解放
瓦礫を押し退けて立ち上がる。
危ない。結構ギリギリだったな。
十字架が何人かにぶつかり激痛が走ったが、まぁ、耐えられないほどではなかった。
それでもダリル達に当たる前に元の大きさに戻したが、館の崩壊は止められるものではない。
見渡すと幹部の殆どが瓦礫の下敷きになっていた。
ざまーみろだ。
「さて、と」
ボスの元へ行く。
辛うじて息があるが、こんな出血量だ。放置しとけば勝手に死ぬだろう。《魔力感知》で結晶を探しだす。すると、椅子の側に置かれた鞄の中の箱に入れられていた。
箱を開ける。
小さい方だったか。
結晶を地面に置き、十字架を大きくすると、思い切り十字架の底を叩き付けた。
バキンと結晶が砕け散る。
すると、うなじの方から何かが抜けた感覚がした。
忌々しかった首輪が外れた。
これで自由だ。
「おまっ、お前!!!一体何をしたのか分かっているのか!!??」
聞き慣れた声が喚いている。
「…そうだ。まだやることがあったな。忘れてた」
振り返る。
俺の張った結界の中で震えている男の元へと歩き出した。
一歩一歩近付く度にジリジリと後退している。
だが、まだこいつは俺の結界の中だ。逃げられるわけもない。
ドン、と後退し過ぎて結界の壁にぶつかった。
ダリルの顔に再び絶望の表情が浮かぶ。
ようやく篭の中の鳥だということを理解したようだ。
そうだ。首輪が外れた今、お前は俺の上の立場ではない。
必死に奴隷紋を発動しようとしているが、残念ながら既に結晶は砕いておりそんな指輪は無意味だ。
「と、止まれ!!止まれェ!!!!」
男が喚いている。
あまりにも面白い。まるでガチャガチャの中に入れられたハムスターだ。
すぐ目の前で止まってやる。
「今すぐ結界を解け!!!命令だ!!!」
「ふ、命令?」
笑ってしまう。
「まだ分かってないのか?もう奴隷紋はない。俺を従わせたいのならその最後の『願い』を使うんだな」
俺の言葉を聞いて、ようやくボスのすぐそばで粉々になった結晶が目に入ったらしい。「あ、あ…」と小さく声を絞り出している。
「どうした?歯を鳴らして、おや?ズボンまで濡らしているじゃないか?無様だな」
少しだけ、人をいたぶる気持ちがわかってしまった。
確かにこれは面白い。だが、そろそろ人が集まってくる頃だ。終わらせよう。
顔を真っ赤にさせたダリルが契約印をかざし、大きく息を吸い込んだ。
お別れだ。
「め、命令だ!!!今すぐ結界を解いて自け──」
「“グラーテス”、主人。次は飼い犬にする奴をちゃんと見極めておくんだな」
「………あ…?」
グルンとダリルの目玉が回る。
そしてそのまま仰向けに倒れ、息絶えた。
即死させる魔法とは聞いたが、ここまであっさりとはな。
──【相棒契約を破棄しました。反動が来ます。備えてください】
「うっ、っ!!」
心臓が思い切り殴られたかのような衝撃が来た。
思わず咳き込む。そうだ。そう言えば前もこんな衝撃が来て、意識が飛んだんだった。
今回は耐えられたようだ。良かった。
そう言えば。
「あのやろう出てこないな」
源本が出てこない。死んだか。
「てっめえ!!!ふざけんなよ!!!」
凄い勢いで瓦礫が吹っ飛ばされた。
源本が息を荒く、バディを背負って這い出てきた。あいつ偉いな。ちゃんと自分のバディ助けたよ。
残念ながら気絶しているみたいだがな。
「なんだ生きてたのか」
「俺を殺す気だったのかよ!?」
「当たり前だろ」
ブラックリストトップって言ったのもう忘れたのか。
鳥頭か。
「よーし、よし。そんなに殺されてーよーだなー!バディのいないお前なんか怖くねーぜ!!耐久値ゼロになるまで刺しまくってやるよぉ!!」
と、源本は血管浮き上がらせて剣を抜く。
確かにちょっとまずい。
今の俺はバディがいなくて十字架を武器として扱えない。このままではいつぞやのダリルのように黒ひげ危機一髪をされてしまう。
「!」
人の声が集まってきた。
それに源本が気付いて俺から一瞬視線を逸らした。今だ。
土壁を大量に作り出して源本へと放つ。近くにバディもいるし、この様子だとグラーテス出来ないのだろう。ならば絶対にバディを守るはずだ。
「それでも斬ってろ!!」
「あっ!!くそっ!!!てっめえ覚えてろよ!!次会ったときに絶対にミンチにしてやるからなーーー!!!」
なぁーー、なぁーー…、なぁー…、と源本のエコーが響き渡る。
じゃあな。俺も次貴様に会ったときは、立派な墓標で潰してやるよ。
人混みに紛れて何とか脱出に成功した。
神父服の下に普通の服を着てたから、神父服を脱いで、フードを深く被ってたからバレずに済んだ。
この白い髪は目立つからな。
こいつを隠すだけでも大分違う。
「はぁ、はぁ、俺は運が良い」
この町からの出るための門も、緊急事態で人がいない。
隙を見て門から出ると、全力で逃走した。
日も暮れ、森の中に身を潜めた。
長い間森の中にいたからやはり安心する。
だが…。
「体が重い…」
鉛でも足に入っているのかと思うほどに重い。
ウィンドウを開いてステータスを確認すると、魔力も精神力も耐久値も全然回復していなかった。
ダリルの糞みたいなスキルは凄い増えていたが。
「あの野郎、魔力あんまり無かったのか、足しにならねぇ。……乗馬スキルあるな。これはありがたい…」
現在の能力を把握するためにチェックをしていたが、やはり限界まで魔力と精神力を使っていたせいか恐ろしく体調が悪くなっていた。回復速度もバディいないと遅くなるのか。
恐るべしバディ・システム。
これは魅せられるはずだ。現に俺も懲りずに早く誰かと契約しないと、と、思い始めている。
だが、次こそはちゃんとした奴と契約したい。ダリルみたいなのは二度と御免だ。
「あー、くそっ。熱か」
なんか頭がボンヤリすると思えば熱が出てきていた。
これはまずい。まだまだ町からの距離が近いというのに。
今は無理をしてでも早く離れないと。
何とか立ち上がり一歩歩み出す。だが、足がもつれて転がった。
くそ。仕方がない。ここは少しの時間だけ眠るか。
そう思い目をつぶれば、すぐさま俺は意識を失った。
森の中を誰かが歩いている。
「あっれー?ここら辺だと思ったけど…」
高い声。
こんなに暗い夜の森だというのに女の子が一人、お供も付けずに歩いていた。
異様な光景だ。
絶対にあり得ないと言えるほど。
何故ならその女は、女でありながら背丈と近い長さの銃を担いでいたからだ。金髪の髪を頭の上で団子にし、長い揉み上げを垂らしている。何よりも目立つその前髪の色は明るいピンクだ。
下着が見えるんじゃないかと心配になるほどに短いスカートが歩く度にヒラヒラ揺れている。
こんな出で立ち、この世界の住人であるならばあり得ない事だ。
「おっかしーなー。私呼ばれたよね?ね?」
とある存在を除いて。
もう少し先かと思い、もう一歩踏み出した瞬間、ごりっと何かを踏んだ感触を足裏に感じた。
おや?何を踏んだんだろう?
明らかに木の根とかではない。もっと生々しい、何か。
視線を下げると、人の腕らしきものが草むらから飛び出していた。女の子はその腕を踏んでいる。
「ひょおおおおーー!!!?」
思わず飛び退いた。
明らかに人間の腕であった。なんだ?これ?死体か!?魔物に喰われた残骸か!?
背負っている銃を下ろす。それを担ぎ直すと、ガチャガチャと音を立ててサイズが縮み、ハンドガンへと姿を変えた。
そーっと、腕が出ている草むらを掻き分けてみた。
お化けの類いではないはず。
「へ!?」
そこにいたのは、見るからに苦しそうな顔色の男だった。
フードがずれている箇所からは白い髪の毛が覗いている。老化現象以外ではなんとも珍しい。
「お?」
その男の手には、しっかりと十字架が握られていた。それを見て、女の子は「よし!」と気合いを入れると、男の服を掴み、力を入れたのであった。
ようやく、ヒロイン来ます




