16. 決戦
ミゼが焚き火の前で膝を抱えていた。
ローナが隣に座るとミゼが「遅かったね」と言った。
「少し話していた」
「ユウルさんと?」
ローナは頷いた。
ミゼが「ローナ」と呼んだ。
「何だ」
「次の戦い、怖い?」
ローナは少し考えてから正直に言った。
「怖いな、でもここまで来たんだ。怖くても行くしかない」
ミゼが頷いた。
「私も怖い。でも、ローナと一緒なら行けるよ」
「一緒に行こう」
二人は焚き火を見ながら、しばらく黙っていた。
向こうで、ユウルが一人座っていた。
炎を見ている目がいつもと少し違った。
何かを考えている目だった。
遠くではなく、近くを見ている目だった。
ローナはそれを見て、胸の奥で静かに息をついた。
もう少しだ、もう少しで全部終わる。
全部終わったら、ちゃんと言おう。
「次はいよいよ魔王になります」
マルセルが言った。
全員が前を向いた。
「幹部が全員討伐されたことは、魔王に伝わっているはずです。この先の道は、今まで以上に警戒が必要だと思って下さい」
翌朝、勇者一行は出発し魔王の城がある大陸の北端へと向かった。
出発から数日、平野の真ん中に魔族の大きな隊列が見えた。
マルセルが周囲を止めて確認をした。
「……三十以上います。整然と並んでいますね。訓練された集団のようです」
「待ち伏せか」
ユウルは呟いた。
「我々を待っていた可能性がありますね。既にこちらの情報は知られているのかもしれません」
「このまま戦闘に入る」
全員が臨機体勢に入った。
魔族達がこちらに向かって一斉に攻めてきた。
マルセルが魔族の集団に向けて先制の広域魔法を放った。
爆発魔法で、足元を一斉に揺らした。
魔族達が体勢を崩した。
その隙にローナが動いた。
魔物達に素早く弱体化を施した。
走りながら連続で術式を差し込んでいった。
ユウルとセクトがそれに合わせて動き、魔物を蹴散らしていく。
マルセルが上から連撃魔法を撃ち続け、ミゼが火の精霊を呼び熱風を魔物達に浴びせる。
ユウルが更に前方に向かった。
数体が剣を構えたがユウルはその剣を弾き飛ばし、斬撃をつきつけた。
カルナは仲間に回復をしつつ、援護魔法を放ったところに魔族が向かったが、セクトが間に入り大剣で切り伏せた。
数体が横からユウルのもとへ来た。
ユウルが体を半回転させて、剣に魔力を乗せた一撃を放ったち、続けて切り伏せていった。
魔族はローナにも向かっていた。
ローナが相手の攻撃を躱し、その勢いを利用して一体の腕を掴んで弱体化を行った。
魔物が体勢を崩したところをローナは魔法を撃ちこんだ。
魔物三体が魔法を放った。
ミゼの精霊の盾が受け止めた。
「今の内!」
ミゼが魔族の注意を引き付けていた。
ローナが魔法を放った三体に素早く弱体化を当てた。
そこにマルセルが追撃を入れた。
マルセルが周囲を確認した。
「これで全部です!」
「回復をかけます!」
カルナが仲間のもとへ走った。
ユウルはその場に腰を下ろした。
「少し休憩してから進む」
休憩を終えた後、深い森の中へと進んでいた。
森の中は薄暗く、大きな木が密集していていた。
魔族と魔物の気配はなかった。
「この森は、魔族や魔物は入れないようです」
とマルセルが言った。
「なんでだ?」
セクトが聞いた。
「この森には古い結界が残っています。遠い昔に魔法士が張った結界で、魔の者を弾く性質があります」
「先人が残してくれた結界なのですね。ずっと結界を保ち続けているなんてすごいです」カルナが感心して森を見渡した。
「この森を抜ければ、かなり北に近づけます」
森の中を抜けた頃、魔物と遭遇した。
大型の狼型魔物の群れだったが、各連携で時間はそれ程かからなかった。
更に数日、景色が変わり始めた。
草が枯れ、土が黒くなっていた。
空の色が灰色に染まっていた。
「魔王の支配地に入りました」
マルセルは言った。
道中、複数の魔族と遭遇した。
黒い鎧を着ていて、体格が人間より一回り大きい。
すぐに戦闘が始まり、魔族は一斉に向かってきた。
ユウルとセクトが前に出た。
先頭の魔族がユウルに向かって拳を振った。
魔力で強化された拳は、岩を砕くほどの威力があった。
ユウルが躱し、拳が地面に当たった。地面が砕けた。
「動きが速いぞ!」
セクトは攻撃を避け続ける。
ユウルも相手の攻撃を躱し続けている。
二人は後退しながら、魔族の動きを引き付けた。
その間にローナが魔族に向かい、弱体化の術式を差し込んだ。
マルセルが弱体化した魔物に魔法を放った。
更に広域魔法と精密魔法を使い分けながら次々と魔族を攻撃した。
カルナは結界を張り、ミゼは精霊で援護していった。
周囲の魔物を全て倒し、カルナが仲間に回復魔法をかけた。
マルセルが周りを見渡しながら言った。
「この先、魔王城となります。今日はここで野営した方がいいと思います」
「その方がよさそうだな」
ユウルは頷いた。
野営地を作り、枯れた木で焚き火を作った。
セクトが横になったまま言った。
「……もうすぐだな」
ユウルが焚き火を見ながら言った。
「全員に言いたいことがある」
全員が顔を向けた。
「魔王との戦いは、この先にある。今まで、お前達と共に戦えたことを俺は誇りに思う」
「共に魔王を討とう」
「当然だろ」
「もちろんです」
「全力を尽くします」
「うん」
ローナはユウルを見た。
「……必ず全員で終わらよう」
夜明け前に出発をした。
数時間歩いていたところで城が見えた。
魔王バルドリッセ・ガルドルの城――。
そこは巨大だった。
黒い岩山に囲まれた盆地の中央に城がそびえていた。
城壁が何重にも重なっていていた。
城全体が、魔力で満たされているのが分かった。
近づくだけで空気が重くなった。
「……でかすぎだろ」
とセクトが言った。
ユウルが剣の柄を握った。
「行こう」
城壁手前の広い枯れ野に魔族の大集団が整列していた。
黒い鎧を纏い、手に武器を持ち勇者一行を待ち受けていた。
「……随分と出迎えてくれるな」
セクトが大剣を抜いた。
「魔族を倒しながら一気に進む! 行くぞ!」
ユウルは走り出した。
先頭の魔族から一斉に走り出した。
ユウルが先頭に向かって一直線に走った。
剣に魔力を集中させながら、速度を落とさなかった。
魔族が大剣を構え斬りかかってきた。
ユウルは相手の大剣を正面から受けずに右に半歩ずれて、相手の剣筋を外した。
そのまま踏み込んで、相手の腕に魔力を乗せた一撃を当てた。
横からくる魔族に、ユウルは身を低くして潜り込み腹部に剣を突き込んだ。
次々と襲ってくる魔物に剣を振り下ろしていった。
「右から来るぞ!」
セクトが魔族に向かって大剣を横薙ぎに振った。
複数の魔族が更に襲ってくるが大剣で捌き続けた。
セクトが叫びながら前に進んだ。
勇者の後方では、マルセルが広域魔法を連続で放っていた。
中央の密度が高い敵がいる場所に向けて地面を割る衝撃波を放った。
更に魔法を展開しようとしている集団に向けて、炎の広域魔法を放った。
ミゼが後方の魔族に向けて雷の精霊を呼び、雷撃魔法を放った。
カルナは補助魔法を使いながら回復魔法をかけた。
ローナは走りながら、中央の魔族から後方の魔族へと弱体化魔法の術式を差し込んで行った。
それに続き、ユウルとセクトは一気に魔族達を切り伏せていく。
城壁の上から新たな敵が降りてくる気配があった。
「上にもいる!」
ローナは叫んだ。
ミゼが精霊を展開した。
精霊が上に向かって、強い気流を作った。
体勢を崩した魔族にマルセルが追撃魔法で撃ち抜いた。
「一気に城内に入るぞ!」
ユウルは突き進んだ。
全員が全力で走り出した。
前方から魔族が襲い掛かってきたが、ユウルは止まらずに光の剣撃を浴びせた。
そのまま全員が走り抜けた。
城壁の上から降りてきた魔族が前方に着地した。
「俺が行くぜ!」
セクトが先頭に出た。
大剣を構えて真正面から切り込んだ。
更に両側に来た魔族に大剣を横に一回転させながら振り払った。
勇者一行は魔族を倒しながら城の中へと進んでいった。
城の廊下を進んでいると魔族が現れた。
「私とミゼに任せろ!」
ローナが動き、魔族達に弱体化魔法の術式を差し込んだ。
ミゼが雷の精霊を呼び、雷撃を浴びせた。
魔族は黒い塊と化した。
廊下を過ぎ階段を上っていたところに魔族が降ってきた。
「魔法でいきます!」
マルセルが叫び、連撃魔法を撃ち込んだ。
ミゼが精霊の突風で魔族を壁に打ち付けた。
「前進するぞ!」
ユウルは先頭に立ち走った。
前から魔族が向かってきた。
ユウルが先頭を剣で薙ぎ払った。
セクトは中央の魔族を大剣を大きく振りかざし正面から切り込んだ。
廊下に出ると両脇から魔族が突撃してきた。
ローナが右側の魔族に弱体化魔法を差し込み、ミゼが精霊の氷の刃で突き刺した。
左側にユウルとセクトは動き、魔族を切り倒した。
マルセルは感知魔法を使い方向を確認した。
「左の通路を進んで下さい!」
左の通路を突き進んでいると魔族が現れた。
「私に任せてくれ!」
ローナが動き、魔族に弱体化を施した。
ユウルが後に続き、剣で切り刻んだ。
今度は後方から魔族が現れ、ミゼが魔族の足元に精霊の蔓を使い足を絡み取った。
その隙にセクトが魔族を横薙ぎで切った。
前進していると魔族がまた現れ、マルセルが連続で魔法を撃ち込んだ。
後方の魔族が魔法を放ち、カルナが結界を展開して攻撃を受け止めた。
ローナは魔法を放った魔族へ弱体化をし、ミゼが精霊の氷の刃で魔族を突き刺した。
突き進み階段を上ると体格の大きい鎧を纏った魔族がいた。
「動きを止めます!」
カルナが結束術式で足元の魔族を縛り始めた。
次にローナが動き、魔族達へ弱体化を施しながら走った。
それに追随してユウルとセクトが攻撃をした。
「もう少しで頂上です! 急ぎましょう!」
マルセルが叫んだ。
進み続けると魔族が待機していた。
「勇者ども、これ以上は進ませんぞ!」
ユウルが前に出ると両手剣を持った魔族と正面からぶつかり合った。
剣と剣が火花を散らした。
ユウルが力で押し込もうとしたが押し返された。
横に動くと相手がついてきた。
ユウルが速度を上げ連撃を繰り返した。
「ぐっ!」
「終わりだ!」
ユウルが最後の一撃を当てた。
セクトが別の一体と戦っていた。
その相手は一撃が重かった。
「重っ!!」
セクトが大剣でその一体の攻撃を受け止めたが、すぐに後退した。
また次の一撃がきた。
今度の一撃は躱し、相手の重い一撃が空を切った。
「一撃が大きいということは、空振りした後の隙も大きいもんだ!」
空振りした後の隙をついて、セクトが踏み込み大剣を叩き込んだ。
ローナは一体に向かった。
相手は強力な魔法を連発してきた。
ローナは魔法が来るたびに躱しながら、接近し続けた。
ローナが弱体化を魔法の発動経路に差し込んだ。
「……魔法が使えないだと?!」
魔族は驚きを隠せないでいた。
「ならば!」
相手が魔法ではなく接近戦に切り替え剣を抜いた。
しかし、接近戦に切り替えた瞬間にローナが相手の懐に入った。
追加の弱体化を直接差し込んだ。
相手の動きが止まった。
ローナは魔法で魔族を撃ち抜いた。
マルセルとカルナとミゼが魔族と対面していた。
カルナの結界が三人を守っていた。
ミゼの精霊が各体の動きを妨害していた。
マルセルの連撃魔法で攻撃をした。
「次が来る前に急ぐぞ!」
勇者一行は前に進んだ。
最上階付近に差し掛かるとマルセルが口を開いた。
「強い気配が二つあります、気を付けてください!」
扉の前に二つの影が姿を見せた。
一つは、全身が炎に包まれていた。
もう一つは、全身が氷に覆われていた。
「俺が炎型に接近する。氷型はセクトに頼む」
とユウルが言った。
「シリ、隙をみて弱体化を頼む」
「分かった」
ローナは頷いた。
ユウルが前に出て炎型との戦いが始まった。
炎型が炎を放ちユウルは躱した。
ユウルが踏み込んだところ相手は体勢を崩した。
すかさずローナが炎型の魔力源に弱体化を差し込んだ。
炎が弱まった瞬間にユウルは懐に入り込んだ。
胸の部分に剣を突き込んだ。
ローナは追加の弱体化を施した。
「ぐっ!」
炎の魔族は呻き声を上げた。
ユウルは一気に畳み掛けた。
一方の氷型との戦いでは、セクトが大剣で氷柱を叩き落とし続けた。
「どんだけ、くるんだよ!!」
氷柱が次々に飛んできた。
「セクト、耐えてください!!」
マルセルは氷型に向けて魔法を連続で放っていた。
セクトは大剣を振り続けた。
「私が入る!」
ローナが氷型へ弱体化魔法を差し込んだ。
「なに?!」
氷型はローナに振り返った。
セクトがすかさず氷型を大剣で上から薙ぎ落とした。
更にマルセルが魔力を一点に収束させて魔法を撃ち込んだ。
カルナは補助魔法でユウルとセクトの攻撃力を上げ、ミゼは精霊を使ってマルセルの魔法威力を上げていた。
連携を駆使して、炎型と氷型の魔族は倒された。
扉を開けユウルが階段を上り始めた。
全員がついていった。
階段を歩いていると最上部への扉が見えた。
扉の前で全員が立ち止まった。
ユウルは固い意志を持って仲間の顔を見渡した。
「行くぞ!」
深く息を吸い扉を開けた。




