想定外
馬に乗り、荷台を引く。
スキルを会得するだけで乗馬ができるとか今でも不思議だ。
感覚的には初めて自転車に乗ろうとした瞬間、どこをどうやれば自転車が動くのが知識として全てあり、なおかつ体が“覚えている”と言わんばかりに勝手に動く感じ。
久しぶりに心が穏やかな気がする。
それでもいつ何に襲われるかも(多分源本あたり)知らないから警戒は怠らないが。
あ、そうそう。《剣術》のスキルもレベルが上がっていた。
それでも普通の剣だとやっぱりなんか違和感があって、威力も劣るように感じる。直感だが、源本とやり合えば、初激で剣ごと真っ二つにされるだろう。
俺のステータスは実に不思議なもんで、素手だとほとんど力が出ないのに武器を持てば力が沸いてくる。あのくそ女神のせいだが。一番相性が良いのは勿論十字架だ。バディがいない今はしっくりくる武器が無いってのが心細い。
四六時中剣もって神父の仕事はできないし。いっそ指輪でメリケンサックでも作ってみるか?
「まこっちゃんってさー」
「ん?」
荷台に乗って揺られているジキルが話し掛けてきた。
「ファムルスだって?」
……言った筈はないが、首の痣でバレるものなのか?
「なんでそう思うんだ?」
「先生が首の痣がファムルスのそれって」
やっぱり首のでバレるものか。
隠れるならどうにかした方がいいな、これ。
「確かに俺はファムルスだ」
「武器は?」
「なんだと思う?」
「うーん…、剣じゃないし、魔術って訳でもなさそう…杖ないし」
魔術使う奴は杖が武器なのか。
覚えておこう。
「はっ! わかった!!包丁!!」
「全然ちがう」
というかなんで包丁?
今持ってないだろう。
後ろでわかんない教えてよーとごねてるが、まだ完全に信用していない間は手の内を明かさないだろう。それよりも。
「本当にジキルはファムルスじゃないのか?」
「うん。ちがうよ」
「首に痣があるじゃないか」
三つではなく二つの模様で構成されたそれ。
俺や源本の違って違和感があるが、そういう形なのだと言われれば納得してしまう痣だ。
「それに武器もずっと持ってる」
俺や源本の様に武器を手放さずに側に置いている。
ファムルスの性質か知らないが、近くにないと落ち着かないのだ。
「でもちがう。ジキルもファムルスかと思ってたけど、召喚された記憶ないし、契約できなかったし、バディがいなくても動けるもん。こんなのファムルスじゃない」
「……あの神父がバディじゃないのか?」
てっきりそうだと思ってた。
初っぱな違うと言われたが、何となく違和感が拭えなかった。
こいつは一般人ではないと。
でも契約出来ないというのは引っ掛かる。ファムルスは契約してなんぼ、という認識だからだ。
「先生は先生だよ。拾ってくれたの」
「拾ってくれた?」
「そそ!あんまり覚えてないんだけど、行き倒れてたのを保護されたの」
「それ以前は?」
「それがさぁー、何にも覚えてないんだよねぇー。何となくやらないといけない事は覚えてたんだけど、フワフワってしてておぼつかない?感じ。あ!でもまこっちゃんに呼ばれてたのは分かったよ!」
と、ジキルが俺に向けてグーサイン。
自信満々な所悪いが、完全に人違いだと思う。
でももうそろそろ言い返すのも疲れてきた。
記憶喪失系か。
アニメとかだと割りとキーポイントになりそうだけど。実はどっかの王族とか、やっぱりファムルスだったとか、はたまたラスボスでしたとか。
ジキルを見る。
ないな。
王族やラスボスはない。どっちかって言えばファムルスの顔だ。このどっか頭おかしい感じ、源本そっくりだ。
「なんか変なこと考えてなかった?」
「気のせいだ」
馬から下りる。
何の変哲もない森だ。本当に此処で魔物が暴れているのだろうか?
「まこっちゃん此処で待ってる?」
「何のために着いてきたと思っているんだ?」
「んじゃ、気をつけていこー」
ジキルが先導していく。
バディ・システムがないから能力の全てにデバフのようなマイナス補正が掛かっているが、それでも使えないわけじゃない。《気配探知》で探りながら進んでいく。
しかし、ジキルのこの迷いのなさ。木を避ける以外ほぼ真っ直ぐに進んでいく。
《魔物探知》みたいなスキルでも持っているのか?
自分に干渉してくるスキルなら、俺の《賢者》で解析できるが、レベルが低いのか自分に関係してないと解析できない。
そういえばこの《賢者》どうやってレベル上げるんだ?
「まこっちゃんストップ」
「!」
茂みに身を隠し、ジキルが注意深く前方を観察している。
同じように前方を見ると、タイル柄の彪みたいなのを見付けた。
──【スキル、《賢者》を起動します。確認完了。
モザイク彪、レベル12、獰猛、装飾品としては良質の毛皮が獲れます】
そこで起動するのか。
「んー。あれかな?近くの村の家畜が食われているんだって」
「中東のニュースとかでやってそうな感じだな」
前に町の人たちVSピューマの映像を見たことがある。
「!」
振り返る。
《気配探知》に何か引っ掛かった気がするが、気のせいか?
だが、目を凝らしてもそれらしきものは確認できない。
「そんじゃ行ってくるから、もしまこっちゃんの方に行ったら頑張って」
「…やってはみる」
獣相手は初めてだから自信はないが、なんとかなるだろう。
ジキルがそろりそろりと茂みから出て、ゆっくりとモザイク彪へと接近していく。確実に仕留められる距離まで近付くと、銃を構えた。
そして、狙いを定め、引き金を引いた。
──パキッ
「!? しまっ」
枝を踏む様な音でモザイク彪に感付かれ、弾が外れた。
バチュンとモザイク彪が先程までいた近く樹の幹に着弾。
「まこっちゃん!!とおせんぼ!!」
俺の所へと逃げてきたモザイク彪に向かって飛び掛かる。毛皮を掴み引きずり倒そうとするが、攻撃力の低い俺がうまくいくわけがない。
「うおおお!!??」
気付けば服を噛まれて地面に押し付けられ、大きな牙が迫っていた。
ガチンと振り上げた剣が牙を防ぐ。
武器を持てば力が出る。そのためなんとか拮抗を保てているのだが、それがジリジリと押されてきていた。
「ナイスまこっちゃん!!」
地面に転がる俺の側に着地したジキルが、モザイク彪に向かって発砲した。バスンと呆気ない音をさせてモザイク彪の脳天に穴が開き、ぐらりと傾いて倒れた。
「……はぁ」
盛大に血で汚れた。
袖で顔を拭きながら起き上がる。危なかった。剣がミシミシいっていたから、最終的に腕一本犠牲になるかと思った。
「もう、まこっちゃんあのタイミングで枝を踏むのはダメじゃん」
は?俺じゃないぞ。
「俺じゃない。てかあれはジキルじゃ──」
「はいそこまでー」
「!?」
ないのか?といい終える前に知らない男の声が言葉を被せてきた。恰幅のいい男がジキルを羽交い締めにして口を押さえている。
誰だ。
「動くなよ」
頭に当たる固い感触。
しまった囲まれた。
「あーあ、脳天に穴が空いてらぁ。売りもんの価値が下がるじゃねーか」
「あそこでこいつが枝を踏んだからだよ」
「すんません」
「あとで仕置きだからな」
盗賊か?
《気配探知》に引っ掛かるだけでも8人はいる。
くそ。なんでもっと早くに気が付かなかった。
「んー!!んー!!」
「暴れない暴れない」
「んむうー!!!」
バタバタとジキルが暴れている。
だが、男を振りほどく程ではない為、恰幅のいい男が片手で押さえ込めてしまっている。
「ヒュー。良い銃じゃねーか。こりゃ高くつくんじゃねぇ?」
「こっちの女のが高く売れるだろう」
こいつら…。
久しぶりに殺意が沸き始めた。
くそ、十字架が使えたなら今すぐに埋葬するのに。
「男はどうする?神父みたいだけど」
「……ふむ」
俺を見て、一旦考え込む男。
「奴隷落ちだな。この二人は一旦縛ってろ」
「へい」




