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蓮華 ― 鬼神の血を継ぐ戦士は護るために戦う ―  作者: 釜瑪秋摩
島国の戦士

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第14話 覚醒への懸念

 二度目の大太鼓が鳴った。

 きっと麻乃(あさの)のスタートの合図だ。

 ビリビリと床板に音の振動が伝わってくる。


「始まったな」


 愉快そうな笑みを浮かべた高田(たかだ)は、窓の外へと視線を移す。道場へ入ってきたときのことといい、麻乃を演習に出したことといい、修治(しゅうじ)はさすがに黙っていられず、修治は高田に苦情を漏らした。


「よくないですよ、先生。あれでも怪我人なんですから」


「仕方なかろう。話をするあいだ、体よく麻乃を追っ払っておくには、演習が一番だ。まさか麻乃に道場の掃除や食事の支度などさせられないだろう?」


「それは……まあ、そうでしょうけど……」


「大体、よくないのはおまえたちのほうだ。まさか今もまだ、炎魔刀(えんまとう)を帯びているとは思いもしなかったぞ。麻乃が帯びている以上、おまえも手放せなかったのだろうが……」


 高田は床の間にある刀掛けに炎魔刀を置くと、懐かしそうにそれを眺めた。


「こいつを抜けないということは、麻乃はまだ覚醒する様子がみえないか。髪も瞳も変化がないようだしな」


「その事なんですが、麻乃は覚醒しそうになると、それを自分で抑え込んでいるようなんです」


「抑え込む? おまえにはそう見えるのか?」


「見えるというか……何度かそう感じることが。覚醒することに対して、いつもなにかを怖がっているふうで」


「ふむ……よほどのことがなければ、今の自分となんら変わらないと言い聞かせてはあるのだが……」


 高田は腕を組み、少し上を向いて考え込んでいる。

 昔から、麻乃のこととなると、高田は難しい顔をすることが多い。


「無理に抑えているせいか、精神的に不安定なことが多いんです。それからおとといですが、多分覚醒しかけています」


「確かか?」


「麻乃が腕を落とした隊員のところに、夜中に立ち寄ったそうです。そいつは常夜灯のせいで瞳が紅く見えたと思ったようですが、その場所では瞳の色が変わるほど、常夜灯の光は差し込みません」


 そして――と修治は言いかけて、一度口を閉じた。

 握ったこぶしを口元に持っていき、高田を見つめる。普段は誰にも見せない迷いが、このときだけは顔に出ていたかもしれない。言葉にすることで、それが現実の重さを持ってしまうような気がして。それでも、高田にだけは話さなければならなかった。


「その隊員に『おまえをこんな目に遭わせるなんて。このままではおかない』と、言ったそうです。麻乃はそれを、まったく覚えていない様子でした」


「まずいな。通常ならなんの問題もないが、隊員を多く亡くしている今、怒りや哀しみを大きく抱えているだろう。そんな状態で覚醒したら厄介だ」


「敵が撤退したあと、あいつ一度、倒れています。そのときに、なにかあったんじゃないかと思うんです」


「手出しができるなら、無理やりにでも覚醒させるのだが、こればかりは麻乃次第だ。どうにもならん。しかし……」


「先生、俺は今度の襲撃は、なにかおかしい気がします」


 修治は膝の上に置いた手を、一度強く握り締めた。普段なら自分の中だけで処理してきた不安が、今日ばかりはうまく収まらない。


「いつもとなにかが違っていました。もしかすると敵国に、あいつが鬼神(きしん)だってことを知られているんじゃないでしょうか? その力を利用しようと、揺さぶりを掛けてきているんじゃないでしょうか?」


「そう簡単に情報が流れるとは思えんな……それに万が一にも知られたところで、大陸のやつらにはなにもできまい。麻乃をどうにかしようにも、やつらはこの国には決して入り込めやしないのだからな」


「先生、お忘れですか? 俺たちは年に一度、必ず大陸へ行くんですよ? 今年も、もうすぐです」


豊穣(ほうじょう)()か――」


 高田はハッとして修治に視線を向けると、思いつめたようにうなった。

 それから何度か一人で小さくうなずいている。

 黙って向き合ったまま、時間だけがただ過ぎてゆく。


 良いことはなかなか思い浮かばないのに、悪いことは次々と頭をもたげてくる。修治はぎゅっとこぶしを握り直し、膝の上に置いた。思いすごしだと笑われようが構わない。いつ、どんなことが起きようとも対処できるようにしておくのが、修治にとって唯一できることだ。麻乃のそばにいると決めた、あの日からずっとそうしてきた。


 数分後に高田は、よし、と膝を打って顔をあげた。


「考えているだけでは、どうにもならん。今はとにかく、麻乃から目を離さないようにするほかにないだろう。折をみて私からもう一度、水を向けてみよう。どうもあれは、なにかを隠している気がしてならんからな」


 そう言って高田は立ち上がり、窓の外に視線を移した。窓の向こうから、小鳥のさえずりが響いた。高田はそれを聞いているのかいないのか、黙ったまま動かなかった。炎魔刀を眺めたときと同じ横顔で、ただ遠くを見ている。

 修治も黙って、その背中を見ていた。

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