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転生先は異世界でした。  作者: U1
第二章 二人が旅をする話
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立っている場所

目を細めて笑う老人。その目に宿る薄暗い光は、いったい何に向けたものなのか。

何、と問いかけようとして俺は言葉を詰まらせた。


部屋の外が騒がしい。俺が廊下の方を見ると神官長は笑みを含ませた口調で語った。

「スレイア様の御子が部屋から逃げ出したようですじゃ。ほほほほ。やはりまだまだ子供でしたなあ。分かりやすくてかわいらしい。」

やはり、神官はスレイアだけではなくレヴィアのことも監視できるのか。

「何をした」

剣に手をかけ老人を見据える。

「おお、恐ろしや。わしは何もしとりませんよ。

 逃げた、というのは語弊を生みましたかな? 御子はただ、親の気配を追っただけでしょうよ。彼奴らはただそれをできるようにしただけ。

 ルヴェイト殿、少々気付くのが遅かったようですなあ」


おどけて怖がるそぶりをする男の言葉に、顔をしかめる。

奴の言葉の通りだ。この国にかかる結界を意識すれば、それが限り薄くなっていることが容易にわかった。

結界はスレイアの気配を阻む効果もあったらしい。だからレヴィアはこの神殿に来ても親の気配に気付けなかった。しかし何故血を継ぐ神官にその気配を感じないのかは分からない。血の濃さが気配の大小に関係しているのだろうか。


それにしても、俺はこの目の前の男の考えがわからない。

御子の血を疎ましく思っているわけでも、ましてや尊く思っているわけでもない。どうなってもよい、そんな感情が見える。


俺は剣から手を外した。老人はそれを見て意外そうな顔をする。

「成長なされましたなあ。てっきりわしを早々と動けなくしてしまうかと思いましたのに」

「まだ出来ない」

「おお、なんと恐ろしいお言葉。恐ろしい皇子みこ様じゃ」

これが神官長でなければ、切るつもりはないが、捕まえて動けなくなくするくらいのことはした。

だがお互いそこらの人間ではない。負うものが大きすぎる。

動かずにひとつだけ訊いた。

「レヴィアを逃がしたのは、聖域に迷い込ませるためですか」

「ほほほ」

否定しない。彼女を本気で抹殺する気なのだ。この神殿の者は。


何故、この時なのか。


一瞬だけ考え、俺は再度剣に手をかけた。思慮深い男はまた少し眉をあげた。

「俺は彼女を助けます。」

「それは神官を切っても、ですかな?」

「勿論」

「ほうほうほう。皇子様は我が国の神官を、傷つけると。」

「いいえ」

「うん?」

この時初めて神官長は怪訝な表情を浮かべた。


「俺は今、一介の旅人です。」


少しの間、沈黙が落ちた。

俺の言葉の意味を、分からなかったわけではないだろう。予測をしていなかっただけだ。


「まさか、貴方は国宝を」

「ええ。置いていきました。今、俺を皇子と証明できる物は何もない」

「なんとまあ…。あの耳飾りの価値、分かっていないわけでもあるまいに」

直系の王族だけがつけることのできるあの耳飾り。希少な魔石を使って国で抱えている職人に作らせているので、金額的に価値が高い。だが勿論本来の価値はそれではない。

あれは、王族の権威をあらわす物であり、またその人物の身分を証明することができる。あれが消失すれば俺は地位さえを失うことになるのだ。

「どなたに預けたのかは知りませんが、豪胆な方ですなあ」

「心配には及ばない」

誰よりも信じられる人物に渡してきた。もっとも、あの状況下でなければ、そして本人から言いだされなければ渡すつもりはなかったのだが。


「ひどい詭弁ですが、それが国の法なら仕方ありませんな。それではルヴェイト殿。御子を追うのなら気をつけて」

砕けた口調で神官長は手を振った。俺をとどめる気はないのか。

「ああ、それともう一つ言っておきますかのう。」

独り言をつぶやくように、老人は表情を消した。

「私は、魔族を認める気はない。」

「…貴方は」

口を開き、やはり俺は頷くだけして、部屋を出た。




何が起ころうと俺はレヴィアを助けないわけにはいかなかった。彼女は俺の目的のために必要な人間でもあり、さらに言えば、彼女がここまで命の危機にさらされたのは俺のせいなのだから。

皇子である俺が、黙認されていたスレイアの御子と接触した。焦りもするだろう。実行する機会も手に入れた。

失態どころの騒ぎではない。今すぐ自分を殴りたい気分だが、まず己のやるべきことをしよう。

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