表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蓮華 ― 鬼神の血を継ぐ戦士は護るために戦う ―  作者: 釜瑪秋摩
第一章 中央から南へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/101

第92話 深夜の帰還

 南詰所を出たところで岱胡(だいご)(たくみ)に捕まり、焦って帰ろうとするなと、また頭を引っぱたかれた。


 北に行くから途中まで並走していこうと言われ、スピードを出すわけにもいかずジレンマを感じていると、不意に巧が別れ道で車をとめた。


 岱胡もあわててブレーキを踏む。


「なんスか? 急に止まって」


「急ぐ気持もわかるんだけどね、今、事故を起こすわけにはいかないでしょう? とりあえず私のいうことを聞いて、焦らないで帰りなさい」


 巧は岱胡の肩を軽く叩くと車に戻り、そのまま北へ向かっていった。

 山道を走ることを考えると、暗い中、動物が飛び出してこないとも限らない。

 確かに巧のいうように、焦るのはよくないだろう。

 岱胡はいつもどおりのスピードで西区まで帰ってきた。


 西詰所の前で車をおりて会議室の窓を見ると、明かりは消えている。

 もう三時を過ぎているせいで、宿舎のほうも明かりの点いている部屋は少ない。

 真っ暗な中に浮かび上がる詰所と宿舎が不気味な雰囲気に見えて、岱胡は急ぎ足で会議室に向かった。


 中には鴇汰(ときた)の地図と買い置きした食べ物しかない。

 ぐるりと見渡して机の上にメモを見つけた。


『宿舎の麻乃(あさの)の部屋にいる。戻ったら来てくれ』


 それしか書いてない。

 取り急ぎ宿舎に向かおうと歩き始めたところで、まだ談話室に残っていた隊員の岸本(きしもと)が顔を出し、岱胡は呼び止められた。


「なにか変わったこととか、あった?」


「いえ、特には……長田(おさだ)隊長が、四階の一番手前を使ってるから、そこに来てくれって言っていましたけど」


「四階? あ、そう」


(メモと違うな……?)


 そう思ったとき、岸本の後ろから茂木(もぎ)が口を挟んできた。


「違う違う。藤川(ふじかわ)隊長の部屋にいるって言ってくれ、って言っていましたよ」


「え~? なんだよ、どっちが最新情報~?」


 隊員たちは顔を寄せて情報をつき合わせ、藤川隊長のところですね、と言った。


「夕飯どきに、なにか揉めていたみたいで、階段のところで大騒ぎしてましたよ」


「揉めてた? なにそれ!」


 岸本の話では、玄関口で鴇汰が大声でなにか文句を言ってるのが聞こえたあと、廊下に大きな物音が響いた。

 数人で様子を見にいったところ、階段の途中で鴇汰が麻乃を肩に担ぎ上げ、落ちた荷物を拾っていたという。


 なんでもないから気にするな、と言い残して、そのまま宿舎の部屋に向かったようだけれど、担がれた麻乃のほうは、大暴れしていたうえにひどく悪態をついていたらしい。


(なんてこった……来いと言われて部屋に行ったら、修羅場だったり血の海になってたりしないだろうな……?)


 う~ん、と唸ったあと、岱胡はがりがりとと頭を掻いた。


「まぁ、いいや。とりあえず行ってみるよ。ありがとうな」


 重い足取りで麻乃の部屋の前に立ち、外から様子をうかがう。

 明かりは点いているけれど、中からはなんの物音もしない。

 こうなると岱胡の頭には、もう嫌な想像しか浮かんでこない。


 鴇汰の血まみれになった姿が……。


 ここでためらっていても仕方ないと、思いきってそっとドアを開けた。


「……失礼しまーす」


 半分開けたドアから中をのぞくと、部屋は綺麗に片づいていて、惨劇(さんげき)が繰り広げられた様子はない。

 ほっとして中に入った。二人の姿は見えない。

 部屋の中はやけに暖かく、なにを作ったのかおいしそうな匂いがしている。

 そっと机に荷物を置いた。


(出かけてるのか? それともやっぱり四階のほうか?)


 つと視線を奥に移すと、ベッドに麻乃が、その横で椅子に座った鴇汰がぐっすり眠っている。

 しかも、また手を繋いで……。

 もしも、ここに修治(しゅうじ)がいたら、問答無用で目を覚ます間もなく、鴇汰は斬られてしまうんじゃないかと思った。


(なんなんだ? この状況……揉めてたんじゃなかったのか?)


 ベッドで一緒に寝てるところに遭遇しても困るけれど、こんな十二、三の子どもの恋愛みたいな……背中がむず痒くなるような、こっ恥ずかしい場面に遭遇しても本当に困る。


(まぁ、前みたいな勢いで喧嘩をされているよりは、マシかもしれないけどね)


 夕飯もろくに食べていなかったせいで、腹の虫が鳴った。

 調理場の隅に食べ物を見つけ、なるべく静かに温めて食べながら地図を広げると、もう一度、修治と決めてきたルートをさらった。


 できるだけ静かにしているつもりだった。

 気をつけていたのに、岱胡の腕時計からセットしておいたアラームが鳴り響いた。


 鴇汰がぴくりと動いて椅子から肘を落とし、目を覚ましてしまった。

 時計はいつの間にか五時を指している。


「あ、目、覚めちゃいました?」


「ん……なんだ、戻ってたのかよ」


「ええ、三時過ぎッスかね。夕飯、食い損ねて腹が減っちゃって。ここにあったの食べちゃいましたけど、いいッスよね?」


 繋いだ手を名残惜しそうに離し、立ちあがって伸びをした鴇汰は、椅子を持って静かにこちらへ移動してきてから台所をのぞいた。


「どれ食った?」


「さっき、こっちにあるやつを食ったんスけど、なんか物足りなくて」


「あぁ、そんじゃあ机の上を片づけて、ちょっと待ってろよ」


 岱胡はうながされて机に広げた地図をしまった。


「ところで……なんだかずいぶんと大騒ぎしたみたいッスね?」


 鴇汰の後ろに立ち、温められたおかずを受け取りながらたずねてみる。

 鴇汰は首の凝りをほぐしながら苦笑した。


「まぁな。気をつけようと思ってたのに、俺のほうから突っかかっちまって、ちょっとヤバかった」


「ここに来る前に、うちのやつらから聞いて焦りましたよ。麻乃さん、かなり悪態をついてたって言うし」


「あぁ、結構な力で背中をたたかれてさ。馬鹿だなんだと言われて参ったよ。こっちが悪いから言い返せねーしな」


「まぁ、大ごとにならずに済んだようでなによりッスけど。部屋に入って血の海だったらどうしようかと思ってたのに、なんだかやけに、仲良さそうに寝てましたもんねぇ」


 コーヒーを淹れている鴇汰の耳が赤くなったことに気づき、こっちまで恥ずかしくなってしまう。


「それより北と南のほうはどうだったのよ?」


 目を伏せたまま向かい側に腰をかけた鴇汰は、コーヒーを飲みながらそう聞いてきた。


「北には梁瀬(やなせ)さんをおろしただけで寄ってこなかったんスけど、南には(たくみ)さんが来てましたよ」


「へぇ、そんならちょうどよかったじゃん」


「ええ、例のジャセンベル人のことも、念のため、どうにかしてもらうことになりました」


「どうにか……って、そんなもん、どうにかなるもんなのかよ? だって相手は大陸の人間だろ?」


 鴇汰が驚くのも尤もだと思う。

 岱胡自身も驚いて、巧に思いっきり引っぱたかれたわけだし。


「なにかあったときのために、連絡の取れる方法を聞いてあるらしいッスよ。なにしろ、巧さんのほかには麻乃さんが一度会ってるだけで、修治さんもその相手のことは見てないそうッスからね」


「麻乃が?」


「そうなんですよ。けど、ジャセンベル人のほうも麻乃さんのあの外見で、子どもが植林の手伝いに来ているんだと思ったらしくて。遭遇しても特に怪しまれなかったみたいッス」


 言いながら思い出すと、おかしくて笑ってしまう。

 七年前と言っていたから、まだ麻乃は十七歳のころで、今より幼く見えて当然だろう。


 翌年に巧がまたジャセンベルに豊穣(ほうじょう)()へ出たときに、そのジャセンベル人が『幼いのに頑張っていた』と感心していたらしい。

 他愛のない世間話をしたらしいけれど、会話をしても年相応に見られなかったとは。


 ただ、もしも腕前のほどが知れていたら、黙って帰されはしなかったかもしれない。

 そう考えれば、それで良かったのだろう。


「小さいのが幸いしたってことか」


泉翔人(せんしょうじん)を巧さん基準で考えていたら、子どもにしか見えなくても仕方ないでしょうね」


「ロマジェリカでもそれが通用すりゃあ、少しは安心なんだけどな」


 そう言って鴇汰は麻乃に目を向けた。

 まだぐっすり眠っていて起きる気配はない。


「あの国じゃ、子どもだろうが女だろうが、異人って時点でアウトですからね」


「まぁ、おまえのいうとおり左側にルートを決めたから、慎重に行けば何事もなく済むだろうけどな」


 食事を済ませ、おなかも一杯になると、さすがに眠気が襲ってくる。

 鴇汰は立ちあがると、麻乃を起こした。


「おい、今日も早いんだろ? そろそろ起きて飯食っていけよ」


 聞くと今日は地区別演習から、道場の師範や子どもたちが戻ってくるから、迎える準備で忙しいらしい。

 目を覚まさせるために、シャワーへ追い立て、着替えを済ませるまでのあいだ、廊下で待った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ