チーム一丸2
息が白い。言われてはじめて気づく。どうやら緊張しているみたいだ。並走しながら、声は小さめに話していく。
どのへんのショッピングモールだったかは、調べられなかった。重傷を負う警察官を救うことはできない。
下手に郵送したり、メールを送ったりしたら、容疑者になりかねないと、藤沢がもっともなことを言うので、どうしようもなかった。
「藤沢は?」
「来るってさ。三人組だけど、藤沢と兼森、村田。俺と、お前と、舞衣。舞衣は見張りだけどな。兼森は慎重だし、細かい作業が得意だ、美術部で集中力もある。村田は見張りだな。吹奏楽部は先生受けがいいし。そんな感じでやろうってことになったよ」
「舞衣ちゃん、事情は知ってるんだ?」
「そりゃ、何でも話してるからね。彼女に隠し事はよくないでしょ」
僕は苦笑して頷いた。
学校に着くと、藤沢から携帯に着信があった。
「どう?」
「ないな。影も形もない。鍵もかかったままだ」
「こっちもない。地面が雨でぬかるんでるよ」
ということは、授業中に置かれるわけだ。仕方ない、休憩時間のたびに行くしかない。
一時間目が終わり、偵察組が行っていた。
中庭と調理室で、何人かが顔を合わせたが、いくつかの視点から見ても何も変化がなかった。調理室は、二時間目と三時間目が、一年生が調理実習だった。
三時間目が終わった後に、調理室は鍵が開いており、異変があった。
「ケーキの箱があるよ。大きなケーキの箱で、普通に机に置かれてる。全然違和感がない、これが本当に爆弾かと思うくらい」
市川が見つけて知らせてきた。帰宅部であまり役に立てなかったと、休憩時間は走ってくれていた。
「中庭にも、段ボール箱が置かれてる。けっこうでかい。これだろうな」
昼休みもバレーの練習をする田中統也からの知らせだった。
SNSでのみんなの反応は既読になる、だけだった。息を飲んで絶句する姿が見えるかのようだ。
僕は、いい具合に緊張の取れた状態で、みんなにむかって言葉を打った。
「三人組に決まってる人たちは、次の授業はエスケープだな。四時間目の授業の間になんとかしないと、昼休みに入ったらもうあっという間に二時近くになる。実際は何時に爆発するか分からないし」
「よしきたっ、舞衣は保健室に行く。俺は腹下し、蒼は?」
「突然いなくなるのは、前例があるしな。じゃ、熱が出たみたいってことにする」
藤沢からコメントが届く。
「ふつーに授業に出ない感じにするよ。どこかに隠れてる。同じ教室で腹下しが二人いたら不審に思われるしね」
「うちは体育だし、僕はちょっと足を捻ったって休むから」
兼森がそっとコメントしてきた。あまりSNSでやりとりしないから、あ、見てたんだなと思う。口数も少ない方だ。 山崩れで助けたわけでもないが、一年の時に同じクラスで席も割と近く、班行動などでは一緒だった。ときどき廊下で話をするくらい。
「えー、うちのクラス多いな。三人って多くない? 俺も隠れてるわ」
明るく村田がスタンプなどを送ってきた。「やるぜ!」と描かれていた。
合わせたように、みんながスタンプを送信してきた。がんばれ、やら、慎重に、やらだ。
四時間目の開始チャイムが鳴り響いた。同時に数学の教師が入ってきて、起立、礼、着席、と開始された。
「すみません、先生」
「どうした、崎坂」
「ちょっと具合が悪くて、保健室に行ってきます」
「大丈夫か? あんまり具合悪かったら早退しろよ」
たぶん緊張のあまり顔色が悪かったんだろう、先生は少し前まで入院していた生徒に対して心配した声だった。
クラスの視線を気にする余裕もなく、僕は教室を出た。
静かな廊下に足音が響かないように、早足で移動する。調理室の前には、すでに俊矢と舞衣が来ていた。
「鍵は開いてる。午後に授業があるみたいだ」
目線で頷きあって、調理室に入った。すぐにプレゼントの箱に気付く。大きい。
「ケーキじゃないのが、バレバレじゃないか」
俊矢の言葉に舞衣がちいさく頷いていた。ひとつ頷くと、調理室の出口にむかって、外を見張りだす。
「今は大丈夫」
舞衣はOKマークを指で作ると、真剣な表情で見張りをしはじめた。
確かにケーキのサイズの箱じゃない。周囲を回りながら様子をうかがう。
「どうなってるんだろうな……」
中身がどうなっているか分からないのに、不用意に開けられない。けれど、開けないと解体もできない。
白い箱に赤いリボンがラッピングされて、箱の上で蝶々結びになっている。
「リボンは取っても平気みたいだな」
箱をくまなく調べて、リボンに何か仕掛けがないことを確かめると、僕は慎重にリボンを解いた。箱の割にはリボンは細かった。
「蓋が開くようになってる。俊矢、そっちはどうだ? 蓋に何か間に詰まってたり、仕掛けはあるか?」
「いや、見えない」
「とるぞ」
蓋を取るのに、椅子に上がって立ち上がらなければならなかった。ゆっくりと取っていく。
「なんだろう、これ」
銀色の厚い板が円のようになっている。中身は見えない。
「こっちも開けないと分からないな」
用意してきたハサミで、鉄の板が壁を作っていない側の箱を切っていく。横に開けるつもりなのだ。
「気を付けて」
「こっちは何も仕掛けがない」
箱の側面が開かれた。
銀色の厚い板でできた土管のような筒だ。
「浮かんでる……」
その横倒しされた円柱の中には、ビーカーみたいなガラスでできた丸いカプセルがあり、中心に何かがあった。本当にちいさな光のような。
「あのカプセルを取り出せばいいんだ。誘導チップってどれだろう」
冷静に見極めようと、思考の回転を止めずにしゃべる。
俊矢が下の鉄の板を指さした。
「ここにUSBが刺さってる、仕組みは分からないけど、時計代わりかな、誘導チップ?」
抜いたら爆発する可能性もある。でも、抜くって言ってたよな。
どうしたらいい? もってきたピンセットでは、カプセルをつかむことはできない。大きすぎる。
「これさ、手で掴んだらダメかな? ガラスが割れなきゃいいんだろ」
すぐそこに浮かんでいる。俊矢は取ればいいと思ったらしい。
「電気で浮かんでるって聞いた、電気を遮ったら落ちる。落ちたら爆発だ。落ちる前につかめるか?」
「下から遮ったら、手の中に落ちてくる? 上を遮ったら? この丸い装置が、浮かせてるんだよな」
ケーキの箱の横側くらいには、幅もある。手を突っ込んで真ん中の小さなカプセルをつかむのは、勇気がいりそうだ。
「仕組みも、何も分からない。けど、この真ん中のを取ればいいんだと思う。僕が掴むから、下に落ちないように向こうから手を入れて万が一に備えるのは?」
「いいね」
ケーキの箱は四方に広がるように切られ、中身があらわになった。両側に立って、息を整える。
「3,2,1でやろう」
「わかった。言ってくれ」
暖房も入っていない調理室は冷えているにもかかわらず、緊張で寒さは感じなかった。
「いくそ、3,2,1」
ばっと手が丸い装置に両側から突っ込まれ、ビーカーのようなカプセルは僕の手のなかに。掌に感じるのは、冷たいガラスの感覚だった。
「出すぞ」
「おう」
捕まえたまま手を引き出して、そのまま後じさると、隣の机に腰があたった。そのまま座り込む。
「成功したみたいだ、中庭のやつらにも取り方を伝えてくれないか?」
俊矢はもう携帯で話をしていた。
舞衣がほとんど声の出ていない、張り詰めたような声を出した。
「静かにっ、先生が歩いてる」
扉のそばにいた舞衣が、ぱっと調理室の内側に隠れた。僕は座り込んでいるから、大丈夫だ。俊矢は机と机の間に隠れた。隠れながら、ものすごい小声で携帯に指示を出している。
先生はこちらには来なかったようだ。
「もう行ったよ」
「じゃあ、その誘導チップみたいなUSBは抜こうか。抜くって言ってたし。カプセルがなくても、爆破したら嫌だしな」
「じゃあ、USBは俺がとる」
二つを一緒に持つのは避けたいという心境は分かる。
「音とかしたらやめよう」
俊矢は頷いてから、USBをゆっくりと取り外した。
「中庭も終わったみたいだ。これはこのまま?」




