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二日

 トランシーバーの点灯がなくなり、通信が途絶えたことが分かる。おそらくトランシーバーの向こうで、話をしているのだろう。


「誰も見てないとかないよな?」

 藤沢は声を上げてうながしてみた。

 ミステリ研の部室は視聴覚室の準備室だ。

 トランシーバーの前を陣取った藤沢が、狭い準備室に集った同級生たちに目をやった。高槻優奈は遊歩道にいたわけだから、見ているはずがない。

 斉藤は? 部活を優先していて採取にはちょっと顔を出した程度だったから、遊歩道にいた。崎坂が山に入ったときも、山崩れについては知らなかったようだ。

「誰か見てないか?」

「声かけてもらったときは、みんながいた場所だったし、それが最後だったかな。なんで避難なんてするの? とか話しながら、とりあえず移動したよ。他ならぬ崎坂だったから」

 体格のいい吹奏楽部の村田亮太が初っ端の口を切った。大らかな声で、しっかりしている。

 それぞれがくつろいだ格好で、椅子に座ったり、壁に寄りかかって立っている。

 来ているのは十名だ。崎坂の友人の斉藤俊也と、救われたうちのクラスの生徒と、他のクラスでも、崎坂のことを知っている、もしくは帰還を望む人だ。優奈と、藤沢、俊矢を抜かしたメンバーは、次の通り。

 村田亮太 坂の上にいた最後の一人 体格がよくがっしりしている、アクティブな吹奏楽部。

 高田紘一、陸上部に所属する。

 西野梨加、ポニーテールのバトミントン部所属。

 兼森大夢、言葉少ない美術部員。

 岡本逸、柔道部部員。

 市川千沙、帰宅部。

 田中統也、バレーボール部。

 陸上部に所属する高田紘一が途方に暮れたように息をついた。

「最後がいつかも分らなくないか? それこそ、俺が最後かもしれないし。あの時、急斜面に生えてる花があって、採取してたら声をかけられたんだよ。よく俺がここにいるの分かったなと思った」

 髪が長く、ポニーテールにしている西野梨加が手を上げた。

「それ、私が教えたの。崎坂くんが声をかけてくれてて、他にどこかいるかって聞いてきたから、思い出してね」

「じゃあ、俺のとこが最後かな。みんなの所からは離れてたし。避難勧告を聞いて花を取ってからすぐに遊歩道に戻ってみんなの居る方に戻ったよ。なるべく斜面とは離れるように横にずれたからな。崎坂は、俺が下りる前には姿を消してたんだよ。まだ崩れてなかったし、普通に戻れてると思ったんだ」

 藤沢は整理しようと早口をはさんだ。

「どっちの方に行ったかは分かるか?」

「どうだったかなぁ」

 うなるような声を出して、思い出すようにしている。

自分が急斜面にいる状況で、花を採取して降りるまでに、他人を見る余裕はなさそうだ。

「そこでは山崩れはなかったのかな」

「さあ、見てないし」

 現場検証は必要そうだ。

「湊くん何かひらめいたの?」

「山崩れの現場、見に行く必要があるんだ」

 瞬間、そばにいた高槻の顔色がさっと青ざめた。不安と心配と、現状を直視したくない表情だ。

「高槻は来なくても大丈夫だよ。どう回避するのがいいかを知りたいだけだから」

 藤沢はトランシーバーをオンにした。

「比較的に高い場所で斜面に咲いてる花を取ってた高田が最後みたいだ。その後、避難するときには崎坂はいなかったみたいだ」


「そうか……」

 僕は考え込むような声しか出せなかった。実質なにも分からないままだ。

 とにかく自分がどう行動したのかはわかった。なぜ消えるのかだけ謎のまま。どこに消えたんだろう、山は捜索されてるのに出てこないのは?

 トランシーバーがふたたび点滅した。

「今日はこの辺で。明日は天体写真の日なんだよね、こちらでもいくつか調べておくよ」

 藤沢のゆっくりした声が途切れると、トランシーバーは静かになった。

 明日の朝に今の俊矢から連絡がくるはずだ、未来からの俊矢の言葉通りならば。

 急にやらなければならないことがたくさんあるのを思い出した。まずは風呂だ、山登りをしたし、汗を流したい。

 次に宿題だ、もしいなくなるとしても、気になって天体写真どころじゃないだろう。ありがたいことに数学だ。

 最後に明日の準備。トランシーバーも持って行くことにする。未来の俊矢と、今の俊矢が話すことはできないのかな? なんかタイムパラドックスとかでダメなのか……?

 さっぱりした後で、冷蔵庫から炭酸水をグラスに注ぎ、自室の机に向かう。クーラーを入れるほどではないけれど、窓は開けたい。

 夜の空気が、心地よく入ってくる。

 昔は9月末は爽涼くらいの、初秋の空気だったらしいけれど、今はまだ夏の終わりの気温だ。むしろ昼間は三〇度もあって、まだまだ暑い。

 気を取り直して宿題に取り掛かった。ほどなくして終わり、英語の予習をしてしまう、教師がランダムに生徒を指名して訳せと言うので、気が抜けないのだ。

 いつもの勉強を終えると、炭酸水もちょうどなくなった。夜にコーヒーはよくないけれど、明日は土曜日だし、少しくらい眠れなくてもいいかなと、キッチンでコーヒーを注いだ。

 天体写真の準備もしておく。

 リュックにはトランシーバーを収納しておいた。まあ、使わないだろうけれど。今の僕には御守りみたいなもんだ。

 小腹がすいたときのために、カロリーメイトを入れる。未開封のペットボトルも念のために入れる。無駄遣いをなくすためだ。

 さて、そろそろ寝ないと。

 最後にネットでニュースを確認する。目についたニュースの表題だけ拾っていく。地名を言われても、地図が思い浮かばない海外での地震M5、政治家の裏金について、戦争がはじまった地域の状況について、芸能人の結婚等々。

「地震が多いな……」

 最近は、災害のニュースが多い。噴火や地震などがニュースになっている。ニュースの表題だけでは内容は分からないが、読むと眠れなさそうなので携帯の明りを落とした。

 眠りに落ちる前に、どうか、と切に思う。

 どうか何事もありませんように。みんなが無事でありますように。優奈が笑顔になりますように。


 3.二日

 ゆっくり朝寝坊して起きると、パジャマのままキッチンに行き、ドリップの機械でコーヒーを淹れ、トーストを焼く、できあがるまでの時間で支度を終わらせた。

外は雲一つない空で、窓を開けると小鳥のさえずりが楽しげに響いている。まさに絶好の休日だ。

 目玉焼きを焼いて、トーストに乗せてかぶりつく。しあわせだ。

 そうこうしているうちに、予告通り俊矢から通信が届いた。夜まで晴れるから、天体写真を撮りに行こうとのお誘い。

 昼まで少し時間があるから、運動をする。明後日の自分がどうなっているか分からないけれど、土曜日は土曜日だ。

 筋トレの動画で時間を測りながら、腹筋、腕立て伏せをする。水を飲んでからジョギンクに出る。

 5キロほど走って家に着くと、昼前だ。汗を流して水分を補給すると、今度は、自転車で昼飯と夕食の調達に出かける。土曜日は家政婦さんはお休みだ。

 現在の気温を携帯で確認すると二十八度だった。

風を切ってスーパーに向かい、空調の効いた店内に入ると自然にため息がもれた。スポーツドリンクと、トースト、ポテトサラダ、ローストビーフ、サニーレタスを買う。夜のために切れていたベーコンも追加。ついでにアイスも買っていく。夜は天体写真を撮りに行くから、簡単なもので。

 急いで帰宅すると、トーストを焼いてポテトサラダを挟んでサンドイッチにする。ローストビーフとレタスも別のトーストにはさむ。

 コーヒーを淹れて、ランチの完成だ。

 空腹すぎて味わう間もないほど急いで食べてしまう。自分で作っている分、食べ終わると何となく残念な気分だ。

一息すると携帯でニュースや連絡などのチェック。案の定、両親からと、部活の連絡が入っていた。返信をしていたら十三時を過ぎていた。

 休憩がてらアイスを食べて、天体雑誌を読む。

 落ち着いてきたら、午後は復習と予習の時間だ。好きな数学は後回しにして、まずは英単語から。ちまちまと書いて覚えていくが、結局のところ文章になった時に読めるかどうかだ。

 一通り進め、数学が終わると十六時になっていた。携帯でニュースなどを確認する。

 特に何もなし。

 夕食はパスタにするつもりなので、まだ時間に余裕がある。

 ずっと勉強していると肩が凝るので、ストレッチをする。ついでにその間は、好きな曲をかけたりしてリラックスだ。

 天文部の後輩に借りたゲームがあったことを思い出す。街を作るゲームで、意外に頭を使うから片手間では難しい。街を作る経営者になるゲームで、どんな街も作れるらしい。

 正直、難しい。映画や漫画は観たり読んだりするけれど、街のインフラになんか興味はなかったから。

 後輩曰く、難しいので先輩に貸します、だそうだ。

 ゲームをするためにパソコンを起動し、スポーツドリンクを開ける。何かつまめるものがあったかな?

 棚を探すとチョコレートがあったので、数個手に取って自室へ戻る。

 パソコン起動が終わり、ゲーム画面の中で、作った街に移住してきた人々が生活している様子がうかがえた。人が生きるには、水や電気や下水、ごみ処理場などが必要で、仕事場も作らなければならないし、電車や道路も作る必要がある。


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