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《リミットレス•シンデレラ》③


 《舞踏会の静寂》は、もう通っている。

 手札には、自分から見せてきた《不適合個体の処分》と何か一枚。中身は見えていないが、静寂が通った以上、このターンはカードをプレイできない。

 先ほど使ったエクシードの権利も、戻らない。

 そこまで確かめてから、俺は次の札を出した。


「結晶化をスリープにして1コスト。《夜会支度の魔法使い》ですわ」


 杖を持った魔法使いが、城の前へ姿を現した。

 俺のファクターは三枚。首飾りも執行者も、今眠らせた結晶化も、すべてスリープだ。

 続けて、主人公の欄へ手を伸ばす。


「では、結晶化を破棄して1コスト。《灰被りの少女、エラ》をプレイいたしますわ」


 小さな結晶が砕け、煤けた服の少女が階段の下へ立った。

 魔法使いを見上げ、それから向かいの実験体を見上げる。

 俺のファクターは、二枚になった。

 眠った緑の首飾りと、白の執行者。

 どちらも、まだ使い道がある。


「それで?」


 博士が、笑いをこらえるように肩を揺らした。


「静寂で時間を稼いで、出したのはその小娘かね? 我が研究の到達点を前に、何を実証してくれるのかな?」


 まだ笑えるのか。

 まあ、今の盤面だけを見れば、そうかもしれない。

 1/1のエラと、1/3の魔法使い。合わせたところで、実験体の足元にも届かない。

 俺は、手札のブローチを一枚抜いた。


「まずは0コスト、《新緑のブローチ》。エラへリンクいたしますわ。《夜会支度の魔法使い》と合わせて二(・)枚(・)ド(・)ロ(・)ー(・)」


 緑の留め具が、胸元へ収まった。

 リンク自身の効果で一枚。魔法使いの効果でも、一枚。

 手札に来たのは、三枚目のブローチと、首飾りだ。

 引いた二枚から、博士へ目を移す。


 概ね第三関門突破。 

 ご愁傷さま。もうシンデレラが止まることはありません。

 両方の効果を処理してから、最初から持っていた二枚目を出す。


「もう一枚。同じく、二(・)枚(・)ド(・)ロ(・)ー(・)ですわ」


 続いて、今引いた三枚目。

 使(・)う(・)た(・)び(・)に(・)二(・)枚(・)引(・)く(・)ので、ブローチを使う前より、手札は増えている。

 俺はその中から、次の札を選んだ。


「0コスト、《若獣の首飾り》。エラへリンクいたしますわ」

「……それはフェイブルーンのリンクではないねえ」

「ええ。何か問題がございまして?」


 そう、フェイブルーンのカードではない。

 これはコンコルディアの小さな首飾りだ。

 1ファクター、0コスト。緑のカード。構築条件はちゃんと満たしている。必要なファクターも足りているし、色条件も、エラと魔法使いが満たしている。

 そして、効果もブローチとほぼ一緒。フィールドに出たら一枚引ける、小さなオマケ付きのリンク。色々な世界にある、あ(・)り(・)ふ(・)れ(・)た(・)コ(・)モ(・)ン(・)カ(・)ー(・)ド(・)だ。


「では、首飾りと魔法使いの効果で、合わせて二(・)枚(・)ド(・)ロ(・)ー(・)ですわ」


 首飾りがつき、二枚が手札へ来る。

 その中にあった二枚目の首飾りも、リンクする。

 また二枚引き、次は花の輪を取り出した。


「0コスト、《花守りのリース》。こちらも魔法使いと合わせて、二(・)枚(・)ド(・)ロ(・)ー(・)ですわ」


 博士が、こちらの手札を覗くように身を乗り出した。


「フィオレリアのリンクまで……?」

「ええ。素敵なものが、たくさんございますでしょう?」

「何を考えているのかね? 数を揃えても無駄だ。《星屑のティアラ》も、《リミットレス・シンデレラ》も、数えるのはフェイブルーンのリンクだぞ」


 おお。

 その辺りも、ちゃんと調べてあるのか。

 たいへん結構。


「ですわね」


 もう一枚のリースも、プレイする。

 花が開き、二枚のカードが手札へ来る。

 続けて、三枚目のリースを。

 回復も、ありがたく受け取っておく。ライフの表示が46になった。


「では、0コスト、《旅人の外套》。こちらも二(・)枚(・)ド(・)ロ(・)ー(・)ですわ」


 三枚を、順にプレイする。

 使って、引いて、また使う。

 少女の肩へ布が重なり、胸には花が並んだ。

 正直、着せすぎである。

 エアフィールドが全部をそのまま服として描いたら、歩くだけでひっくり返りそうだ。

 ありがたいことに、二枚目の外套は光になって、最初の外套の裾へ重なった。

 三枚目も、同じように収まる。


「……待て、いつまで続ける気だ!」

「もちろん、あなたのライフがゼロを割るまでですわ!」

「先ほど説明しただろう! ほかの世界のリンクを増やしても、ティアラもリミットレスも強化されない!」


 博士の指が、俺のファクターエリアへ向いた。


「しかも、ティアラも、《星織りの舞踏服》も、3ファクターだ! 君には二枚しかない。《魔力の結晶化》はもうプレイした。《屋根裏の小さな猫》の登場時能力も、このターンは使い終わっている! どうやって足りない一枚を補うつもりかね? もう負けを認めたまえ!」


 ああ、いつもの初動なら、そのとおりだ。

 結晶化も使った。猫の能力も使った。

 こいつらは、一ターンに一度しか使えない制約がある。

 ここから使える加速札は、フ(・)ェ(・)イ(・)ブ(・)ル(・)ー(・)ン(・)に(・)は(・)ない。


「とりあえず、ここまでで一度止めましょう」


 ブローチが三枚。

 それ以外のリンクが、八枚。

 山札には、まだ二十七枚残っている。

 次の魔法使いと、次に使う軽いリンクも、手札へ来ていた。

 俺は最初から手札にあった、一枚のアクションを取り出す。


「それでは、0コスト。《豊穣の盟約》をプレイいたしますわ」


 博士の目が、カード名へ止まった。


「……それは、コンコルディアが大型獣を出すための札ではないか」

「ええ。それが本来の使い方ですわね」


 コンコルディアは法と盟約の世界。

 上位のものが下位のものを支配する、階層社会のワールドだ。

 《豊穣の盟約》は、自分のフィールドにあるカードを好(・)き(・)な(・)だ(・)け(・)アクティブでファクターへ送る。

 序盤を支えた壁ユニットや、補給用のオーダーなどをファクターに捧げ、大型のユニットにつなげる。

 そういうデザインのカードだ。


 お気づきかと思いますが、このカードはイカれてます。

 わからなかった人はもう一度、テキストをご確認ください。

 ファクターに送るのは一枚でも二枚でも全部でもない。好(・)き(・)な(・)だ(・)け(・)です。


 では問題。

 0コストで、ばらまけるカードがたくさんあったら?

 それに、ドローする効果までついていたら?

 ましてや、そのカードをプレイするたびに、さらにドローを追加するカードがあったら?

 そして、それをコストに変換する手段があったら?


「それでは、解決いたしますわ。エラと、魔法使いと、ブローチは残します。それ以外の九枚を、ファクターへ」

「——!!」


 答え。ゲームがぶっ壊れる。


 首飾りが、胸元から離れた。

 リースの花が、一つずつ光へほどける。

 外套も浮き上がり、少女の肩が見えるようになった。

 寄り添ってきた猫も合わせて、九枚の札が、俺の前へ並ぶ。

 そのすべてが、アクティブのファクターになる。

 博士の目が丸くなった。


 もともとあった二枚と合わせて、総数は十一枚。

 九枚が起きている。

 俺は、今並べた首飾りの一枚を眠らせた。


「首飾りをスリープにして1コスト。二人目の《夜会支度の魔法使い》ですわ」


 同じ杖を持った魔法使いが、もう一人、エラの隣へ立った。

 博士の顔から、ようやく笑みが消えた。


「待ちたまえ。まだ引く気か!?」

「もちろんですわ。お支度は、これからですもの!」


 0コストの《芽吹きの腕輪》を、エラへ。

 小さな葉をつけた輪が、腕へ収まった。

 リンク自身で一枚。魔法使いが二人いるので、それぞれ一枚。

 今度は、三枚のカードが来る。


「三枚ドロー。次の腕輪も、リンクいたしますわ」


 二枚目を解決し、三枚目もプレイする。

 各々の効果を処理してから、0コストの《巡礼の聖印》三枚を、順につけていく。

 これも、一枚つけるたびに三枚引いた。

 次は、同じく0コストの《白銀の飾り紐》。


 もう、次に使う札を探すために手札を広げる必要もなかった。

 引いた札を揃えて、使うものを手前へ寄せる。

 使節も執行者も来ているが、今は出さない。

 相手のカードは、静寂でもう止まっている。

 魔法使いは二人で足りる。


 飾り紐を、二枚までつけた。

 腕輪と聖印は三枚ずつ。飾り紐を合わせて、八枚。

 山札は、残り三枚になっている。

 最後の飾り紐を出す。


「リンクで一枚。魔法使いで、一枚ずつ」


 最後の三枚が、手札へ収まった。

 山札の置き場が、空になる。


「はい。山札を引ききりましたわ!」


 博士は、空になった山札の置き場を唖然としながら見つめていた。

 魔法使いのドローは、引くかどうかを選べる。

 ここまでは全部選んだが、ここからは一枚も選ばない。

 空の山札から、もう一枚引こうとすれば、俺の負けだ。

 必要なぶんだけ引く。必要なぶんは、全部引く。

 今日は、その全部が山札一つぶんだった。


「それでは、0コスト。二枚目の《豊穣の盟約》ですわ」


 俺は、エラの腕と胸元を指した。


「腕輪と聖印を、三枚ずつファクターへ。ブローチと飾り紐は、残します」


 六枚のリンクが、エラから離れた。

 ファクターは十七枚。

 十四枚が起きている。

 城の前に、小さな光がずらりと並んだ。

 エラと魔法使い二人は、そのままフィールドに残っている。


 衣装を揃えるための支払いは、これで足りた。

 その衣装も、すべて手札にある。

 俺は衣装の札を、手前へ揃えた。


「では、お待たせいたしました! おめかしの時間ですわ!」


 まずは、頭から。


「2コスト。《星屑のティアラ》を、エラへリンク」


 2コストを支払い、頭上に星の輪を浮かべる。

 二枚目も、三枚目も、2コストずつでプレイする。

 三つの光が、少女の髪へ重なった。

 魔法使い二人のドローは、すべて見送る。


「続いて、1コストの《硝子の靴》。二枚とも、エラへ」


 煤けた靴が、透き通る光へ変わった。

 こちらは、二枚。

 二枚目の光は、靴の縁へ細く重なる。

 一歩踏み出した足元から、城の階段が明るくなった。


「そして、2コストの《星織りの舞踏服》! 三枚とも、リンクいたしますわ!」


 最初の一枚で、煤けた服がほどけた。

 二枚目で、裾に星が走る。

 三枚目をつけると、夜空を写したような布が、エラの後ろへ広がった。

 ブローチも、飾り紐も残してある。

 ほかにリンクが2枚以上必要、という舞踏服の装着条件は、十分に満たしていた。


 1コストの《運命を結ぶリボン》も、三枚を順にプレイする。

 結び目から延びた光が、腰と袖へ収まる。

 リボンの効果で山札を見るが、そこはもう空だ。今日は、衣装として働いてもらう。

 最後に、1コストの《真夜中のヴェール》を三枚。

 薄い布が星の光を透かし、少女の背中へ落ちた。


 衣装に払ったのは、合わせて20コスト。

 必要なファクター? そりゃ、さっきたくさん埋めました。


 少女の胸元には、ブローチと飾り紐が三枚ずつ。

 靴は二枚。リボン、ヴェール、ティアラ、舞踏服は、三枚ずつ。

 フェイブルーンのリンクだけで、十七枚ある。

 三枚のティアラが、それぞれ+17/+17を与えていた。

 外の世界から借りた飾り紐は、その数には入らない。

 けれど、三枚合わせて+3/+0は、ちゃんと残っている。


 エラの表示が、止まった。

 103/108。

 向かいの81/81より、大きい。


「……馬鹿な」


 博士が、ようやく口を開いた。

 目が、エラとニューロシーズの間を往復している。


「何だ、その数値は……! どうして、私の実験体を超えている!」

「お支度が済みましたので」


 俺は、空になった山札の置き場を見てから、エラへ手を向けた。

 次のターンは要らない。

 出たばかりのエラだが、硝子の靴の"速攻"がある。


「バトルフェイズ。エラで攻撃いたしますわ!」


 硝子の靴が、白い床を踏んだ。

 エラが走り出す。

 博士は、実験体へ手を伸ばした。


「ニューロシーズ、ブロックだ!」


 巨体が、城の前へ入ってくる。

 濡れた巨体が、少女の進む先を塞いだ。


「その攻撃は、実験体に受けさせる! 次は私のターンだ。君の手品も、そこで――」

 

 俺は、目の前に浮かび上がった本からエクシードを引き抜いた。


「次のターン? 来るわけねぇだろ」



 《豊穣の盟約》緑・0F/0C

 コンコルディア/アクション

 あなたのフィールドにあるカードを好きな枚数選び、それらをアクティブ状態であなたのファクターに置く。

 ―

 差し出したものは、やがて実りとなって帰る。それが、彼らの交わした約束だった。


 ---

 

 《星屑のティアラ》白・3F/2C

 フェイブルーン/リンク

 あなたのユニット1体にリンクする。

 リンク先のユニットは、自身にリンクしている「フェイブルーン」リンク1枚につき、+1/+1の修整を受ける。

 ―

 かつて灰をかぶっていたその髪に、今夜は星が飾られている。

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