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誰だお前

瞬きした瞬間に、アイトヴァラスはすぐ目の前に接近していた。

早い!!


咄嗟に巨大化させた十字架にぶつかりアイトヴァラスが大きく仰け反る。だが、アイトヴァラスは諦めず、炎が付いた尻尾を鞭のようにしならせて攻撃を仕掛けてきた。壁がわりにと発動した円形結界が尻尾の軌道を反らし、回避行動に移った俺の目の前を薙いでいく。


「いっ!?」


ずるっと、回避した弾みで足元の踏み台にしていた根っこが滑り、体制が崩れた。


ガチンと目の前でアイトヴァラスの牙か閉じられる。

幸いにも体制が崩れたことにより、アイトヴァラスの噛み付きを回避できたようだが、代償として十字架ごと下に転がり落ちた。


「まこっちゃん!!??」


ガッと十字架を巨大化させていたお陰で途中の木に引っ掛かって事なきを得たが、やはりジキルの危惧通り地形の悪さは俺達にとって不利だ。


魔力をだいぶ使ってしまうが、仕方ない。


十字架によじ登り、魔力を腕に集中させると土に触れ魔法を発動させた。


《土魔法、アースローラー》


ズズンと山が揺れ、俺の上の方から土が動き出す。

土が麺棒で伸ばされた生地の様に平らに均されていく。この魔法は土だけに作用するから木などの根が剥き出しになったり埋まったりして自然破壊そのものだが、こちとら命がかかっているから気にしている暇などない。


「ジキル!!無事か!?」


出来上がった台座によじ登り安否を確認すると、ジキルがアイトヴァラスとなんとかやりあっていた。


「まこっちゃんありがとう!!これで少しは動ける!!っけど!!」


ジキルの銃が火を吹き、発射された弾が三発とも当たったがどれも無傷のようであった。


「効いてない!!」

「みたいだな」


すぐさまジキルとの間に入って十字架でアイトヴァラスの全ての攻撃を受けながら陽動を務めるが、軽い攻撃であるのに吹っ飛ばれそうなほどの重みと衝撃が襲い。大砲並みのジキルの銃弾は全くもって効果がないように見える。


耐久値が高いのか?

防御魔法が凄いのか?

どっちかわからんがこのままだと俺達がやられそうだ。


「!」


その時、アイトヴァラスの動きがおかしいことに気が付いた。絶対に俺達を一定の方向から動かさないようにしている感じだ。

アイトヴァラスが決めた線から一歩でも踏み出せば攻撃が激しくなる。


「……なんかあるのか?」


《気配探知》には引っ掛かりはないが、この攻撃の仕方には少しだけ身に覚えがあった。

小さい頃、公園でカラスに襲われたことがある。そうだ、この攻撃の仕方はあれに似ている。


方向を見定め、恐らく彼処にあるだろうと目星をつけた。


「ジキル!!俺が示す方向に向かってぶっ放せ!!」


指先で示した方向にジキルが銃弾を放った。

アイトヴァラスが銃弾を追って方向転換をした。


やはり、だ!!


土が抉れ、土埃が舞う。

アイトヴァラスが踞り、ジキルの全ての銃弾を受け流すことなく全て受けた。


ルルルルルと、高い唸り声を上げてアイトヴァラスの魔力が一気に練り上げられる。おや?ちょっとこれはマズイかもだ。


ガパッとアイトヴァラスの口が開けられるのと同時に、結界魔法を重ねて展開した。

次の瞬間、アイトヴァラスの口から光の柱が放たれた。


柱に接触した途端、結界が卵の殻を砕く様に弾けとんだ。

これは全くの予想外。


「まこっ─うわ!!」


十字架を更に巨大化させ、ジキルに覆い被さる。

凄まじい熱で肌が焼かれたが、攻撃時間は長くなかったようで、すぐに威力が下がり、消えた。


『ギャルルルルルルル!!!』


頭上を影が通過していく。

アイトヴァラスがコウモリの羽を大きく開き、飛んでいった。

その足には卵が二個鷲掴みにされていた。


アイトヴァラスの影は遠ざかり、空の中へと消えていった。

やっぱり卵を守っていたのか。


「まこっちゃん!怪我!!」

「ん?ああ」


すぐさま焼けた肌を回復魔法で治療した。

神父服は無事。


うまく魔法陣が働いたようだった。


「おお…、これは凄いな」


辺りを見渡して驚いた。先程の光の柱が通過したところがマグマのように溶かされ、木々は消滅していた。

しかし、十字架は無事。


俺達のいるところは丁度十字架の影であった。


これ、十字架無かったら消し炭になっていたかもな。


「ジキルは怪我は大丈夫か?」

「私は平気だよ」

「ならよかった」


十字架を橋にして無事だった地面へと移動した。


「にしても、ビックリしたね。なんで最初からあのビーム撃たなかったんだろう?」

「衝撃が凄かったからな。卵に影響が出るから撃たなかったのかもしれない」


実際あのビームの衝撃波は凄かった。当たっていない木でさえ衝撃波で葉っぱが全部無くなって、しかも枝までもが殆ど折れていた。


「あ、もしかしてこれが巣かなぁ?」


最後にアイトヴァラスが何かを守っていた場所へと向かうと、枝と葉っぱで作られた大きな巣があった。地面に掘られた穴いっぱいに鳥の巣のようなものが作られている。


「…?」


その巣の外に、銀色のものが転がっていた。


「卵か?」


しかし、さっき飛んでいったアイトヴァラスは卵を掴んでいた。


「まこっちゃん、この卵ヒビ入っている」

「ほんとだな」


卵には大きなヒビが走っており、中身が少し出ていた。

触ってみるとひんやりと冷たい。育児放棄されていた卵のようだ。


【《賢者》が起動しました。解析完了。

アイトヴァラスの生態。一度に三個の卵を産み、その中から気に入った卵を二個選んで育てる。一個は敵に襲われたときの囮や子供が孵化したときの食料として巣の外に放棄される】


「…確かに卵は栄養豊富だが…」


自分の産んだ子を兄弟に食べさせるのか。


「この欠片って、この卵のかな?」


ジキルが傍らに落ちていた銀色のものを拾い上げた。

形からしてそうだろう。


「だろうな。って何してる」

「くっつくかなって」

「無理だろ」


ジキルが欠片を嵌め込もうとしているが落ちてしまう。


いや、待てよ?

魔物の卵は高値で売れると聞いた事があるな。


「ジキル」

「ん?」


ジキルから欠片を受け取り、卵に嵌め込んで魔力を注ぎ込む。

使っているのは《回復魔法》と《彫刻》スキルだ。

この魔物の卵を何に使うのか知らないが、ヒビの入った卵よりも完全体の卵の方がきっと値段が上がる。


「こんなもんか」


卵を持ち上げてチェックする。

よし、完璧だ。


しかし、ずっしり重いな。流石は魔物の卵。


「それどうするの?」

「町で売る」

「ええーー!!!」


ええーってなんだ。ええーって。


「何のために直したと思っているんだ」

「孵化させるため?」

「孵化させてどうするんだよ」


養う余裕なんて無いぞ。

時間も金も全部だ。


そんな顔しても駄目だ。


「とりあえず俺達のレベルだとボス戦が厳しいのが分かった。やっぱり装備揃えて再挑戦するしかない。その為に金は必要だろ?」

「そうだけどぉー!」


納得いってない顔のジキル。

でも無理なものは無理です。

諦めなさい。


卵を布に包んで背負った。

さて、日が暮れる前に近くの町にいかなくては。
















「神父さま?」

「ええ。この教会に属していました。今は修行で旅をしています」


エドワード神父から貰った証明書を手渡す。

教会からの証明書は信頼度の高いものらしく、門番は俺の服と十字架、そして証明書に視線を移すと許可をくれた。


「そっちの変な格好のは?」

「護衛です。聖戦が始まったと聞きましたので、せめてと」

「ふーん」


ジキルの服を見て、背中の銃をみる。そしてもう一度服。髪、服。

わかる。この世界で奇妙な服なのは理解しているが流石に見すぎだ。一歩前に出て、ジキルの方へと体を傾けると、ハッとした様子で門番は咳払いをして許可書を発行した。


「どうぞごゆっくり」











許可書を見る。

裏には注意書があった。


この世界の文字は文法が日本語と同じだったから覚えるのが早かったが、ダリルの《言語理解》で更に詳しく読むことができた。


「日が暮れる前に町に入れてよかった」

「目的の町じゃなかったけどね」

「明日に到着できれば良い」


その為買い物は無し。

すぐに宿を決め、部屋に隠った。


一部屋だが、ベッドが2つ付いてる。

狭いが、落ち着けるな。


「結界のレベルを上げないといけない」


今回、まさか重ね掛けで一気に破壊されるとは思ってなかった。やはりある程度の強度があるだけじゃだめだな。


「装備を整えたら、コツコツレベル上げしよう…」


横になると、魔力を使いすぎて少し眠くなってきた。

ある程度ならバディ・システムで戻るが、半分以上使うと、きちんと休みを取らないと回復しない。


「ジキル、俺はもう寝る。最後ちゃんと灯りを消してくれ」

「あいあーい」


卵をベッドの壁際に置き、そのまま目をつぶった。












土埃で汚れていた銃を手入れしていると、まこっちゃんの寝息が聞こえてきた。

寝るといって数秒で寝息。はやい。


「まこっちゃーん?」


反応がない。本当に寝ている。


「にしししし…。よーし、悪戯しちゃおう」


そーっとそーっと、まこっちゃんの腕を持ち上げて中に卵を入れる。

せっかく治したんだもん。孵化させたい。

本当に孵化するかわからないけど、まこっちゃんの体温高いし、もし孵化したらペットにして一緒に旅したい。

大人数の方が楽しいしね。


そういえば、昔誰かが教えてくれた、お腹の中の子供に言う言葉があったっけ?


「えーと、 母なる海に揺蕩う子。太陽の恵みを受けて元気に育て。生まれでる君に、主は祝福を与えん 」


卵を撫でながら唱える。

本当に効くのか分からないけど、効いたらいいな。


「ふぁあー。私も寝よう。お休み」


机のランプの灯りを消し、横になった。








もぞもぞと腕の中で何かが動いている。

なんだ?誰だ?ジキルか?


頼むからもうちょっと大人しく…。


「ん?」


唐突に目が覚めた。

なんだこの違和感。


目を開ける。


すると、全く知らない子供が俺の腕の中でこっちをガン見していた。


挿絵(By みてみん)


「……………!!!???」


誰だお前!!!!!

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