懺悔をする
神父の前で、正座をさせられている。
理由は明白であった。
「一応信用して娘を送り出したら、あっという間に一線これられたみたいな気持ちですよ」
「責任は必ず取ります」
「当たり前です」
むしろそれ含めて覚悟したからな。
文字通り“死が二人を分かつまで”ってのが笑えないが。
盛大にため息を吐く神父。
「やってしまったのはもう良いです。そうせざるを得なかった状況だったと言うのもジキルから聞きましたから。すみませんね。怒りの行き先が無かったんです」
「いえ、大丈夫です」
ジキルを大切に思っている神父だ。
怒られるだろうなとは思っていた。
後ろではジキルが能天気に子供達に契約印を見せびらかして自慢していた。楽しそうで何より。
再びため息の神父。
「……少しだけ、一緒に来てもらっても良いですか?」
「? わかりました」
神父に連れられて、ある部屋へとやってくる。
知らない部屋だ。神父の部屋だろうか?
「そこに座って下さい」
促されるままに示された椅子に座った。
すると、神父は部屋の鍵を掛けた。その瞬間、《魔力感知》に大量の魔力反応が表示された。
この部屋全体に強力な結界が張られている。
「消音と、衝撃を無効にする結界です。何かあったときの要塞みたいなものですかね。ここの中では外には音も漏れず、攻撃もある程度なら中和してくれます」
思わず身構えた。
まさか、あの町の関係者とかだったのか。
落ち着け、もし襲われたとしても今はバディ・システムが起動している。易々とはやられないはずだ。
「さて」
警戒している俺に気付いているのかいないのか。神父はすぐ目の前のベッドに腰掛ける。
「これに、見覚えがありますね」
神父がチェスの駒のようなものを取り出し、俺に見せた。
「それ、は」
俺が作戦決行前にレプリカを作りまくっていた時期がある。全部燃やしたと思ったのに、なぜここに。…あ。
そういえば個数が合わない日があった気がする。気のせいかと思っていたが、落としていたのか。いやでも、落としていたんだとしてもなんでこの神父が持っているんだ。
「知っているんですね」
エドワード神父の目が射抜いている。
嘘は許さないと、そういう目だ。
これは誤魔化せそうもないな。
観念して頷いた。
「はい。それは俺が作ったものです」
神父が少し間を置き、そうですか、と言う。
「…此処に居る子供達なんですが、実はとある地域で襲われた商団の生き残りもいましてね、その一人が持っていたものなのです」
「………」
血の気が下がっていく。
あの時の記憶が走馬灯のように駆け抜けていった。
唇が震える。
「そして、ついでに変な噂も立っておりまして、虐殺非道の男が十字架を武器に人を大量に殺し、瞬く間に埋葬して十字架を挿しているというのです。
おかしな話でしょう?人を救うための十字架で人の命を狩りとるのです。なのに、その男は必ず殺した人間を埋葬して墓を作り、悲痛な顔をして祈りを捧げているのだそうです。なんで、そんな不思議なことをするのでしょう」
そんなの俺の勝手な自己満足だ。
こちらの都合で殺してしまったものへの、せめてもの懺悔だった。
「その男は、そのうち神父の姿で現れるようになり、更にわからない行動をし始める。子供を殺す時に、大量の魔力を注ぎ込んでいくらしいのです。しかもその魔力は強力な回復魔法が付属されていて、殺された筈の子供が傷が治った状態で保護される。やっていることがあべこべで、統一性がない。
その時保護された子供がこの十字架を拾いました。
墓に立てられている十字架とそっくりのデザイン。私たちは、十字架を武器にしているその男の事を『クロス』や『磔の悪魔』と呼んでます。しかし、私はなんとなくその男はファムルスなんじゃないかと思っていたのです」
首筋を汗が伝う。
「組んだバディが最悪な人物ならば、ファムルスは最悪の武器に落とされます。きっと己のやっていることが間違っているのを知っていて、それでも許されたいがために十字架を立てているのではないかと。
ただの願望ですがね。
もしかしたらただの愉快犯かもしれない」
神父の目がこちらを向く。
その視線の先には俺の首に掛かっている十字架だ。
「オガ・マコトさん。貴方ですね」
断罪される。
そんな気分だ。
せっかくジキルと良いバディになれると思ったんだが。これも、自業自得ってやつか。
「はい。その通りです」
俺は全てを話した。最初の契約者、ジョンのことから、ダリルを殺して逃げた事も全部。
洗いざらいだ。
それを、神父は遮ることなく全てを聞いた。
時折拳を握り締めていたが、俺が話終えるまでずっとそのまま聞いていてくれた。
全てを語り終え、口を閉じる。
あとは、この神父が俺をどうするかだ。
許されるなんて思ってはいない。
そもそも人の命を奪っておいて許されるわけなんてない。
「オガさん」
ようやく神父が口を開いた。
「ここまでよく頑張りましたね」
予想外な言葉だった。
その予想外な言葉に驚いたのだろうか。ポロリと熱いものが頬を滑り落ちていった。
今の熱いものはなんだ?
手で拭うと濡れていた。
ああ、そうか。
俺は泣くことも忘れていたらしい。
そう思った瞬間、涙が決壊したように止まらなくなった。
エドワード神父も居るし、こんな歳にもなって涙とか恥ずかしいじゃないか。
「ここでの音は外には漏れません。私は外で待っていますから、気がすむまで此処に居て大丈夫ですからね」
優しい笑顔だ。
なるほど、神父とは偉大な職業だ。
外から鍵を閉め、完全な密室になった部屋で、俺は久しぶりに子供のように声を張り上げて泣いた。
「おや?もう良いのですか?」
「ええ。ありがとうございます。エドワード神父」
さすがに泣き晴らした顔では失礼だと、顔を洗って回復魔法を掛けた。
これて少しはましな筈だ。
なのに。
「あー!先生まこっちゃん泣かしたの!?」
何故かジキルにバレた。
俺に抱き付きながら、もう大丈夫だというのに顔を見せろとぶら下がってくる。
ジキルも重いが銃が更に重い。
「あの、それで、あの十字架を持っていた子供は…」
「ああ。もう大丈夫です。彼は部分的に記憶が抜け落ちていて顔など覚えておりませんでした。今ではもうすっかり元気に遊び回っています。せっかく忘れているのに、ほじくりかえしてはいけませんよ」
と、神父は「しー」と口許に人差し指をおいた。
「わかりました」
もし思い出すような事があれば、俺は大人しく罰を受けよう。それしか出来ない。
「それで、これからどうされるのですか?」
一瞬なんの事だろうと思ったが、気付いた。
そうだ。いつまでも此処に居るわけにはいかないのだ。
争奪戦はもう始まっている。こうしている間にもファムルス達は聖杯を探し回っているのだろう。
だけど、バディであるジキルの意見も尊重しなければいけない。
「私はまこっちゃんに付いていくよ。私のファムルスだもん」
と、背中側でぶら下がっているジキルが言う。
ならば、やることは決まっている。
「近いうちに発とうと思っています。聖杯の件もありますが、恐らく俺に追っ手が掛かっているかもしれませんので」
あんなことしておいて追っ手がないとは言い切れない。
「わかりました。では、私も出来る限りの事を貴方に教えたいと思います。覚悟は良いですか?結構スパルタですよ」
何を教えてくれるのかはわからないが、きっと役に立つ事に違いない。なら、得られる全てを吸収していこう。
「よろしくお願いします」




