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蓮華 ― 鬼神の血を継ぐ戦士は護るために戦う ―  作者: 釜瑪秋摩
第一章 それぞれの想い

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第32話 新しい部隊

 数日後、麻乃(あさの)は珍しく修治(しゅうじ)と別行動で、西区に残っていた隊員たちと一緒に中央へ移動し、会議室で新人たちと顔合わせを行った。元からいた隊員たちも予備隊や訓練生に知った顔が多いようだ。会議室の中は、隊員たちと新人たちの声で賑わっていて、明るい雰囲気が漂っている。


 とりあえずは軋轢(あつれき)が起こりそうな気配もないようで安心する。新たに配属された隊員たちは、下は十八歳、上は三十六歳までと幅が広い分、若い隊員の経験不足を補えるだろう。心配があるとすれば、実戦の経験が少ないことだけれど、それも今回の演習である程度は解消されるはずだ。


「さて……三日後から訓練を始めるんだけど、まずは西区の大演習場で、第四部隊と一緒に十五日間のサバイバル演習を行う」


 サッと古株たちの顔色が変わったことに気づいて、麻乃はにやりと笑ってみせる。


「十人一組で全五組に分かれてもらうんだけど、経験の浅い者もいるからね、古株の十人を二人ずつ頭にして、なるべく能力が均等になるように振り分けた。第四部隊の方が古株の人数が多いから、経験では多少は不利になるかもしれないけど、演習が始まれば条件はみんなが同じだ。臆することなく、しっかりやってほしい」


 順番に名前を呼びながら、班分けをしていく。全員がどこか不安そうな表情を浮かべているのが面白い。演習は道場でも訓練所でも行われるので何の疑問も抱かないんだろうけれど、サバイバル、という言葉がどうも引っかかっているらしい。


 麻乃自身も最初に聞いたときは、一体何をさせられるんだろうかと思ったくらいだ。しかも、サバイバル演習に参加した戦士たちは、決してこの内容を語らない。耳に覚えがないから余計に不安を煽るんだろう。


「そんなに構えなくても大丈夫だよ。文字通り、いつもの演習にサバイバルの要素がくっついただけだからさ。期間も本当は最低でも二十日以上欲しいところだけど、今回は十五日間と短いしね。何かわからないことがあったら班の古株に聞くといい」


 十名の顔を見回すと苦笑いで見返してきた。何度か経験している古株たちにしてみれば、いろいろと思い出すことがあるんだと思う。


「とりあえず当日まではのんびりして、体調を整えておくように。体を壊して演習に出られません、なんてシャレにもならないからね。それから今度の演習は西区の各道場から、師範の方々が応援に来てくれることになっている。気を抜く暇はないよ。それじゃあ、当日は西詰所前に午前八時集合だから、くれぐれも遅れないように」


 解散をさせて会議室を出ると、古株の小坂(こさか)杉山(すぎやま)があとを追ってきた。


「隊長、今回の演習ですけど……」


 二人とも不安そうな表情だ。

 この二人がそんな顔を見せるくらいだ。古株の他の隊員だったら、班わけの決定を受け止めきれなかったんじゃないかと思う。


「うん、小坂の班と杉山の班、女の子がいるんだよね。一つの班にまとめると負担が大きいから、古株の中でも年配のあんたたち二人に任せることにしたんだ。すまないけど、よろしく頼むよ」


「それはいいんですけど、さすがに最初から十五日は女にはキツイんじゃないですか?」


「正直、俺たちでさえ、十五日となると自分たちのことで手一杯になると思いますけど」


「まあ……多少とはいえ、ブランクができちゃったからね。女の子たちについては当日に言うつもりだったけど、数日おきにあたしが直接、様子見に行くから。場合によっては一日、二日預かるつもりだけどさ」


 それを聞いて、二人はほっとした表情を浮かべた。戦士になった女性たちも、若い隊員たちも、それぞれが十六歳までしっかり鍛錬をしてきている。だから今回新たに入った女の子たちが足手まといになるとは考えられないけれど、これまで隊には男しかいなかったから、なにかと気を遣うことが出てくるはずだ。


「そういっても、最初からそれがわかってると甘えが出るから、彼女たちには黙っててよね」


「わかりました」


「演習もさ、本当はもっと時間をかけたかったけど、なにしろ早く仕上げないといけないし」


「なに言ってるんですか……十五日もあれば十分ですよ……」


 小坂が呆れた様子で呟き、杉山も同意するように頷いている。確かにこれまでは短い日数で回数をこなすことが多かった。蓮華(れんげ)のみんなもあまり日数をかけることはない。


「なに言ってるのは、こっちのセリフだよ。あたしのときなんか四十五日だったことを考えたら楽なもんだよ」


「一カ月以上ですか? 尋常じゃない期間ですね」


「まあね。あのときは本当に酷い目に遭ったよ」


 蓮華の印を受けて最初に放り込まれたのが、今回と同じようなサバイバル演習だった。わけも分からないまま演習場に放り込まれ、相手にしたのは当時の蓮華(れんげ)たちだった。麻乃一人に対して、蓮華の七人のほかに、名のある道場の師範が何人もいた。当時の蓮華には、徳丸(とくまる)よりも年配の手練れもいて、何度も追い込まれたし、修治にも何度も倒された。今となっては良い思い出だ。


「それから、さっきも言ったけど今回は各道場から師範も参加するから密度が濃いよ。あんたたちも、しっかり気構えしとかないと、きっと酷い目に遭うから気をつけてよね」


「わかりました」


 軍部を出ると、ちょうど修治の部隊も顔合わせを終えて出てきたところだった。


「あれ、修治のところも今、終わり?」


「ああ、ちょうどいいタイミングだったみたいだな。このあと、飯でも食って一緒に帰ろう」


 修治に促され、駐車場へと向かう。


「そういえば、新しい刀を買ったって?」


「うん、こいつと、もう一刀は家に置いてある」


 腰に差した夜光(やこう)の柄を握ってみせた。


「鞘に凝った細工がしてあるな。壊れたら泣くんじゃないのか?」


「意地悪なことを言わないでよ。見た目より強いって言ってたから、多分平気だよ」


「先生がな、炎魔刀(えんまとう)、返してくれるってよ」


 修治が笑ってそう言ったのを聞いて、麻乃は思わず声を上げた。


「本当?」


「ああ。ただし、手元に置くだけにしろってさ。帯びているところを見つかったら、次は殺されるな」


「置くだけでも十分だよ。そっかぁ、戻ってくるんだ……」


 炎魔刀――。

 麻乃は少しだけ歩調を落とした。


 車の前まで来ると、午後からの会議で蓮華のみんなが集まってきていた。

 降りた車のドアを閉めながら、(たくみ)が声をかけてきた。


「二人とも久しぶりじゃない。今日はどうしたのよ?」


「顔合わせだよ」


「なんだ、もう選別できたのか? ずいぶんと早いじゃねぇか」


 後ろから顔を出した徳丸も加わる。


「うん、梁瀬(やなせ)さんが資料を細かくまとめてくれてね、選定がかなり短縮できたから」


「じゃあ、あんたたちあれね? 地獄の演習するんでしょ?」


「もちろんだよ。最初にキツイ思いをした方が、あとが楽になるもん」


「まったくとんでもねぇ鬼だな。おまえたちは」


 徳丸が笑った。

 サバイバル演習はどの部隊も必ずやるけれど、基礎訓練を済ませてからにしている。

 訓練開始早々に行うのは麻乃と修治だけだった。


「ここまで来たのなら、会議にも出ればいいのに」


「いや、帰りにいろいろと寄るところがあるんだよ。次の会議には出るつもりだけどな」


 穂高(ほだか)と修治が話しを始めたとき、鴇汰(ときた)に後ろから腕を引っ張られ、みんなの輪から離れた。鴇汰が何か言いかける前に、麻乃は小声で話を始めた。


「お礼を言うのが遅くなっちゃったけど、このあいだはありがとうね。掃除、してくれたでしょ。かなり散らかしてたのに綺麗になってたから驚いたよ。それに、ご飯の作り置きまでしてもらっちゃって……」


「そんなのはいいんだけど、おまえ、腕はもういいのかよ? ちゃんと医療所行ったのか?」


「あれから痛まないよ、大丈夫」


「本当か? 腕のことなんだから、しっかり診てもらった方がいいんじゃねーの? 西医療所、麻乃んちから遠くないだろ? 薬も残りが少なくなってたぞ」


「本当に大丈夫だって。心配かけて悪かったよ。それから、修治に黙っててくれてありがとう」


「別に……あいつと話すことなんてねーから。ってか、知られるとマズイ理由でもあるのかよ?」


「あまり余計な心配をかけたくないだけだよ」


 鴇汰の問いかけに、麻乃は目を逸らして小声で答えた。

 本当はそれだけではない。修治に知られることで、変な不安を煽るのが怖かった。修治は麻乃のことを理解しているからこそ、細かいことも自分のこと以上に気にかけて心配してくれる。余計な負担を掛けたくなかった。


 それに――。


 が一にも腕が利かなくなるようなことがあったら……戦士として以外、生きる術のない麻乃にとって、先の人生が無意味なものになってしまう。今のように修治の隣に立つことさえできなくなってしまう。


「余計な心配って――」


「おい! 麻乃、そろそろ行くぞ」


「鴇汰、俺たちの方もそろそろ時間だよ。早く向かわないと」


 鴇汰の言葉を遮って、修治と穂高が呼びかけてきた。


「うん、今、行く! じゃあね、鴇汰。また今度」


 鴇汰の腕を軽く叩くと、麻乃はそのまま振り返らずに走った。背中に鴇汰の視線を感じる。車に乗り込み、走りだすときに少しだけ目を向けると、穂高と一緒に階段を上っていく鴇汰の後姿が、視界から消えた。


麻乃は前を向き、ただ車窓の外を眺めていた。

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