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男鹿の企み

あの日以来、人を殺すことに躊躇がなくなった。

相変わらずジョンの幻影があるが、事実は事実だ。

今さらどうすることもできない。


ただ、こっちの事情で殺してしまった人は速やかに埋葬し祈りを捧げた。

初め、手で掘ろうとしていたのだが時間がかかるからと、謎能力で仕舞い込んでいた魔導書を読み漁り、練習し、土魔法を会得して埋葬した。

ついでに十字架のオブジェも作った。

土を高密度にすると石みたいになったから。木よりはマシだろうと。

最初は無機質な十字架だったが、そのうちレベルが上がって装飾が細かくなっていく。


墓掘ってレベルが上がるとか、きっとあの女神は腹抱えて大笑いしているだろう。


「…」


己の十字架を見詰める。

望んだままに形を変える十字架。

下の方だけをナイフのようにしてみた。形状はあの時のナイフだ。

そして源本の剣を意識すると剣状に変化した。

なるほど、この形状変化は便利だ。


ただ、一度ちゃんと見て、覚えなくてはダメらしく、銃や弓、盾などには変化してくれなかった。


「これを思いっきりくそ女神の顔に突き刺せばスカッとするだろうな」


それはもう心のそこからスッキリだ。

あの玉の何処が顔なのか知らないが、思い切りぶっ刺したい。


「おーがー、ちゃん?元気?」

「天に召されろ」


源本の野郎も相変わらず毎日やってくる。

ここまで毎日会ってるといちいち殺気を込めるのがめんどくさくなってくる。殺すことは当然なので殺気を込めるのはやめにした。いっそのこと油断している時にやるのがいいと思ったからだ。


というか、なんでこいつはいつも周りに誰も居ないときに現れるんだ。なんかのスキルでもあるのか?

魔法か?


魔導書を読み漁る。どっかにそんな魔法があるのならターゲットマーカーとして活用したい。そんな事を考えてダリルが近くに居ないときに魔導書を盗み読んでいた。


そんなとき、源本が俺見て変な事を言った。


「なんで聖書を二つも持ち歩いているんだよ。ひとつで充分だろ」


と。

は?と思った。

確かに聖書を一つ持ち歩いている。

なんでか知らんが聖書を持って十字架に祈り(呪い)を捧げると精神値が上がるから。だが、さすがに二つも持ち歩くわけがない。


源本は俺の持っている魔導書を指差していた。

もしや。


「これが聖書に見えるのか?」

「なに言ってんだ。そこまでイカれたのか」


さすがにキレようかと思ったが、それよりも源本の言葉にあることの意味がわかって怒りが収まった。

一度、ダリルにこれを読んでいるのを見られた事がある。ヤバいと警戒したが、「ほう」と言ったっきりなにもされなかった。不思議に思っていたが、もしやダリルにもこれが聖書に見えていたのか。


儲けだ。

ならば、俺は堂々と魔法を学べる。


それからというもの、俺は暇さえあれば魔法を学んだ。ダリルに連れられて“仕事”に行く度にいらないスキルが増えていった。だが、まだ足りない。

決定的ななにかが足りない。


「これを着ろ」

「何故」


その日、何故かダリルに神父服を渡された。


「俺が着ろと言ったんだ」


ダリルが契約印を見せながら言う。

内心ため息。


だが、意外なことにこれを着ると精神力が上がった。

ダリルにしては気の利いたことをする。


と、思ったのも束の間。


「………」


俺はダリルの変な性癖に付き合わされる事になった。

どうやらこいつは変な扉を抉じ開けたらしい。


「はぁーい。よろしくねー」


俺の隣にシスターコスの娼婦。俺は神父服。

何が見られると更に興奮する、だ。

背徳感がどーとか知らん。俺を巻き込むな大迷惑だ。


だが、抵抗せずに何度もしぶしぶ付き合ってやっていると、ダリルが俺を完全に従順になったと思い込み、油断をしてくれるようになった。

源本の従順にしてれば良いことあるぞという言葉が頭のなかを過る。なるほど、確かに下手に警戒されているときよりも自由度が上がるのは良い。

外の方にも少しなら出られるようになったのは大きな進歩だ。


建物を観察し、地図を頭のなかに叩き込んだ。

ダリルを観察して、何処に隙があるのか研究した。

要員と言われる連中のスケジュールを調べあげた。

そして、俺のステータスも上げるだけ上げまくった。


後は、ダリルが二回目の願いを言う切っ掛けを探している。

そのまま強硬に命令の痛みを耐えきって殺す事も考えたが、骨が折れる上に失敗の可能性もある。失敗はできない。

それと、源本が言うように、グラーテスした方が得られるものが多いのが魅力的に感じられた。


色んな物を奪われたんだ。最後に全て奪ってやる方がスッキリする。ジョンを言い訳にはしない。俺の自己満足だ。












「……」

「……」


そんなとき、たまたまタイミングが被って源本と風呂が一緒になった。珍しく絡んでこない。疲れてんのか?


絡んでこないのならそれで良いと思っていたが、ふと、源本のうなじに変なものを見付けた。


「…なんだそれ」


焼き印みたいなものだ。短いみみず腫みたいなのが広がってる。


「あー…、これね。奴隷紋」


奴隷紋?契約印があるのに何故だ?


「なんでそんなものが?」


すると、源本が不思議そうな顔をする。


「命令違反すれば神経に激痛走らせるやつ。あれ?もしかして知らない?」

「知らん」


首を振ると、源本は何かに気付いたようで、悪い顔をする。

手招きすると、声の音量を下げた。


「手ぇ、貸せ」

「なんでだ」


手を貸す意味がわからん。


「いいから」


源本が問答無用と俺の手を掴む。


すると、突然目の前にウィンドウが開かれた。


──【スキルの干渉を受けてます。解析しますか?】


スキルの干渉?もしかして源本のスキルか?

怪しさしか無かったが、解析するというので承諾した。


──【スキル《賢者》が起動します。解析完了。《魔力の接続》を確認。危険低レベル。同調を求められています。承諾しました。《音声操作》を確認。対象に認定されました。これにより接触状態に限り音声は他のものには聞こえなくなります。】


ダダダと情報が一気に流れてきた。

見たこともないスキルだ。面白い。しかしこの接触状態がなんとも不便だな。

二人で全裸で手を繋いでいるなんて、子供ならともかく俺達のような大人がとか、端から見たらただのヤバイやつらだぞ。


誰か居ないよな。


気配を探る。未だにファムルスと契約者のダリルしか分からんが。


──【応。《気配探知》スキルが発生しました。半径10メートル以内に気配を一つ確認。】


え、困るんだけど。

さすがにこの姿を見られたくない。


──【敵意はありません。】


そうですか。

どうしよう。この状態は違う意味で危険だ。

手を離すべきか、どうするか。


「お前は知らないだろうから特別に教えてやる。これはファムルス専用の奴隷紋だ」


と、突然源本から有益な話題が飛び出した。

よし、手繋ぎ続行だ。


「相棒契約の時に首に痛みが走っただろ?あれは普通の契約では痛みは走らない。あの痛みはこの紋を刻み付けたときの痛みだ。水晶二個もってたろ?どっちかがこの紋を刻む為の道具」


そうなのか。

確かにジョンと契約したとき、痛みは無かった。

この話が本当なのだとするならば、ずっと探していた切っ掛けが手に入るかもしれない。


「あいつらは用心深い。いくらファムルスに『願い』で絶対服従を命じても、精神力が高ければ言うことを効かない場合がある。それを阻止するために同時に施すんだ。神経に直接作用する攻撃だ。二度同じ『願い』を重ねて命じられたときと同じやつ」


確かに、痛みは似ている。


「バディはどっかに元の欠片を装飾品として身に付けてる。普通こんなこと知らないから、ファムルスは絶対服従の命令の一貫として従ってしまうんだ。死ぬほど痛いしな。当然お前のうなじにもある。見えないから気付いてないだろうがな、相当やられたんだろ?みみず腫が背骨に走り始めてる」


無意識にうなじを触る。

なるほど、どうりで指輪で痛みを調整できたわけだ。

あの指輪か。

だが、話を聞く限り元凶の道具を破壊した方が良さそうだ。だが、ちまちま探している暇はない。

幸いにもとある用事がこの屋敷で行われるらしいし、一気にやるならば、その時だな。


思わず口許がにやける。

全てを掛けて報復してやろう。


そんな俺の企みを察してか、源本が「なんかやらかすときは俺も誘ってくれよ」と申し出た。


手を離す。魔力の接続が切れた。


「ああ…」


湯から上がり、源本を見る。


「そうするさ」


てめえもまとめて巻き込んでやる。


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