ルルとウルフ
ファムルスだ。
「ファムルスよ」
声が重なった。
少女だと言うのになんて禍々しい気配をさせているんだ。
「ねぇ、ウルフ。どっちと思う?」
「………」
ゾワリと悪寒が走る。
源本なんか目じゃないほどのヤバイ気配。感情の無い瞳からはただただ殺気だけが伝わってきて、息が詰まりそうになる。
レベルの差がありすぎる…。なんとかして一旦引かないと、俺はもちろん、ジキルもアイリも殺られる。
視線がこちらを向く。
「…あっちの男」
「やっぱりそう思った?あの女も気になってたんだけどー、やっぱりファムルスは男がなるものよねー」
アイリを少しずつ移動させて十字架の影へ。
「ねえー!そこの神父みたいなファムルス!」
少女が呼び掛けてきた。
「…なんだ」
すぐに返事が返ってきたことに満足したのかフフンと嬉しそうに鼻で笑う少女。
「あんたさぁー!聖杯の欠片持ってない?全部丸々っと大人しく渡すって言うなら命だけは見逃してあげていいけどー?ほら、今回はファムルスの潰しあいじゃないみたいだしー!」
穏便に済むならなんでも渡してやるさ。
持ってたらだけどな。
「すまんが、俺は君の望むものを持っていないんだ」
少女の目が不信感を露に細められる。
「嘘ついても無駄よ。いくら隠しても、暴く術はあるって言ってたでしょ?ほら!出しなさい!」
一瞬体に違和感が駆け抜けたが、それ以外は何も無い。
もしかして今、聖杯を暴くという例のやつをやられたのか?
何も変化の無い俺に予想外とばかりに驚く少女。
「うっわ。ルル吃驚したんだけど。同じファムルスなのにここまで性能が違うなんて、かわいそー」
放っておいてくれ。
「もういいか?こんな何の役にも立たない一般人みたいな奴よりも、もっと欠片をたくさん持ってるファムルスの方に行った方がいい」
冷や汗が流れる。
何としてでもこの二人を逃がさないと。
「うーん、そーねー…」
だが、少女、ルルはこてんと頭を横に倒しながら考え、無邪気な笑顔を浮かべる。
「…やっぱり殺そう! ファムルスと戦った方が、うちのウルフがもっともーっと強くなるだろうし…、ね!」
ぶわりと少女から敵意が放たれる。
「ウルフ!出来るだけ遊んでから殺しなさい!!」
くそったれが!!!
男の手から細長いモノが形成され、それが緩やかな弧を描いて形となる。金色の大弓。
引かれる矢がこちらを向く。
「ジキル!!アイリ!!今すぐ走れ!!!」
十字架を盾にする。
飛んできた矢が十字架にぶつかり、体に凄まじい衝撃波が襲い掛かる。
「ぐっっうっ!!!」
あまりの衝撃に地面に踏ん張った跡が伸びる。
何とか耐えられたが…っ!
手が震える。
次は耐えきれるかわからない。
「ふーん、やっぱりその十字架が武器か。ウルフ、今度はもっと威力を上げて」
まだ威力が上がるのか!?
ウルフと呼ばれた男がまた何処からともなく矢を取り出すと弓につがえる。
「まこっちゃんになにするんだ!!!!」
放たれようとした瞬間、ジキルが飛び出し銃を放つ。
ジキルの銃から飛び出した弾は、二人ではなく地面へと着弾。すると瓦礫が爆発によって吹き飛ばされ、視界を遮る。
ジキルの手が俺の手を掴む。
「こっち…!」
「神父さまはやくはやく!」
ジキルとアイリに手を引かれ、二人の視界が晴れる前にその場から全力で逃走した。
ふーん、とルルは口許に指を置き、楽しげに笑う。
三つの気配が遠ざかっていく。
今すぐにでもウルフに矢をあの方向へと射てと命令することは出来るけど、ルルはそれじゃあつまらないと命令しなかった。
ファムルス同士が戦うと、戦闘技能のレベルが跳ね上がる。
前回の聖戦ではそのせいでほぼ全てのファムルスが災害のようになっていたが、今回はそうはならない。
だけど、ルルが求めているのは前回の聖戦のような強いファムルスだ。
だからウルフを効率良く育て上げる為に色々と手を尽くしている。
肩にある一模様が消えた契約印を撫でながら、ルルはウルフへと視線を向けた。
「ウルフ、あのファムルスはかくれんぼをする気だわ。ゆっくりじっくり追い詰めて、楽しみましょう」
ね?と顔を覗き込むと、感情の無いウルフから「了解」と一言返ってきたのだった。
さぁ、楽しみましょう!
何とか仕上がったのでこれだけでも投稿します




