《リミットレス•シンデレラ》①
足元に、冷たい光の走る床が広がった。
壁のあったところには、透明な培養槽が並んでいる。青白い液体の中で、何かがゆっくり動いた。
博士の背後へ浮いたワールド名を、もう一度見る。
《ディスジェネシア》。
なるほど。研究所で研究者が使うには、たいへん分かりやすい。
墓地から離れた札を研究カウンターへ変え、それをユニットの強化に使うワールドだ。
何を墓地へ送り、どう取り出すか。手順が揃えば、一気に大きくなる。
「先攻は私だ! さあ、実験を始めようじゃないか!」
博士が一枚引き、手札を広げた。
黒いホルダーの表面を、脈のような光が走る。
「共鳴率を見たまえ! 通常のプレイヤーでは、到達できん数値だ。実に美しい!」
数字が、ホルダーの上に乗ったよくわからん装置で跳ねた。
俺は、わけわからん数字より先にカードを見た。
何を引けているか。
そのカードで、何をするのか。
そちらを見ないと、対戦にならない。
黒いカードが、ファクターエリアへ置かれる。
続けて《魔力の結晶化》。小さな結晶が、アクティブのファクターへ収まった。
「0コスト、《実験資材の徴発》! デッキの上から三枚を、スリープ状態でファクターへ!」
三枚の札が、博士の前へ並んだ。
その中には、青のカードもある。
ファクターは五枚。黒の札と結晶化が起きていて、徴発で置いた三枚が眠っている。
青と黒の色条件も、これで揃った。
「5ファクター、3コスト! 二枚をスリープにし、一枚を破棄して支払う!」
黒の札と結晶化が眠り、徴発で置いた札の一枚が墓地へ落ちた。
ファクターは四枚。すべてスリープだ。
博士が、次のカードを高く掲げる。
「生命の限界という常識を砕け! 探求の終点という幻想を打ち破れ! そして、人智を超える可能性を今こそ示せ!」
培養槽の液体が、激しく泡立った。
ガラスの向こうから、長い腕が伸びる。
「進化理論、実証開始――《叡智の異端、ニューロシーズ》!」
指先が透明な壁を押し開き、濡れた巨体が床へ降りた。
背中と頭部から伸びる管を、青い光が走る。
そのたびに、身体の輪郭が脈を打った。
表示は、4/4。
だが、俺が見ていたのは、その下の能力欄だ。
「登場時のアビリティ! まず、私の墓地をすべて除外する!」
《実験資材の徴発》と、今コストに使った札。
二枚が墓地から離れた。
「続いて、デッキのすべてを墓地へ! 先に除外したカードは、ランダムな順番でデッキへ戻す!」
山札が、丸ごと墓地へ落ちた。
それから、さっきの二枚が山札へ戻る。
引くのを待っていた札が、もう墓地に積まれている。
五十一枚。
登場時の処理が終わると、ワールドへ小さな光が二つ灯った。
先に墓地から離れた二枚が、研究カウンターになったのだ。
次に何をするかは、分かった。
「そして、エクシード、ディサイド!」
博士がカードを高く掲げると、頭上で雷鳴が轟いた。
「積み重ねた叡智を束ね、生命の限界を超えよ! 理論の正しさを証明し、探究の終点を否定せよ! そして、人智を超えた到達点を、今こそ見よ!」
稲妻が、掲げたカードへ落ちた。
青白い閃光が、博士の笑みを照らす。
「進化理論、実証完了――《シンギュラリティ・インテグレーション》!」
お約束だけど、ノリノリだな。博士。
そんだけキャラ立ってたらプロリーグでも人気者を目指せるぞ。
まぁ、悪の道に進んだばかりに俺にしばかれる運命な訳だが。
博士の墓地に積まれた札が、すべて浮き上がった。
一枚残らず、除外へ送られる。
「五十一枚を除外! 同じ数の+1/+1カウンターを、ニューロシーズへ!」
青黒い光が、実験体の身体へ吸い込まれていく。
+1/+1カウンターが五十一個。
4/4に加わり、表示は55/55へ変わった。
まだ、終わりではない。
《ディスジェネシア》へ、さらに五十一個の研究カウンターが乗る。
先ほどの二個と合わせて、五十三個。
「失われた資材も、研究には役立つのだよ! 研究カウンターを二個ずつ取り除き、実験体へ+1/+1カウンターを一個ずつ!」
ワールドに灯った光が、次々に消えた。
代わりに、ニューロシーズの肩が膨らみ、腕が太くなる。
研究カウンターを五十二個使い、さらに二十六個の強化。
元の4/4に、五十一と二十六。
表示が、81/81で止まった。
ワールドには、使い切れない研究カウンターが一個だけ残る。
「カウンターは、とっくに20個以上! インテグレーションによって、この実験体は"不滅"を持ち、君のカードの効果の対象にもならん!」
"不滅"——相手のカードの効果では、フィールドを離れない能力だ。
そのうえ、対象にも取れない。
いつもの除去を、いつものように使って退かすことはできない。
ニューロシーズの足元へ、青黒い光が広がった。
培養槽の影が、巨体の下へ沈んでいく。
81/81。
たいへん立派な数字である。
初期ライフの倍より、さらに一点大きい。
シオンが長いこと育てていた魚より、さらにでかいものが、最初のターンでもう立っている。
「しかも"貫通"、"突破"! この実験体の戦闘ダメージは、軽減も無効化もされず、君のユニットたちの防御を貫く。さあ、お嬢さん。何を差し向けてくれるのかね?」
倒す方法を聞かれれば、ある。
あのタフネスを超え、プレイヤーごと葬り去る打点を用意すればよい。
たいへん分かりやすい。
博士が、残った手札を持ち直した。
二枚。
山札にも、二枚残っている。
よく回したな。そこだけは、素直に感心する。
次のターンにも引けるよう、山札を残しながら、あの大きさを作っている。
「もちろん、君のエラも調べてあるとも。対象を取らず、ユニットを選んで破棄する札も用意してある! 実験に、準備不足は禁物だからねえ!」
博士が残った手札を公開する。
《不適合個体の処分》。相手がこちらのユニットを選んで破棄するアクション。
対象を取っていないため、エラにも有効だ。
「まぁ。よくご存じですのね」
「当然だ! 比較する相手を知らずに、何を実証できるというのか!」
情報収集は大切だ。
それについては、俺も異論がない。
ただ、カードの名前を知っていることと、デッキの中身を知っていることは、別の話である。
「ターンエンド! ああ、徴発した資材の精算も、忘れてはいけないねえ!」
《実験資材の徴発》の終了時の効果で、ファクターが一枚、墓地へ落ちた。
残りは三枚。すべてスリープ。
《不適合個体の処分》のファクターは3。当然、プレイ可能だ。
大きくしただけで、何も使えずに終わりではない。
こういうところは、見落としてはいけない。
ニューロシーズは、その場に残った。
81/81。不滅。貫通。
まともに受ければ、ライフは残らない。
第一ターンにして、事実上のラストターン。
実に分かりやすい盤面だった。
《叡智の異端、ニューロシーズ》青黒・5F/3C
ディスジェネシア/レジェンド・ユニット[ニューロシーズ]/実験体
"貫通"、"突破"
このユニットがフィールドに出たとき、あなたの墓地にあるカードをすべて除外する。その後、あなたのデッキにあるカードをすべて墓地に置く。この能力で除外したカードをランダムな順番であなたのデッキに置く。
4/4
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あらゆる知識を与えた。従う理由だけは、教えられなかった。
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《シンギュラリティ・インテグレーション》
ディスジェネシア/エクシード
あなたの墓地にあるカードをすべて除外する。
あなたのレジェンド・ユニット1体を選ぶ。そのユニットに、この効果で除外したカードの枚数に等しい数の+1/+1カウンターを置く。
この効果で+1/+1カウンターを20個以上置いたなら、そのユニットは"不滅"と「このユニットは、相手のカードの効果の対象にならない。」を得る。
(不滅を持つユニットは、相手のカードの効果で場を離れない)
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失敗作など、一体もいなかった。すべては、これを完成させるための部品だった。




