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蓮華 ― 鬼神の血を継ぐ戦士は護るために戦う ―  作者: 釜瑪秋摩
第一章 シタラの眼

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第84話 青い瞳の謎

 シタラは渋々ペンダントを梁瀬(やなせ)にあずけた。


「心配せずとも車を出させてある。皆、余念のないよう心して準備をなされよ」


 不機嫌な様子で会議室を出ていったシタラのあとを、梁瀬が追う。

 見送りと称して帰るのを見届けるつもりだろう。


(まったく、普段は頼りなさそうな癖に、抜け目のないオッサンだよ)


 岱胡(だいご)も同じことを考えているのか、ドアを見つめながらにやりと笑った。


「俺、麻乃(あさの)の様子を見てくるわ。あいつ、一人になりたがらなかったのに置いてきちまったからな」


「目を覚ましてたらマズイですからね、今、騒がれたら面倒なことになりますよ。早く行ってください。こっちも荷物をまとめたら戻りますから」


 麻乃のいる会議室へ戻り、そっと鍵を開けて中へ入った。

 まだぐっすりと眠っている。その姿を見てほっとした。

 ソファに一番近い椅子へ腰かけると、横になっている麻乃の背を見つめた。


(それにしても、なんてタイミングで来やがったんだ。まるで麻乃がおかしな夢を見たのを知っていたかのようじゃないか)


 それに……あの青い瞳……。


 梁瀬のようにヘイトの血が混じっているやつに、翠眼(すいがん)が何人もいるのは知っている。

 淡かったり深かったりの違いはあれど、青い瞳を持つ者なんて見たことがない。

 鴇汰(ときた)と同じロマジェリカの血が混じっているものも同じだ。

  

庸儀(ようぎ)泉翔(せんしょう)と同じ黒い瞳だし……)


 考えを巡らせながら、鴇汰は窓から外を見た。

 表門の辺りで梁瀬が何かしているのが見え、その様子を眺めていると、梁瀬の手もとから三羽のツバメが飛び立った。


(式神……?)


 ドアが開き、岱胡が隊員と荷物を抱えて戻ってきた。


「麻乃さん、目、覚まさなかったんスね」


「ああ。今のうちに続き、やっちまおうぜ。俺、昼過ぎには梁瀬さん送ってくるからよ」


「いや、俺が行ってきますよ。鴇汰さんは麻乃さんとルート詰めといたほうがいいですって」


 岱胡の胸のポケットから、シタラの持ってきたペンダントの紐がさがっている。

 まだ身につける気がないのか、単にしまっただけなのかはわからないけれど、鴇汰も黒玉をポケットに押し込んである。

 それにしても、なぜ今のタイミングで、こんなものを……?


「一応、俺もルートのこととか話してありますけど、二人が納得できるコースをしっかり決めないと、向こうに渡ってから揉める原因になりかねないッスからね」


「そっか……そうかもしれないな。それなら悪いけど頼むわ。こっちでなにかあったときは、俺もちゃんと対応するから」


 ジャセンベルは(たくみ)が長い。

 以前の蓮華(れんげ)と一緒のころから、ずっと使っているというルートがあって、今もそこを使っていた。


 巧はいつも奉納場所にほど近い空き地に苗木を植えていて、何代も前の蓮華から続いているという。子どもができて休んでいたときは、麻乃が代わりに植えたとも聞いている。岱胡にもそれを伝えた。


「植林ですか……?」


「そう。俺はいつも奉納場所の周辺に植えさせられてるんだけど、巧はずっと空き地のほうをやっててさ、これが結構よく育ってんのよ」


「へぇ、荒れた土地なのにそんなに育つもんなんスかね?」


「なんかな、俺たちがこっちに戻ったあと、その場所の世話をしてくれる人がいるらしいんだよな」


「それってジャセンベル人ですよね? そんな相手、良く信用できますね?」


 岱胡にしては珍しく真剣な表情で心配そうに言った。


「俺は会ったことがねーんだけど、巧が初めて渡った年に知り合ったらしくて、信用できる相手だって言ってたぜ。まあ、敵兵じゃなくて一般人なら、そう警戒しなくてもいいのかもしれないしな」


「でも、苗木を植えてくるのは構わないんスけど、その相手とはできれば顔を合わせたくないッスね。巧さんが一緒ならいいですけど、俺たちを信用してくれるかもわかんないッスもん」


「その辺は多分、巧からなにか言ってくると思う。もしかしたら、もう修治(しゅうじ)と色々と決めてるかもよ」


 急に不安そうになった岱胡の背中を軽くたたき、続きを始めた。


 しばらくして会議室に梁瀬が戻ってきた。


「思ったよりすんなり帰ってくれたよ」


 肩の凝りをほぐすように首の辺りに触れている。

 その首もとに、なにも掛かっていないところをみると、やっぱり梁瀬も黒玉を身につけるのを躊躇(ためら)っているんだろう。


「それよりあんたさっき、表でなにしてたのよ?」


「なんだ。見てたの?」


 梁瀬はポットからコーヒーを注ぎながら、テーブルに置いてあった食べ物を探って口に放り込んだ。


「式神?」


「うん。ホラ、蓮華のものにって黒玉をくれたでしょ? ほかのみんなにも渡すんだろうけど、この時間に西に来たってことは、行くとしたらこれからじゃない?」


「あぁ、そう言われるとそうだな」


「みんなのところへもシタラさまが行くのか、それとも別の巫女が行っているのか、それを聞こうと思って北と南、中央の巧さんに繋ぎを送ったんだよね」


「それを聞いてどうするんスか?」


 岱胡が横から素朴な疑問を梁瀬にぶつけた。

 同じことを思っていたから、梁瀬がどう答えるのか気になった。


「だって……起き抜けにすぐ出てきたとしか思えない時間だよ? しかも、このタイミングで麻乃さんのいる西区に来るなんてねぇ」


「なんか変な感じがするよな」


「あまり悪くは考えたくないんだけどタイミングがね……まず西区から、って感じなのが気になって仕方ないんだよね」


「これまでこんなことなかったろ? 今度に限ってなんで黒玉なんだろうな?」


 梁瀬が上着のポケットから二つのペンダントを出して机に置いた。


「結構、大きい石だから価値もあると思うよ。それを八つも……祈りが捧げられてるだけあって嫌な感じはしないけど、僕はちょっと……といって、置いていくわけにもいかないし」


「まぁ、荷物のどっかに入れていけばいいんじゃないッスか? 俺はそうしますよ」


 岱胡は胸のポケットに手を当てると、そう言ってまた地図とメモを見つめている。

 梁瀬はそれにうなずくと、ペンダントの一つを鴇汰に差し出してきた。


「麻乃さんのぶんは、目を覚ましたら鴇汰さんから渡してあげてよ」


「気が進まねーけど……しょうがないか」


 渋々、鴇汰はそれを受け取った。

 麻乃にこれを渡すときに、どんな顔をすればいいのだろう。


「それから、三日後の会議だけど、みんな来るよね?」


「そりゃあもちろん。渡る前にみんなが顔を合わせるのはそのときだけですしね」


「俺も休みで中央かここにいるけど、出るつもりでいるよ」


 梁瀬はホッとしたような顔を見せた。


「僕、お昼にはここを出るつもりだけど、それまで実家に戻ってきてもいいかな?」


「全然構わないッスよ、俺が北に送っていきますから、帰る前に声をかけてください」


「うん。じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 出ていった梁瀬を見送り、立ち上がったついでに伸びをした。

 部屋の外は朝食を済ませた岱胡の隊員たちが、それぞれに出かけたり談話室へ向かったりと、行き来をしている。鴇汰は窓の外を見ながら深く息をついた。


「岱胡、朝飯どうする?」


「そこら辺にあるもんでも食うからいいッス」


「こんなの飯にならねーだろ? 食堂行って、なにか食ってこいよ」


「いいッスよ、別に。あ……もしかしてお邪魔な感じスか?」


「馬鹿! そうじゃねーよ! 俺が腹、減ってんの! 交代で食いに行ったほうがいいかと思ったけど、もういい」


 にやにや笑ってこちらを見ている岱胡を睨むと、ドアを勢いよく開けた。


「あ、鴇汰さん」


「なに?」


「俺、梁瀬さんを送ったついでに、南に寄ってきてもいいですか?」


 呼ばれて振りかえった鴇汰に、岱胡は真顔でそう言った。


「南? なんでよ?」


「会議の前に、修治さんと話しておきたいんスよね。時間かけないで戻ってきますから」


 鴇汰は岱胡の表情を見て、ただの雑談ではないことを悟った。きっと岱胡も、今朝のシタラの件で何か感じるところがあったのだろう。


「そりゃあ構わねーけど……なにもないと思うけど、なにかあったら俺、対応はしても、おまえの部隊動かすの無理だぞ?」


「大丈夫ッスよ。なにかあったら、うちの茂木(もぎ)がまとめてくれますから」


「そうか。それなら行ってこいよ。時間ねーから、ルート決めくらいしないと厳しいもんな」


「ついでに植物の件も聞いてきたいんで、すいませんけどあとを頼みます」


 軽く頭をさげた岱胡に、夜中までには戻ってくれよ、と言い残し、鴇汰は食堂へ向かった。

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