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1日

 いわゆるシュミレーションゲームだ。

 ゲームなので、工場を作らずに牧場を経営する予定だったが、街の資金が足りずに困っている状況だ。観光を目的に人を集めないといけない。人が落とすお金が必要だ。

「何がいいのかな、レストラン? 動物園とか?」

 さいわい町の近くには湖があるので、ショッピングモールを作り、湖で楽しめる遊覧船などを作ることにした。

 一時間くらいゲームをしてから、夕食を摂って、準備していたリュックを背負うと裏山にでかけた。

 暮れ行く空は銅色で、雲一つなかった。期待に胸が弾む。満天の星を撮影できそうだ。

「俊矢、早く着いたんだな」

 待ち合わせの場所には、すでに俊矢が来ていた。

「すげえいい天気だよな、絶対にいい写真撮れるよ!」

 裏山に入ってポイントに着く頃には、足元はライトで照らさないとならなくなっていた。まだ薄明かりがあるうちに、機材をセッティングしていく。

 セットができれば、後は星の輝きを待つばかりだ。

「なぁ俊矢、月曜日にここが山崩れを起こすんだってさ。僕だけが行方不明になるらしいよ」

「はぁ? 何言ってるの。つうか、行方不明って何だよ、なんで月曜日にここに来るの? 夜にまた来るの?」

「昼みたいだ。放課後かな、お前のクラスの野草取りのときに合流する感じかな。みんなに危ないから来ないように言って欲しいけど」

 軽い調子で言ってみるが、我ながら信じがたい。おそらく、そうなるだろうとは分かっているけれど。

「おー? それをみんなに、どーうやって言えばいいかなぁ?」

 突然何を言い出すんだと、怪訝な声で、それでも伝える方法を聞いてくるあたり、俊矢は幼馴染だけあって分かっている。冗談でそんなことを言う人間ではないと。

「なぁ、僕も分からないよ」

 リュックの中のトランシーバーを出してみるが、まったく通信してくる気配がない。

「空、見てみろよ」

 反射的に空を見ると、小さな流星群が観測された。

「今の、写真には撮れたかな」

「いやまだ、時間に設定してたから撮影は開始されてないな。せっかくだったのに! なんの流星群かな、そんな予定あったか?」

 昼間に天体雑誌を見たけれど、流星群はなかった。流れ星にしては、数が多かった気がする。不思議なほどはっきり見えた。

「なかったと思う。けど、ラッキーだったのかな、写真に撮れてればもっと良かったけど」

 口惜しさが声に滲んだ。

「だよなぁ」

 俊矢も心底残念そうだ。

 満天の夜空にシャッター音がちいさく連続で聞こえてくる。自動で何枚も撮ってくれるカメラなので、本当に待つだけだ。

「でも、いい撮影になりそうだな。満天の星空だ。街灯りもいい感じに映ってるといいんだけどな」

「それは大丈夫みたいだよ」

「なんだよ、何でわかるの、さっきのもさ」

「このトランシーバーで、未来の俊矢と話したんだ」

「はぁ?」

 ライトに照らしてトランシーバーが見えるようにしてやる。

「うん、いまだに信じられないんだけどさ。明後日、自分が行方不明になるみたいで」

 不安よりも、困惑に近い感情を持て余してしまう。

「トランシーバー……だな」

 トランシーバーは、ただの機械にしか見えない。試しに通話ができるボタンを押すと青いランプが灯る。

「こちら蒼、応答できるか?」

 何の反応もない。

「過去の自分と話すことはできないとか、制約があったりして。それか、単に向こうでの時間が応答できない時間帯なのかも」

「本気だな?」

「こんなバカな話をさ、僕がすると思うか?」

 俊矢は黙り込んだ。

 満天の星空の下でしかできない話に思えた。俊矢がいまどんな表情をしてるか見なくていいし、自分の曖昧な言葉もなんだか恥ずかしい。

 トランシーバーの向こうの俊矢の心もとない声や、優奈が泣いている音がなければ、絶対に信じていなかった。

 だから、俊矢に話したのは、明日の自分がどうなるかの不安を吐露しただけなのだ。

「でもさ、ここだよな。この裏山が山崩れするんだよな? なんか兆候とかあるか?」

 夜も更けて車道にも車は通らない。

 しんと静まり返っている遊歩道。

 石が転がるような音が遠くで聞こえた気がした。何かの動物だろう。

「特になさそうだけど……」

「僕はどこに行ったんだろうな、山崩れに巻き込まれたらさ、さすがに死体くらいは出そうじゃないか?」

「おいおい、怖いこと言うなよ」

 だが、裏山はそこまで大きな山ではない、遊歩道が整って人が迷うような道筋もない。確かに山なので、危険がないとは言えないが、人が何日も見つからないほどの規模ではない。

 さすがに俊矢も真剣な声になった。

「明後日だろ、月曜日。じゃあさ、ここに来なけりゃいい」

「クラスが山崩れに巻き込まれるって分かっててもか? 優奈もいるんだ」

「じゃあ、優奈に今日……、明日の朝に連絡してさ」

 そこではっと気付いたようだ。

「だから、俺がクラスのみんなに言えばいいわけか」

 いったい誰が信じるというのだろう。文化祭の迫った日程で、クラスのテーマをやってしまって、部活動の出し物の準備に参加しなければならない。

 すでに決まっている予定を白紙にする手段などあるのだろうか?

「山崩れが起こりそうだって、役所に言ってみるとか」

「市役所って日曜日やってるか? もっとはやくに信じとけば、それなりの対策できたのか」

「とりあえず、月曜の朝に役所に連絡するのがいいかもな。捏造でもして、崩れやすくなってるみたいなこと言ってさ。で、お前は月曜日は裏山には行かない。役所に連絡したら、クラスの奴らにも俺から言えるから、みんな行かない」

 俊矢は滔々と話してから、押し黙った。

「そうなるといいよな?」

 弱気だ。

「役所に連絡はできる。防災の部署だよな。事故を回避したらいいわけだしな」

 俊矢に相談したのは正解だった。具体的な行動ができれば、優奈のクラスが山崩れに巻き込まれることもない。

 この相談の結果が反映されたら、トランシーバーはなくなる、はずだ。だが、トランシーバーはまだそこにあった。

 未来は変わらないのか?

 明日、またトランシーバーで未来の俊矢と話せば、状況も分かるだろう。

「文化祭が無事に終わるといいな」

 祈るような気持ちで夜空のさきを、宇宙の惑星や無数の銀河が存在する空間を見上げた。

 撮影は順調に終わり、三時過ぎには撤収した。暗い道をゆっくりと気を付けて進んでいく。

さすがに眠くなってきた。

 帰宅後はシャワーをあびてすぐに休んだ。


 4.一日

 砂嵐のような音が遠くから聞こえて来て、トランシーバーだと飛び起きたのは、6時半だった。

 あくびを噛み殺しながら、すぐに取り出せるようにと棚にしまっておいたトランシーバーを引っ張り出して机に乗せた。

「蒼、無事か?」

 ついさっきまで一緒にいた俊矢だが、別の俊矢だ。

「まだ日曜日だからー、昨日帰ったの4時だぞ、さすがにまだ眠いよ俊矢」

 さすがに抗議した。このトランシーバーの応答を心待ちにしてたとしてもだ。

「日曜日か、朝なんだな。そうか、悪いな」

 状況を察してくれた親友は、ばつの悪そうな声になった。

「そっちはいつの何時なの?」

「十月十四日の十時だよ。朝の。土曜日だからさ。昨日は通信できなくて、焦ったから」

「通信できなかった? こっちからも夜に通信してみたけど、応答がなくてさ。こっちの俊矢がいたからかとも思ったけど」

 寝巻の上にカーディガンを羽織り、トランシーバーを片手にキッチンに向かう。とりあえずもコーヒーを飲みたい。

「眠そうだな、すまん」

 眠くて舌足らずになってたみたいだ。

「いや、待ってたんだ。昨日の俊也と、市役所に連絡するとか対策を練って、明日実行するんだけど、状況は変わらないのか?」

「覚えてるよ、で、ぎりぎりまでお前は行かなかったんだ。けど、立ち入り禁止ってロープを超えて採取に入ったらしくて」

 つまり市は危険と思われる一帯を封鎖していた。それを破って中に入ったやつらがいた。

「どうやって僕はそれを知るんだ」

 なかなかうんざりな話じゃないか。

「結局、クラスは止められないんだ。優奈一人くらいなら引き留められるかもしれないけど。藤沢にでも頼めばさ」

 隣のクラスに行けば、誰でも採取に行ったことは分かるわけだ。

「つまり僕は行方不明になるんだな」

「……蒼、俺に声をかけて一緒に行くようにしないか? 何かあった時に、二人なら回避できるんじゃないか」

「この会話をしてる時点で、僕だけが行方不明なのが変わってないなら、うまくいかなかったんだ。なんだか興味が出てきたよ、僕はどこに消えたのかさ」

 もちろん知りえない状況になってる可能性もある。

「寝不足だからそう思うのかもな」

 そういえば、、藤沢たちはどうしたんだろう。

「藤沢は何か調べたのかな」

「今日、後で会うことになってる。たぶんまた通信するから」

 トーンダウンした俊矢の声が、やさしく響いた。

「わかった、トランシーバーは放さないようにするよ」

 通信が終わると、まだ作りかけのコーヒーを横目に、水を一杯飲んだ。一度目が覚めたが熾火のような芯からの眠気があった。

 静かな日曜日の朝だ。

 ベッドに戻って倒れ込むと、瞬時に眠りに落ちた。

 次に目が覚めると十時を回っていた。我ながらよく寝た。すっきりだ。

 行方不明が、どこかの穴に落ちて見つからないとかなら、念のためにカロリーメイト、チョコレートバーとか、水とかを持っておくのがよさそうだ。

 夜は寒いし、羽織るものも必要だ。念のため救急セットも用意する。持ち歩くのに、天文部のリュックを借りることにした。機材をごっそり出して、まるで防災の備品のようになったリュックの中身に納得する。

「使わないのが一番だけど」

 朝と昼を兼ねた食事を摂ると、ふつふつと元気が出てきた。ランニングに行ってから、勉強をすることにした。

 次にトランシーバーが反応したのは、夕飯後だった。

「応答願います、こちら藤沢」

 早口な藤沢だ。

「どうだった?」

「一通り回ってみて、何の痕跡もなかったんだ。たとえば靴とか、持ち物とか、なんでもいいんだけど。まるで山崩れでいなくなったんじゃなくて、失踪した感じだ」

「失踪か……」

「でもこうして話したら、失踪する理由なんてなさそうだしな」

「実際、する理由もないしな」

「はやく出てきて欲しい。高槻さんが倒れるよ」

「優奈が?」

「ずっと祈ってるよ、無事に戻るようにって」


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