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引き裂かれる絆~あなたの傍にいたかった~  作者: 紫乃月 聖巴


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07. ミゼとの協力

 訓練のある日、ローナとミゼが並んで練習していた時に偶然の発見があった。ローナが弱体化の術式を練習体に差し込んだ時、ミゼが精霊を呼んだ。その瞬間、二つの魔法が干渉した。しかし、打ち消し合うのではなく融合した。ローナの術式がより深く差し込まれ、ミゼの精霊が術式の細かい部分を補完した。


「……何が起きたんですか?」とローナがイクシリネスに振り返って言った。

「共鳴ですね」とイクシリネスが言った。「二つの魔法が干渉して強化されました」

「どういうことですか」

「あなたの無限魔力は、周囲の魔力を取り込む性質を持ち、ミゼの精霊魔法は精霊という外部の力を引き込む性質を持ちます。この二つは、共に外部と繋がることを基本とする魔法です。だから干渉した時に打ち消し合うのではなく補い合ったのでしょう」

「つまり一緒に使うと強くなるのですか?」

「正確には、あなたの術式の精度が上がり、ミゼの精霊の力が増幅されますね。ただし、これを利用するなら意図的に合わせる技術が必要です」

「教えてもらえますか?」

「これは二人で一緒に訓練するしかないです。まず、あなたが術式を展開する時の律動をミゼに伝え、ミゼはその律動に合わせて精霊を呼びます。最初はゆっくりした律動で行い慣れはじめたら速くするといいでしょう」


 ローナとミゼは向かい合った。お互いが顔を合わせ頷いた。


「やってみます」

 イクシリネスが「おのずとこつも掴めるでしょう」と言った。



 訓練の中で最も苦しかった時期があった。


 弱体化魔法の応用として動く対象への施術を始めた時だ。今まで練習体は静止していた。しかし今度は練習体が動きながらローナに攻撃を仕掛けてくる状態で弱体化を差し込む訓練だった。最初の数十回は、全て失敗した。動く相手に流れを読みながら術式を差し込む。これは静止している相手への施術とは全く難易度が違っていた。


 練習体の攻撃を避け魔力の流れを読みながら術式を形成するという三つを同時にやらなければならない。ローナは何度も弾き飛ばされた。結界が破られ術式が中断された。ある時点でローナは床に倒れたまま、しばらく起き上がれなかった。精神的に限界に近かった。


 ミゼが駆け寄った。「ローナ、大丈夫?」

「……大丈夫じゃないかな」

「休む?」

「でも、できるようにしないと……」

「一時、ここまでにしましょう」とイクシリネスが言った。

「でもまだできていません」

「その状態では続けても無理でしょう。まずは回復してからです」

「……わかりました」


 ローナはミゼに支えられながら、川のほとりまで歩いた。水面を見た。なぜ、同時にできないのか。回避しながら読めない、読みながら術式を作れない。別々のことを同時にやろうとするから、それぞれが中断される。でも、どうすれば――。



 次の朝。


「ミゼ」とローナが言った。

「何?」

「精霊を呼ぶ時、考えてから呼ぶの?」

「特には考えない。感じたら、自然に呼びこむって感じかな」

「感じる……」

「うん」


 その日、練習体との訓練を再開した。


 練習体が動き始めた。ローナは回避しながら流れを読もうとしたが、今までとは違うことを試した。考え過ぎることをやめ、回避しながら流れを感じることを重視して動いた。


 相手の動きを見つつ流れを感じ取る。相手の動きの間を読み取ったら術式を動かす。そして、ローナは練習体の側面に術式を差し込んでいた。練習体の動きが鈍くなった。


「……入った」

「そうです。どうやらこつを掴みましたね」とイクシリネスが言った。


 全ての訓練が一定の水準に達した時、イクシリネスが最後の課題を出した。


「次が最後です。魔王への特殊弱体化術式を教えます」


 ローナとミゼが真剣な顔をイクシリネスに向けた。


「魔王バルドリッセへの弱体化は、通常の弱体化とは異なります。理由が二つ、一つ目は蝕鎖の存在です」

「蝕鎖が関係するんですか?」

「そうです。蝕鎖はあなたと魔王を繋ぐ流路です。封印によって供給は止まっていますが、流路そのものは残っているのです。これを逆用します」

「逆用?」

「蝕鎖を逆にすれば、あなたから魔王の内部へと直接干渉できる経路にもなります。これが、常の弱体化より深く魔王の核に届く方法になります」

 ローナは理解した。

「つまり、蝕鎖を介して更に魔王の内部に直接弱体化を差し込めるということですね」

「ええ、しかし前にも言いましたが弱体化は相手の近距離で行わなければいけません。これは非常に危険です。最悪、魔王にあなたの封印が見破られ、もし封印が破られれば蝕鎖が再活性化することになります」

「それでも、やらなければならないんですよね」

「その通りです」

 ローナは頷いた。「分かりました」

「では二段階で行います。まず蝕鎖の逆流の感覚を掴み、これは私が仮の流路を作って、それを使って練習します。次に、高速での施術訓練で練習体が全力で攻撃してくる中、短時間に弱体化を完了させることです」

「では始めましょう」



 イクシリネスが用意した仮の流路は、実際の蝕鎖に似た性質を持っていた。ローナの胸のあたりから流路が伸びている感覚がある。本来はここから魔王への方向に流れているが、封印によって止まっている。


「この止まった流路を逆方向に動かします。蓄圧し、逆から押し出す感覚です」

「蓄圧?」

「ダムのようなものですね。水を堰き止めて圧力を高め、別の方向の出口を開ける。あなたの封印がダムの役割をしている。その圧力を利用して、逆方向に流すということです」


 ローナは仮の流路を感じた。流れの圧力が確かにある。それを逆から押す感覚を試した。最初は方向が分からなくて、押す方向も分からない。


「出す方向を教えてください」

「あなたの胸の中心から、外側に向かう方向です。今は封印が外向きの流れを止めていますが封印の外側、つまり触れた相手の方向に向かって押すのです」

 ローナは胸の中心に意識を向けた。そこから外に向かって触れた相手の方向に向かって押した。何かが動いた。


「……動きました」

「では、その感覚を維持しながら、術式を展開しましょう。弱体化の術式とこの逆流を同時に行います。一方が崩れるともう一方も崩れます。両方を同時に維持することを練習しましょう」

「難しいです」

「これは今までで一番難しいでしょう。しかし、あなたにはそれができる基礎が既にあります。意識の幅を広げて二つを同時にするのです」


 この訓練が最も長く何度も何度も繰り返された。逆流が崩れれば術式が崩れる。術式が崩れれば逆流が止まる。動きながら両方を同時に行う。


 ミゼの助力で精霊を添わせることでローナの術式が安定する場面もあった。そうして少しずつ、精度が上がっていった。


 ある時点でローナは練習体に触れながら、逆流と術式を同時に維持することに成功した。

「良い兆候です。このままいきましょう」とイクシリネスが言った。

「はい、頑張ります!」



 最後の段階は、高速での施術訓練だった。


 練習体が今まで以上の速度と力で動き回る中、ローナは十秒以内に弱体化を完了させなければならない。最初の試みは、三秒で弾き飛ばされた。


「頑張ろう」とミゼが言った。

「そうね、でもこれだと近づくのが難しいわ。練習体が攻撃を集中させてくるから、それを結界で受けながら近づかなければならないわ。結界に魔力を取られて施術の魔力が不足するのよ」

「じゃあ、私が結界に魔力を足す」

「え?」

「私の精霊にローナの結界を補強させる。そうしたらローナは施術に専念できる」

 ローナはミゼを見た。「できるの?」

「精霊に頼んでみる」ミゼが精霊に話しかけた。ミゼの精霊がローナの結界を外側から補強した。

 ローナは施術に専念できた。すると施術が完了した。

「できた!」

 ローナとミゼは手を合わせて喜んだ。

「次は、もっと速くよ!」


 繰り返した。何度も何度も――。


「ここまで出来れば、もう十分でしょう」とイクシリネスが言った。「これで最後の訓練が終わりました」



 送り出される前の夜、ローナは川のほとりに座っていた。


 ミゼが隣にいた。


「怖い?」とミゼが聞いた。

「そうね怖いわ。でも、不思議だけどやれる気がするの」

「ちゃんと積み重ねて来たから大丈夫」

「ミゼは怖くない?」

「少し怖い。でも、ローナと一緒なら行ける」


 イクシリネスが来た。


「朝になったら、送り出します。あなた達はここの空間で体感的には数年を過ごしたようなものです。ですが外に出るとローナ、あなたが崖に落ちた時と大差はありません。外に出たら一度、勇者達とはすぐに合流せず、あなた達だけの力で外の状況と情報を調べなさい」


 ローナは、あれほど会いたかったユウルにまだ会えないことに胸を締め付けられた。それでも前へ進まなければならない。



 明け方、ローナは旅立ちの準備をした。


 イクシリネスが用意してくれたのは、旅用の装備一式だった。動きやすい黒の戦闘服、頭部から顔を覆うフード、そして仮面。


 仮面は白く、目の部分だけが開いている。目以外を覆う形状で、声を変える術式が刻まれていた。これをつければ声も変わり、顔もほとんど見えない。


「これを着けている限り、あなたは別の存在として動けるでしょう。名乗るときはローナではなく、別の名を名乗るように」


「名……」ローナは仮面を手に取って、しばらく眺めた。白くて無機質で、でも術式の光が仄かに宿っている。

「……イクシリネス様から少し名前を借りて「シリ」なんてどうですか?」

 イクシリネスは少しだけ黙った。

「……ふふっ、いいでしょう」イクシリネスはやさしい笑みを浮かべていた。


 ローナは仮面を着け、フードをかぶった。


「口調で気づく者もいるので、口調も変えたほうがいいですね。紳士ぽい感じはどうでしょう?」


 普段の柔らかい口調をやめて、凛々しい低い口調で言葉を出してみる。


「……この口調で話せばいいか?」

「意外に似合っていますね」

「難しいです……」

「それも必要な事ですよ。気づかれないようになさい」


 ミゼが前に立った。


 ミゼも旅の装備に着替えていた。小さな身体に緑の外套。精霊との契約を示す細い腕輪が両腕に光っている。


「私も準備できた」

「ミゼ、一緒に来てくれてありがとう」


 ローナはミゼの手を握った。


 イクシリネスが二人の前に立った。「二人ともよく修行を頑張りました」


 ローナとミゼはイクシリネスを見た。


「あなた達はもう弱くはありません。自分を信じなさい」

「「はい」」ローナとミゼは答えた。

「貴方達にはこれも渡しましょう」

 ローナが受け取ったのは小型の転移石だった。

「大型転移石の場所へ行き、これを使えばで各地にある大型転移石へと移動できるでしょう」

「イクシリネス様、貴重なものをありがとうございます」

 ローナは少し涙ぐんだ。

「イクシリネス様、今までお世話になりました。感謝してもしきれません、ありがとうございました」ローナはイクシリネスに深く頭を下げた。

「イクシリネス様、ありがとう」ミゼも頭を下げた。

 イクシリネス微笑みながら頷き、手を上げた。「さぁ、あるべき地へ戻りなさい。天上であなた達の事を見守ってます」


 白い光が二人を包んだ。異空間がゆっくりと溶けていき、長い時間を過ごした川の音が遠くなっていく。神殿の白い柱が光の中に消えていく。


 ローナは目を閉じた。閉じた瞼の裏にユウルの顔があった。


 待ってて、ユウル。


 眩い光が弾けた。

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