子連れ神父爆誕
胡座をかいた足の中に子供が収まっている。子供じゃないな、これは幼児か。とにかく全然知らない幼児が俺の腕の中に収まって寝ていたのだ。その傍らに卵の殻が散らばっているのを見れば、きっとあの卵が関係しているのだということは分かった。
ただ、俺はこの卵を壁際に置いて寝た。なのにいつの間にか腕の中に収まっていた。
流石に寝ぼけて抱き込んだりはしない。
「これはどーゆー事だ?ジキル」
「えへへへへ…、いやー、そっちだったかーって感じ」
「感想聞いている訳じゃないんだけどな」
カマを掛けてみたらやはりジキルが関係していた。
溜め息しかでない。
「ううーあぶ、んー、んっん」
「にしても、困った。流石にこんな赤ん坊を抱えて戦うことなどできない」
「う、あう、まんまー」
「ママではない。しかし孵ってしまったのはもうどうしようもないが、そもそもこいつ本当にあのアイトヴァラスか──」
「まんまー!!!」
「はいはい」
話が中断される。
赤ん坊を抱き抱えて背中を軽く叩くと大人しくなる。
それ見てジキルが笑いを堪えているが、お前のせいだぞ?
「とにかくこいつを何とかしないと」
「服とか?」
「…………そうだな。服とか買わないと。あとなんかこれで入れ物とか買ってきてくれ…」
ジキルにエドワード神父から貰ったお金を手渡す。
すると、ジキルはとても嬉しそうに「はーい!」と返事するなり部屋を出ていった。
関係ないものは買わないでくれよ。
足音が遠ざかり、大人しくなった幼児を下ろす。
パッと見は普通の女児だった。
余計なものがついているが。
まず耳。
猫だか狐だか分からんが小さいケモノミミが上の方についている。
そして蛇みたいな尻尾と腰回りの鱗。
背中からは小さい羽みたいなもの。
「ふ…。けひゅんっ!」
咳と共に口から火。
うん。人間ではないな。
だからといって何の生き物なのかも分からん。
「賢者さん」
【《賢者》スキル起動しました】
試しに呼び掛けたら起動した。
便利だな。
「この子、なに?」
【解析します。解析完了しました。
アイトヴァラス??の幼体???error
生態error ??、errorerrorerror
解析できませんでした。終了します】
プツンと《賢者》が切れた。
「賢者すらerror項目」
もうどうしようもない。
「あうあうあう、ん"ーー、まんま、まんまー」
「ママではないと、あ、飯って事か」
しまった。ジキルにミルクとかも頼めばよかった。
「何か食えるもの…」
小麦粉を水に溶かせばなんとかならないか?
幼児をベッドに下ろし、小麦粉小麦粉と鞄を漁っていると、ハイハイしてやってくる。足腰強い。
「ちょっと待て、今お前が食えるもの」
「あーー」
ぱくん、と、押さえようとした手の指を掴み口に入れた。
途端、咥えられている指先から魔力が凄い勢いで吸い取られた。
「…え?」
手を両手で鷲掴んで、ストローでジュースを一気飲みするかのごとくの勢いで魔力が持っていかれる。まてまてまてまて!!!
引き抜こうとしても力が強くて抜けない!!子供の握力か!?これ!!
そしてさっきからこの子供から聞こえるメキメキという音。
しまった人間の子供扱いしてたけど、やっぱりこいつは魔物だった!!
助けてジキル!!!早く帰ってきてくれ!!!!
ようやく食事が終わったらしい。
死ぬかと思った。
ウィンドウには魔力の三分の一持っていかれたと表記されている。だからだろうか。物凄く怠くて動けない。
「ふっん!ふっん!」
そんな中、満腹で満足したらしい幼児は体を揺すって猿の真似をしている。
楽しそうだな。
「まこっちゃーん」
ジキルが帰ってきた。遅かったな。
「なんで伸びてるの?」
「色々あってな…」
「ふーん。てかこの子少し大きくなってない?」
「…は?」
いくら魔物だからってそんなすぐに大きくならないだろう。そう思って見てみると、幼児は二本足で立ち上がり、両手と翼でバランスを取りながら軽いスクワット擬きの動きをして遊んでいた。
嘘だろおい。
服を着せた。
良かったな。猿から進化だ。
「あー、あ、あ?」
さっきから語尾に「?」を付けるのが流行っているのか、「あ?」と良いながらちょっとずつ歩き始めた。怖い。
俺ですらまだ魔力完全回復してないのに、なにこの成長速度。
「名前を決めよう」
「飼うと決めてない」
「ママって呼ばれてるのに?」
「あれは飯の催促のマンマだ。ママではない」
あんよは上手とジキルは幼児の手を取って歩く練習をさせている。
「せっかく孵ったのに、まこっちゃんに親としての気持ちはないのか!?」
「何いってるのか分からん」
「卵暖めて孵したのまこっちゃんだよ?」
「お前が仕込んだせいだろうが」
ようやく回復完了して起き上がれた。
しんどい。
「だとしても呼ぶ名前がないのは可哀想だよ。ねー?」
「………」
幼児をみる。
相変わらずこいつは俺見るときガン見している。
その目をやめろ。ちょっと怖い。
「勝手に決めてくれ」
それに従うから。
「じゃー、アイリ」
「早い」
「考えてた」
飼う気満々じゃないか。
「アイリちゃーん!」
「あいいー」
もう好きにしてくれ。
リュックサックみたいな鞄にアイリが入って自分の足をしゃぶってる。
門番に、なんだその鞄みたいな目で見られたが、エドワード神父直伝のスマイルで乗り切った。
やっぱり神父服補正凄いな。
「ジーキール」
「じーきーう」
「ジーキール」
「じーーきうー」
「うーん、るは難しいか」
鞄の上からアイリが顔を出して後ろのジキルと遊んでいる。
おかしいな。昨日この辺で空に向かってファ●クサイン飛ばしてたはずなのに、なんで一日経ったら子連れ神父になってんだろ。
事実は小説より奇なりってやつか?
「これは?」
「まんま」
「俺の存在飯確定か」
薄々そうだろうとは思ってた。
「まんま」
「まこっちゃんって言ってみ?」
「まおっちゃ」
「ましか言えてない」
もういいよ、まんまで。
俺と分かれば良いから。
「んー、じゃあ神父は?神父さま」
「しんぷしゃま」
「お!言えた言えた!」
前方に町の影が見えてきた。
「しんぷしゃま!!」
「上手ー!!じゃあアイリ!」
「あいいー」
「めっちゃ可愛い」
ポワポワと幸せオーラを撒き散らすジキル。
時に、気のせいだと思うのだが、アイリさんなんかちょっと重くなっている気がするんだけど。
「ジキル止まれ」
「ん?」
一旦止まって鞄からアイリを取り出すと、なんとまた大きくなっていた。赤ん坊体型から3才児体型。お陰でワンピースみたいだった服がちょっと大きい上着になっていて、下半身すっぽんぽん。
「パンツ穿かせよう」
「ん」
さっき大きいからもう少し大きくなってからと別に置いておいたパンツがぴったり。
恐怖を覚える。
「……ボタン閉まらないね」
「そうだな…」
鞄の蓋を閉めるボタンがアイリの頭のせいで閉まらない。
魔物の生態どうなってるの?
【《賢者》を起動しました。errorerrorerrorerrorerror?、?errorerror
レベルが上がりました。
終了します】
そして《賢者》スキルもさっきから呼んでないのに勝手に起動して解析してerror出しては終了してる。
なんなの?
「……えっと」
門番の視線が俺の背中に向けられている。
アイリが鞄から顔を出して門番をガン見しているのだ。
一応ミミはバンダナで隠している。
「なにか?」
「い、いえ!いやー、修行で旅する神父様は珍しくありませんが、子連れなのは初めてなもので」
「俺も初めてこんなになってます。ところで、近くの服屋って何処ですか?あとは魔物の素材が売れる店」
「ああ!でしたらこの道をまっすぐいった所に服屋と、ちょっと奥まった所に素材屋があります。待ってくださいね。これが地図です」
「ありがとうございます」
親切にも門番が手書きの地図をくれた。
ありがたい。
「良い一日を」
「神父様達も良い一日を!」
服屋に寄って、ジキルに大きめの子供服を購入して貰った。
通行人の視線がいたい。
「買ったよ!」
「よし、宿屋だ」
更に重くなっているアイリを早く下ろしたい!!
宿屋の主人に変な目で見られたが、「保護児です!!」と言い張って何とかした。
そしてようやくアイリを下ろすと5歳児くらいになっていた。
「あいりー!!」
自分の名前が言えるようになっている。
怖い。明日にはどうなっているのか。
「結構良い感じじゃん?」
なのにジキルは楽しそうにアイリの服を着せて髪を鋤いていた。あれ?髪の毛長くなってない?
「しんぷしゃま!!」
「それになったの」
良かった。まんまじゃなくて。
見てみればアイリはもう安定して歩いたりジャンプしたりしていた。
謎過ぎる。
「今日はどうするの?」
ジキルが訊ねてきた。
「…取り敢えず、素材屋に行ってから魔物屋に寄るか」




