チーム一丸
学校に行く口実はいくらでも作れるが、調理室に入るのは難しそうだ。なんとか探せるように手配しないと。
「よし、藤沢にも話してみるか」
⒑ チーム一丸
金曜日の終礼が終わり、思い思いに部活動へと向かう生徒たちを横目に、僕は隣のクラスへと向かった。
「優奈、昨日はありがとう」
僕に気付かないまま優奈は、カバンを手に立ち上がろうとしていたので、声をかけた。
「もう大丈夫? 来られたから、よくなったってことだよね」
しっかりと僕を見て、応えてくれた。
「朝起きたら治ってたよ。藤沢も昨日は世話になった」
寄ってきた藤沢にも礼を言う。
「いや、別に」
メガネを上げながら、首をかしげて応えてきた。
教室に残っている生徒たちが、僕に挨拶をしてくる。山崩れから助けた後に、ケガで入院してたと聞いたら礼の一つも言いたくなるだろう。
「みんな集まれるし、今日はミステリ研も休みだ。視聴覚室の準備室が使える、解除の準備をしなきゃな」
「うん、蒼ちゃん行こう」
鞄を持って教室を出た。
視聴覚室の準備室は狭いが、なんとか全員入ることができた。各自好きに座ったり、テーブルに腰かけたりしている。
「無事に未来から崎坂が戻ってきたので、爆破事件を阻止すべく準備をしたいと思う」
藤沢が仕切ってくれ、話が進んでいった。
十人中四人が文化部で、五人が運動部、一人だけ帰宅部だ。僕も入れると、五人が文化部だった。
吹奏楽部の村田亮太と美術部の兼森大夢、帰宅部の市川千沙、高槻優奈、藤沢湊が調理室だ。陸上部の高田紘一、テニス部の西野梨加、柔道部の岡本逸、バレーボール部の田中統也、それと俊矢と僕が中庭の担当となった。
爆弾を見つけたらどうするか、解除の方法などを共有して解散した。
解散した後は、部活が終わってからそれぞれが帰りに調理室の様子を見たり中庭に不審なものがないかを見てまわった。
調理室は料理部が使っており、優奈は気軽に入っていって、みんなの動画を撮ると称して、あちこちを撮影できたそうだ。
金曜の夜にSMSで、それぞれの報告が送られてきた。
村田の吹奏楽部は、遅くまで部活をしている。終わったタイミングで調理室に行ったという。
「調理室には鍵がかかっていたよ」
兼森の美術部は各自好きな時間に帰宅して大丈夫なので、夜遅くまで作業をしてから見に行ったという。
「見回りの先生がいて、調理室の鍵までは確認できなかったよ。真っ暗で何も見えなかったし」
帰宅部の市村の報告はすまなそうだった。
「私はあの後すぐに帰ったから、料理部が作業しているのを見ただけ。あんまり役に立たなくてごめん」
藤沢はさすがな報告だった。
「放課後の調理室は料理部が終わるとすぐに鍵をかけられてる。部長がカギをかけて、職員室に持って行っていた」
優奈はコメントではなく、動画を送ってきた。
「特に不審なものはなさそうだな」
「だな」
「大丈夫そうね」
「きれいだな、調理室は」
優奈の動画に感想が重ねられた。
「次は中庭」
藤沢の音頭で黙っていた運動部が送信し始める。
高田のアイコンからコメントが出た。
「陸上部は暗くなったらもう終わりだから、あの後は部活には出ないで帰ったよ。中庭は体育館の明りで見えるけど、けっこう人通りがあって、中庭を見て回ってたら、先生から注意された。落とし物したって言い訳したけど、ちょくちょく見に行くのは無理そうだ」
「中庭でさぼってた生徒がいたからかな」
つかさず西野が意見した。
「私も野外だから、日が暮れると終わっちゃうんだ。ライトアップはされるけど、そんなに長くはできないの。だから終わって渡り廊下から中庭を見たけど、特に何もなかった」
柔道部の岡本逸が、時間を空けて長い文章を送信した。
「うちは来月練習試合があるから、遅くまで残ったよ。ちょうどバレー部も終わったとこだったみたいだから、統也と一緒に中庭に出た。体育館の明りが消えると、渡り廊下の電気だけだから、苦労するけど。携帯のライトでなんとか見てみたよ」
「不審なものを探すなら、朝の方がいいかもな」
田中統也が追加するように送信してきた。
「明日の朝、僕と俊矢で中庭を見る予定だ」
天文部は活動日ではなかったから、図書室が閉まる時間までねばってから調理室と中庭を見てから帰宅していた。
見回りをしてくれたみんなの気持ちが、緩まないように追加で送信した。
「みんな、ありがとう。土曜日に部活がある人は、また見てみてくれ。たぶん爆弾が見つかるのは月曜日か、火曜日の午前中だ」
藤沢が最後にとどめの一撃のように送信してきた。
「月曜日に爆弾解除のための道具を渡すからな。打ち合わせ通り解除は、三人一組で行動しよう」
夜十時半のSMSミーティングは終了した。
事前に何度か三人での練習もしたい。本当なら日曜日も見回りたいが、学校が閉まっている。
月曜日も各自で交代しながら見回った。早朝、休憩時間、昼休みの時間と。そのたびにSMSで報告をして、状況を共有した。
だが、昼過ぎから暗雲が空を覆い、あっと言う間に大雨になった。雷まで鳴り、とうとう避難指示まで出てしまった。
「残る先生っているんですか?」
担任に聞いてみたら、即答された。
「避難指示が出たから全員帰宅だ。そう言えば友田先生は見回りするって言ってたな。さっさと帰宅しろよ」
暴風雨と化す手前くらいの雨風のなか、帰宅を強いられた。ほうぼうの体で帰宅すると、制服は雨でしずくがしたたるほどだった。
着替えてソファに座り込み、携帯を見た。
SMSではみんなが、どうしたらいいかと思案していた。
「すげえ雨だよ、みんな、無事か?」
「無事無事、部活がなくてつまんないよ。試合も近いのにさ」
柔道部の岡本の不満そうな声が聞こえてきそうな気がした。それぞれが無事であるとスタンプやら、文字を送ってくる。僕も無事だとひとことだけ打った。
窓の外では雷が盛大な音を立てていた。家政婦の吉田さんには、帰宅する前にはもう連絡して帰ってもらっている。この雨では車でも危ない。
「爆弾は明日の朝、見て回るしかないよな。陸上は朝練はないけど」
高田が明日について、話を振ってくれた。
「うちはある。ランニングだけど」
つかさず岡本が送ってきた。どれだけ部活に熱を入れているかが分かる。がんばってるんだな。
「体育館の部活はあるよな、バレー部もある。だから中庭は任せてもらっていいよ」
見つけたらSNSで知らせるだけだ。決して一人で手を付けてはならない。
「雨も雷もひどすぎ。停電しないといいな。さすがに今日は犯人も寄り付かないんじゃない?」
「明日も雨かな、本当に爆発するのかな?」
「まぁな、でも、トランシーバーの件がある。過去と未来と繋がってたんだ」
「だよな」
「爆弾は見つかるよ、だからがんばろう!」
おそらく、みんなが思っていた。未来を見た自分だからこそ、確信が持てるだけで、話に聞いただけなら、信じられるか分からない。
むしろ、よく信じてくれてる。
「明日の二時までには見つかるよ」
実は、化学の友田先生にはテスト期間中に接触していた。期末テストの質問とかで親しくなったのだ。お世話になったし、人柄も知っているから、何かあったら頼れそうだ。
「友田先生が最後に学校を見回りするから、調理室の見回りだけは頼んでおいたよ。さすがに爆弾とは言えなかったけど、料理部が嫌がらせを受けてるって言ってある。危ないから触らないようにも伝えたよ」
「なるほど、ナイス崎坂」
「友田先生なのがいいな」
「化学苦手だし~」
ポンポンと表示されていくコメントを目で追いながら、僕は今が変更されているのだから、未来は変わるはずだと強く思った。
グループSMSではなく、俊矢にメッセージを送る。
「早朝って、何時に行こうか?」
間をおいて返信が来た。
「朝練がある部活って、六時半とかからやってるみたい。そのくらいでいいかな」
「わかった」
翌朝、雨は上がっていた。
まだ雲は流れていたが、午後には晴れの予報になっていた。
「おはよ」
自転車で学校に向かう途中で、俊矢の自転車と出会う。
「おう。さみぃな」




