教会生活
教会に来てから3日経過した。
俺は何故か今、ここで神父として働いている。
理由としては、あれだ。
神父の大きな誤解と、ジキルが誤解したまま俺の事を神父なのだと子供達に広めてしまったからだ。
まぁ、確かにいつも十字架持ち歩いているし、他人から見たら聖書に見えるらしい魔導書を持ち歩いていればそっち関係なのだろう思うのは当然だった。しかも神父服も持っていたのが何よりの証拠みたいな顔をされてしまえば、俺はもう何も言い返せなかった。
完全な俺のミスだ。なんで持ってきてしまったんだ。
多分、精神力が惜しかったからだろう。
俺のばか野郎。
「神父さまー。なんでエド神父さまと服が違うの?」
「しんぷさま、ごはん作るのうまいね」
「これ読んで神父さま」
「神父さまー!神父さまー!」
わらわらと子供に付きまとわれている。
ええい邪魔だ。勉強ができん。
「まこっちゃん大人気。ずるい」
「その呼び方を止めてくれ」
隣でジキルが良いなーと見ている。是非とも交代してくれ。
さすがにこの人数は鬱陶しい。
「本当に料理が美味しかったですよ。前に居た教会の子供達もさぞかし喜んだでしょうね」
「…………」
誤解を解くのがめんどくさくなってきた。
といっても料理を作るのは楽しい。元々はアニメの影響で始めたもので、神父の仕事で包丁を握った瞬間に思い出しただけだ。
わりと体は覚えているらしい。
だからなのか、無かったはずの《料理》スキルが発現した瞬間、一気にレベル27へと飛び級した。ぶっ飛びすぎだ。バディ・システムも起動してないのに。
体の怠さは相変わらず抜けないが、だんだんこの怠さが普通だった気さえしてくる。本当にバディ・システムは麻薬のようなものなのだと実感している。
シーツを干しながらウィンドウでスキルの確認をした。
はやりというか、《鞭打ち技術》だの《拷問術》だの完全に未成年閲覧禁止の単語のスキルが羅列している。本当に録でもない奴だったんだなと。いや、むしろアレでまともだったら怖いか。それでも《乗馬》やら相手の嘘などを見抜くための《観察眼》などは役に立つものもあってホッとしている。
「まぁ、今契約してないから全然レベル上がんないけど」
ビックリするくらい上がらない。料理だけだ。
本当にこの世界の住人はレベルを30にするだけでも大変なのだと実感した。
これじゃあ危険と隣り合わせでもファムルスとバディを組もうとするのもわかる気がする。
「!」
ジキルがやって来た。
髪を長い揉み上げ以外しっかりお団子状に纏めてある。
「まこっちゃん、それ終わったら暇?」
「まぁ、一応」
仕事は無くはないが、優先順位は低い。
ちゃんを止めろと言ったが一向に止める気配のないジキルに俺が大人と折れてやったのがついさっき。勝手に呼んでくれ。
「魔物狩りするんだけど、まこっちゃん手伝ってくれる?」
「魔物狩り?」
「そ!なんか近くで暴れているのがいるんだって。一人でも大丈夫だけど、せっかくだし」
と言いながら銃を見せる。
「まこっちゃん乗馬できるでしょ?」
「なんでそれを」
言ってないのに。
「夜乗り回してるの見てた」
「失敗した」
もっとしっかり気配を探っていれば良かった。
実は動けるようになった日の夜、教会に馬が飼われているのを発見した。そして、つい本当に乗馬が出来るようになっているのか試してみたくて乗ってしまったのだ。
超楽しかった。
しかしその姿を見られているとは思わなかった。
「ねー!行こうよ!毎回一人で引っ張っていくの正直しんどい」
「それが狙いか」
てか引っ張っていくってなんだ?
魔物をか?
まぁ、ここの魔物をみる良い機会だろう。
スウェイに居たときは魔物なんか狩らずに人間ばかり狩っていたから。
「いいだろう。ちょっと待ってくれ」
「おーけー!準備してるね!」
ジキルがスキップで教会へと去っていく。
さて、砲のファムルス様のお手並み拝見だな。
その様子を、エドワード神父が覗き見ていた。
シーツを干している男、オガ・マコトはファムルスである。
首の左側にある花紋のような痣がその印。
三日前、ジキルが突然「また呼ばれてる!」と飛び出し、オガを引っ張って戻ってきたときは大層驚いた。一体どれ程の距離引き摺られていたのか服が地面と擦れて割けていたし、明らかに斬られたのだろう傷跡が、胴体を斜めに走っていた。
ヒールをしている様子もなく、血は止まっているが炎症して発熱していた。
その時、首の痣とうなじの酷いみみず腫を見付けたのだ。
ジキルは言う。
私をずっと呼んでいた人だから助けてくれと。
とにかく此処まで拾って持ってきてしまった人間を元の場所に戻してきなさいとは言えるわけもなく、仕方なく受け取った。
うなじのみみず腫の走り方は見覚えがあった。きっと酷いバディに当たったのだろう。
傷の治りも遅いところをみるや、契約を切った後に違いない。でなければここまでファムルスが衰弱するわけがないのだ。
傷を診るために服を脱がせると、傷と同じように斬られた神父服と聖書が転がり出てきた。そう言えばずっと右手を握りしめている。ジキルに右手を開いてもらうと、小さな十字架があった。
その十字架は、最近よく見るものだ。
ああ、もしかして、この人だったのだろうか。
更に脱がせて見ると夥しい傷跡が残されていた。全て治った後だったが、後ろでジキルが思わず口許を手で覆っていた。
これはますます確かめなければならない。
でもまずは治療だと出来る限りの治療を施した。
男はすぐに目覚めた。
痛みに強いのか、まだ痛みはあるだろうに何でもない顔をしていた。
とても目付きの悪い男だったが、子供の面倒見のよく、仕事を黙々とこなし、暇があれば聖書を見ている。とても噂のファムルスだと思えなかった。
だから、本当はどうなのかとジキルに一緒に魔物狩を勧めた。
ジキル本人も、オガは違うと言っていたが「呼ばれた人」だと気にしていたからすぐに乗った。
あとは、どう行動するのかを確かめるだけ。
「………」
拳を握り締める。
どうか、生かす価値のあるファムルスでありますように。




