メテオ・クロス
やれることはやった。
後は、実行するだけだ。
胸元にぶら下がる十字架を握り締める。
失敗は、しない。
「ようこそ、お出でくださいました」
ぞろぞろとスウェイの要員、幹部連中が集まってくる。
今日は定例議会。
普段はこの町の外にいる幹部もこの屋敷へと集まってくる。ここのボスもだ。基本やつは町の外、結構離れた領地に屋敷を構えて暮らしている。
三ヶ月に一度ここに訪れては会議や金銭の受け取りをして去っていく。この前のはファムルスが捕らえられたという吉報を受けてやって来ていた。
「いいか?恥を掻かすんじゃねーぞ。万が一何がしでかしたら、分かってるな?」
「はい…」
「よーし、良い子だ。行くぞ」
最近のダリルは完全に俺を犬扱いしている。
俺にとっては良い兆候だ。舐められている方が裏で色々出来るからな。
ウィンドウをさりげなく確認する。
そこにはここに来てからうなぎ登りしたステータスが表示されていた。
男鹿誠 (23)
武器:十字架
属性:聖職者レベル2【特殊スキル持ち】
魔力:レベル10
精神力:レベル56
体力:レベル6
耐久値:レベル89(女神の祝福)
俊敏:レベル5
攻撃力:レベル1[固定](女神の呪い/特殊条件により変動)
勇者資格:有り【磔の勇者】
スキル:《魔術/中級+》《鑑識/中級(野草)》《魔力感知》レベル3《攻撃予想》レベル28《医学知識》レベル8《忍耐力》レベル16《投擲》レベル15《跳躍》レベル2《剣術》レベル4《体術》レベル4《投擲》レベル5《魔導書速読》レベル18《彫刻》レベル28《■■■術》error《賢者》レベル2《魔力感知》レベル13《受け流し》レベル28《気配探知》レベル1
魔法:《回復魔法》レベル18《魔導書収納》レベル1《結界術》レベル6《土魔法》レベル23《水魔法》レベル7
■■■:■■■の解放が可能です。解放するためには条件を満たしてください。
武器の特殊能力:《形状変化》
相棒契約者: ダリル・ブリストル
(バディ・システム起動中です。)
我ながら短期間でよくやったと思う。
攻撃力が全然上がらなかったが、十字架でやれば問題ない。
《魔力感知》を発動させる。
視界が薄暗くなり、魔力の糸が白く浮き上がる。
ここは様々な魔力が流れている。この中でも俺に関連するものを選択する。すると、ダリルに真っ直ぐ一本。これは相棒契約のものだ。そして気付かなかったが、ダリルの指輪に繋がってる魔力の糸が更に先に続いている。
それがゆっくりと方向を変えて動いていた。
恐らくこれが源本の言う元への糸だと思う。
通常状態だとあまりにも薄くて他のに混ざると全然見えないが、命令違反として痛め付けられているときに濃くなる。
やっぱりボスが持ち歩いているらしいな。
ただの推測でしか無かったが、そうであった場合の時の為に準備を進めて良かった。
一応源本の方にも決行する日だけは伝えた。
詳細は言わなかった。
「えー」と不満そうな顔をしていたが、当たり前だ。お前は俺のブラックリストのトップだ。教えるわけねーだろ。
「──さて、最近の噂だが、砲のファムルスが近くにいて活動しているらしい」
奴隷の売れ行きだとか裏の流通がどうとかの話を終え、ファムルス狩りに話が移った。
どうやら俺のステータスが上昇しているのを感じて、そろそろ前回と同様に動き出そうということらしい。
源本と俺の二人がかりでやれば確実に前回よりも多くの収穫が見込めると、まるで作物収穫の話のようにしている。
俺と源本はそれぞれのバディの後ろにいて、話を聞いている。奴等は契約印と奴隷紋がある限り俺達が逆らえないと思っているから警戒をしていない。
(事実ではあるが)
源本の話を聞く前だったら、きっと今もどうやって殺そうかを考えるだけに終わっていた。
そこだけは感謝をしている。
「ほう!そのファムルスは女か!?」
「前回は男ばかりだったからな、良い獲物だ」
「バディは誰をつける!?」
ダリルから伸びる魔力の糸はボスへと繋がっている。
話が白熱している。
女のファムルスを捕まえたあとの話だ。
胸くそが悪いが、良い感じに俺への注意が薄くなってる。
よし、やるぞ。
ふ、と。
晴れているのに突然影が射した。
雲でも出たのかと思い、館を守る守衛が空を見上げる。
「…なっ!!??」
無機質な物体が空に浮かんでいた。
白くも神々しい装飾のされているそれは、日の光を受けて輝いていた。形は下から棒状、中腹からやや上の方で真横に伸び、そしてまた棒状に戻る。
そう、空に神々しく浮かんでいるのは十字架であった。
十字架は青い空に人々を見下ろすかのように君臨していた。
町の人々もなんだなんだと外に出て空を見上げる。
指差し口を開けたまま驚いているもの。手を組み膝を着くもの。反応はそれぞれだったが、共通して言えることは通常ではあり得ない事が起きているという事だった。
バタンと扉が開かれた。
「しっ、しつれいします!!!!」
転がるように守衛が叫びながら駆け込んでくる。すぐさま門番に取り押さえられていたが、守衛も緊急事態です!!と声を張り上げた。
話が盛り上がっているのに水を射した守衛に眉を潜めた幹部達だったが、緊急事態と聞いて一気に戦闘体制へと切り替える。
汗だくな守衛を門番達が解放する。
すると顔色を悪くしながら守衛は立ち上がった。
「なんだ?」
ボスがのっそりと先を促す。
「この館上空に、とんでもない大きさの十字架が浮かんでおります!!大きさの想定は50メートル!!!」
「!!!???」
どよめきが起こる。
ダリルがすぐにこちらを見て胸元を鷲掴んだ。
お?察しが良いな。そりゃそうか、十字架っていったら俺しかいないもんな。
「何をしている!?今すぐ止めろ!!!!これは命令だ!!!!」
ビリビリと神経に痛みが走る。だが、この程度の痛みはもう慣れたもんだ。
焦った顔のダリルに薄く笑い掛けてやる。
ああ、面白い。
「今、浮かんでいる十字架は、指ほどの太さの土の棒で支えている。今俺の集中力で保ってはいるが、あんまり痛め付けて集中力を乱せば、落ちてくるぞ」
「ッッ!!!」
更に奴隷紋の威力を上げようとしていたダリルが動きを止めた。
はは、その顔面白い。
「モト!!!あの狂犬を殺せ!!!」
「!? やめろ!!こっちにくるんじゃない!!!!」
ダリルがバディの命令でこちらに襲い掛かってくる源本を止めようとしたが、ただの人間がファムルスの動きを簡単に止められるわけがない。しかも源本のバディはダリルじゃない。源本にそんな命令をしたところで訊くわけがないだろう。
シュン、と、源本の剣が俺の胴を斜めに薙いだ。
吹き出す血。絶望の顔をしたダリルと、しまったという顔をしている源本。我先にと逃げ出そうとして出入り口で詰まっている幹部たち。でっぷりと肥えたボスが拳銃を片手に道を開けろと怒鳴っているが、自分の命が惜しい奴等がいうことを聞くわけがない。
愉快だ。こういうのが見たかった。
源本の剣で、胸元の十字架が真っ二つになっている。
武器を破壊すれば消えると思ったか?俺を攻撃すれば止めると思ったか?
残念だったな、その十字架は土魔法で作ったレプリカだし、これしきの攻撃で俺が止めるわけないだろう。
笑った。心のそこからだ。
「俺の恨みを喰らいやがれ…!!」
メテオ・クロス。
土の支えが崩れて、巨大な十字架が落ちてくる。
屋根を突き破り、館をみるみるうちに破壊していく。
天井が崩落し、十字架の一部が物凄い勢いで迫ってきた。
「め、命令だ!!!!俺を守れ!!!!」
ダリルの契約印が輝いた。
ああ、その命令、聞いてやるよ。
凄まじい音を立てて、館は巨大な十字架によって無惨にも大破したのだった。




