後日談 俺の友人が上司部下の関係で隊内恋愛した。本当にやりやがったな。
「太陽の娘」は今日も女たちの嬌声が飛び交い、眩いほどシャンデリアが輝いていた。サロンのソファに座ったエイドリアンは給仕の男からサービスのシャンパンを受け取った。
「エイドリアン〜、久しぶりじゃない〜。 なんだかあなたたち大変そうね」
面白そうにアンジェリカが微笑みながら、隣に座りエイドリアンに擦り寄ってエイドリアンが咥えた煙草にライターで火をつけた。
「ああ、もう大変だよ。守秘義務でなんにも言えないが」
エイドリアンは紫煙を吐き出しながら答えた。
「私だって、新聞くらい読むのよ。野に咲くスミレが、まさかあんなことになるなんて」
誰が聞いているかわからないので、アンジェリカはヴァイオレットのことを野に咲くスミレと表現した。「ヴァイオレット」「ランドルフ」「王女」などという単語は並べてはならない。新聞にセンセーショナルに書き立てられてしまったから。
「私、あの子に誘惑の仕方を教えてしまったの。まさかあんな怪物になるなんて」
「…そうか。お前も加担してたんだな」
二人の表情は似ていた。きっと同じ感情を共有しているのだと確信があった。
「まさか本当に、婚約までするとは」
エイドリアンは信じられないと思いつつも、剣が鞘に収まったような奇妙な納得感を感じていた。ヴァイオレットが愛するなら、ランドルフしかいないだろう。
ランドルフはヴァイオレット以外の女──例えばソフィア・フィッツジェラルドと結婚しても表面上はうまくやるだろうが、ランドルフの抱える空虚な渇きを救ってやれるのはヴァイオレットだけなんじゃないかと思うのだ。
ランドルフはヴァイオレットが他の男、それこそ同年代の男と結ばれてランドルフから離れて行ったら、ランドルフは表面上では何も変わらないだろうが静かに壊れていく気がした。
そしてある日、ぱったりと生きる気力を無くして煙のように消えてしまうのではないか。そんな儚さがランドルフにはあった。
本人たちが幸せなら、それでいいが。だが、周囲が感じる言葉にあらわし難い「でも、なんか嫌だ」と言う感情を拭うことは難しい。第二課の連中も、エイドリアンと同じ気持ちだろう。
「スミレちゃんとは喧嘩別れみたいになっちゃったし、立場も違うからもう会うことはないでしょね」
一国の王女と娼婦を繋ぐものは何一つない。しかし、二人は確かに知り合いで化粧を教えたり、誘惑の仕方を教えたりと、エイドリアンから見て姉妹のように仲が良かった時期はあったのだ。
「検閲が入るが、手紙くらいなら届けてやれるぞ」
エイドリアンはシャンパンのグラスに手を伸ばしながら気を利かせようとした。
「手紙に書くようなことなんて無いわ。せいぜいガブリエラが失恋して、私に当たるからその愚痴くらいね。私なんかと繋がりがあったとばれる方があの子にはよくないのよ」
アンジェリカは髪をかきあげながら、瞳に滲む涙を隠そうとした。
「これはただの独り言だけどな、とあるお姫様が淑女教育を受けたときに、教育係に『娼婦の友人からはこう教わった』と言って誘惑術を披露し、教育係を卒倒させたそうだ」
エイドリアンの言葉に「それ、話しちゃっていいの?」とアンジェリカは思わず吹き出した。
「あの子、まだ私を友達だと思ってるの? でも、新しい便箋を用意する理由ができたわ」
アンジェリカは涙を引っ込めようとくしゃりと笑った。




