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《リミットレス•シンデレラ》②


(ふーん。やるじゃん。普通にピンチだ)


 啖呵を切っておいてアレだが、仮に負けてもシオンがどうにかしてくれるだろう。

 それでも駄目なら、教会がカチコミに来るはず。

 その後、リディアにアホほど煽られるが。

 絶対ヤダな。


 俺は手札を揃えて眼前の巨体を見る。 

 廊下の三人には、こいつが見えていない。

 よかったような、惜しいような。

 せっかくならレッカにも、この手の派手な初動を見せてやりたかった。

 まぁ、闇のカード抜きでやるべき話だが。


「では、わたくしのターンですわ。二枚ドロー」


 手札へ来た二枚を見る。

 《新緑のブローチ》と、《豊穣の盟約》。

 初手も、もう一度眺める。

 《むかしむかし》、《屋根裏の小さな猫》、《魔力の結晶化》、《舞踏会の静寂》。それに、ファクターへ置くための《若獣の首飾り》。

 うーん、完璧。ひとまず耐えた。

 あの実験体をぶっ倒すための第一関門は突破だ。


「まずは《むかしむかし》をプレイいたしますわ。このクロッシングで、わたくしが最初にプレイするカードですので、0ファクター、0コスト。無属性として使わせていただきますわね」


 フェイブルーンの最強初動、むかむか。

 普通に使うなら、1コストで山札の上から5枚を見て、その中のフェイブルーンのカードを1枚手札に加える。

 ところが、自分がこのゲームで最初にプレイするカードなら、0コストで山札全体から好きなフェイブルーンのカードを持ってこられる。

 フェイブルーンの初動が安定している理由の一つだ。

 

 俺は山札を開き、《夜会支度の魔法使い》を探した。

 公開して手札に加え、山札をシャッフルする。

 博士の視線が、魔法使いの札を追った。


「ほう。舞踏会の支度かね? 私の研究成果を前に、実にのんきだ!」

「支度は大切ですもの。準備不足は禁物なのでしょう?」


 今日は、特に。


 俺は、手札を少し開いた。

 結晶化に、猫。静寂。

 今探した魔法使いと、ブローチと、盟約。

 ファクターに置く首飾りを、手前へ寄せる。


「では、《若獣の首飾り》をファクターへ。《魔力の結晶化》をプレイいたしますわ」


 緑の首飾りに、小さな結晶が並ぶ。

 どちらもアクティブ。ファクターは二枚になった。


「首飾りをスリープにして1コスト。《屋根裏の小さな猫》をプレイいたしますわ」


 培養槽の足元を、小さな猫が歩いてきた。

 0/1。実験体の足元へ置けば、見落としそうな大きさだ。

 博士は手札へ指をかけたが、まだカードは出さなかった。

 俺は猫の登場時能力を解決し、山札の上の二枚を見る。

 《新緑のブローチ》と、《誓約の執行者》。

 白いカードがあった。第二関門突破。


「一枚を手札へ。《誓約の執行者》をファクターに置きますわ」


 白の執行者が、アクティブのファクターへ収まった。

 これで三枚。眠った緑の首飾りに、起きた結晶化と執行者。

 白の色条件も揃った。

 手元には、二枚のブローチがある。


 俺は向かいの、眠ったファクターを見る。

 相手の使用済みエクシードを見る。

 最後に、ニューロシーズの表示へ目を戻した。


「一つ、確認してもよろしいかしら」

「ほう、質問かね? よろしい。実験記録は、正確に読まねばならん!」

「実験体のサイズは81/81。そちらのライフは四十。リベレーションは、先ほど使用済みでよろしいですわね?」

「そのとおり! 我々の成果を、よく見ておきたまえ!」

「では、一たす二十たす二十八は?」


 博士が、片眉を上げた。


「四十九。それがどうしたのかね?」

「ええ。次に、四十九たす五十四たす三は?」

「百六だ。君の算数の授業まで引き受けた覚えはないがねえ」

「さらに、百六たす十八かける二は、百四十二でよろしくて?」

「そうだとも」

「では最後です。百二十一ひく百四十二。マイナス二十一で間違いありませんわね?」

「合っている! 計算結果はもう充分だろう。君の質問と、私の研究に、何の関係がある!」


 博士は、面倒くさそうに鼻を鳴らした。

 俺は、にっこりと笑った。


「検算にご協力、感謝いたしますわ」

「さっきから何を確認している! 私を馬鹿にしているのか!」

「ええ。ですけれど、確認は大切ですの」

「確認、だと?」


 笑ってはいるが、確認は本気だ。

 前の世界には、世界選手権の準決勝で足し算を間違えて負けた奴がいた。

 相手に負けたのではなく、足し算に負けたのである。


 あれは、ちょっとつらい。

 勝てると思って効果を起動した後で、計算が違っていると指摘される。

 しかも、間違いに気づいて卓に崩れ落ちる瞬間が、ビデオカバレージに残っている。

 想像しただけで、座り直す足が重くなる。


 やらかしたやつの名前なんてったけー。

 「し」から始まって「ん」で終わるような気がするんだけどなー。


 まぁ、そんな訳で俺は指差し確認派だ。


 博士は、残った札を持ち直した。

 それが使えるうちに、魔法使いやエラを差し出すつもりはない。


「執行者をスリープにして1コスト。《舞踏会の静寂》ですわ!」


 城の窓に、明かりが灯った。

 培養槽の下へ、白い床が広がっていく。

 

「このターン、あなたはカードをプレイできませんわ。この舞踏会には、お静かにお付き合いくださいませ」

「よかろう! その少女が出てきても、私のターンに処分すればよいだけだからねえ!」

 

 まずは、除去が魔法使いやエラへ届く前に封じた。

 大きな実験体は、そのまま残っている。

 こちらが倒すべき相手は、初めからあれだ。


 俺のファクターは三枚で、アクティブは一枚。

 手札には、魔法使い、二枚のブローチ、盟約。

 主人公のエラは、いつもどおり除外で出番を待っている。


 俺は手札の四枚を、使う順番に揃えた。

 向かいには、大きな実験体が立っている。

 81/81の向こうに、ライフが40。

 靴と舞踏服。ティアラに、最後のシンデレラ。

 白銀の飾り紐は、三枚ともエラに残す。

 これからつけるリンクを思い浮かべ、必要な打点を数える。

 最後に一度ハンドをシャッフルし、《豊穣の盟約》を指が弾いた。


(確認完了)


 すまんな、博士。

 さっき、こ(・)の(・)タ(・)ー(・)ン(・)は(・)カードをプレイできないと言ったな。

 あれは嘘じゃ。


 手札の向こうに見える博士は、まだ笑っている。

 どうぞ。そのままで。


(もうあんたがこのゲームで、カードをプレイすることはない)


 俺は顔を上げた。


(御無礼、無(・)事(・)ワ(・)ン(・)タ(・)ー(・)ン(・)キ(・)ル(・)だ。それでは、対戦よろしくお願いします)

 《むかしむかし》緑・1F/1C

 フェイブルーン/アクション

 このカードがこのゲームであなたが最初にプレイするカードであるならば、このカードの必要FとCを0とし、無属性のカードであるかのようにプレイしてもよい。

 このカードがこのゲームであなたが最初にプレイしたカードであるならば、あなたのデッキから「フェイブルーン」カード1枚を探し、公開して手札に加える。

 そうでないならば、あなたのデッキの上から5枚を見て、その中から「フェイブルーン」カード1枚を公開して手札に加え、残りを好きな順番でデッキの一番下に置く。

 ―

 物語は、いつもその言葉から始まる。

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