表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/18

解決方法

「調べても、どこにも載ってなくて。えっと、警察の人がケガをするんですか?」

「ケガじゃない、重傷だ」

 痛ましそうな表情だが、過去の話だ。どこか遠い国の話をしているかのようだった。

「聞きたいことは、これですべて?」

 また眠たげなゆったりした口調に戻った薄雲さんが、場の雰囲気をぐだぐだに戻した。周囲には気だるげな学生たちが、カフェに点在しているだけだ。

「アイスクリーム美味しかった、すごく久しぶり」

「俺も、ずっと金欠だもんなぁ」

 どっと冷汗が出た。

「解除の途中で、失敗することがある?」

 ぐだぐだがすっと消えた。

「触れさせたらいけないと、知識がなかったんだな」

「ちなみに、どこが標的になったんですか?」

「あー、どこだったかなぁ。どこかのショッピングモールだった気がするけど、すごく小さな爆発だったんだ、重傷者一名、警察官で、世間じゃボヤ騒ぎくらいの騒ぎになってたはず」

「爆破事件なのに」

「緘口令のせいかもな」

 指先が震えるのをこらえるために、拳をつくった。人に気付かれないほどの震えや、短くなった呼吸を元に戻すのに一呼吸必要だった。けれど、二人はまたぐだぐだな会話に戻っていて、僕の様子には気付かなかったようだ。

 ぐだぐだの雰囲気に合うような、のんびりした挨拶をしてから席を立った。

「もう大丈夫です、ありがとうございました」

「顔色が悪いけど、大丈夫? 熱中症じゃないといいけど」

 薄雲さんが心配そうにして、目配せしてきた。

「ちょっと熱っぽいかもしれないです、高校の課題のテーマに難しいのを選んじゃいましたね、もう少し考えないと」

 住岡さんがおやと目を上げた。

「あれ向田教授も休憩ですか?」

 メガネをかけた初老の教授がカフェに入ってくると、こちらに向かってきた。迷いのない、直接的な歩みで、用事があってきたように思えた。

「姿が見えたんでな、住岡くんの論文について聞きたいことがあったんだ、後で話そうか」

「もちろんです、すぐに行きましょうか?」

「いや、大丈夫。もう少し涼んでからで」

 言うだけ言うと、くるりと背を向けてスタスタと別の場所に移動してしまった。けれど、ちらりと僕の方へ目を向けたのは気のせいではなかったはずだ。

「よっぽどのことなの?」

 薄雲さんが頬杖をつきながら、住岡さんにぼやいた。

「みたいだなぁ」

 意味深な会話なんだろうと思うけれど、何も口をはさめない。

「気を付けて帰るんだよ、崎坂くん」

 休憩時間はもう終わりとばかりに、薄雲さんがにこやかに挨拶をしてきた。とても眠そうだ。徹夜していたのだから、もう限界に近いのだろう。

「はい、お二人とも本当にありがとうございます」

「アイスクリームも食べれたし、いいよ」

「役に立つならいいけどね」

 薄雲さんは満足そうに、眠そうな目を閉じたまま満面の笑みを浮かべた。ほぼ寝ている気がする。

 さっと周囲を確認してから、住岡さんが早口で言葉を添えた。

「さっきのは課題には使わないでくれな、機密事項だから」

「もちろんです」

 僕は二人に礼をすると、重いリュックを担いで急いでカフェから出た。暑さが容赦なくふりそそぐが、そそけ立った気持ちが日差しをものともせずに、駅まで走らせた。

 電車の乗り換えも緊張のせいか、あまり記憶にないが、地元の駅に二時くらいには着いていた。

 のどがカラカラで、最初に入った喫茶店に飛び込んだ。

「すみません、アイスコーヒーをください」

 そう言えば、コーヒーは八百円だった。アイスコーヒーだといくらなんだろう。

「二千円になります」

 氷が高いんだなと財布を手に、しばし固まった僕を見て、店員が困ったような様子を見せた。

「すみません、氷を作るために電気代がかかってしまって」

 あわてて二千円を、もちろん昔の紙幣だが支払った。大学のカフェが破格なのは確かなようだ。

 席について待っていると、すぐにアイスコーヒーが運ばれてきた。冷えた水も一緒にあり、おかれるタイミングで受け取り、水は一気に飲み干した。

「お代わりを入れますね」

 すぐにアイスコーヒーも半分ほど飲んでしまった。どっと疲れが出たのか、ガムシロップを全部投入して飲んでも、美味しく感じるほどだった。

「整理しよう」

 リュックから筆記用具とメモ用紙を取り出し、聞きだした内容を書き出した。特に大事なのは誘導チップと、エネルギー体を取り出すことだ。

「二度目のボヤ騒ぎは、盗んだエネルギー体の威力が少なかったってことだよな、警官は気の毒だけど」

 どこかのショッピングモール、爆破事件扱いでなければ、記事にもなっていないだろう。助けたいけど、できるかどうか調べないと分からない。

 爆破の解除はけっこう大変そうだ。

 トランシーバーを使えるのは、裏山か友田先生の家だ。まだ授業中の可能性もある。

 図書館に行って、事件だけでも調べてみようか。ボヤ騒ぎでも記事になっているかもしれない。

 アイスコーヒーを飲んでしまうと、その足で図書館に直行した。

 勝手知ったる図書館の検索機械に向かうと、マイクロフィルムで新聞を閲覧した。

 五時になり、図書館の閉館時間が来るまで粘ったが、それらしき記事はなかった。やはりボヤ騒ぎで終息して隠蔽されたのだ。

「先生の所に行って、もう一晩やっかいになろう」

 図書館を出ても暑さはそう変わらない気がした。空腹が今になって感じられて、もうカロリーメイトはないのだと気付く。残りのチョコレートバーを食べた。

 もう何日未来にいるのだろう。過去に帰れる前提でいるけれど、ずっとこっちだったら。怖い想像に身を震わせた。

「過去に帰る方法とか、調べたほうがいいのかな……」

 そんなのどうやって調べればいいのか分からない。それより、トランシーバーで知った情報を伝えなければ。

「戻りました」

 友田先生のうちに着くと、玄関の呼び鈴を鳴らして声をかけた。

「おかえりなさい、どうぞ。暑かったでしょう、さきにお風呂に入ったらいいわよ。すぐにごはんにしますからね」

 素直にありがたく、大きく頷いて自室に荷物を置きに行った。

「服もね、用意してありますから。息子が増えたみたいな気がして、うれしいのよ」

 下の階から少し大きな声が届いた。見るとテーブルに服が一式そろえてあった。ティーシャツと、楽そうな夏ズボンだ。

 風呂から上がると、先生が帰宅していて入れ違いに風呂に入った。

「ちょっとトランシーバーしてきます」

 声をかけてすぐに二階へ上がり、畳の上にトランシーバーを置いて通信ボタンを押した。

「蒼だ、誰かいるか?」

「俊矢だ、今日はみんないるぞ。隣には藤沢もいる」

「分かった、今日出かけて分かったことを伝えるよ」

 経過を報告すると、部室で集合していた同級生と、代表して話している俊矢は、盛大な悲鳴を上げた。

「まじかよ!」

「おそろしいな。冷静に丁寧にやらないとな」

 背後でも何人かの声が飛び交っていた。

「でも、回避できるってことだろ。やってやろうじゃないか!」

「爆弾が置かれる時間とか、分からないし、朝早く行って探すか?」

「爆弾そのものが置かれないようにするとか、できないもんかな」

「迷惑な話だよな、うんざりする」

「大量の殺人犯だぞ、迷惑ってレベルじゃないだろ」

 トランシーバーの向こうはにぎやかだ。声だけじゃ、誰が話しているのか分からない。

 数日前までは、トランシーバーの向こう側のにぎやかな学校にいたんだけれど。

「いま、そっちは何時なんだ?」

「三時過ぎだ。変な時間差があるよな、そっちは?」

「さっき風呂に入った。六時半すぎくらいだ」

「藤沢だ、一つ気になるんだけど。爆薬はどこで作られたんだ?」

「大学の研究室でみたいだ。帝都大学高エネルギー研究室。盗まれたって聞いたけど、作るのは難しくないみたいで、未来では主流の兵器として使われてるって」

 藤沢は黙り込んだ。

「ねぇ、崎坂くん、爆弾が無事解除できたら、爆薬が出てくるでしょ。それはどうするの?」

「その声は、誰だろう?」

「西野梨加です、助けてくれてありがとう。で、さらにありがとうね、さすがに爆破で死ぬのはごめんだもの」

「西野さんか、久しぶりだなぁ。……そうだな、研究室のある建物の表にでも置いておこうか。届け物、みたいに」

「それはまずい。藤沢に代わったよ。盗まれたものを返されたみたいじゃないか、建物の見えるとこに捨てておけばいいんだ、まるで落とし物みたいに」

「じゃあ、素手では触らないようにしないとな」

「うわ、素手厳禁っ。捕まっちまう」

 粛々とした雰囲気になったトランシーバーの向こうでは、チャイムの音がとぎれとぎれに聞こえてきた。

「もう一つのショッピングモールのさ、警察官も助けられたらいいよね」

「それならさ、解除方法を伝えればいいんじゃないか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ