスしてきた男だ。意思の強さは半端ではない。
「いいわ、私が許します」
「会長?」
「ただし私も行きます」
「!」
これにはカイトも含め先生達も驚いた。先生の1人が止めに入る。
「だめですユリコさん。あなたはアロー家の人間なのです。あなたに何かあったら私達はどう責任をとればいいのですか」
「今はアロー家だとか、そんなことを言っている場合ではないでしょう。それに私もミルちゃんのことは気がかりです」
ユリコはそうは言ったものの、実はもう1つ病院に行きたい別の理由があった。どうしても確かめたいことがあったからだ。
「大丈夫、死なないわ。私は運がいいんだから」
ユリコは自分でも根拠の無い自信を言ったものだと思った。
しかしそれでもアロー家の人間であるユリコが出て行くと言うのだから、もう面と向かって反対する者など誰もいなかった。誰ももう何も言わない。
そしてカイトとユリコはシェルターの扉を開けた。
2人はシェルターの外に出る。外は先ほどよりも酷い有様だった。地下とはいえ壁は崩れ瓦礫が先ほどよりも多く散乱している。これでは上の校舎はもう見る影もないかもしれない。
しかしそんなことはお構いなしにカイトは駈け出した。ユリコは振り返ると、シェルターの中のみんなに言う。
「いいわね、もうこのシェルターは何があっても開けないこと。少なくとも安全が確認されるまで開けてはいけない、いいわね」
「……」
誰も何も答えない。
「それじゃあ」
そう言うとユリコは返事を聞く暇もなく、カイトの後を追って駈け出した。その姿をルイスやルルは見送る。
「さあ、会長の言った通り、シェルターの扉を閉めよう」
ルイスは静かにそうみんなに告げた。
みんな無言で頷く。
(会長、どうかご無事で……)
ルイスはそう祈ると、扉をゆっくりと閉めた。




