表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/22

試験

 駅に着くと、藤沢がそこで改札口に入っていった。優奈は自転車ではなく、バスを使っているので、バス停にむかった。

「また明日」

「明日ね」

 自転車に乗ると、俊矢と並走しながら帰宅した。


 爆破事件は期末テストが終わってから数日後だ。

 とにかく僕は勉強をした。今までの努力をたった三日のために捨てるわけにはいかなかった。

 勉強会は、テスト期間に入った放課後の教室を使った。

 帰宅して問題を解き、分からないところを授業の合間に聞いて、どうしてものときだけ教師に尋ねた。

 暗記モノはただひたすら覚える。英語などは片時も離さずに覚えた。

 数学などは解き方さえわかれば、よっぽど難しい問題は捨てても点数はとれる。

 一週間は短すぎる。

「時間が足りなさすぎる……」

 もらったプリントは終わらせ、試験範囲もあらかた網羅はしたが、睡眠を削っても目を通すので精いっぱいだ。

 日曜日の夜に最後の英文の問題を解いていたら、SMSの着信音がなった。もう二時は過ぎている。さすがに間違いかと、伸びをしながら携帯画面を表示させる。

 優奈からスタンプが送られてきていた。可愛らしいウサギで、明日はがんばろう! と書かれている。

「がんばるよ、おやすみ」

 言葉に出しながら返事をした。すぐにおやすみのスタンプが送られてきた。

 優奈は勉強会にもいつも来ていたし、幼なじみらしく親しくしてくれた。名前も下の名前で呼んでくれている。

 格好悪いところは見せたくなくて、がんばれたように思う。

 テスト期間がはじまった日くらいしか覚えてないほど、寝不足と疲れに抗いながら、四日間が過ぎていった。

「崎坂くん、テスト終わったね、よかったら放課後にカラオケでもいかない? うちのクラスでお帰りなさい会でもって」

 クラスと言ったが、集まってきたのは女子が多かった。

「ごめん、勉強漬けでもうクタクタだ」

「そっか、そうだよね。ゆっくり休んでね」

 せめて笑いかけて謝ると、女子は労ってくれながらどこかへ散っていった。

「終わったなぁ、大丈夫か? 生きてる?」

 終礼が終わり、思い思い鞄をかかえて帰宅する生徒たちの間をすりぬけるように、俊矢がやってきた。

「生き残った感じだ。結果はどうだろうな、ある程度は仕方ないか」

 立ち上がって鞄を机に置く。もう帰ろう。

「俺は今日は彼女と帰る。ようやくテスト終わったし、舞衣ちゃんとゆっくりするわ」

「おう、ありがとうな」

 鞄を肩にかけると一週間の、プラス三日間の疲れが押し寄せてきた。帰宅したら風呂に入って、食事をしたら寝よう。

「よしっ」

 机から離れると、優奈が教室に入ってきた。

「蒼ちゃん、大丈夫? 自転車で来たの?」

 一気にモードが変わる。疲れているけれど、まだもう少し頑張れる感じだ。

「自転車だよ、大丈夫。優奈も夜遅くまで頑張ってたろ。帰ろう」

「うん」

 一緒に昇降口まで降りていくと、妙に視線を感じたが、あまりにも疲れていてどうでもよい気がした。

「なんであんなのが隣にいるわけ?!」

「だれあれ?」

 女子生徒の声がよぎった。

 優奈が話しかけようとしていた言葉を、一テンポ遅らせてた。

「そ、崎坂君、本当に大丈夫?」

「ん? 優奈こそ、どうしたんだ? 顔が真っ青じゃないか、熱でも出たんじゃないか?」

 子供のころ、よく優奈は熱を出した。

「熱なんて、ないよ……」

 子供のころは、体温を測るときに頭突き、もとい額をくっつけていた。懐かしく思いながら、額と額をくっつける。

 どこかで小さな悲鳴が上がったような気がした。

「本当だ、冷たいくらいだな」

 優奈は硬直していたが、ゆっくりと額を離すと、そのまま目を上げた。

「違うよ、蒼ちゃんに熱があるんだよっ」

 ああそうか、だからなんだかふわふわとしていたのか。ただ疲れたのかと思っていた。

「湊くん、大変、助けて。一階、昇降口に来て。蒼ちゃんが倒れそう」

 事態を悟った優奈の行動ははやかった。携帯をすぐに出して、あろうことか藤沢に連絡をした。

「藤沢なんて呼ばなくても、帰れるよ」

 立っているし、まだ歩けるが、なんとなく視界がゆらぐ。その程度だ。

 階段から藤沢が駆け下りてきたのが見えた。猫っ毛がはねている。メガネをずり上げながら寄ってきた。

「崎坂、自転車は無理みたいだから、歩こう。じゃなければ、保健室に行くか?」

「いや、帰る。優奈と帰るよ」

「蒼ちゃん、バスで帰ろう」

「そうだな、行こう」

 藤沢も一緒についてきた。どこか心配そうな目でたまに見てくるのが、少し鬱陶しい。鞄が軽いのは助かった。テストだから必要最低限の物しか入っていない。

 駅までは歩きで十五分ほどだ。遠くはないが、近くもない。

「バス、来てるよ。よかった」

 ちょうど時間だったようで、バスが停留していた。めったいないことなのに、あまり嬉しくない。

「湊くんありがとう、また明日ね」

「気を付けてな。あんまり熱が高かったら医者に診てもらって」

「うん」

 自宅近くの停留所で降りると、実のところふらふらになっていた。

「つかまって。支えになるから」

 ありがたく優奈の肩に手を置いて、ぐらつく視界を修正した。

「ごめんな、気が付かなくて」

「何が?」

「中学頃から名前で呼ばなくなったから、僕のことが嫌になったのかと思ったんだ。けど、女子があんな感じになってたなんて、知らなかったからさ」

 優奈は歩きながら俯いていた。

「しょうがないよ、私じゃさ」

「優奈は可愛いし、頭だっていい、性格だって優しいし、僕にはもったいないかなってくらいだ」

 視界が揺れる。これはまずいかもしれない。

「家に着いたよ。鍵は?」

「鞄に、内側のポケット」

 優奈が探し出してドアを開けると、ようやく家に入れた。ソファに座ると気分が落ち着いた。制服でいるのがきつい。

「蒼ちゃん、休んでて、冷蔵庫開けるよ」

 吉田さんが作ってくれている夕食があるけれど、まだ早い時間だし、とても食べる気力がない。明日の朝にでも食べようか。

 自部屋に戻って着替えると、もっと楽になった。下に降りてキッチンを覗くと、優奈が何かしていた。

「蒼ちゃん、熱測って。体温計はどこにあるの?」

 救急箱を引っ張り出し、体温計を測るとあっという間に三十八度五分をたたき出した。

「寝なきゃダメそうだな」

「はい、飲んで」

 渡されたマグカップには、梅干しが入ったお茶が入っていた。昔、おばあちゃんが飲ませてくれたのと同じだ。

 口に入れるとものすごくおいしかった。塩分が染みわたるような、じんわりと温まるような。

「疲れで熱を出したら、これを飲むといいんだって。風邪だったら、薬がいいけど」

「へぇ~」

 すぐに飲み干してしまった。すぐさまテーブルに白湯と、風邪薬が置かれる。

「あと、水分が必要だから、たくさん飲んでね。私はこれで帰るから、よく休んで」

「ありがとう」

 優奈の気づかいに心からの礼を伝える。と、はにかんだような笑顔で、優奈がつぶやいた。

「ううん、私もありがとう」

 優奈の姿が玄関の開閉音とともに去ると、僕は二階に上がってベッドに転がった。そのまま朝になるまでまったく目を覚まさなかった。

 翌日、すっきりした頭で起き上がると、昨日のことが夢のように思い出された。

「……夢かな」

 携帯を見ると5時半だった。しかも、優奈からのSMSが届いてた。

 ―大丈夫? 熱が下がらなかったり、頭が痛かったりしたら、病院に行ってね。水をたくさん飲んでね。

 帰宅した後の時間に送信されている。

 ものすごく和んだ。優奈らしい気づかいで、短い文章だ。

 のどが渇いており、冷蔵庫から水を取り出すとコップに注いでは飲んで、を繰り返した。腹も減っており、夕食をそのままチンして頂いた。

 息をついて深呼吸すると、心底から疲れが取れた気がした。

 ここは自分が存在する本来の時間だ。学校もある。優奈も俊矢も、藤沢もいる。

 今日は11月29日、あと四日で学校は爆破されるはずだ。

「金曜日か、じゃあ、明日は土曜日か」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ